ph143 ヨハンを追いかけてーsideタイヨウー
「どわっ!? いっっってぇ……」
ヨハンを追って転移魔法陣に巻き込まれ、気がつけば、でっかい湖から冷たくて重い感じのする洞窟の中に飛ばされていた。
なんだか頭がクラクラする。俺は周りをキョロキョロと見渡しながら、ぶつけたお尻をさすりつつ立ち上がった。
「ここは……っ、ヨハン! ヨハンはどこだ!?」
一緒に転移されたはずのヨハンの姿が見えない。辺りを見回しても、暗い洞窟の中にヨハンは何処にもいなかった。
精霊界に、マナも使えない、ヨハンみたいな小さい子供が一人でいるなんて……危なすぎる! 絶対に見つけないと!!
「ヨハン! ヨハーン! 俺の声が聞こえたら返事してくれ! ヨハン!!」
自分の声が洞窟の壁から跳ね返ってくるだけで、返事はなかった。焦る気持ちが押し寄せてきて、俺は全速力で走り出した。
精霊たちが声に反応して襲ってくるけど、大地の大剣を振り回して何とか退ける。でも、どれだけ走ってもヨハンの姿は見えない。
不安がどんどん大きくなって、頭の中で嫌な考えがぐるぐると回る。
「ヨハ──」
「タイヨウくん!」
突然、誰かに腕を掴まれた。びっくりして振り返ると、そこにはシロガネとヒョウガが立っていた。
「シロガネ!? ヒョウガも!?」
「よかった……追い付いた……」
シロガネは俺の腕を掴んだまま、少し息を切らしていた。
「全く、お前は……一人で突っ走るなと、何度言えば分かるんだ」
「それはっ……けど、ヨハンが!!」
「分かっている」
ヒョウガは小さくため息をついたあと、いきなり俺に向かって銃を構えた。
えっ!? と思う間もなく、銃弾は俺の横をかすめ、俺の後ろにいた精霊に命中した。
き、気付かなかった……。
精霊は一瞬で氷漬けになって、そのままカランと音を立てて地面に転がった。
「索敵できないお前が、無策に走り回ったところで、事態を好転させることなどできない」
ヒョウガの言葉がグサリと心に刺さる。
思わず俯いていると、ヒョウガは大きくゴホンと咳をした。
「……が、ヨハンに関しては、お前と同意見だ。出口を探すついでに捜索すればいいだろう」
「ヒョウガ……!」
その言葉に、俺は少しだけホッとして、思わず顔を上げた。
「……幸い、索敵能力に長けている奴もいるしな」
ヒョウガがシロガネの方を見る。
シロガネはため息をつきながら両手を肩の位置まで上げて、ちょっとおどけたように口を開いた。
「ま、タイヨウくんが望むなら、僕もやぶさかではないよ……」
「シロガネ!!」
俺はまた、心が軽くなってシロガネの方を見た。やっぱり、頼りになる仲間がいるってだけで心強い。
「ただ、一つだけ言っておきたいことがあるんだ」
シロガネの表情が急に引き締まった。
真剣な雰囲気に、俺は不安を感じた。シロガネの目が、まっすぐ俺を見つめている。
「ヨハンくんのことだけど……あまり気を許さない方がいい」
「それって……どうしてだ?」
俺はシロガネの言葉に、何でだ? と首を傾げた。
すると、シロガネは少しためらいながら、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。
「彼のマナは微弱で、マナ使いじゃないとは思うんだけど……妙に黒かったんだよ、彼のマナ……」
「えっ」
俺は思わず驚いて声を上げた。ヨハンのマナが黒いなんて、そんなの、全く気づかなかった。
「彼のマナが生まれつきのものか、後天的なものかは分からない。けど、もし後天的なものなら……覚悟しておいた方がいい」
シロガネの言葉が重く響く。俺の心臓の音も、どんどん早くなる。
「クリス・ローズクロスによって、七大魔王に関わる何らかの実験をされているかもしれない。もしそうなら、彼の意思に関係なく力が暴走する可能性もあるんだよ。最悪の場合、僕たちに危害を加えるために利用されるかもしれない。ヨハンに関しては、もっと慎重になった方がいいだろうね」
「そんな……」
俺は何も言えなくなった。
だって、ヨハンの言ってたことが本当なら、クリスって奴はヨハンの父ちゃんなんだろ? なのに、そんなひどいことをするなんて……。
