ph142 天上世界にてーsideシロガネー
父上からの命を受け、僕たちはアイギスがあえて修復せず、管理している歪みの一つを使い、天上世界へと転移した。
今回の任務は、七大魔王の一柱である、献身の魔王タローマティに関する調査だ。
この情報は、サチコさんと渡守センがネオ北海道での任務中に掴んだものだ。
彼らは任務先で七大魔王と遭遇し、敵の隙を突いてカードの情報を盗み出すことに成功した。
そのカードを基にアイギスが解読を行った結果、タローマティの隠れ家が天上世界にあることが判明したのだ。
さらに、彼らからの追加の報告によると、タローマティはかつてダビデル島で死亡したはずのアレスの姿をしていたという。
だから、今回の任務にアレスの情報が役立つかもしれないと考え、任務に取り掛かる前に、アレスと関わりのあった氷川ヒョウケツに話を聞きに行ったのだ。
氷川ヒョウケツの話によれば、彼は精霊狩りに加入する前は、ローズクロス家に属していたという。氷川ヒョウケツが追放された後、アレスがその後任として精霊に関する研究を引き継いだらしい。
アレスはクリス・ローズクロスの側近も務めていたようで、彼が氷川ヒョウケツの考えに賛同し、精霊狩りに加わりたいと申し出た際、氷川ヒョウケツは彼を信用できず、一度は拒絶したと言っていた。
けれど、アレスの知識と技術はサタンの実体化に不可欠であったため、最終的にはやむを得ず受け入れたという。
その後も、アレスがどれほど有益な情報を提供しようと、氷川ヒョウケツは彼を完全には信用しなかったようだ。
でも、その気持ちは僕も理解できた。
なぜならば、僕も黒いマナに蝕まれ、精霊狩りの一員となっていた時、アレスと何度か話したが……正直言って、彼にはどこか不気味なものを感じた。
アレスは常に穏やかな笑顔を浮かべ、紳士的な振る舞いを欠かさなかった。礼儀正しく、言葉遣いも丁寧で、表面上は完璧な紳士だった。
けれど、その優雅な仕草の奥に、得体の知れない違和感が漂っていた。
まるで、自分の心の奥底まで見透かされているような、不気味な不安感がじわじわと広がっていくのだ。
ずっと、彼の存在そのものが、何か得体の知れないものに繋がっているような気がしてならなかった。
七大魔王がなぜアレスの姿をしていたのか、その理由は依然として謎のままだ。
けれど、タローマティに関する調査が進めば、アフリマンがアオガネ兄さんの姿を取っていた理由についても、何か手がかりが得られるかもしれない。
僕はそんな期待を抱きながら、緊張感をさらに高め、背後に視線を向けた。
「タイヨウくん、ヒョウガくん。これまでのアイギスの調査では、七大魔王の塒を突き止めても、直接対峙することはなかった。今回もその可能性は低いと言われているけど、気を抜かずに──」
「やはり心配だ!!」
僕の言葉を遮るように、ヒョウガくんが突然声を張り上げた。それに対して、タイヨウくんは焦りながらも、なんとか宥めようとしていた。
「そんなに心配しなくても、サチコなら大丈夫だって!」
「ええい! あの渡守センだぞ!? 奴のことだ、今頃、影薄をいじめているに違いない!!」
「いやいや、流石にあの状況ならそんなことしないって! だから、そんなにカリカリすんなよ、な?」
タイヨウくんは、彼を落ち着かせる為の言葉を発していたが、ヒョウガくんの苛立ちは収まる気配がなかった。
「ちょっと」
僕は吐き出したくなるため息を堪え、ヒョウガくんをじっと睨む。
「いい加減にしてくれない? 今が任務中だって分かってるよね?」
僕の言葉に、ヒョウガくんは一瞬黙り込んだ。しかし、不満げな表情を隠すことなく、今度は僕を鋭く睨み返してくる。
「っ、だが!」
