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ph12 SSC開催

 特に待ちに待ってもいない大会当日。


 人でごった返す会場でマイクを持った1人の男の声が反響する。


『おまえらぁああ! サモンマッチは好きかあぁああ!』


 男の呼び掛けに、会場は叫んで答える。


『熱い魂がぶつかり合うマッチが見たいかぁあぁああ!!』


 会場は更に盛り上りを見せる。


『なら長い前置きはいらねぇなあ!! サマナーソウル杯ここに開催だぁあぁぁあ』


 やけにハイテンションな男の言葉に、会場全体が熱狂した。


『さぁ! やって参りましたよぉ! ご来場の皆様お待ちかねの通称SSCことサマナァアァァソォォオォウルはぁあい! ネオ東京サモンアリーナにて本日の解説を勤めさせて頂きますはワタクシ(かい)セツオでござぁあぁまあ~す!!』

『そしてこの俺が実況の蟻乃(ありの)ママヲだぁ!!』


 二人の男がキメポーズを行うと、爆発が起こり、会場のど真ん中に大きな電子スクリーンが現れ、トーナメントの映像を映しだした。


『それじゃあ1回戦に出場するチームを紹介するぜ! その統率力はなんなのか!? 小学生とは思えないカリスマをもつコマンダー!! チィイィィイムアーミィイィィ!!』


 軍服の格好をした四人組の男の子の姿が、会場の大画面に映る。


『それに対するはぁああ!! 僕らは仲良し四人組! 友情パワーで世界を照らす! チィイィィイムタイヨォオォオウ』


 ふざけた口上で実況の蟻乃ママヲが私達のチーム名を読み上げると、私達の姿が大画面に映された。


『それでは最初の選手はバトルフィールドに移動してくれ! 他の選手は控え室へGO! GO! GOだ!!』


 呼ばれたなら仕方がないと私は嫌々ながらバトルフィールドの上に立つ。


『チームアーミーの先鋒は、先駆けなら俺に任せろ! チームを率いる鉄砲玉! 前進(ぜんしん)ススムだぁ!』


 前進ススムは、会場に小学生ならぬ肉体美をアピールするようにマッスルポーズを決めている。


『チームタイヨウはぁ! なぁんとクールな知的美少女!? その細腕で大丈夫なのか? 影薄サチコぉ!!』


 私は心を無にし、特に何もせず腕輪を構えた。


『それじゃあお互いのモンスターを召喚してくれ!』


「コーリング。影法師、影鰐」

「我らの栄光ある進軍にコーリング! アーマーソルジャー! アーマースナイパーズ!!」


 前進ススムは、レベル3のアーマーソルジャーと、レベル1のアーマースナイパーを2体繰り出した。


『それじゃあご来場の皆様ご一緒にぃ!!』


『レッツサモン!!』


 こうして、大会でのマッチが始まったのである。







 ふざけるな!!


 私は補欠ではなかったのか!? 何故初っぱなからマッチするはめになっているんだ!!


 いや、理由は分かっている。私が出なければならなくなった理由。それは──




 タイヨウくんの遅刻である。



 くそっ! 失敗した! 大会初日で主人公が寝坊して遅刻するテンプレ展開を何故予想出来なかったのだと、過去の自分を呪う。


 遡ること1時間前、会場に着いた私はヒョウガくんとシロガネくんの二人と合流し、タイヨウくんの到着を待っていた。しかし待てど暮らせどタイヨウくんはやって来ない。


 大会開始予定時刻も迫り、タイヨウくんに連絡しようとも、誰もタイヨウくんの電話番号を知らなかった。完全に詰んでいる。


 何で誰も知らないんだよ! せめてシロガネくんは知っとけよ! あんだけタイヨウくん大好きな癖に! 着拒でもされてんのか!! ……気持ちは分かるな、私もたまに先輩を着拒したくなるしな。


