ph171 VSサルワ決着ーsideシロガネー
「僕のフェイズだ! ドロー!!」
アズラエルを失い、エストックも砕け散った。でも、ミカエルは立っている。僕も、まだカードを握っている。
サルワの体力は17。ミカエルは体力6。僕のMPは3──盤面は、ギリギリの均衡を保っている。
……だけど、やっぱり引っかかる。
サルワの戦い方。無駄な消耗に見えて、その体力の減り方はどこか整いすぎている。すべてが計算されているような違和感。
まるで──何かの条件を満たすために、自ら削っているみたいだ。
「……まさか」
嫌な予感が喉元を這い上がってくる。けれど、考えている余裕はない。勝つためには、相手の体力を削るしかない。
「僕は手札から道具カード、禁断の実を使用! 自身のデッキの上から5枚をダストゾーンに送り、モンスター1体の攻撃力を5上げる!!」
カードが黒い光を放ち、デッキから五枚のカードが一気に弾け飛ぶようにダストゾーンへと落ちる。同時に、ミカエルの体が光に包まれ、その攻撃力が7まで上昇した。
この攻撃が通れば、大きく差をつけられる──そう思った、そのとき。
「……わたしは、MP5を消費してスキル、輝雷の乱響を発動」
サルワの声は冷たく、感情の起伏すらなかった。
「相手モンスターの攻撃力と同じ値のダメージを、その相手モンスターに与える。さらに、与えたダメージの分、わたしのMPを回復する」
ミカエルに7ダメージ──このままじゃ、持たない!
「……なら、僕はっ!」
僕はすかさずカードを掴むと、声を張り上げる。
「ダストゾーンにある天罰をゲームからドロップアウトさせ、効果を発動! 相手モンスター1体のスキルを封印状態にする!!」
禁断の実によって落ちていた天罰が、光の柱となって逆流するように立ち上がり、サルワの体に突き刺さる。魔力の束縛がその体を縛り上げた。
ミカエルの命はつながった。
「ミカエルでサルワを攻撃!!」
この攻撃は、通させてもらう。相手が何を考えていようが、僕は今できる最善をぶつけるだけだ!
ミカエルの刃がサルワを穿ち、体力は17から10へと減少した。
よし! このまま押し切れば!
────だが。
「……終律の輪環が設置された状態で、体力が半分以下になった時──」
サルワの静かな声が、まるで預言のように響く。
「このカードを破壊することで、わたしの進化条件は満たされたものとして扱える」
「……!?」
黒いマナが、激流のように溢れ出す。サルワの足元から迸るそれは、まるで意思を持った蛇のようにうねりながら天へと駆け上がり、その身体全体を呑み込んだ。
やっぱり……! 体力減少が鍵だったのか……!
肺を直接握り潰されるような圧迫感が、全身を襲う。けれど僕は、膝をつきそうになる体を、意地で踏みとどまらせた。
「……滑稽だな。壊れていく秩序を前に、まだ縋るか。ならば──見せてやろう」
その声は、先程のサルワのそれとは、まるで別物だった。
「わたしという秩序の仮面の下に渦巻く、真の破壊──無秩序の暴神の顕現を。終わらせよう、この整った世界ごと──」
白を基調とした衣は墨のような闇に浸食され、音もなく裂けていく。
皮膚の色が褪せ、白磁のようだった四肢は黒く染まり、関節の位置さえもわずかにずれていく。骨がきしみ、肉が蠢き、内側から何かがねじれるようにして、姿形を変えていく。
「……破壊の魔王インドラ、解放」
背中が膨れ上がり、裂け目から触手のような黒い線条が噴き出す。それが空間を這うように伸び、周囲の空間そのものを侵食しはじめた。
顔の輪郭は崩れ、仮面のように整っていた瞳が、次第に狂気を帯びた双眸へと変わる。金と黒の瞳は赤く濁り、口元は裂け、笑みではなく“嗤い”の形を取った。
その全身に、禍々しい精霊文字が浮かび上がる。ひとつひとつが蠢き、まるで肉そのものが言葉を綴っているかのようだった。
──もはや人の面影はない。理知の仮面を脱ぎ捨て、本性をさらけ出した暴神が、そこにいた。
「──はっ。あーっはっはっはっはっは!!」
嘲笑のように響く哄笑。先ほどまでの冷静な魔王は、もういない。
「まさか俺様の姿を拝める人間がいるとはなァ! 大口叩くだけのことはあるじゃねぇか、虫ケラ。……けどな」
