ph159 VSタローマティーsideアスカー
わたくしはエアロセタスの背に立ち、冷たい風がドレスの裾を舞い上げ、髪を乱す中、足元をしっかりと踏みしめた。
空の上に広がる風は、地上のそれとはまるで異なり、鋭く冷たく、全身を包む。
タイヨウ様たちが飛び立っていく背中を視線で追い、心の中で安堵の息をついた。
そして、目の前のタローマティ──アレッサンドロを睨みつける。
「おやおや、これは奇遇ですねぇ、アスカお嬢様。こんな空の上でお会いするとは。ご機嫌麗しゅう?」
「……何が奇遇なものですか」
白々しい笑みを浮かべるアレッサンドロに、わたくしは鉄扇を突きつけ、冷たく言い放つ。
「ローズクロス家当主の側近執事とあろうものが、落ちぶれたものですわね……恥を知りなさい!」
「いやはや、手厳しいことで。しかし……」
アレッサンドロの笑みがわずかに深くなる。その瞳の奥には、底知れぬ悪意が潜んでいた。
「次期当主候補の貴方様が、五金の犬に成り下がるとは──これほど嘆かわしい話もない。恥を知るのは、果たしてどちらかな?」
「っ!」
わたくしは、アレッサンドロの言葉に思わず顔を顰める。
ローズクロス家では現当主に子がいない。養子として次期当主を迎えるという決定はすでに公式に発表されており、一族内ではその座を巡る争いが行わられていた。
その争いがあまりにも激化したため、ついにはサモンマッチ教会が選定に関わる形で仲裁に乗り出した。
候補者たちの実力や功績をマッチの成績によって評価し、その得点で次期当主を決定するという形式が取られることになった。
教会の決定は一見、公平さを装っていたけれど、裏では各家の思惑や干渉が交錯し、実際には完全な中立性が保たれているとは言い難い。
ローズクロス家に関わる者たちが、その仕組みを利用して地位を固めようとする様子も目に余るものがあった。
「教会の点数稼ぎでそのようなことをしているのですか? アイギスの手柄を横取りし、ご自身の功績に仕立て上げるなど……まるでハイエナのようではありませんか!」
「口を慎みなさい! わたくしはローズクロス家の代表として、教会に貢献しているだけですわ!」
「代表、とは……随分と大きく出たものですねぇ。宝船家のような末端が候補者として名を連ねるだけでも、さぞかし『ご尽力』があったことでしょう。どのような手を使われたのか……あえて伺うつもりはありませんが」
「それ以上、お嬢様に無礼を働くのであれば、容赦はいたしませんよ」
鋭い声がアレッサンドロの嘲笑を遮った。
振り返ると、セバスがわたくしの後ろに立ち、その整った佇まいから滲み出る威圧感で場を制していた。
「おや、セバスティアナではありませんか。お元気そうで何より……もっとも、宝船家などという末席の家に仕えるとは、ずいぶんな御苦労ですねぇ」
セバスは穏やかな笑みを浮かべ、少しも動じることなく静かに言葉を返す。
「ご心配をいただき恐れ入ります。ですが、アレッサンドロ、その言葉こそ大きすぎるかと存じます。現当主にお仕えする者が、そのような軽薄な評価をされるのは、さぞ残念でございましょう」
その声は柔らかい、けれど、まるで刃で刺し貫くような鋭さがあった。
「……なるほど。確かに、宝船家のような小さな家で忠義を尽くすのは、貴方らしいご苦労でしょう。我らが当主のような偉大なお方を支える誇りを知ることは、貴方には難しいかもしれませんね」
アレッサンドロの言葉は表面的には丁寧だが、その底には明らかな侮蔑が込められていた。
「偉大……ですか。さすがは現当主の側近執事であられる貴方様。そのお言葉には、さぞかし数々の『手腕』の裏付けがあることでしょう。もっとも、それが公に語れるものであるかどうかは、私には分かりかねますが」
セバスの返答にも、穏やかな中にも確かな毒があった。
わたくしはそのやり取りを見守りながら、彼女の言葉がアレッサンドロを少しずつ追い詰めているのを感じた。
「皮肉をお得意とされるようですね、セバスティアナ。ですが、貴方こそ手腕を語るには少々お粗末では? 宝船家のような家で貴方ができることと言えば、せいぜい次期当主争いに賭ける期待を裏切らぬよう努めることでしょう。それ以上を望むのは、欲張りというものですよ」