 先に受付は済ませておいて良かったと安堵していると、開始時刻3分前にして、私のスマホにハナビちゃんから連絡があった。


「サチコちゃんごめんね! 今大丈夫!?」

「全然大丈夫だけど、どうしたの?」

「今日SSCでしょう? でもタイヨウくん今起きたみたいで、さっき私に連絡がきたの……すぐに会場に行くように言ったんだけど、初戦には間に合いそうにないからサチコちゃんに連絡したの」

「……あー、なるほどね。分かった」


 本当にごめんね。と謝るハナビちゃんに、気にしないで連絡ありがとうとお礼を言って電話を切る。そして、此方の様子を伺っていた二人に真顔で振り向き、持っていたスマホをヒラヒラと動かした。


「……だ、そうですよ」

「~っ! あのバカが」


 ヒョウガくんは苛立ちのまま舌打ちし、シロガネくんはやれやれと肩をすくめていた。


「取りあえず、初戦は私達3人で乗り切るとして、順番はどうします?」

「ふん、ならば大将は俺──」

「僕だね」


 ヒョウガくんの台詞に、シロガネくんが被せるように割り込んだ。


「この中で一番強いのは僕だ。大将になるのは必然だろう?」

「なんだと貴様!」


 め、めんどくせぇコイツ等……。というか、そもそも私は数合わせだろ。お前らが大将になったら、私がマッチするはめになるだろうが。普通に考えて私が大将だろ。


「……1番強い人より私が大将になった方がいいのでは? それで貴方達が2勝すれば問題ないでしょう。私、元々補欠でしたし」


 これで丸く収まるだろうと提案したが、何故か2人は不満そうな顔をしている。


「ふん、何故俺が貴様の下に付かねばならん」

「仮だとしても、君より弱いと思われるのは嫌だね。それなら一つぐらい黒星になった方がいいさ」


 コイツら!! ……くだらない事で結託しやがって……。というか、タイヨウくんならいいのかよ。なんだ、ヒョウガくん実は君もタイヨウくん大好きか。このタイヨウくん信者共め……。


「……じゃあ、どうするんですか」

「コイツが大将を諦めればすむ話だ」

「そっくりそのままお返しするよ」


 また火花を散らし始めた二人に、このままだといたちごっこになると確信した私は、賞金の為に自分が折れる事にした。


「……分かりました。先鋒は私がします。ですが!! ……私のマッチが終わるまでに話をつけて下さい。このまま言い争いになって不戦敗なんて笑い話は勘弁してくださいよ」


 くれぐれも私の足を引っ張らないで下さい。と、前に二人に言われた言葉を浴びせる。すると、ぐうの音も出ないのか、二人とも口をつぐんだ。








 そうして冒頭に至るわけである。


 私は思い切りため息をつき、こうなってしまったものは仕方がないとマッチに集中することにした。


「俺のフェイズだ! ドロー!」


 前進ススムはキレのある動作でカードを引いた。


「俺は手札から装備カード戦士のナイフをアーマーソルジャーに装備! 攻撃力が1プラスされる!」

『ススム選手のアーマーソルジャーの攻撃力が3になったぁ! アーマーソルジャーはダブルアタック持ち! そしてスナイパーの攻撃力は1。単純計算でこのフェイズ防がないと8ダメージを受けてしまうぞぉ! サチコ選手はどう出る!!』


 う、うるさっ……。こんな大きな大会なんて出たことなかったから知らなかったが、実況ってこんな感じなのか? ……後で売店行って耳栓買おう。鼓膜が破れそうだ。


「更にMP3を消費して魔法カード鼓舞させる軍歌を発動! 俺のフィールド上のモンスターの攻撃力をこのターンの間プラス1する! バトルだ! アーマーソルジャー!影法師を攻撃!」

