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どうやら世界の命運はカードゲームが握っているらしい  作者: てしモシカ
第1章 アイギス編

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ph123 攫われたハナビ

「ハナビが……攫われ、た?」


 タイヨウくんの体が、フラリと揺れる。


「そんな……速く、速く助けに行かねぇと!!」

「待ってくれ、タイヨウくん!」


 今にも飛び出しそうなタイヨウくんを、シロガネくんが羽交い締めで止める。


「離してくれ! 速く行かねぇとハナビが、ハナビが!!」

「分かってる! 分かってるから!! 今は落ち着いて!」

「シロガネ!!」

「闇雲に走り回っても時間を無駄に浪費するだけだ!」

「っ!!」


 タイヨウくんの動きが止まる。唇を噛み締めながらシロガネくんを見た。


「大丈夫だから、僕を信じて。ハナビちゃんは絶対に助けてみせる」


 激しく葛藤しているのだろう。タイヨウくんの顔が悔しそうに歪む。そのまま俯き、小さな声で分かったと呟いた。


 強張っていた体が生気を失ったかの如く脱力する。


 シロガネくんが離れても、タイヨウくんは動かなかった。無言で地面を見つめ、じっとしている。


 何とか理解してくれたようだと安堵する。けれど、心は納得していないのだろう。そんな彼の心情を表すように、彼の拳は血の気がなくなる程強く握られ、見ているだけで痛々しかった。


 彼のメンタル面は心配だが、一応は落ち着いたようだし、私は私に出来ることをしなければとアゲハちゃんに注意を戻した。


 狼狽えている彼女を落ち着かせ、情報を得る為に詳細を聞き出す。


 アゲハちゃんの話を要約すると、下校途中に毛むくじゃらの猿のような精霊が倒れていたそうだ。


 ハナビちゃんは苦しそうに助けを求める精霊に駆け寄り、傷の手当てをしようしゃがみ込んだ瞬間に精霊に抱えられ、何処かに連れ攫われてしまったらしい。それで、どうしたらいいか分からず、すぐに私に電話したそうだ。


 私はアゲハちゃんに連絡してくれてありがとうと、ハナビちゃんは絶対に助けるから安心してと言ってから通話を切った。


「ハナビちゃんが連れ攫われたのは、スピリット学園を出て直ぐのこの地点です」


 私はMD(マッチデバイス)でマップアプリを起動させ、アゲハちゃんから聞いた位置を示す。


「精霊は猿のような見た目で、手負いのようです」

「手負いだと? ならばその精霊、俺達が追っていた精霊と同個体の可能性が高い」


 妙に確信に満ちた声。予想はしていたが、ハナビちゃんを攫った精霊は、先ほどまで話していた事件の精霊のようだった。


 ヒョウガくんと渡守くんは、件の精霊と戦闘を行い、かなりダメージを与えていたようで、見た目の一致から同個体と判断したようだ。


「手負いならば、人間1人抱えての長距離移動は不可能だろう。どこかで体を休めている筈だ」

「アゲハちゃんの話から、攫われてからそんなに時間は経っていないようですし、隠れられる場所も限られています」

「だったら、スピリット学園を中心に、手分けして捜索した方がいいね。チームは……索敵が出来る僕、サチコさん、天眼ユカリの3チームに分かれようか。精霊のマナは消されていても、ハナビちゃんのマナなら近くにいれば僕でも分かる」


 3チームか……問題は組み合わせになるな。


 私とシロガネくんは、ハナビちゃんと交友があるが、ユカリちゃんは全くない。


 痕跡なら、タイヨウくんの身につけているハナビちゃんお手製のミサンガから追う事は出来る。しかし、誘拐された恐怖心でいっぱいになっているだろうハナビちゃんに対し、面識のない人物が迎えに来たら不信感を抱かれる恐れがある。


 ユカリちゃんとチームを組ませるとしたら、タイヨウくんかヒョウガくんの二択になる。


「ユカリちゃん」

「なにー?」

「精霊の属性を聞いても良い?」

「いいよー! 炎とぉ大地とぉ神だよー!」


 炎と大地と神、ね。タイヨウくんと属性が2つも被っている。


 タイヨウくんのデッキは攻守バランスのいいデッキだから誰とでも合わせられるし、属性も被っているならタッグマッチになってもお互いのサポートができる。デッキ相性はかなり良さそうだ。