「そんなん……だって、ヨハンは家族だって……そんなこと……!」
「信じたくない気持ちは分かるよ。でも、ローズクロス家についてはアイギスでも調査しているんだ。その情報を元に考えると、完全に否定できる話じゃないんだ」
シロガネの言葉に、俺は何も言えなかった。信じたくなかった。でも……。
「そう、だな……その通りだな」
「あ……」
ヒョウガの悲しそうな顔が目に入って、俺はグッと唇を噛んだ。
ヒョウガの父ちゃんがした事を思い出すと、胸がチクチク痛む。ダビデル島のことを思い出して、俺もなんだか悲しくなった。
気まずくなる空気。もう何にも言葉が出てこなくて黙っていると、シロガネがパンっと手を叩いた。
「まあ、そういうことだよ。それに、あの子の言う通りなら、クリス・ローズクロスがここにいるかもしれないし、気を引き締めていこう。そして、ヨハンを見つけ出したらアイギスで保護しよう。サチコさんなら彼のマナを浄化できるかもしれないしね」
シロガネが空気を明るくする様に笑っていた。俺も、シロガネのその優しさに応えるために、何でもないように笑い返した。
「お、おう! そうだな! 絶対にヨハンを助けようぜ!!」
シロガネに案内されながら歩き続けて、どれくらいだ? 1時間くらい経ったか?
すると、前を歩いていたシロガネが急にピタリと止まって、俺の方を振り返った。
「……この先からヨハンの気配がする」
「本当か!? シロガネ!」
「しっ!」
思わず大きな声が出てしまう。ヨハンのことを考えたら、じっとしていられない。
だけど、シロガネはすぐに口元に人差し指を立てて、静かにしろってジェスチャーをしてきた。
「ヨハン以外にも別の気配を感じるんだ……この気配は……恐らく、マナ使いだろうね」
「!」
シロガネの言葉に、思わず心臓が跳ねた。
ヨハンだけじゃない……? 誰かがいるのか?
ヒョウガもすぐにシロガネの方を向き、冷静に尋ねた。
「クリス・ローズクロスか?」
「そこまでは分からない。けれど、このマナの強さ……ただ者じゃない」
俺たちの間でピーンと空気が張り詰めた。ごくり、と唾を飲み込んで、さらに警戒を強める。
「な、なぁ! 早く行こうぜ!」
ヨハンが心配で、体がじっとしていられない。ソワソワして足が勝手に動きそうになる。
だけど、シロガネは冷静で、俺に向かって「落ち着いて」と言いながら、一枚のカードを取り出した。
「相手がクリス・ローズクロスなら、意味ないかもしれないけど、念のためにね」
シロガネの手に持たれたカードがふわりと光を放つ。その光が俺たち3人に降りかかった。
ほんの一瞬だけ、温かい感じがした。
「これで最悪の状況は免れるだろう。ついでに二人とも、これを持っていて」
シロガネが差し出してきたのは、簡易転移魔法のカードだ。
俺はそれを受け取りながら、さっきの魔法カードについて尋ねる。
「なぁ、今何したんだ?」
「ちょっとした防御魔法さ。罠対策にね。僕が気づくくらいだ。相手が三大財閥の当主なら、もう居場所はバレていると思っておいた方がいい。何もないよりはマシだろう」
シロガネはそう言ってから、手元のサイドデッキを確認し始めた。
「二人もサイドデッキの確認をして、メインデッキとは分けて持っていて」
「……あぁ、ロックを警戒してか」
「その通りだ」
「何がその通りなんだ?」
シロガネとヒョウガが言葉を交わしているけど、俺は何の話か分からなくて思わず聞き返す。
すると、ヒョウガは俺に向き直り、サイドデッキを別の場所に変えながら言った。
「ザリチュとタルウィと対峙した時のことを覚えているか?」
「え、ああ。うん……」
「その時に、デッキが使えなくなっただろう」
俺はヒョウガに言われて、思い出す。黒い鎖みたいな魔法でデッキのカードが使えなくなった時のことを。
また、そうならないように、デッキを分けるってことか! 俺はそう納得して、「なるほど!」と頷いた。
早くヨハンを助けたい。その焦りが体を突き動かすけど、今は二人の真似をして、俺もサイドデッキの確認をする。
「終わったかい?」
「あぁ!」
