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ph167 VSタルウィ決着ーsideアボウー

 ドローは封じられたけど、何もできないわけじゃねぇ!


「俺は手札から道具カード、獄卒の荒縄を使用するじゃん!」


 フェイズ開始時のMP回復だけじゃ足りねぇ。なら、強引に補うまでじゃんよ!


「自身のフィールドのモンスター1体を選択し、そのモンスターのレベル分のMPを回復する! 俺が選択するのは牛頭鬼!!」


 牛頭鬼の体を縛るように、黒縄が魔力を帯びて収束する。そのエネルギーが俺へと流れ込み、枯渇しかけていた魔力が満ちていく。


「今の牛頭鬼のレベルは4。これで、俺のMPは7まで回復したじゃんよ!」


 これでMPが確保できた。なら、やることは決まってる。


「MP4を消費して牛頭鬼のスキル、焔獄の猛撃発動するじゃん!!」


 燃え上がる鬼火が、牛頭鬼を包み込む。その炎は熱を持たず、ただひたすらに禍々しい。


「このフェイズ中、自身の攻撃力を2倍にする! さらに、攻撃が成功した時、相手のMPを1減少させる!」


 焔獄の猛撃を纏った牛頭鬼が、ゆっくりと一歩踏み出す。それだけで、周囲の大気が震えた。


「……焦土の支配の効果でMP1回復。さらに、妬みの封印の効果で相手のMP1減少」


 タルウィのMPが2に増えた。けど、牛頭鬼の攻撃力を8まで上げることができた。


 そう、俺が仕掛けようとした瞬間──


「……わたし、はMP2を消費して手札から魔法カード、業火の舞踏を発動」


 タルウィの指先が赤く燃え上がり、牛頭鬼の体を包む炎が揺らいだ。


「このフェイズ中、相手の攻撃力を3減少させる……。さらに、この効果で相手の攻撃力が半分以下にならなかった場合、その減少値分、自身のMPを回復する」

「くっ!」


 強化したばかりの牛頭鬼の攻撃力を削られる。でも、ゼロになったわけじゃない!


「なら、やることは変わらねぇじゃん!!」


 俺は手を前に振りかざし、攻撃の合図を叩きつける。


「牛頭鬼でタルウィを攻撃!!」


 牛頭鬼が地を蹴る。巨大な腕が風を切り裂き、そのままタルウィに振り下ろされた。


 直撃──!!


「この瞬間、焔獄の猛撃の効果発動! 相手のMPを1減少させる! さらに、ダブルアタックじゃんよ!!」


 タルウィのMPは1になり、体力も25まで減少した。


 今はサーチもドローもできない。手札をこれ以上消耗するのは得策じゃねぇと判断した俺は、フェイズを終了させた。


 そして、ラセツのフェイズが始まる。ラセツは静かにフィールドを見渡し、手札を確認した。


「……道具カード、命の竿秤、使用」


 ピリッとした緊張が走る。


「モンスター2体を選択、体力を均等に分ける」


 ラセツが選んだのは、牛頭鬼とタルウィ。


 牛頭鬼の傷が癒え、体力は13まで回復する。一方、タルウィの体力は逆に14へと落ちた。


「いいぞ、ラセツ!」


 でも、ラセツはそこで止まらない。さらに手札から次のカードを繰り出した。


「道具カード、修羅ノ風刃、使用」


 突風が吹き荒れ、馬頭鬼の身体が細かく震え始める。


「このフェイズ中、自身の場の風、妖怪属性のモンスター1体、体力4減少。攻撃時のダメージ3増加。さらに、この効果を受けたモンスターのスキル発動時、相手の手札1枚、ダストゾーンへ送る」