『なぁあぁんとススム選手! 更に攻撃力を上げる! このフェイズで与えられる攻撃力の合計値は11! サチコ選手ピンチかぁぁあぁ!』


 実況は興奮しているのか、マイクに唾を飛ばしながら叫ぶ。私は冷静に影法師と目配せをした。


「MP2を消費して影法師のスキル影縫い発動。アーマーソルジャーの攻撃を不能にする」

「ウヒヒ! させないよ!」


 影法師はソルジャーの影の中に潜り込み、動きを封じた。


「くそっ」

『サチコ選手! アーマーソルジャーの攻撃を防いだぁ!』

『これは上手いわぁ~! アーマースナイパーのスキルはレベル2以上の味方が攻撃すると追撃するのよぉ。たった一手で相手の動きを封じるなんてサチコちゃん凄いわぁん!』

「ならば! スナイパーよ! 影法師を集中砲火だ!!」


 影法師がスナイパーの攻撃を受け、残り体力が6になる。


「俺のフェイズは終了だ!!」


 前進ススムはMPを2残したままフェイズを終了させた。ならば、あの手札の中には十中八九此方の攻撃を阻害する魔法カードがあるだろう。ならば……。


 私は無言でカードをドローし、手札を確認する。


 ……運が良いみたいだ。これなら一気に攻められる。


「私はMP3を消費し、魂狩りを装備。そして魂狩りの効果を発動。相手のMPを2奪う」

「何っ!」


『サチコ選手! ススム選手のMPを奪い、相手の行動を制限していくぅうぅ! ススム選手のMPは0! これは不味いかぁ!?』


 これで相手は、魔法カードもモンスタースキルも使えない。このフェイズで畳み掛けよう。


「私は装備カード、闇の角を影鰐に装備。攻撃力が1プラスされる。そして、MP1消費して冥界の衣を装備する。更に、MP3を消費して、影鰐のスキル影喰らいを発動。この攻撃が全体攻撃になる。バトル。影鰐、相手モンスターを攻撃」

『おおっと! サチコ選手1フェイズ目から攻める! ススム選手はなす術もなく攻撃を食らうぅうぅ!』

「ぐぅ!」


 これで私のMPは3回復して4になった。相手のあの様子だと、守るカードはない。……これはいけるのでは?


「私はMP1を消費して影舞を発動! 影鰐を再攻撃させる! 更にMP3消費して影喰らいも発動! 影鰐! もう一度攻撃!」

『ななななぁぁんと! サチコ選手の攻撃が止まらないぃいぃぃ! 今度はススム選手がピンチだぁあぁ!』


 私のMPは3。手札は2枚。そして、影法師の攻撃が1回残っている。


「影法師! アーマーナイトを攻撃!」

『ススム選手! サチコ選手の猛攻を残り8で耐えたぁあぁ! だが後がないぞどうする!』


 実況はもう私のフェイズが終わったかの如く説明している。前進ススムも自分のフェイズだとドローしようとしていた。


「まだ私のフェイズ中ですよ」

『え』


 私の言葉に、実況は驚いたように目を丸くし、前進ススムもドローしようとした手を止めた。


「私はMP1を消費して魔法カード影舞を発動! 対象は影法師! そしてMP3を消費して冥界の闇営業発動! このフェイズの戦闘中に回復したMPの数値分、攻撃力を加算する!」


 私は影鰐で6、影法師で1回復している。影法師の攻撃力はこの瞬間8になった。


「バトル。影法師、アーマーソルジャーに攻撃」

「う、うわぁあぁぁあぁあ!!」


 アーマーソルジャーの体力は0になり、前進ススムの体は吹っ飛ばされた。


 会場がしんと静まり返るが、すぐににわぁっと歓声が上がり、会場全体が沸いた。


『ま、まさかのワンフェイズキルぅうぅぅ! サチコ選手! ススム選手を圧倒し、華麗に勝利ぃいぃぃ!!』


 会場の歓声をBGMに、私の出番は終わったと後ろを振り返った。そして、ゆっくりとチームメイトの元へと向かう。


 まさか私が勝つとは思ってなかったのだろう。二人は呆然と口を開けて此方を見たまま動かない。


 私は真顔で二人の顔を見比べると、個人的に重要な質問を問いかけた。


「それで、話し合いは終わりましたか?」


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