インドラが、血走ったような瞳でこちらを睨む。
「残念だったなぁ。ここで、てめぇは──終わりだ」
そして右手を、無造作に掲げる。
「俺様は、MP1を消費して断律の光槍を破壊! 効果発動! デッキから裁断の闇槍を装備するぜ!!」
淡い光が砕け散り、そこに現れたのは黒い瘴気を纏った槍。新たな破壊の象徴が、その手に握られた。
「さぁ……こっからは楽しい楽しい、破壊の時間だぁッ!!」
「くっ……!」
「主──!」
黒いマナが、暴風のように吹き荒れる。その圧に僕が膝をつきそうになると、ミカエルが心配そうにこちらを振り返る。
……大丈夫。僕は、まだ倒れてない。
僕は軽く手を上げ、ミカエルにそう伝える。
「……さあ、俺様のフェイズだな。──ドロー!!」
インドラが勢いよくカードを引き抜く。その手に集まるマナは黒く濁り、空間を歪めるほど禍々しい。
「俺様は、裁断の闇槍の効果で攻撃力が2増加ぁ! さらによぉ、相手モンスターの防御系効果を無視して攻撃できる上に、攻撃が成功したら相手のMPを1消費させるって寸法だ!!」
インドラの攻撃力は5に到達。しかも、貫通効果まで付与された。
奴はダブルアタック持ち。残り体力6のミカエルがこの攻撃を受ければ、間違いなく消滅する。
「次ぃ! 手札から道具カード、光魔王の使徒を使用! 相手フィールドにレベル0・体力1・攻撃力0の光属性モンスターを1体召喚させる代わりに、俺様フィールドのモンスターの合計レベル分、MPを回復するぜぇ!」
「なっ──!?」
僕のフィールドに光魔王の使徒が現れる。それと同時に、奴のMPが3から一気に9へと回復した。
しまった……! これで奴はスキルが使える……!
「MP6消費してスキル、終焉の雷霆発動ぉ! このフェイズ中、攻撃力を4増加して、回避行動を無効化するぜぇ!」
インドラの攻撃力が9まで跳ね上がる。
「どうだぁ? 絶体絶命のピンチって奴だなぁ?」
インドラは心底楽しそうに、下卑た笑みを浮かべている。
「さっきまでの軽口はどぉしたぁ? 死に際になって後悔してんのかぁ? んん?」
「──うるさいな」
僕も、負けじと笑ってみせた。
「気取ってた仮面の下に、そんな下品な本性を隠してたなんてね。……口も聞きたくないなって、そう思ってただけだよ」
「……あ?」
インドラの眉がピクリと動いた。
「何、君みたいな品性の欠片もない奴が、単純に嫌いなだけさ」
「へぇ……」
インドラが僕を見下ろすように一瞥し──にやりと嗤った。
「だったらその嫌いな奴に、殺される気分はどうだァ!?」
インドラの槍が振り下ろされる──狙いは、ミカエル。
「……殺される? 何を馬鹿な」
僕はその瞬間、顔から笑みを崩さずに宣言する。
「ダストゾーンにある裁きの断罪鎖をゲームからドロップアウト! 効果発動!! 天使属性モンスターが攻撃対象にされた時、このカードを除外して、相手の装備カード1枚を即座に破壊する! そして、破壊に成功した時、デッキから任意のカードを2枚ダストゾーンに送る!!」
黄金の鎖が空間を裂くように出現し、インドラの手元に巻きついた。
「ぐっ……!」
裁断の闇槍が破砕音と共に砕け散る。これで貫通効果は消滅した。
「ねぇ、知ってるかい? 人が他者を“天才”と呼ぶ時……その言葉にどんな感情が込められているのか」
「はァ!? 興味ねぇな! んなもん!」
インドラが吠えると同時に、僕はMP3を消費し、ミカエルのスキル、絶対防御を発動。
結界が展開され、インドラの一撃は完全に無効化された。
「どれだけ努力しても届かない。どれだけ抗っても勝てない。──そういう絶望の象徴を、人は“天才”と呼ぶんだよ」
僕は、五金家の名を背負っている。世界を守る最後の砦であり、犯罪の抑止力として存在する家系。
そして、今の盾は父上だ。
誰もが知る最強のサモナー。人々から恐れと尊敬を集める、唯一無二の存在。
──けど、父上も人間だ。いずれこの世界からいなくなる。
その時、代わりを務めるのは誰か。その問いに、僕はもう答えを出している。
「だから僕は、天才であり続けなきゃならない! 這いつくばってでも、泥を被ってでも、それでも絶対であり続ける!!」
僕はミカエルに視線を送り、無言で頷いた。
──今なら条件を満たした……!
