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ph15 大会でハプニングはつきもの


「私はMP3を消費して影鰐のスキル投影を使用する。このフェイズ中自身が使用した魔法カードの枚数分のダメージを相手モンスター1体に与える」

「うわあぁあぁぁあ!!」

『サチコ選手またも勝利いいいい!!』


 歓声に包まれる会場を後にし、私はチームの控え室に戻ると、空いている椅子にどかりと座った。


 控え室にあるスクリーンを見ると、ヒョウガくんがジャックフロストのスキルで、相手モンスターを転ばせている姿が映し出されている。




 タイヨウくん遅すぎるぞ!!


 もう予選が終わりそうなのだが!? 遅刻ってどこまで遅刻してんだ!! これ絶対トラブルにあっているだろう!! 予想通りだチクショウめ!


 タイヨウくんはトラブル専用のバキューム管か!? いつまでも変わらない吸引力ですって? やかましいわ!!


 だいたい、シロガネくんは何をしている! タイヨウくんに何かあった時の為の保険で送り出したのに、帰ってくる気配が全然ないのだが!?


 合流したら指パッチンで戻ってこれる癖にどこで道草食ってんだ! そのまま食い過ぎで腹痛になればいいのに!! いや、道草食うがそういう意味じゃないのは分かっているが、気分的にそうも言いたくなる。


 また私の面倒事に合う予感センサーが反応している。この展開は間違いない。キッズアニメあるある、遅刻した主人公が悪の組織的なやつに絡まれて、今後の展開を示唆されるやつだ。そして、その悪の組織的なやつはだいたい、主人公の出場する大会とかに関わりがあったりするのだ。


 そう、つまり! 今現在私が出ている大会の事である。


 最悪だ……最悪すぎるパターンだ……。


 ストーリー展開に関わるかもしれないと思っていたが、危険な目に遭うのなんて聞いてない。


 というか、カードゲームの悪の組織って何をするんだ? 金儲け? 世界征服?


 私の知っているホビーアニメでは、だいたい玩具で世界征服を企んでたから、後者である可能性が高いだろう。


 ……カードゲームで世界征服? ……あぁ、カードには精霊が宿っているからね。多分、精霊の力でなんかするのだろう。迷惑な話である。


 私が今後の予想される展開について項垂れていると、マッチを終えたヒョウガくんが控え室に戻って来た。


「おかえり。さっきのマッチ、良かったですね。特に最後の魔法カードのタイミングが最高でした」

「……ふん。当然だ。……貴様も、まぁ……思ったよりマシだな」



 デ レ た !!


 やった。無視されてもめげずに話し掛け続けて良かった。


 短い間とはいえ、チームメイトだからな。今みたいに、タイヨウくんというこのチームの潤滑油がいない場合において、円滑にコミュニケーションを取るためには、1人でも良好な関係を築いておくに越したことはない。


 きっと、ヒョウガくんは私のマッチを見て、チームの戦力として多少は使えると認めてくれたのだろう。後、適度にプレイを誉めつつ意見を述べて、議論をしていたのも良かったのかもしれない。


 前世の世界ならば、1度険悪な空気になってしまったらこうはいかないだろう。


 今だけはホビーアニメ万歳と言いたい。ホビーアニメあるある、玩具の実力を認められる事によって、簡単に関係が修復される原理のお陰だ。


「次のマッチで予選は終わりそうですね。……本当に私達2人で予選を勝ち上がる事になるとは思いませんでした」

「……タイヨウがいたとしても特に変わらん。俺達のうち2人出れば十分だ。どうせ勝つのならば4人もいらんだろう」


 おぉ、俺達の中にちゃんと私が入っている。分かりやすい変化にニヤけそうになるのを堪え、真顔を貫く。


「マッチまで大分時間がありそうですが、どうします? 飲み物でも買ってきます?」

「必要ない」


 ヒョウガくんは、腕を組みながら壁に寄りかかると目を閉じた。


 ヒョウガくんがこの体勢になった時は、話し掛けるなという意思表示だ。それを予選の間で学んでいた私は、会話を止め、暇を潰そうとスマホを取り出す。すると、SAINEからとんでもない数の通知が来ていた。


 また父親からかと半目になりながらトーク画面を開くと、相手は父親ではなく、全てクロガネ先輩からのメッセージであった。


 急ぎの要件でもあるのだろうか? こんなスタンプ爆撃レベルの通知数なんてそうそうないぞ。


 正直、無視しようかと思ったが、そうするとあとで面倒な事になるので、諦めて確認する事にした。


 さて、先輩は何の要件で連絡を────


“サチコ、俺も会場で見ている。頑張れよ”

“さすがサチコだな! ワンフェイズキルなんてやるじゃねぇか! お前とマッチしたくなっちまった。予選終わったらマッチしようぜ!”