「お心遣いに感謝致します。しかしどうぞご安心を。宝船家が──いえ、アスカお嬢様が果たすべき役割の大きさは、いずれ明らかになることでございましょう。その折には、現当主の『ご栄光』が、いかなる代償の上に成り立っているのかも同時に知れ渡ることでしょうから」
セバスの静かな語り口が続く中、アレッサンドロの目がわずかに細まり、唇の端が引き攣るのが見えた。
その瞬間、わたくしはセバスが完全に主導権を握ったことを確信する。
「それが脅しであれば、少々稚拙に過ぎるのでは? 我々が築き上げてきたものを揺るがすことなど、到底できるとは思えませんが」
「脅しなど、とんでもないことでございます。ただの忠告にございます。もっとも、その忠告に耳を傾けるのがいつになるかは、私には分かりかねますが……時が来た時には、手遅れでないことをお祈り申し上げます」
セバスの微笑みは、まるで相手の反応を楽しんでいるかのようだった。アレッサンドロはわずかに表情を歪める。
「ふふ、どうやら口だけでは済まないようですね、セバスティアナ。さすがは宝船家のお嬢様の忠実なる犬、無駄な忠義を尽くすことにおいてはお見事です」
アレッサンドロの笑みがさらに深くなる。禍々しい黒いマナが彼の周囲に集まり始め、その圧力に空気が重くなるのを感じた。
「万物を照らす光と清き水よ。その慈悲と献身の力で、私を守護せよ! いでよ! レベル5、献身の魔王タローマティ!」
アレッサンドロの叫びに呼応し、彼から溢れだした黒いマナが歪み始める。
黒いマナの渦が裂け目を生み、その中から圧倒的な威圧感を纏ったタローマティが姿を現した。その巨体と禍々しいオーラに、わたくしは息を呑む。
「これが……七大魔王……」
その存在感に一瞬だけ心が揺らぐ。しかし、エアロセタスの優しい風が背を押し、わたくしの気持ちを再び引き締めた。
仲間たちのため、何より、タイヨウ様の期待に応えるために、この場で恐れを抱くわけにはいかない。
「セバス、いきますわよ!」
「お嬢様、心得ました」
わたくしはMDを構え、バトルフィールドを展開する。
「コーリング! 弁財天! メロネイロ! プリリインタ!」
三体のモンスターが光と水の輝きを纏いながら現れる。その清らかな力が空間を浄化し、アレッサンドロの黒いマナを押し返すように広がっていく。
「続けます、コーリング。エアロセタス、ウィンドボット!」
セバスもまた、風を操るモンスターたちを召喚し、わたくしの布陣を補佐する。
二人の力が一つになり、タローマティを迎え撃つ準備が整った。
「その程度の光で、このタローマティに立ち向かおうとは……実に愚かですね」
アレッサンドロは嘲笑を浮かべ、黒いマナをさらに凝縮させていく。その圧力が空間全体を覆い、わたくしの肌に冷たい痛みを感じさせるほどだった。
「愚かかどうか、試してご覧なさい! この場で貴方を打ち破り、七大魔王の脅威を終わらせますわ!」
わたくしは力強く声を上げながら、セバスを見る。セバスはわたくしの視線に気づくと、コクりと頷いた。
「お嬢様!」
「ええ!!」
わたくしとセバスのフィールドが展開され、光と風が絡み合いながら渦を巻く。
その輝きが黒いマナの圧力を押し返し、フィールド全体を包み込んでいく。
「セバス! 循環いたしますわよ!!」
黒いマナは激しく抵抗し、タローマティの存在がそれをさらに増幅させる。アレッサンドロの嘲笑が耳に届くが、わたくしの決意を揺らがすには至らない。
「お嬢様! マナの循環、完了いたしました!!」
わたくしたちは視線を交わし、同時に力強く一歩を踏み出した。フィールドのエネルギーが頂点に達し、黒いマナと清浄な力が激しくぶつかり合う。
わたくしは全身全霊の思いを込めて叫んだ。
「レッツサモン!!」
光と風が爆発的に広がり、空間全体を支配する黒いマナを切り裂いていく。
その輝きの中で、わたくしとセバスは、五枚の手札を引いた。タローマティの巨大な影がそれに応じ、今まさに戦いの幕が切って落とされたのだ。
「わたくしのフェイズですわね! ドロー!!」