「ミカエル! レベルアップだ!!」
「承知いたしました!」
僕とミカエルの間にマナが循環し、限界まで光を膨張させる。
「戦いの守護天使よ……我らを守り、目の前の悪を討ち滅ぼせ──! 進化せよ! レベル4、大天使ミカエル!!」
僕とミカエルの間を流れるマナが、一気に循環を強める。重圧のような魔力の奔流が立ち昇り、光が天へと突き抜けた。
ミカエルの身体を包む光がさらに強く輝き──次の瞬間、変化が起きた。
大きな翼が展開する。まるで孔雀の尾羽を模したかのような、幾重にも広がる煌びやかな文様が光に揺れ、見る者すべてを圧倒する荘厳さを纏っていた。
その姿は、まさに神の使徒。右手に掲げるは、邪を断つ聖剣。左手に掲げるは、罪と罰を量る天秤。
大天使の名にふさわしい、威厳と美しさを兼ね備えた存在が、魔王と真正面から対峙する。
これが、僕の信頼する精霊。世界で一番、強くてかっこいい最高の相棒──大天使ミカエルだ!!
その聖なる光は、暴虐の象徴たるインドラの黒きマナすら、かき消すように空間を浄化していく。
ミカエルの体力は11へと回復し、背後には新たなフェイクソウルが1体、静かに生まれ落ちる。
その目が、僕に向けて静かにうなずいた。
「……チッ。なら俺様は光魔王の使徒を攻撃するぜぇ!!」
「……!?」
対象を変えた……? なぜ?
使徒はレベル0。攻撃力0。行動もできない。にもかかわらず──なぜ、奴はそれを狙った?
「この瞬間だよォ!! 終焉の雷霆の追加効果発動ォ!! このスキル発動時にモンスターを破壊した場合、そいつをフェイクソウルとして加えることができる!!」
「……っ! まさか……!」
インドラのフェイクソウルが2へと増加する。
破壊による吸収……! まさか、最初からそれを狙っていたのか!?
「そしてぇぇ! MP1を消費して魔法カード、魂喰の契約を発動ぉ!! このフェイズ中、自分のフェイクソウル1つにつきMP2回復!!」
やられた!!
インドラのMPは、再び6へと跳ね上がった。スキルを、またいつでも撃てる……!