 そして、もう一枚。


「道具カード、疾風の誓約使用」


 フィールドの空気が変わる。砂塵が舞い上がり、風が渦巻く。


「このフェイズ中、自身のモンスター1体、体力を代償にスキルを発動できる」


 馬頭鬼の体がわずかに揺らぐ。オーラがざわめき、渦巻く風と一体化するように立ち上っていった。


「馬頭鬼のスキル、風ノ舞発動」


 風が唸り、馬頭鬼が一瞬で姿を消すように疾駆する。風と同化するかのような動きで、タルウィへと肉薄した。


「攻撃成功時、相手の手札、または自身のダストゾーンのカード1枚、デッキに戻す……馬頭鬼、タルウィ、攻撃」


 刹那、馬頭鬼の攻撃がタルウィを捉えた。タルウィがわずかにバランスを崩し、手札の1枚がダストゾーンへと弾かれる。タルウィの手札が0になった。


 スキルを発動した影響で、馬頭鬼の体力が10まで落ち込むが、それと同時に、俺の全身にゾクリとした感覚が走った。


 ──これで、条件は揃った。


「……っ、来るか……!」


 息を呑む。フィールドの空気が変わったのが、肌で感じ取れる。馬頭鬼の身体が震え、その周囲の空気が歪み始める。


 風が逆流し、戦場全体を巻き込むように渦を作る。


 ただの風じゃねぇ。まるで意志を持つように、馬頭鬼の身体へと集中していく。


「疾風、解放──進化」


 ラセツの声が響いた瞬間、風が爆発的に広がった。


「レベル4、鬼風の軍師馬頭鬼!!」


 地響きとともにフィールドが揺れ、砂塵が舞い上がる。辺りを包み込むような風圧が広がり、俺の頬を鋭く切る。


 馬頭鬼だったはずの姿は、もうそこにはなかった。


 鋭い眼光、鍛え抜かれた体躯。手には疾風を纏う軍扇──風を操る戦場の鬼が、堂々と立っている。


「へへっ……最高にいいじゃんよ、ラセツ!!」


 俺は思わず笑い、ラセツの方を見る。ラセツは無表情のまま、それでも確かに頷いた。


「……フェイズ、終了」


 ラセツは、タルウィから一瞬たりとも目を逸らさずにフェイズを終えた。


 手札を削ったとはいえ、油断はできないなとタルウィの攻撃に備え、俺は身構える。


「わたしの、フェイズ……ドロー」


 タルウィはゆっくりとカードを引き、視線を落とす。指先でカードをなぞりながら、静かに息を吐いた。


「……わたしは、MP2を消費して、手札から装備カード、焼き尽くす業火の爪を装備」


 タルウィのフィールドに炎が燃え広がる。灼熱の魔力がタルウィのモンスターに宿り、その爪先に業火が揺らめいた。


「装備モンスターの攻撃力を2増加する」


 タルウィの攻撃力が5に上昇。だが、それを待っていたかのように、ラセツが即座に動く。


「MP1消費、魔法カード、寓話の北風発動」


 瞬間、戦場に冷たい風が吹き荒れ、タルウィの炎が揺らぐ。


「相手の装備カード1枚を手札に戻す」


 タルウィの装備したばかりの焼き尽くす業火の爪が強制的に手札へと弾かれる。まるで、火が吹き消されたかのように、タルウィの炎が消えた。


「……なんで……なんでわたしの邪魔をするの!!」


 タルウィの叫びと同時に、フィールドが激しく揺れた。サークル魔法、焦土の支配が崩れ去り、灰と化して消滅する。


 そして、その破壊の影響が俺たちにも襲いかかる。


「これは……!?」


 フィールド全体に黒いマナが拡散し、俺たちのMPが2も削り取られる。同時に、牛頭鬼と馬頭鬼の攻撃力も2減少した。


「わたし、はMP2を消費して、焼き尽くす業火の爪を再装備」


 タルウィの手札とMPが0になる。


 普通なら、ここで隙が生まれるはずだ。


 それなのに、そうはならなかった。


 タルウィは微動だにせず、ゆらりと体を揺らす。その動きと同調するように、黒いマナがじわじわと広がり、戦場全体を包み込んでいく。


 ……嫌な感覚がする。


 まるで、フィールドそのものが何かに呑み込まれるみたいに。


「……ずるい……なんで……?」


 タルウィが絞り出すように呟く。


 その声には怒り、憎しみ……そして、どこか焦燥の色が滲んでいた。


「なんでお前たちは……わたしの邪魔ばかりするの……?」


 タルウィの視線が俺たちを貫く。その目は燃えるように赤く、けれど奥底にあるのは……絶望の色。


「そんなの、いや……許せない……」


