ph14 ヒョウガVSイセキ
ヒョウガくんの魔方陣が回る。どうやら先行は彼のようだ。ヒョウガくんは無言でドローすると、手札から1枚のカードを取り出した。
「俺はMP1を消費し、装備カード氷魔導銃を装備する。レベル3以上のモンスターの攻撃が成功した時、追撃で追加ダメージ1を与える」
ヒョウガくんは銃を構えた状態で相手を睨む。
「バトルだ。コキュートス、ジャックフロスト、アーマーコマンダーを攻撃」
ヒョウガくんの指示通りに、コキュートスとジャックフロストがコマンダーに向かって走り出した。
コキュートスの攻撃力は3、ジャックフロストは1、更に追撃のダメージで1ある。この攻撃が決まれば、コマンダーの体力は半分まで減らせるだろう。
『ヒョウガ選手! イセキ選手のコマンダーを集中砲火だぁあぁぁ! イセキ選手はどうする!?』
「くっ、私はMP2を消費してコマンダーのスキル防御指令発動! 攻撃対象を、自身の別のモンスターへ変える!」
スキルの効果で、ヒョウガくんのモンスターは、アーマーソルジャーを攻撃し、ソルジャーの体力が10になった。
「……俺のフェイズは終了する」
『おっと、ここは様子見かぁ!? ヒョウガ選手、MPを4残した状態でフェイズを終えたぞぉお!』
『アーマーモンスターは火力特化型が多いもの。無理して攻めずに守りを固めるのは妥当な判断ねん』
解セツオがマイクを持つ手の小指を立てながら、ウンウンと頷く。
「私のフェイズだ! ドロー!」
頭野イセキは、キビキビとした動きでドローすると、手を前に差し出した。
「私はMP2を消費してコマンダーのスキル攻撃指令を発動! このフェイズ中、自身のモンスター1体の攻撃力を2上げる! 対象はソルジャーだ! 更に装備カード戦士のナイフを装備!」
『おおおっと! イセキ選手! アーマーソルジャーの攻撃力を上げていくぅぅうう! 今のアーマーソルジャーの攻撃力は5! しかもダブルアタック持ち! これはヒョウガ選手まずいぞおおお!』
「ソルジャー! ジャックフロストに進撃しろ!」
アーマーソルジャーは、ジャックフロストに向かって突進する。ヒョウガくんはその攻撃に慌てることはなく、黙って見つめていた。
「ここでMP3を消費してソルジャーのスキル戦士の奮起発動! この攻撃の攻撃力が倍になる!!」
『上がる上がる! どんどん攻撃力を上げていくぅうぅぅ! まさかの驚異の攻撃力10! ジャックフロスト絶対絶命ぃ~!!』
ヒョウガくんは全く動じていない。私は彼がどう動くのかをじっと見つめた。
「……ジャックフロスト」
彼はジャックフロストの名を呼ぶ。
「スキル、無邪気な悪戯だ」
ヒョウガくんはMP2を消費して、ジャックフロストのスキルを発動させた。
「効果は相手モンスターの攻撃を無効にし、ダメージを1与える」
ジャックフロストが指を鳴らすと床が凍り、アーマーソルジャーは滑ってダメージを受けてしまった。
『ソルジャー無念んんんん! ジャックフロストの悪戯によって転んでしまったぁあぁぁ』
『素晴らしいわん! ソルジャーの攻撃をあえてギリギリまで待って、絶妙なタイミングでジャックちゃんのスキルを発動させたのねん! アーマーモンスターの攻撃を防ぐどころか反撃しちゃうなんて!! ワタクシ……ときめいちゃう!!』
解セツオ──もうフルネーム面倒だからセツオでいいか、セツオは身体をくねくねさせながら興奮している。
……こういうのって、普通どっちかが冷静なタイプになるんじゃないのか? 実況と解説が二人揃ってハイテンションとか収集つかないんだが?
「くっ! ならば再度攻撃だ! ソルジャー! コマンダー! ジャックフロストを攻撃!」
『イセキ選手諦めないぃい! ジャックフロストを再度攻撃するぅぅうう!』
「俺はMP1を消費して魔法カード氷の貢を発動。MPの変わりに体力を消費してモンスタースキルを発動する。俺はコキュートスの体力を3消費してスキル不義への断罪を発動! 自身のモンスターが相手モンスターから攻撃を受けた時、相手モンスターに反撃する」
攻撃を受けてジャックフロストの体力は4になってしまったが、スキルの効果で相手モンスターに3ずつダメージを与えた。
「……追撃だ」
ヒョウガくんは銃で狙いを定めると、相手モンスターを撃ち抜き、1ずつダメージを与えた。
『こ、これは凄い! 相手のフェイズなのにガンガン体力を削っていくぅうぅぅ! 容赦のない反撃だぁあぁぁ!!』
『ヒョウガくんはカウンタータイプなのねん。相手の攻撃を誘発させて返り討ちにするなんて……ワタクシ好みよん』
このマッチは完全にヒョウガくんの独擅場だった。イセキはヒョウガくんの反撃に手も足も出せない。
「ぐぬぬぬぬ。……私のフェイズは終了だ」
イセキは悔しそうに歯を食い縛りながらフェイズを終えた。
『さぁ、回って来ましたヒョウガ選手のフェイズ! イセキ選手はこのフェイズを耐え抜く事が出来るのかぁあぁ!?』
『んー? ヒョウガくんはカウンタータイプだから自分から攻めるのは難しいかもしれないわん。最初のフェイズも通常攻撃のみだったし。自発的攻撃手段が少ないかもしれないわん』
セツオの解説通り、ヒョウガくんのモンスタースキルはクロガネ先輩と同じくカウンター系が多い。次の相手のフェイズまで持ち越すのだろうか?