足元の魔方陣が静かに回転し、わたくしのフェイズ開始を告げる。その確認を終え、カードを引き、場の状況を見渡す。
集団戦では全員のフェイズが一巡するまで攻撃はできない。
わたくしは次のフェイズに備え、必要な装備カードを場に用意することを選んだ。
「わたくしはMPを2消費して、自身に豊穣の琵琶を装備いたしますわ! これでわたくしのフェイズは終了です」
「では、私のフェイズですね。ドローいたします」
わたくしがフェイズを終えると、セバスが冷静にカードを引き、次の動きを準備する。
「私は、手札から道具カード、メカニックツールを使用します。この効果により、手札にある機械属性の装備カード1枚をコストなしで装備可能です。私は装備カード、蒸気エンジンアーマーをエアロセタスに装備します」
セバスの言葉通り、エアロセタスに重厚なアーマーが装備され、その防御力が増した。戦況に小さな希望が灯る。
「これで私のフェイズは終了です」
「ならば、私のフェイズですね? ドロー!」
セバスがフェイズを終えた途端、アレッサンドロが不気味な笑みを浮かべながらカードを引く。
「私は、手札からサークル魔法、魔王の護域を発動。フィールド上の全ての魔王属性モンスターの攻撃力を1加算し、さらにスキル使用コストを1軽減させる」
「サークル魔法……!?」
サークル魔法の登場に、わたくしは眉をひそめる。
サークル魔法は破壊されるまでフィールド全体に影響を与える特殊なカード。魔王属性のモンスターを強化するこのカードは、厄介極まりない。
「そして、私は手札から装備カード、天光のリボンをタローマティに装備させます……これで私のフェイズは終了です」
アレッサンドロはそれ以上の行動を見せず、わたくしたちにフェイズを回した。その余裕ある態度は、さらなる企みを感じさせる。
「わたくしのフェイズですね。ドローします!」
わたくしは手札を強く握り締め、場の状況を分析した。そして、豊穣の琵琶の効果を発動する。
「豊穣の琵琶の効果発動! 自分のフィールドにいるモンスターの数と同じ数値分のMPを回復します! 現在モンスターは3体! さらにMPを3回復いたしますわ!」
これにより、わたくしのMPは9まで回復した。セバスに視線を送ると、彼は無言で頷く。お互いの意図は完全に共有されている。
「弁財天でタローマティを攻撃いたしますわ!」
「待っていましたよ。私はMP4を消費してタローマティのスキル、浄化の障壁を発動します! このスキルにより、次のフェイズ終了時までタローマティが受けるダメージを半減。さらに、モンスターによる攻撃時には魔法カードや装備カードによる強化は無効化されます……迂闊でしたね?」
アレッサンドロの皮肉に唇を噛むが、すぐに態勢を立て直す。
「セバス!」
「承知いたしました!」
セバスは即座に動き、自身のモンスターに手を伸ばす。
「私はMP1を消費して、ウィンドボットのスキル、ジェットブーストを発動! このフェイズ中、機械属性モンスターの攻撃力を2加算し、さらにスキル使用コストを1軽減します!」
さらに続けるように、セバスはエアロセタスのスキルを発動した。
「MP3を消費して、海光の防壁を発動! すべての攻撃対象をエアロセタスに固定し、このモンスターが受けるダメージを2軽減します。そして、相手がMPを使用する際には、そのコストが1増加します」
「なっ……!」
この一連の動きにより、アレッサンドロのMPは尽きた。
タローマティの強化無効化の範囲は魔法と装備カードによるもののみ、攻撃のチャンスが生まれる。
「これで邪魔はできないでしょう? わたくしはMP3を消費して弁財天のスキル、宇賀の姿を発動! この攻撃時、弁財天の攻撃力はフィールド上の全てのモンスターの攻撃力を合計した数値になります!」
弁財天の攻撃力は13まで上昇し、タローマティへの攻撃が開始された。スキルにより攻撃力は半減されたが、その一撃でタローマティの体力は19まで減少する。
「くっ……! 私は装備カード、天光のリボンの効果を発動します! 自身のスキル効果が発揮した時、MPを1回復する! そして回復したMP1を即座に消費して、手札から魔法カード、冥護の光を発動! 効果は、相手モンスターから受けるダメージを軽減し、その軽減値分のMPを得るものです!」