シロガネがタイミングよく確認を促してきたので、元気よく返事をする。
腰のベルトからサイドデッキを外し、ズボンのポケットに入れた。落ちないように、ちゃんとポケットのチャックも閉めた。
「じゃあ、行こうか」
「おう!」
「あぁ」
シロガネが歩き出した。俺たちもすぐに後を追いかける。
心ん中はずっとソワソワして落ち着かないけど、今は焦っちゃダメだ。ヨハンを助けるために、俺たちでできる限りの準備はした。だから大丈夫だと何度も言い聞かせながら進んだ。
シロガネを追いかけるように歩いてると、急に目の前が開けた。俺は思わず足を止めて、広がる景色に目を奪われた。
ここ、洞窟の中だよな? それなのに、こんな大きな場所があるなんて信じられない。
壁がぐるっと囲んでて、天井もすごく高い。まるで、転移魔法で飛ばされちまったみたいに、ガラリと景色が変わっていた。
壁には、なんか変な文字がたくさん書いてある。
文字だけじゃなくて、絵も描かれてて、どれも古そうだ。俺、こんなの見たことないけど、絶対すごいもんだって感じる。
なんていうか……冒険映画とかで見るような、そういう感じ?
「なんだこれ……」
絵や文字は近くで見ると、なんだか動き出しそうなくらいリアルに見える。思わず手を伸ばして触りたくなったけど、触っちゃダメな気がしてやめた。
なんか、ここにあるものを壊しちゃいそうで怖かったんだ。
周りを見渡すと、ただ静かで、風の音すら聞こえない。何だか胸の奥がドキドキして、緊張で手が少し汗ばんだ。
「この場所は……」
「どうしたんだ? シロガネ」
「あ、いや……もしかしたら、この場所は僕らの目て──」
「やぁ、遅かったじゃないか」
突然、どこからか聞こえてきた知らない男の人の声。
俺はすぐに反応して、大地の大剣を構えた。シロガネもヒョウガも、それぞれの武器を手にして、周囲を警戒している。
「待ちくたびれて、帰ろうとしていたところだよ」
また、さっきと同じ声が響く。
声のする方へと顔を向けると、さっきはいなかったのに、いつの間にか白い髪の男の人が立っていた。
「歓迎するよ、晴後タイヨウくん」
「誰だ! お前!!」
俺は思わず怒鳴った。男の人は優しそうな笑みを浮かべているが、すごく嫌な感じがした。
「俺の名前はクリス・ローズクロス。ローズクロス家の当主と言ったら分かるかな?」
「お前が!?」
思わず、手に力が入る。大地の大剣を握る指先が震えた。シロガネの言葉を思い出す。
こいつが……こいつがヨハンを……。
「お前! ヨハンをどこにやった!?」
「ヨハン?……あぁ、あの失敗作か」
クリス・ローズクロスが冷たく言いながら、指をパチンと鳴らすと、何もない空間からヨハンが現れ、力なく地面に崩れ落ちた。
「うぅ……」
「ヨハン!!」
ボロボロで苦しそうなヨハンが目に入り、俺は駆け寄ろうとした。
だけど、俺とヨハンの間に、いつの間にか薄い透明な壁みたいなものが現れていて、近づけなかった。
「お前っ! ヨハンを返せ!!」
「返せだなんて酷いなぁ。僕の息子だよ?」
「うるさい! 本当に親なら、自分の子供を失敗作なんて言わない!!」
クリスは、平然とした顔で俺を見下ろしている。
「君とローズクロス家では、考え方が違うんだよ。俺の期待に応えられない。それどころか、器にもなれない出来損ないを失敗作と呼んで、何が悪い?」
器が何なのかは分からない。だけど、その言葉に胸の中が怒りで燃え上がり、大声で叫んだ。
「お前えええ!!」
大地の大剣を振りかぶり、思いっきり結界を叩きつけた。でも、剣は何の手応えもなく弾かれる。
「無駄だよ」
クリスの冷たい声がまた耳に刺さる。
「今の君じゃあ、その結界を壊すことはできない」
「くそっ! くそっ!!」
俺は何度も大剣を振り下ろしたけど、何も変わらない。悔しくて、どうしようもなかった。
「タイヨウくん、落ち着いて!」
焦りと怒りで無茶苦茶に結界を攻撃していた俺の肩に、シロガネが手を置いた。
優しいけど、しっかりとした力強さがあって、俺の頭の中が少しだけ冷えていく。
だけど、今この状況でどうやって落ち着けっていうんだ!