 黒いマナが暴走し、フィールドの空気が歪む。灼熱の魔力がタルウィの体を包み込み、形を変えていく。


「お前たちなんか……焼けてしまえばいいのに……」


 その声に呼応するように、炎の柱が立ち上がった。


 タルウィの足元に魔法陣が展開され、燃え盛る黒炎がその体を覆い尽くしていく。


「何もかも、全部……わたしだけが残ればいい……」


 タルウィの体が燃えながら、異様に膨張していく。炎の中で、奴の輪郭が揺らぎ、まるで異形へと変わるかのように歪む。


「……レベルアップ……」


 タルウィの声が、熱に溶けるようにかすれた。だが、次の瞬間──


 黒炎が爆発する。


 視界が焼けつくような閃光に包まれ、吹き荒れる熱風が俺たちを襲う。まるで、この場全体が焼き尽くされるかのような激しい炎。


 煙が晴れたとき、そこにいたのは──


「レベル6、嫉妬の魔王タルウィ……」


 タルウィが進化した姿で、俺たちを見下ろしていた。


「……もう、誰も逃がさない……」


 その声が響いた瞬間、ズシリと重い圧がフィールドにのしかかる。まるで空気そのものが支配されたかのように、身体が鉛のように重く感じた。恐らく、タルウィの進化による影響だろう。


 このままじゃ、バトルフィールドの維持が難しくなる!!


「アボウ! 加速!」

「分かってるじゃん!!」


 ラセツの言葉を受け、お互いのマナの循環を加速させる。


 この圧に飲まれるわけにはいかねぇじゃんよ!


 だが、その間もタルウィは止まらない。余裕すら感じさせる仕草で、カードを手に取る。


「わたし、は……ダストゾーンにある魔法カード、焼け落ちる希望をゲームからドロップアウト。この効果により、炎属性のカードをデッキから1枚手札に加える」


 俺たちが必死にマナの循環を維持するなか、タルウィは悠然とカードを加える。


「さらに……手札から道具カード、嫉妬の代償を使用。このフェイズ中、自身のモンスターはMPの代わりに体力を消費してスキルを発動できる」


 タルウィのレベルは6。体力が13から7に減少する。


 この瞬間、俺のサークル魔法、鬼道・封尽陣が発動するが、元々MPが0のタルウィには効果がなかった。


「わたし、は……スキル、執着の灼炎を発動。相手フィールドのモンスターすべてのフェイクソウルを奪い、そのフェイクソウルの数値分、自身のMPを回復する」

「フェイクソウルを奪う!?」


 牛頭鬼も馬頭鬼も、地獄属性のモンスターを装備した状態で進化していた。そのため、両者ともフェイクソウルを2つ持っていた。


 つまり──


「っ、タルウィのフェイクソウルが5になった……!」


 そして、その数値分、MPも回復していく。


「さらに……嫉妬の代償の追加効果発動。この効果で体力を5以上消費した場合、自身のMPを即時3回復する」


 タルウィのMPが一気に8まで跳ね上がった。


「……わたし、はMP6を消費してスキル、焼き尽くす嫉妬発動。このフェイズ中、自身の攻撃が成功するたび、相手の場に炎属性以外のモンスターがいる場合、そのモンスターすべてに、自身の攻撃力分のダメージを与える。さらに、攻撃によって与えたダメージ分、自身のMPを回復する」

「っ、俺はサークル魔法──鬼道・封尽陣を発動するじゃん! 相手がモンスタースキルを発動したとき、MPを2減少させる!!」


 すかさず魔法を発動し、タルウィのMPを0まで削る。


 だが──


「わたし、は……わたしで牛頭鬼を攻撃」

「ぐっ!!」


 牛頭鬼の体力が7まで減少する。


「……焼き尽くす嫉妬の効果、発動」

「ああああああ!!」

「っ、アボウ!!」


 タルウィのスキルによる追加ダメージで、牛頭鬼の体力が1まで低下。馬頭鬼の体力も9まで減少した。


「さらに、焼き尽くす業火の爪の効果発動。装備モンスターが攻撃を成功させたとき、相手の手札を1枚ランダムにダストゾーンへ送る」


 手札から1枚が消え、俺の残り手札は2枚。


「……そして、MP6を消費してスキル、嫉妬の束縛発動。次の相手のドローをスキップする。さらに、ドローをスキップしたフェイズ中、相手がMPを消費するたび、その消費MPの数値の半分分、相手の攻撃力を減少させる」


 また、ドローが封じられた!?