「なに……!?」
驚愕するわたくしをよそに、アレッサンドロのMPはたちまち6まで回復した。その笑みが不気味に浮かび上がり、さらなるスキルが発動可能な状態となる。
「これで終わりではありませんよ。さあ、次はどうするのです?」
冷ややかな声に苛立ちを覚えつつ、わたくしは気持ちを切り替えた。この状況でも、引くわけにはいかない。
「ここで引くわけにはいきませんわ! わたくしはMP1を消費し、メロネイロのスキル、鼓舞する音色を発動! 自身の攻撃を放棄する代わりに、フィールドのモンスター1体に再攻撃を可能にします! 対象は弁財天! さらに、MP3を消費して弁財天のスキル、宇賀の姿を再び発動! 弁財天、もう一度タローマティを攻撃いたしますわよ!」
弁財天の二度目の攻撃がタローマティに命中。これにより、タローマティの体力は13にまで減少する。わずかな勝利の兆しが見えた……その瞬間だった。
「ふっ……ハハハハハハ! まだわかりませんか? この瞬間、天光のリボンの効果を発動し、MPを1回復させます。そしてMP4を消費し、タローマティのスキル、光の再生を発動!」
「なっ……!?」
アレッサンドロの場から新たな力が溢れる。光の再生の効果により、このフェイズ中、装備カードの発動時にデッキからカードを1枚ドローする。そのカードが魔法カードであれば手札に加わり、そうでなければダストゾーンに送られる。
「さらにドローです! 天光のリボンの効果が発動し、またMPを回復。そしてまたドローを繰り返す!」
「なんてこと……!」
無限ループのような状況に、わたくしの額には冷たい汗が流れる。アレッサンドロの手札は5枚に増え、MPも5まで回復していた。
「ハハハハハ! 見ましたか? これが計算されたコンボの力です!」
光の再生の効果で増える手札に制限があったことに安堵し、わたくしは自身の手札を見下ろす。
残りはアレッサンドロと同じ5枚あるが、MPはわずか2。ここで無理に攻撃を続ければ、逆転の隙を与えるだけ……それは愚策だ。
「……わたくしは、手札から道具カード、縁切りのナイフを使用します。この効果で、手札2枚をダストゾーンに送り、デッキから2枚をドローします……これで、わたくしのフェイズは終了です」
決め手を欠いたままフェイズを終えた悔しさが、胸を締め付ける。けれど、ここで焦れば命取り。次のフェイズに勝機を見出すしかない。
「私のフェイズですね。ドロー!」
セバスがカードを引き、即座に行動を開始する。
「MP1を消費して、手札から魔法カード、過負荷エネルギーを発動! このフェイズ中、機械属性モンスター1体の攻撃力を3加算し、さらにスキルのMPコストを1軽減します。ただし、フェイズ終了時にそのモンスターの体力が3減少し、コストを0にすることはできない! 対象はエアロセタス!」
エアロセタスの攻撃力は6にまで上昇する。
「さらに、MP1を消費して、ウィンドボットのスキル、ジェットブーストを発動! これでエアロセタスの攻撃力は8に!」
セバスの動きに合わせ、わたくしも即座に応じた。
「わたくしはMP1を消費して、プリリインタのスキル、魔言語通訳を発動! この効果で、フィールドにいるレベル2以下のモンスターのスキルを1度だけ使用可能にします! 対象はウィンドボットのジェットブーストですわ! その効果をエアロセタスに付与します!」
エアロセタスの攻撃力はさらに上がり、10に達した。
「さらに私は、MP1を消費してエアロセタスのスキル、機械聖域を発動! ダストゾーンにある機械属性カードをゲームからドロップアウトさせ、その効果を発動可能にします! 対象は、過負荷エネルギー! この効果でエアロセタスの攻撃力をさらに13まで上昇!」
タローマティの残り体力と、エアロセタスの攻撃力が同じになった。
「そして──MP1を消費して、エアロセタスのスキル、波動連射を発動! 敵モンスター1体に、自身の攻撃力の2倍のダメージを与える!」
アレッサンドロは目を見開き、驚愕に満ちた表情でこちらを睨んだ。