俺は大剣を握りしめながらシロガネを見つめたが、彼はすぐにクリス・ローズクロスに視線を向け、冷静に話し始めた。
「……ローズクロス家の御当主」
「なにかな?」
「貴方は『待ちくたびれていた』と言いましたね? 僕たちがここに来ることを、最初から知っていたのですか?」
シロガネの声は静かだけど、その質問には鋭さがあった。
クリス・ローズクロスは、まるで楽しんでいるかのような笑みを浮かべて、余裕たっぷりに応えた。
「そうだね」
なんだこの余裕ぶりは……。俺は思わず息を呑む。
こいつは本当に俺たちが来ることを知ってたのか?
「アレスに会ったんだろう? 彼の情報を元に、アイギスがここを調査に来るって予想がついたのさ」
クリス・ローズクロスは軽く肩をすくめる。その仕草にイライラが募る。
「それは……貴方が七大魔王との繋がりを認めている、と認識していいんですね?」
シロガネの言葉に、俺もピリッと緊張した。クリス・ローズクロスがどう答えるのかを待つ。
「まさか。彼は元々俺の側近だったんだよ。だから、身内の不始末を調査していただけさ」
クリスは平然と答える。だけど、その言葉には何かが隠されている気がして、俺の胸がザワザワした。
「……既に証拠がある、と言ったら?」
「どうせ状況証拠だろ? 話にならないね。三大財閥を捕まえたいなら、もっと決定的な証拠を用意しなよ」
クリスは余裕しゃくしゃくに笑いながらシロガネを睨み返す。シロガネもその視線をじっと受け止めていたけど、何も言わなかった。
俺はその張り詰めた空気に圧倒されて、息をするのさえ忘れそうになる。
「そんなことより……」
クリス・ローズクロスが、まっすぐ俺を見つめてきた。その目がじわじわと圧力をかけてくるみたいで、負けじと睨み返す。
「なるほどなるほど。だから太陽の竜は君を選んだのか」
「な、何だよ! 何の話だよ!」
太陽の竜って、アグリッドのことだよな? アグリッドが俺を選んだ理由について、何か知っているのか?
「いや、別に。ただ君のマナ、面白いなーって思っただけさ」
クリス・ローズクロスがニヤリと不気味な笑みを浮かべた。その笑みが、背中をぞくっとさせる。
「君たちも七大魔王の調査に来たんだろ? だったら、思う存分にやればいいさ。……できるのなら、ね」
そう言って、クリス・ローズクロスは一枚のカードを取り出した。カードが黒く光るのと同時に、ヨハンが苦しそうに絶叫した。
「ああああああああああ!!」
「ヨハン!? どうしたんだよ! ヨハン!!」
俺の目の前で、ヨハンの体から黒いマナがまるで噴き出すみたいに溢れ出てくる。黒いマナが俺にもはっきりと見えるほどだ。
その姿が、ハナビが黒いマナに襲われた光景を思い出させ、嫌な予感がした。
「あれはっ!? いけない!!」
シロガネが、黒いマナを見てすぐに動いた。壁みたいな結界が壊れて、シロガネは俺を守るように前に飛び出し、両腕を広げた。
「うあああああ!!」
「シロガネ!!」
黒いマナがシロガネを包み込んでいく。シロガネの顔が歪んで、苦しそうに体が揺れる。俺はすぐにシロガネに駆け寄り、その背中を支えた。
「シロガネ! 大丈夫か!?」
「くっ、僕はいい……早く、ヨハンくんを……!」
でも、こんな状態のシロガネを、ほっとけるわけがない! 一体、どうすればいいんだ……!!