「……わたし、のフェイズは……終了。」


 タルウィがターンを終え、静かに俺へと視線を向ける。


 ドローが封じられたまま、俺のフェイズが回ってきた。



 俺の手札は2枚、MPは4。牛頭鬼の体力は1で、フェイクソウルなし。ラセツの手札も2枚、MPは0。馬頭鬼の体力は9、同じくフェイクソウルなし。


 一方のタルウィは、手札もMPもゼロだが、残り体力は7、フェイクソウルは5だ。


 ……生半可な攻撃じゃ倒せない。


 それだけじゃない。次のフェイズが回れば、確実に押し切られる。そもそも、俺もラセツもマナの限界は近い。今の速度で循環を続けるのは、技術的にも体力的にも厳しい。


 倒せなければ負ける。タルウィのフェイズが来る前に、絶対に仕留めなきゃいけねぇ。


 ……考えろ。この2枚の手札で何ができる?


 MPを使えば牛頭鬼の攻撃力が下がる。でも、攻撃力が7以上にならなければ勝ち筋はない。


 決断する。


「俺は! 手札から道具カード、雲外鏡を使用!!」


 デッキから地獄属性のカードを1枚手札に加える。最低限のMP消費で、確実に攻撃力を上げる魔法カード。これしかねぇ。


「俺はデッキから魔法カード、修羅ノ咆哮を手札に加える! そんで、MP1を消費して発動するじゃん!!」


 MP1の消費なら、牛頭鬼の攻撃力は落ちない。


「このフェイズ中、自身の場のモンスター1体の攻撃力を……現在の自分のMPの数値分、増加させる!!」


 焼き尽くす嫉妬の効果でMPは2になっちまったが、これで、牛頭鬼の攻撃力がちょうど7!!


「牛頭鬼! タルウィを攻撃するじゃん!!」


 牛頭鬼が咆哮を上げる。その声がフィールド全体を震わせ、猛然と駆け出した。


 渾身の一撃がタルウィを捉える。


「まず、1枚目!!」


 タルウィの体力が0になるが、フェイクソウルの効果で1に戻る。


「もういっちょ! ダブルアタック!!」


 2枚目!!


 あと3枚……まだ足りねぇ。このままじゃ、タルウィが耐え切る。


「俺はMP2を消費して、手札から魔法カード、鬼焔ノ狂乱を発動!!」


 MPはゼロになった。だが、これが最後の切り札。


「レベル4までの自身の炎属性モンスターは、スキルと同じ効果を得る!  俺は牛頭鬼のスキル、修羅の猛襲・改を選択するじゃん!!」


 攻撃成功時、自身のモンスターを攻撃前の状態に戻し、再度攻撃が可能。


 俺の手札もMPもゼロ。でも、この攻撃が通れば、ラセツの番で確実に勝てる!!


 勝った。


 そう思った、その瞬間──


「……わたしは、焼き尽くす業火の爪を破壊し、効果を発動」

「……っ!?」


 まさか……!


「相手の魔法カードの発動を無効化する」

「なっ……!?」


 焼き尽くす業火の爪が砕け散ると同時に、俺のカードがかき消えた。


「くっそ……!!」


 ここまで来て……! だが、もうタルウィには守る手段はフェイクソウルしかねぇ。


「……あとは、頼むぜ、……っ相棒!」

「承知!!」


 ラセツのフェイズが始まる。ドローは封じられ、手札の補充はできねぇ。


 でも、ラセツはそんなこと気にも留めず、冷静に手札へと指をかけた。


「幽玄ノ双刃、馬頭鬼、装備!」


 フィールドに刃の冷たい光が走る。馬頭鬼の両手に、淡く揺らめく刃が宿った。


「効果発動。装備モンスターの攻撃力を半減、ダブルアタック付与!!」


 馬頭鬼の攻撃力が1に落ちる。でも、タルウィの体力も1。


 ここまで来たら、あとは仕留めるだけだ!!