「これで終わりですわ! セバス! エアロセタスの砲撃開始!!」
「かしこまりました!」
エアロセタスの砲撃が炸裂し、タローマティへと直撃。爆煙が辺りを覆い尽くし、わたくしは勝利を確信した──だが。
「そ、そんな……!?」
煙が晴れると同時に、タローマティは無傷で立ち続けていた。
「ハハハハハ! ごめんなさいねぇ。攻撃が当たる瞬間に、献身の軌跡を発動していましたので!」
アレッサンドロが不敵な笑みを浮かべながら、一枚のカードを指先で摘み上げると、それをダストゾーンへと滑らせた。
「タローマティのスキル、献身の軌跡。このフェイズ中、タローマティが攻撃を受けるたびに、手札から魔法カードをコストなしで発動できるんです。そして、発動させていたのがこちら──再生の光環。このカードの効果で、次に光属性モンスターが受けるダメージを完全に無効化します。そして、この効果が成功した場合、デッキから魔法カードを1枚ダストゾーンに送れるのですよ」
「そ、そんな……!」
その説明に、わたくしは思わず息を呑んだ。攻撃を無効化された上に、追加で何かを企んでいる気配。嫌な予感がさらに膨れ上がる。
「でも、これだけじゃありませんよぉ! ダストゾーンにある暗黒の祈りをゲームからドロップアウト! 直前に無効化した攻撃力分の数値を自身のモンスター1体の体力に加算します!」
「な、なんですって!?」
せっかく削ったタローマティの体力が一気に回復し、さらにはその効果でわたくしの戦力が揺さぶられる。体力が39に増えるその光景に、冷や汗が背筋を伝った。
「まだまだ終わりません! MP1を消費し、手札から威圧の闇を発動! この魔法カードの効果で、相手フィールドの全モンスターを強制的にタローマティへ攻撃させます! さぁ、存分に攻撃していただきましょうか!」
アレッサンドロの言葉とともに、ウィンドボットがタローマティを攻撃。
スキルが発動し、攻撃は半減される。それだけでは終わらず、装備されている天光のリボンの効果でアレッサンドロのMPが再び回復した。
「これで、攻撃を繰り返すたびに私のMPが回復し、タローマティの体力も磐石。どれだけ足掻いても、あなた方の勝機はありませんよ!」
わたくしは唇を噛み締めながら、次の行動を見据えた。
エアロセタスの攻撃力は十分に上がっているが、アレッサンドロの次の手を止められなければ無意味だ。
「しかし、エアロセタスの攻撃力は13! 魔法で強化した分を引いてもダメージは通ります!」
セバスが叫ぶと同時に、エアロセタスが攻撃態勢に入った。しかし──
「残念ですが、まだ終わりませんよ? 魔法カード、強襲の輪を発動! 相手のモンスター1体の攻撃力を0にし、その分の数値をタローマティの体力に加算します!」
エアロセタスの攻撃力が一瞬にしてゼロに落ち、代わりにタローマティの体力が驚異的な速度で回復。ついには52に達してしまった。
「これでおしまいですね」
アレッサンドロが勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
セバスがわたくしの方を見やりながら、冷静な声で言った。
「お嬢様、ここは耐えるしかありません……」
「……分かっていますわ」
悔しさを飲み込み、わたくしはフェイズを終了させるセバスを見守った。震える指が、セバスの思いを物語っている。そんな中、アレッサンドロが低く笑いを漏らした。
「では、私のフェイズですね。ドロー」
その瞬間、空気が凍りついたように張り詰めた。アレッサンドロの目には、勝利を確信した者の狂気が宿っている。
「ありがとうございます。あなた方が無駄に攻撃を繰り返してくださったおかげで──ついに、条件が整いました!」
その言葉に、わたくしの心臓が冷たく締め付けられるようだった。
「裏切りの業火に焼かれし誓いよ! 破滅をもたらす災厄の化身、ここに降臨せよ──レベル6、背教者の魔王トラウマティ!」
アレッサンドロの声と共に、黒いマナが空間全体を覆い尽くす。わたくしの視界を埋め尽くしたのは、タローマティとは比較にならないほどの圧倒的な存在感を持つ魔王だった。
「さぁ、遊びは終わりだ。本物の絶望を味わわせてあげましょう」