僕のフェイズが回ってくる。正直、マナは限界に近い。これ以上長引けば、マッチそのものを維持できなくなるかもしれない。
「……僕の、フェイズだ」
インドラの体力は15、フェイクソウルは2。対するミカエルは体力11、フェイクソウルは1。MPは3へ回復したが、手札はたったの1枚。
状況は……どう見ても僕が不利だ。──けど、まだ終わっていない。
「ドロー!!」
祈るようにカードを引く。希望は、常に先にある。
「僕は手札から道具カード、神罰受容の聖涙を使用!」
カードが光を放ち、ミカエルの身体を包む。
「このカードを使用する際、自身の場の天使属性モンスター1体の体力を最大値の半分減少させる! レベル4となったミカエルの体力は最大20。だから、10減少し、体力は1に!」
だが、今はそれでいい。むしろ、そこからが本番だ。
「さらに、減少させた体力の半分のMPを回復! 加えて、この効果で体力が1以下になった場合──追加でカードを1枚ドロー!」
MPは一気に8、手札は2枚に。流れは来ている。
──だが、インドラがにやりと口角を歪めた。
「へっ……待ってたぜぇ? その瞬間をよぉ……俺様は、MP6を消費してスキル、崩界の前触れを発動!!」
闇が空間を捩じらせ、インドラの背後に裂け目のような魔法陣が展開された。
「このフェイズ中、MPを消費するたびに、その分だけ相手フィールドのモンスター全体の体力を削る! さらにこのフェイズで相手がMPを9以上消費していた場合、次のフェイズ中──スキルも魔法も使えねぇ!」
「……っ!」
思わず息を呑む。狙ってたのか……!
「体力削ってまで回復したんだ、そういうことだろぉ? 残念だったなぁ、虫ケラの浅知恵がこの俺様に通じるかよ!! さぁ6ダメージを喰らえぇ!!」
「虫ケラ、ね……」
僕はフッと笑ってみせる。
「僕はMP4を消費して、ミカエルのスキル、大天使の守護を発動!」
「はっ、諦めて自滅ってか? ──って、なにっ!?」
「このフェイズ中、“相手からのダメージをすべて回復に変換”する。つまり、6ダメージじゃなくて6回復ってわけ」
ミカエルの体力は、大天使の守護による消費分を合わせ1から一気に11へ。
「さらに、MP4を消費してスキル、裁きの烈光を発動! このフェイズ中、ミカエルの攻撃力を2増加!」
ミカエルの攻撃力は4、体力は15にまで回復した。
「ありがとう、君が間抜けなおかげで助かったよ」
「……はっ、体力が戻ろうがその程度の攻撃力じゃ俺様には届かねぇ。──勝ち誇るには早すぎんだよ、虫ケラ」
「……それはどうかな?」
僕は静かに、手札へと指を伸ばす。
「手札から道具カード、天使の祝福を使用。天使属性モンスターがこのフェイズ中に回復した体力の値分の攻撃力を、1体の味方モンスターに加える」
「……何だと?」
「ミカエルはこのフェイズで14回復した。よって、ミカエル攻撃力は18だ──届いたね。ミカエル、攻撃だ! 対象はインドラ!」
「仰せのままに」
「……っ、てめぇ!!」
ミカエルが剣を掲げ、光の軌跡を描いて突進する。その刃がインドラを斬り裂き──まずはフェイクソウルが1体、消滅。
「さらに、裁きの烈光の追加効果を発動! 攻撃成功時、相手モンスター全体に攻撃力と同値の効果ダメージ! 加えて、MPを2回復!」
残る1体のフェイクソウルも、浄化の光に焼かれて消滅した。
「──はっ、まぁまぁやるじゃねぇか、虫ケラ……だかな、その天使にダブルアタックはねぇ。フェイズが終われば、次はてめぇの息の根を止める番だ」
「……何を言ってるんだい?」
僕は冷静に、もう1枚のカードを見せる。
「僕の手札は、まだ残っているよ」
マナを込めながら、そのカードに願いを託す。
「MP1を消費して魔法カード、天使の先導を発動! 対象モンスターを再攻撃させる。──対象はもちろん、ミカエルだ」
「……てめっ──!」
僕はミカエルに微笑みかける。
「行っておいで、ミカエル」
「主のお心のままに」
光に包まれた大天使が剣を掲げ、残光を引きながらインドラへと迫る。
「ぐっ……バカな……この俺様が……こんな虫ケラに……!」