「いけ、ラセツ! これで終わらせるじゃんよ!!」


 ラセツは無言で頷き、手を振るう。


「馬頭鬼、タルウィ、攻撃!!」


 瞬間、馬頭鬼が疾風のごとく駆ける。閃光のような刃がタルウィの胸元を斬り裂いた。


「っ……!」


 フェイクソウルが砕け散る。残り、2枚。


「馬頭鬼! ダブルアタック!!」


 タルウィが息を呑む間もなく、馬頭鬼が二撃目を叩き込む。刃が横薙ぎに振るわれ、タルウィの身体を大きく揺らした。


「く……っ、まだ……!」


 フェイクソウル、残り1枚。タルウィの息遣いが荒くなり、焦燥が滲み出る。


 でも、もう守る手段は残ってねぇじゃん。なら、勝負に出るしかないじゃんよ!


「MP3を消費。魔法カード、鬼裁ノ陣、発動」


 ラセツの静かな声が響く。同時に、フィールドに巨大な鬼の陣が刻まれた。


 轟音とともに禍々しい鬼の咆哮が戦場に響き渡る。


「効果発動。相手のフェイクソウル、1枚破壊」

「……ッ!?」


 バリン、と最後のフェイクソウルが砕ける。タルウィが足を引きずるように一歩後ずさった。


「や……だ……。まだ……終わらない……っ」


 おいおい、しぶてぇな……。でも、鬼裁ノ陣の効果はまだ終わっちゃいねぇじゃんよ!


「破壊、成功時──」


 ラセツがタルウィを見据え、無慈悲に言い放つ。


「自身の元々の攻撃力分のダメージを、フェイクソウルを失ったモンスターに与える」


 タルウィの目が見開かれる。


「う、嘘……!」

「ラセツ!  叩き込め!!」


 馬頭鬼が刃を振り上げ、最後の一撃を刻む。タルウィの体が揺らぎ、膝が崩れ落ちる。


「や……めて……っ」


 でも、もう遅ぇよじゃん。


 烈火のような衝撃がフィールドを飲み込み、タルウィの体を包み込んだ。灼熱の炎が弾け、戦場全体が揺れる。


 タルウィの手が、何かを掴もうとするように宙を彷徨う。


 でも、何もない。


 力尽きたように、タルウィの体が崩れ落ちた。


 俺は荒い息をつきながら、その光景を見つめる。膝に手をつき、心臓の鼓動がうるさいほど響いていた。


「……勝った、のか……?」


 ラセツが無言で頷くと同時に、バトルフィールドが霧散する。その一瞬後、全身に勝利の実感が駆け巡った。


「……決着じゃんよ」


 呟いた声が、燃え盛る戦場に消えていく。胸の奥から湧き上がる熱が、俺の拳を強く握らせた。


「っしゃあああああ!!」


 勝った! 勝ち切った!!


 俺は笑顔でラセツの方を振り向く。


「これで、坊達の元に──」


 言いかけた瞬間、足が止まる。


 脳裏に浮かんだのは、一人で七大魔王(ヴェンディダード)の元へ向かった氷川ヒョウガ達の姿。燃え尽きるような決意を背負い、振り返りもせず進んだアイツの姿が、今さらながらに胸に突き刺さる。


 本来なら、俺たちは坊達と合流しなきゃいけない。けど……それでいいのか?


「……なぁ、ラセツ……俺……」


 言葉に詰まる。でも、ラセツはすべて分かっていた。


「アボウ」


 俺の言葉を遮るように、ラセツが静かに口を開いた。そのまま、自分の胸を指差す。


「シロガネ、迎征」


 そして、次は俺の方を指した。


「アボウ、ヒョウガ、迎征」


 ……こいつは、ほんと分かってるじゃん。


 俺は驚きと笑いが混じった声を漏らし、ニヤリと笑った。


「……ははっ、やっぱお前最高じゃんよ」


 俺は拳をラセツに向ける。迷う必要なんてなかった。


「そうだよな。……ダチ、見捨てるわけにはいかねぇじゃんよ」


 ラセツも口角を上げながら、無言で拳を向け返す。その動きだけで、すべてが伝わった。


「んじゃまぁ、俺はヒョウガを迎えに行ったあと、サチコを迎えに地下世界に行くじゃん。だから、そっちは頼むじゃんよ……」


 俺は、少しだけ肩をすくめながら笑った。


「……怒られる時は一緒な、相棒」

「共犯」


 静かに交わした拳。


 それを最後に、俺たちは背を向け、それぞれの戦場へと走り出した。



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