彼がこれほどまでに取り乱している理由は分かっている。
ネオ北海道での任務中、黒いマナが暴走した渡守センの腕の変異を抑えるため、昨晩からサチコさんと彼が手を繋いでいることだ。
ヒョウガくんは、それがどうしても気にくわないようだった。
「彼女も問題ないって言ってただろう? 気にしすぎだよ」
僕もタイヨウくんを擁護する為にヒョウガくんに声をかけたが、彼の眉間の皺は一向に取れる気配がない。
「貴様は知らんのか!? 奴が影薄にどれほど目に余る振る舞いをしてきたのかを!!」
ヒョウガくんにそう言われ、僕は仕方なく、サチコさんと渡守センのやり取りを思い返す。
「……僕の記憶では、結構やり返してるみたいだったけど」
そもそも、あの女は一方的にやられてしまうような可愛げのある性格はしていない。心配する要素など皆無ではないか。
「何もないといいのだが……くっ、何故精霊界と人間界では連絡ができんのだ!!」
しかし、僕の応えなど最初から眼中になかったのか、僕の発言をスルーしたヒョウガくんは、拳を強く握り締め、悔しそうに呟いている。
「聞いてないし」
僕は何も言っても効かない彼に半ば呆れつつ、少し投げやりな口調で続けた。
「全く、たかが手を繋いでるだけだろ? 何をそんなに心配してるんだか……過剰反応しすぎじゃない? 見てられないね」
ついに漏れた大きなため息。しかし、ヒョウガくんには全く効果はなく、寧ろ彼の怒りを助長させただけのようだった。
「聞き捨てならんぞ! 貴様こそ、タイヨウと天眼ユカリが同様の状況だとして、同じことが言えるのか!?」
「は? そんなの……」
僕は肩をすくめ、ヒョウガくんを見ながら鼻で笑う。
「今すぐ引き剥がしに行くに決まってるじゃないか。当たり前でしょ」
「人のこと言えんではないか貴様ぁ!!」
ヒョウガくんの顔は怒りで真っ赤になり、今にも殴りかかりそうな勢いだ。
拳を震わせ、彼の怒りはまさに爆発寸前。誰が見ても、これ以上刺激するのは賢明ではないと分かる。
「お、おい! 喧嘩すんなって!」
タイヨウくんは焦りを隠せないまま、勢いよく僕たちの間に割って入った。両腕を大きく広げ、必死にその場を収めようとしている。
ヒョウガくんの拳は、今にも僕に向かって飛び出しそうだったが、タイヨウくんの絶妙なタイミングのおかげで、衝突はギリギリで回避された。
「お前ら、落ち着けよ!」
「うん、分かったよ。タイヨウくん」
タイヨウくんに言われ、自然と抜ける肩の力。まるで全てが決まったかのように、僕は無意識のうちに頷いていた。
タイヨウくんの言葉は僕にとって絶対だから、反論なんて考えたこともない。彼が言えば、それが正しいんだ。
「ヒョウガもさ、サチコが心配なら早く任務を終わらせて戻ればいいだろ? な?」
タイヨウくんは、さらに場の空気を和らげようと、ヒョウガくんに笑いかける。
「……そう、だな」
ヒョウガくんは、少しの沈黙を置いてから渋々と頷いた。
まだわずかに苛立ちが残っているものの、なんとかタイヨウくんの説得が届いたようだ。
タイヨウくんも、ヒョウガくんが納得したのを確認すると、ほっと息を吐き、安堵の表情を浮かべた。
「じゃあ、任務に集中し──」
「うわああああああ!!」
タイヨウくんの言葉を遮り、聞こえた第三者の声。
僕たちは一瞬、何が起こったのか分からず硬直したが、タイヨウくんはすぐに反応し、「あっちか!」と叫んで声の方へと駆け出した。
「タイヨウくん!?」
「あのバカ! 考えなしに突っ走るなと、何度言えば分かるのだ!!」
僕も慌ててタイヨウくんを追いかける。後ろからは、ヒョウガくんが苛立ち混じりに文句を言いながら走ってくるのが聞こえた。
タイヨウくんを追って、僕たちがたどり着いた場所は、視界いっぱいに広がる美しい湖だった。