“サチコ、他のメンバーはいないのか? お前と青髪野郎しかでてねぇが、何かあったのか?”

“……あの実況、サチコと青髪野郎が名コンビとかふざけた事言いやがって……お前の相棒は俺だよな?”

“おい、あの青髪とお似合いとか言われてんじゃねぇか、ふざけんなよ。別のやつ出してサチコは休んでろよ”

“サチコの1番は俺だよな? 青髪なんかじゃねぇよな?”

“サチコ、今控え室か? 待ち時間に会うことできねぇか?”

“なぁ、サチコ何で連絡返してくんねぇんだ? 俺なんかしたか?”

“サチコ、俺の事嫌いになっちまったのか?”

“サチコ返事してくれよ”

“なぁ、サチコ”



 以下似たような文章がならんでいる……。


 え、なにこれ怖い。見なかった事にしてもいいだろうか?


 いったんアプリを閉じ、真面目に先輩をブロックしようかなと考えていると、新たに先輩からメッセージが来た。


 思わずビクついたが、内容を確認しなければ更に怖いことになりそうだと、恐る恐るアプリを起動する。アイコンをタップし、トーク画面を開いた瞬間、控え室のドアをバンッと激しい音をたてながら入ってきた人物がいた。


 まさか先輩が乗り込んで来たのかと、不安になりながら音のした方へ振り向く。すると、そこには────。


「よぉ、ヒョウガ……久しぶりだなぁ?」


 控え室の扉の枠に寄りかかり、フードを目深にかぶった銀髪の少年がいた。


 だ れ だ お ま え !!


 とりあえず、先輩ではないことに安心した。


「……っ! 貴様は渡守(わたもり)セン!!」


 ヒョウガくんは、フードの少年の名前を呼んだ。どうやら知り合いのようだ。あまり良い関係ではなさそうだが。


 渡守は被っていたフードを脱ぎ、ニヤリと口角を上げる。


 うわぁ……悪そうな顔。


「テメェならSSCに参加してると思ってたぜェ?」

「ふん……貴様の方からノコノコ現れてくれるとはな、丁度いい……貴様に聞きたい事がある! 俺とマッチしろ!!」


 ヒョウガくんはまるで親の仇でもみるかのような鋭い眼光で渡守を睨み、腕輪を構えた。


「おいおい、待てよ。俺は別にテメェと戦いに来た訳じゃねぇんだぜェ?」


 渡守は両手を上げて、降参のポーズをしながら笑う。


「あの方からの伝言だ。約束の時は近い、救いたければ戻って来いとのことだ」

「…………俺は」


 ヒョウガくんは、悔しそうにギリィッと歯軋りをする。


 いや、待って。これどういう状況? 全く意味が分からんのだが? 空気を読んでシリアス顔をしているが、奴等の会話についていけんぞ。


 とりあえず、この渡守とヒョウガくんには因縁があること、伝言内容からヒョウガくんは助けたい人がいるという事は分かった。……うん、帰っていいかな?


 これは多分、アレだ。悪の組織関係だ絶対。戻って来いということは、ヒョウガくんは悪の組織の元関係者とかか? SSCの優勝に拘っていたのも、これ関連だったりするのか? やめてくれ、そんな設定あるとか聞いてないぞ。


「っ、俺は戻らない! 俺は俺のやり方で助ける!! 貴様等の指図は受けん!! コキュートス!!」


 ヒョウガくんは、感情のままにコキュートスを実体化させた。コキュートスは「ゴー!」と鳴きながら渡守に襲いかかる。


「ハッ、アケローン!!」


 渡守はヒョウガくんに対抗するように、自身の精霊を実体化させる。


 ちょっと待てお前ら!!