言葉の端々に、怒りと焦燥が滲んでいた。
「……だから、うるさいって言ってるだろ」
僕は静かに目を細め、最後の言葉を告げる。
「おとなしく、僕が天才であるための踏み台になれよ」
ミカエルの一閃が、インドラの身体を貫いた。──その瞬間、魔王の咆哮が空を裂いた。
「ぐあああああああああああッ!!」
それは悲鳴というより、敗北そのものを拒絶する魂の咆哮だった。だがその抵抗も、光の中に静かに溶けていく。
「……哀れだね、最後の声まで下劣だなんて」
バトルフィールドが静かに崩れ落ちる。黒いマナが霧散し、浄化された空間に静寂が戻る。
──僕の、完全なる勝利だった。
「やりましたね、主! ……主?」
ミカエルが僕の側に駆け寄る。けれど、僕はもう立っていられず、体がふらりと傾いた。
「主っ!!」
ミカエルが支えようと伸ばした手は、宙を切る。触れることすら、もうできなかった。
「主! しっかりしてください、主!!」
ミカエルの焦り混じりの声が遠ざかっていく。僕の身体は、すでに“ここ”に留まっていられない。
「……ごめ、んね……」
「主!? 一体どうしたのですか……!?」
「……もう、僕の中のマナ……空っぽなんだ」
ミカエルの動きが、ピタリと止まる。
「そ、んな……主! 諦めてはなりません!! きっとアカガネ様のマナ回復薬を飲めば、間に合います!」
「……無理だよ」
僕は、自分の手をそっと掲げてみせた。指先が薄れて、光の粒となって消えかけている。
「……アオガネ兄さんがカード化された時と同じマナの消え方だ。多分……カード化の前兆。単純なマナの補給じゃ、止まらないよ」
「そんな……っ」
ミカエルの声が震えた。
「あ……あぁ……主……私は……私、は……」
ミカエルの姿も揺れ始める。僕の状態に呼応するように、彼の実体も限界を迎えている。
「ねぇ、ミカエル」
僕は、取り乱す彼に穏やかに語りかける。
「僕のもとに来てくれて、ありがとう」
「な、何を言っているのですか……!」
「君が僕の相棒で、本当に良かったよ」
「聞きたくありません!!」
ミカエルは激しく首を横に振る。
「その様な……最後の別れのような言葉など……っ!! 今までも、これからも! 私の主はシロガネ様だけです!!」
触れることすら叶わないけれど、僕はそっとミカエルの手に、自分の手を重ねるふりをした。
「シロガネ様以外など考えられません!! あぁ、私にもっと力があれば……もっともっと私が強い精霊であったなら!!」
「ミカエル」
僕は自分自身を責めるミカエルを止めるように名前を呼んだ。
「……そんな事、言わないでよ……君のおかげで、七大魔王を倒せたんだ……こんな僕でも、タイヨウくんがアフリマンを倒す……その力になれたことが、とっても嬉しいんだ……」
僕は彼に、静かに、安心させるように微笑んでみせた。
「君は……とっても強くて……最高の精霊だ……次はきっと……もっといい……あ、るじ……に……」
「主……!!」
ミカエルが、何度も僕を呼ぶ。けれど、もう僕はその声に応える力すらない。
瞳を閉じながら、心の中でそっと呟く。
──ごめんね、タイヨウくん。僕はまた、君に重荷を背負わせてしまう。
もっと力があれば。もっと君の隣で、最後まで戦えていたなら──。
そう思うたび、悔しさが胸を締めつけた。
本当は分かっていた。僕は、父上にも、兄さんたちにも及ばない。
それでも必死だった。虚勢を張って、天才であり続けようとして、足掻いていた。
……そんな僕にとって、君の姿はいつだって希望だった。
どんな状況でも諦めない。どんな絶望があっても、最後まで真っ直ぐ立ち向かう君の背中はとても眩しくて……僕の理想だったんだ。
だからこそ、無様でも、惨めでも。それでも、君を支えられる存在でありたかった。君と対等でいられる存在になりたかったんだ。
でも、それはもう叶わない。
だからせめて。これからの未来に、君の幸福があることを心から願う。
「……ありがとう。タイヨウくん」
君と出会えて、本当に良かった。
そうして光の中へ──僕の意識は静かに沈んでいった。