透き通った水が静かに広がり、湖の奥では壮大な滝が勢いよく流れ落ちている。滝の水は光を反射し、まるで天から降り注ぐ神聖な光のカーテンのようだ。湖面には淡い虹がかかり、そよ風が周囲の花々を優しく揺らしている。
しかし、その美しい光景の中で、ひときわ異質な存在が目に飛び込んできた。
空中で黒い羽を大きく広げ、鋭い眼差しを放つ一人の天使が、小さな5歳ぐらいの男の子を無情に追い詰めている。
漆黒の羽からは、冷たく不吉な気配が漂い、その姿から、黒いマナに蝕まれている事は明らかだった。
「タイヨウくん!」
僕が叫んだ時、タイヨウくんはすでにその天使と対峙していた。彼は間一髪で天使の攻撃を止め、男の子を庇う様に立ちはだかっている。
「大丈夫だ!」
タイヨウくんは僕の声に応えながらも、天使と睨み合っていた。小さな男の子は、タイヨウくんの背後に隠れ、怯えた様子を見せている。
「加勢するぞ!」
ヒョウガくんは両手に拳銃を実体化させ、天使に狙いを定めた。
僕もそれに続いてレイピアを実体化させたのだが、その瞬間、天使はまるで僕たちに興味を失ったかのように、何の前触れもなく、ふわりと空へと飛び去っていった。
タイヨウくんは、天使が去ったことにほっとしたのか、安心した様子で男の子に優しく声をかける。
その横で、ヒョウガくんもまだ拳銃を持ったまま、タイヨウくんに歩み寄っていた。
なんだったんだ……あの天使は? いや、それよりも──。
天使の不自然な行動に違和感を覚えながらも、今はそれを指摘するべきではない。それよりも、優先すべきことがあると、僕はレイピアを下ろさず、静かにタイヨウくんの横に並び、男の子にゆっくりと刃を向けた。
「シロガネ!? お前、何やって……ヒョウガも!?」
驚いたタイヨウくんは、僕の行動を止める為か、慌ててヒョウガくんに視線を向ける。
しかし、ヒョウガくんも僕と同じ考えなのか、無感情に銃の照準を男の子に向けていた。
「どうしたんだよ、お前ら!?」
「タイヨウくん、今すぐその子から離れてくれ」
「な、何言って……」
タイヨウくんは混乱しながらも、男の子を守るように両手を広げた。その顔には、まだ状況を飲み込めていない戸惑いが浮かんでいる。
「とりあえず、武器は下ろせよ! コイツが怯えてんだろ!」
「妙だと思わないか?」
ヒョウガくんはタイヨウくんの言葉を無視し、冷たい視線で男の子を睨みつける。
「戦う術もなく、マナも扱えない幼子が、どうして精霊界にいる? ここは、ただの幼子が来れるような場所じゃない」
「そ、それは……歪みに巻き込まれたとか、そういうことだってあるだろ?」
「残念だけど、この周囲に歪みの気配なんて全くないよ。あったとしても、僕が感知できないほど遠くにしかないんだ。歪みに巻き込まれたと仮定しても、力を持たない、そんな小さな子供が、無傷のままここまで移動していること事態がおかしいんだよ」
僕が冷静に指摘すると、タイヨウくんは言葉に詰まったように、一瞬黙り込んだ。
「で、でもよ!」
「ごめんなさい!!」
タイヨウくんが何かを言いかけたその時、男の子が突然声を張り上げた。
小さな手でタイヨウくんの服を掴み、怯えた表情を浮かべながら僕たちを見上げている。
「お、おにいちゃんを、おこらないで……ぼ、ぼく……おとうさんをおいかけて、それで、ぼく……」
「おとうさん、だって?」
僕がその言葉を問い詰めるように繰り返すと、男の子はビクッと体を震わせ、タイヨウくんの背中にさっと隠れた。
「あの、ぼく……ぼく……」
「なぁ!」
言葉を詰まらせる男の子に対し、タイヨウくんは優しくその子の手を握り、落ち着かせるように穏やかな微笑みを浮かべた。