「コキュートス! アケローンを──」

「ちょっと待ったぁあぁぁあ!!」


 私は影法師を出現させ、興奮しているヒョウガくんを落ち着かせようと、彼の精霊の動きを止めた。そして、渡守とヒョウガくんの間に立つ。


「大会での精霊の実体化は禁止されています。サモンマッチ規約違反です。協会に通報されたくなければ、今すぐ精霊をカードに戻して下さい」

「先に実体化させたのはソッチだ。俺は身を守ろうとしただけだぜェ?」

「えぇ、分かっています」


 私は視線を渡守達に向けたまま、ヒョウガくんへ語りかけた。


「ヒョウガくん、精霊をしまって下さい」

「貴様には関連ない!! 邪魔をするな!!」

「関係はあります。私達はチームです。貴方が違反すれば、私達も同様に違反したとみなされ、大会失格になるんですよ」


 いや、本音は危ないなら関係ないので帰ります。大会とかどうでもいいです。と言いたいとこだが、それは出来ない。


 何故ならばこれを放っておくと、私は怪我をするからだ。コイツらの死闘に巻き込まれて確実に怪我をする!!


 ふざけるな!! そういったバトルは私のいない場所でやってくれ! 渡守も渡守で何故わざわざ控え室まで来た!せめて予選が終わるまで待ってくれよ!


 くそっ、これならちょっと病みぎみの先輩のところに行っておけば良かった。SAINEを無視した代償が重すぎる!!


 部屋は一触即発の空気で静まり返り、私は二人の行動に神経を尖らせ、どちらの精霊が動いても影法師を仕込めるように様子を伺った。


「…………チィッ!!」


 ヒョウガくんは舌打ちをすると、精霊をカードに戻した。どうやら、少しは冷静になれたようだ。しかし、まだ気は抜けない。渡守の精霊は実体化したままでいる。


 私は渡守の一挙一動に警戒した。


「ヒョウガよォ……テメェって奴ァホント……」


 突然、渡守はクツクツと笑いながら、片手で顔を覆い隠す。


 ……おい、お前まさか──


 私が嫌な予感で顔がひきつり、影法師を奴の精霊の影に忍ばせようと影法師! と呼び掛けた。


「バカだよなァ!!」


 渡守は、狂気の笑みを浮かべながらアケローンへ攻撃指示を出す。


「っ、影法師! 影縫い!!」


 私はとっさにアケローンの動きを止め、渡守を睨んだ。


「……どういう事ですか……ケンカをしに来たのではないのでしょう? 用がすんだら帰ってくれませんか? 私達、試合を控えてるんです」


 私の問いかけに、渡守は歪んだ笑みで答える。


「気が変わったんだよォ……サモナーなら、挑まれたマッチを受けるのが礼儀だろォ?」


 それなら普通のマッチをしてくれ! 当然のように精霊バトルをするな! ルールを守って安全にカードゲームをしろ!!


「アケローン!!」


 渡守がアケローンに呼び掛けると、アケローンの身体が光りだした。


 やばい……これは、スキルを発動させようとしている!?


 影法師の影縛りは攻撃を止める事しか出来ないため、スキルを防ぐ事はできない。


「……やれ」


 私は、アケローンのスキルが発動する瞬間、ヒョウガくんの元へ走り出した。ヒョウガくんは目を見開き、こっちを見ている。


 くそっ! 何故私がこんなことをせねばならん!!


 そう心の中で悪態をつくが、ここでヒョウガくんが怪我をすれば、私は本選にずっと出ることになる。するとどうなるか。そう、否が応にもこの悪の組織との戦いに巻き込まれるだろう。


 そんなのごめん蒙る!!


 だったら今怪我して途中離脱させてもらう! 最低な考えだが、ヒョウガくん自身は戦いたいだろうし、ここで怪我して退場は望まない筈だ。まさしくWin-Winな関係だろう?


 動揺するヒョウガくんに構わず、庇うように抱きついた。背中に凄まじい痛みが走り、思わず呻き声がもれた。


 チクショウが! やっぱめちゃくちゃ痛い!!


「貴様……何してっ! くっ……コキュートス!!」


 ヒョウガくんが精霊を実現化させる姿を視界に捉え、結局こうなるのかとうんざりしながら私は意識を飛ばした。


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