「……ふん。貴様のフェイズが来ることはない」
ヒョウガくんはカードを一枚ドローすると、そのカードを掲げた。
「俺は装備カード氷龍の宝玉をコキュートスに装備する。効果でコキュートスの攻撃力がプラス1される」
これでヒョウガくんのコキュートスの攻撃力が4になった。追撃で1、ジャックフロストの攻撃で1の合計6ダメージは与える事ができる。しかし、相手の手札は5枚、MPは1残っている。絶対に攻撃から身を守る手段が何かしらある筈だ。それなのに、このフェイズで決めると言うことは、彼の手札かモンスタースキルを使うことにより、勝ち筋があるということだろう。
「バトルだ。ジャックフロスト、コキュートス。アーマーコマンダーを攻撃」
「うわぁあぁああ!」
コマンダーの体力とぴったりの6ダメージが入り、コマンダーは消滅した。
「MP1を消費して魔法カード暗夜の氷礫を使用する。モンスター1体を再攻撃させる事ができる。コキュートス、止めだ」
ヒョウガくんが攻撃の指示を出すと、イセキは手札からガードを1枚出した。
「私はMP1消費して手札から緊急脱出を使用する! 相手の攻撃を避ける!」
『イセキ選手! 間一髪コキュートスの攻撃を避けたぁあぁぁ!』
『あら、これで氷魔導銃の追撃も避けれるわねん。上手いわぁ』
想定していた通り、攻撃から身を守るガードを持っていた。さて、ヒョウガくんの残りMPは3。どうするつもりなのだろうか。
「俺はMP3を消費し、コキュートスのスキル氷結封印を発動。このフェイズ中、指定した魔法カード1枚の効果を無効にする。……指定するカードは緊急脱出だ」
『あぁーっと! ヒョウガ選手! ソルジャーを逃さないぃいいぃ! コキュートスの攻撃がソルジャーに当たったぁあぁあ!!』
ヒョウガくんは銃を構えると、無表情で口を開いた。
「……終わりだ」
銃声が鳴り、弾丸がアーマーソルジャーを貫いた。
『……き、……決まったぁあぁ!! ヒョウガ選手の弾丸でアーマーソルジャーは消滅! 勝者はヒョウガ選手! そしてチームタイヨウの勝利だぁあぁぁあ!!』
わぁっと会場が沸いた。大きな電子スクリーンにヒョウガくんの顔が表示され、その後に私達チームメンバー全員の顔と、チームタイヨウWINNERという文字が映し出された。
ヒョウガくんは歓声に応える事はせず、無言でバトルフィールドから降りると、私のいる控え室に戻って来た。
「お疲れ様です。圧勝でしたね」
「当然だ」
ヒョウガくんは腕を組みながら椅子に座る。
「……1回戦は終わったのに、タイヨウくんとシロガネくんはまだ来ませんね」
「ふん、どうせ何かトラブルに巻き込まれてるのだろう。タイヨウはそういう奴だ」
なんと、ヒョウガくんはタイヨウくんのトラブルメーカーぶりをちゃんと認識していたらしい。意外だな。
「さすがに明日の本選迄には来るでしょうけど、このまま予選が終わるまで来なかったらどうします? トラブルに巻き込まれてるなら怪我してるかもしれないですし……」
「奴の安否なんぞ知らん。俺はこの大会で優勝できればいい」
ヒョウガくんは、私を睨みながら足を組んだ。
「貴様が言ったのだからな、予選ぐらい勝てると……負けたら承知せんぞ」
ヒョウガくんは、もう話すことはないと言わんばかりに目を閉じ、眠る体勢に入る。
……き、気まずい。空気がピリピリしている。ヒョウガくんと二人きりになるなんて想定していなかったから、嫌われてもいいや精神で対応していたし、今更愛想良くしても良好な関係を築くことは難しいだろう。
できれば、影法師を呼んでこの空気を緩和したいところだが、大会中は不用な争いを避けるために、実体化が禁止されてるため出来ない。
くっそ、誰でもいい……誰でもいいからこの空間から助けてくれ! ハナビちゃんなら最高だが、選手控え室には呼べないし……頼みのタイヨウくんは遅刻でいつ合流できるか分からない。
何故キッズアニメに出てくる主人公のライバルキャラは、かくも気難しい奴が多いのか……あぁ、いっその事、クロガネ先輩が一緒のチームにいたら良かったのに……先輩なら空気も読まず満面の笑みで話してくれるから、この気まずさもなくなるだろう……何故先輩は一つ上なのだろうか。
初めてクロガネ先輩が恋しく感じてしまった。