彼の温かい笑顔が、一瞬場の緊張を和らげたが、僕たちの警戒心はまだ解けていない。
「俺の名前は晴後タイヨウって言うんだ。お前の名前は?」
タイヨウくんがゆっくりと問いかけると、男の子はしばらく戸惑いながらも、口を開いた。
「あ、ぼく……」
男の子の視線が泳ぎ、少し俯くようにして、絞り出すように言葉を続ける。
「ぼくのなまえは……ヨハン」
「そっか、ヨハンか」
タイヨウくんが優しく名前を繰り返すと、ヨハンは少しだけ安心したように、肩の力を抜いた。
しかし、僕の視線はヨハンに向けたままだ。まだ安心できるわけがない。
僕たちの周囲を漂うわずかな違和感が、頭の片隅から離れない。
「ヨハン!」
タイヨウくんはそのまま膝をつき、目線をヨハンと合わせる。
「安心しろよ! 何があっても俺がお前を守るからさ! だから、兄ちゃんにどうやってここまで来たか教えてくれないか?」
「あ……」
男の子は再びタイヨウくんを見つめた。
彼の瞳には、まだ少し迷いが残っているようだったが、タイヨウくんの真剣な目を見返し、やがて何かを決意したかのように表情を引き締めた。そして、ゆっくりと唇を開き始めた。
「ぼく、ぼくね……おとうさん、おいかけたんだ……おとうさん、こわくなったから……さみしくて……そしたら、ここにいて……でも、おとうさんいなくて……あるいてたら、こわいのがいて……それで、ぼく……」
その言葉はぎこちなく、か細い声だったが、タイヨウくんは、彼の言葉を静かに受け止めていた。
「そっか、お前、父ちゃんを探すために一人で頑張ってたんだな!」
タイヨウくんが、にこやかに「えらいぞ!」と褒めると、男の子はふわっと柔らかい表情を浮かべた。
その笑顔は、一瞬こちらの疑念を和らげるかのようだったが、まだ油断はできない。
お父さんを追いかけてきた……それが本当だとして、この子の父親がわざわざ天上世界に来ている理由が不可解だ。何か別の目的があるのは明白だろう。一般人であれば精霊界に関わるはずがないのだから……。
「君、父親の名前は?」
僕が少し鋭く問いかけると、男の子はビクッと肩を震わせ、怯えた様子でタイヨウくんにしがみついた。
けれど、そのまま逃げ隠れることはせず、しっかりと口を開いた。
「ぼくのおとうさんのなまえは、クリス……クリス・ローズクロスだよ」
その名が発せられた瞬間、周囲の空気が一変する。
ほんの少しだけ和らぎかけていた緊張が、再び鋭く引き締まるのを感じた。
クリス・ローズクロスだって!? この子があのローズクロス家の当主の息子だというのか!? 奴に子供がいるなんて話は聞いたことがないし、ありえない筈だ。
だが、もしこれが事実なら、放っておける話ではないと、状況が一気に深刻さを増していく。
「なぁ……お前の父ちゃん、なんでここに来たんだ?」
タイヨウくんは優しく問いかけながら、ヨハンの目をしっかりと見つめた。ヨハンは少しだけ俯いて考え込むような仕草を見せたが、すぐには答えなかった。
暫く沈黙が続いたが、タイヨウくんはヨハンを急かす事はなく、彼が自分から話すのを待つように、その場でじっとしていた。
「……わかんない」
ヨハンがか細い声で答えると、タイヨウくんはゆっくりと頷き、彼の肩に軽く手を置いた。
「でも、おとうさんよくいってた……ふのれんさをとめるって……」
その言葉に、タイヨウくんの表情が一瞬固まった。何か聞き覚えのない言葉に疑問を抱いたのか、彼は困惑した様子で眉をひそめた。
「ふのれんさ? って、なんだ?」
「わかんない……」
その返答に、タイヨウくんは少し考え込むように視線を落とした。
ヨハンが言った「ふのれんさ」という言葉。これは「負の連鎖」を意味しているのか?