「タイヨウ! また来るぞ!!」
ヒョウガの叫び声で、我に返った。すぐ目の前に、黒いマナが迫ってきている。
俺はシロガネを抱えながら、必死にその場を飛び出し、なんとか避ける。
目の前でヒョウガが冷静に銃を構え、地面に向かって引き金を引いた瞬間、氷の壁が立ち上がり、俺たちを守ってくれた。
「ヒョウガ! ありがっ……ヒョウガ!?」
お礼を言おうと振り返えると、ヒョウガの様子がおかしいことに気づく。顔が辛そうに歪んで、汗がポタポタと地面に落ちていた。
「ど、どうしたんだよ! ヒョウガ!?」
「す、まない……このマナは……ぐっ、俺には……少々きついようだ……」
「そんな……」
ヒョウガの体がどんどん弱っているのが、見て分かる。俺の中で、焦りがじわじわと広がっていく。
「お前は、平気なのか?」
「わかんねぇ……」
ヒョウガに聞かれても、俺はどう答えていいのか分からなかった。
だって、俺は苦しくもないし、何も異常を感じていない。でも……。
「このままじゃ、まずい。……一度、撤退した方が……良さ、そうだ」
「なっ!? ヨハンをこんな場所に置いていけねぇよ!!」
「だが……俺も、五金シロガネも……動けない。……あまりにも、無謀だ」
ヒョウガの言葉に、俺は言い返せなかった。無茶をしても、仲間を失うかもしれない。だけど、ここでヨハンを見捨てるなんて……そんなの、絶対に嫌だ。
「…………ヒョウガ、シロガネを頼む」
「お前っ、まさかっ!? ……っ、 やめろ! 危険だ!」
ヒョウガが必死に止めようとする。でも、俺はもう覚悟を決めていた。
「ごめん、俺……」
言葉が詰まる。だけど、今言わなきゃいけない。
「もう、後悔したくねぇんだ」
「タイヨウ! ……うぐっ!」
ヒョウガの叫び声が背中に響く。でも、俺は振り返らず、ヨハンに向かって走り出した。
黒いマナがまるで襲いかかるように近づいてくるけど、そんなの関係ない。俺はただ、ヨハンを助けたくて、ただその気持ちだけで走り続けた。
「ああああああああ!」
ヨハンはずっと叫び続けている。苦しそうで、辛そうな声が俺の胸を締め付ける。
「……ヨハン!」
俺はヨハンに向かって手を伸ばした。
クリス・ローズクロスが邪魔をしてくるかと思ったけど、いつの間にか奴の姿は消えていた。
だから、今しかない、そう思って、俺は黒いマナに包まれているヨハンを抱きしめた。
「ヨハン! 聞こえるか!? ヨハン!!」
「あああああああ!!」
ヨハンの体が嫌な音を立てて、ボコボコと変形していく。その姿を見ていると、心臓が締め付けられそうなほど苦しい。
でも、俺はもっと強く抱きしめた。少しでも、体の変形を抑えられるようにって、そう願いながら呼び掛ける。
「俺だ! タイヨウだ!!」
「うあああああああ!!」
ヨハンは休むことなく叫び続けている。洞窟の中に響き渡り、見るのも辛い。だけど!!
「……守るって、約束したもんな」
俺は目を閉じて、ヨハンに自分のマナを送る。
サチコが暴走したマナを抑えた時、センにマナを送ったって話を思い出して、それを必死に真似した。
うまくいくかどうかなんて分からない。でも、今はこれしかない。何度も何度も心の中で「救いたい」って強く思いながら、マナを送り続けた。
「絶対に、助けてみせる!!」
ヨハンの体が白く輝く。体の力がどんどん抜けていくのを感じながらも、自分の意識続く限り、限界までマナを送った。