まだ幼い彼がその意味を深く理解しているとは思えないが、その言葉が放つ不穏な響きが僕の頭にこびりつく。何か危険なものを暗示しているようで、心の奥で警鐘が鳴っているような感覚だ。
しかし、タイヨウくんはそれ以上問い詰めることはせず、ヨハンをじっと見つめる。目の前の小さな子を、これ以上怯えさせない為か、次にどう言葉を紡ぐべきかを静かに探っているようだった。
「なるほど、そういうことか……」
すると、ヒョウガくんがためらうことなく実体化させていた武器を消し、警戒を解いた。僕はその軽率な行動に、咎めるような視線を向ける。
「決断が早すぎないかい?」
僕が少し鋭く問いかけると、ヒョウガくんは淡々と答えた。
「クリス・ローズクロスのことだ。天上世界に来るための転移魔法陣くらい持っていても不思議じゃない。何より……」
そこでヒョウガくんは一瞬言葉を切り、少しだけ視線を落とした。
「変わってしまった父親を止めたい……その気持ちは、よく分かる」
その声には、普段の冷静さに隠された複雑な感情がにじみ出ていた。
彼はそれ以上は何も言わなかったが、その一言だけで、彼の心情を察することはできた。
彼の父親である氷川ヒョウケツもかつて道を踏み外し、それを止めるためにヒョウガくんが必死になっていた姿を知っているから……彼がヨハンの境遇に共感を示し、警戒を解いてもおかしくはなかった。
僕はそれを理解しつつも、すぐに気を引き締めた。
ヒョウガくんが過去の自分と重ねてしまう気持ちも分からなくはないが、それだけではまだ何かが引っかかるのだ。
ローズクロス家に関係がある以上、ヨハンを放置するわけにはいかない。しかし、少年の話が事実だとすれば、クリス・ローズクロスが天上世界にいることになる。奴の動向も無視できない。
「ヨハン、お前の事情は分かったぜ! もう大丈夫だ! お前の父ちゃんは俺が探す! そんで、絶対に見つけてみせるから!」
タイヨウくんが力強く声をかけると、男の子は一瞬驚いたように彼を見つめたが、その目には少しずつ安心感が戻ってきているのが見て取れた。
僕は心の中で葛藤しながらも、決断を下した。
ヨハンの存在は怪しいが、クリス・ローズクロスの動向も無視するわけにはいかない。どちらも厄介な問題だが、まずはヨハンを監視しつつ、状況を見極める必要がある。
「……タイヨウくん」
「どうした? シロガネ」
「とりあえず、父親を探すにしても、彼を連れていくわけにはいかないだろ? だから、ヨハンをアイギスで保護するために連絡してもいいかな?」
「それもそうだな! ありがとう! 助かるぜ、シロガネ!」
そう言いながら、僕は魔法カードを取り出し、輝翼の伝令を実体化させた。
これが父上の元まで届けば、父上も僕らの事情を察し、応援を送ってくれるだろう。
これで少しは安心できると、光輝く小鳥が軽やかに空中を舞い、遠くに飛んでいく姿を見送る。すると、急にヨハンが頭を抱えながら膝をついた。
「ヨハン? どうしたんだ?」
「おとうさんが……おとうさんが、よんでる!」
「おい!」
タイヨウくんが止める間もなく、ヨハンは勢いよく駆け出した。そして、その足元で何らかの魔方陣が発動しているのが見えた。
「ヨハン! 待てよ!」
タイヨウくんが必死に声をかけるが、ヨハンはすでに魔方陣の中にいる。僕たちは一瞬迷ったが、彼を追うしかないと、タイヨウくんとヒョウガくんが同時に駆け出し、僕もすぐに続いた。
魔方陣の中に入ると、強烈な光が僕たちを包み込み、空間が歪む感覚に襲われる。
──この反応は、転移魔方陣か!!
「みんな! これは転移魔……くっ!」
この魔方陣が何であるかが分かり、皆に注意喚起をしようとしたが、時既に遅し。
僕の言葉が言い終わる前に、僕たちの体は光の中に飲み込まれ、どこかへと飛ばされてしまった。