 後はユカリちゃんのタイヨウくんに対する印象だと、タイヨウくんの事をどう思っているかを聞く。


「んー、まぁ……そこそこ気に入ってるよぉ」


 タイヨウくん強いしと、思ったよりも良い反応が反ってきた。これならば、タイヨウくんとユカリちゃんが組むのは確定でいいだろう。


 後は私とシロガネくんがどっちと組むかだが……個人的には、渡守くんよりもヒョウガくんの方がいい。


 別に渡守くんの事が嫌いという訳ではないが、変に捻くれて反発してくるから対応が面倒な時がある。


 私事なら気にしないが、任務なら素直に意見を言い合えて、無駄なトラブルを起こさないヒョウガくんと組みたい。


 けれど、シロガネくんと渡守くんのコンビなんて心配する要素しかない。ヒョウガくんとは別ベクトルで性格の相性が絶望的だろう。


 そもそも、ヒョウガくんのデッキは相手の攻撃を誘発してダメージを与えるカウンターデッキだ。影法師とのスキル相性は最悪と言っていい。


 正直、選択肢は合ってないようなものだった。


「……チーム分けはタイヨウくんと天眼ユカリ、僕とヒョウガくん、サチコさんと渡守センでいこう」


 シロガネくんが発表した組み合わせに、分かっていたがやっぱそうなるよねと肩を落とす。


 ヒョウガくん、ユカリちゃん、渡守くんも組み合わせに納得が行かないのか、不満の声を上げていた。


 しかし、シロガネくんは異論は認めないと全ての意見をシャットアウトする。


「僕だって、出来る事ならタイヨウくんと組みたいさ。けど、今は時間はない。合理的に判断した結果だ。文句は受け付けないよ」


 感情論による意見は却下だと言いながら目を細めたシロガネくんは、全員の視線を私が起動したままのマップアプリの方へと誘導する。


「スピリット学園を中心に北を12時として、タイヨウくんたちは10時の方向から2時の方向までを、サチコさん達は2時から6時の方向を調べてくれ、僕達は6時から10時の方向を調べるよ」


 シロガネくんが索敵範囲を指差しながら説明し終えると、タイヨウくんは我慢の限界なのかもういいか? と急かすように尋ねる。


「うん。精霊を見つけたらMD(マッチデバイス)で連絡を──」

「アグリッド! 行くぞ!」


 タイヨウくんはシロガネくんが言い終わる前にアグリッドを実体化させ、成竜の姿に変える。


 ユカリちゃんが待ってよと呼びかけるが、タイヨウくんはアグリッドの背に飛び乗り、会議室の窓から飛び立った。


「だから僕を置いて行かないでってば! ヒッポウ!」


 ユカリちゃんもタイヨウくんを追いかけるように窓から飛び出し、落下しながら炎を纏った白い鳥を実体化させて背に乗った。


「サチコちゃん! 先に行くねぇ!」


 私に向かって大きく手を振りながら、器用にモンスターを操作してタイヨウくんの後ろを追尾する。


 私も渡守くんにおいと呼びかけられ、フレースヴェルグを実体化させて待っている渡守くんの方へ足を向けると、ヒョウガくんに手首を掴まれた。


「影薄」

「ヒョウガくん?」


 どうしたのだろうと首を傾げる。ヒョウガくんは言い淀むように口を開いては閉じるを数回繰り返し、小さな声で呟いた。


「……気を、つけろよ」

「えぇ、ヒョウガくんも」


 ヒョウガくんの力が抜け、解放された腕。


 どうやらヒョウガくんの心配性が発動したようだった。これは怪我して帰れないなと気を引き締め、渡守くんの手を借りながらフレースヴェルグの背に乗った。















「渡守くん、寝てないで君も手伝って下さい」

「俺ァ無駄な事はしねェ主義だ」


 適材適所だと、あくびをしながら至極どうでも良さそうに寝転ぶ渡守くんの姿に協力は諦め、ハナビちゃんのマナの気配を探すことに集中した。


 ハナビちゃんはマナ使いでも加護持ちでもない。そんな彼女のマナの気配は微弱で掴みづらく、フレースヴェルグに怪し気な場所に近寄ってもらっては必死に気配を探った。


「ハナビちゃん……」


 探しても探しても見つからない。時間だけが経過し、焦りから集中が途切れそうになる。


 彼女は何処にいるのだろうか? かなりの範囲を探したのに、何処にもいない。


 本当にこの付近に潜伏しているのだろうか? もしも予想が外れていたとしたら彼女は今頃──っ!


 私は大きく息を吐き、嫌な考えも一緒に吐き出す。


 余計な事を考えるな、探す事に集中しろ。


 焦っていてもハナビちゃんは見つからないんだ。一刻も早く彼女を見つける。それが今の私に出来る事、彼女を助ける為にしなければいけない事だ。


 周辺の建物を探しても見つからない。シロガネくん達からも連絡はない。周辺の建物には潜伏していないのか? だったら、索敵範囲を広げるか?


 いや、相手は手負いだ。ヒョウガくんの言う通り、遠くには行けない筈。ならば近場で地上からは索敵しづらい場所で思い付くのは──っ!


 私がMD(マッチデバイス)に触れようとした瞬間にコール音が鳴る。ユカリちゃんからの着信だった。私は直ぐに着信に出ながら操作を続ける。


「サチコちゃん! ハナビちゃんのマナを見つけたよ! 場所は──」


 私はユカリちゃんの声を聞きながら、MD(マッチデバイス)の画面を開いてマップアプリを起動させた。


 ユカリちゃんの索敵範囲にある場所で一番目ぼしい場所を指をさし、フレースヴェルグに向かうようにお願いした。


 猿のような精霊という事は、空を飛ぶことは出来ないだろう。上空にも行けず、地上から探しづらい近い場所は一つしか思い当たらなかった。


「ネオ東京地下神殿!」


 やはり地下だったか。


 下水道じゃなくて良かったと思いつつも、スピリット学園から一番近い外郭放水路の入り口へと向かった。









 本来ならば、勝手に入る事は出来ない外郭放水路こと地下神殿。


 しかし、シロガネくんがアイギスを通して連絡していたためか、すんなりと中に入る事ができた。


 足を踏み入れた地下神殿の中は、見上げるほど大きな柱が何本も建てられており、無機物であるはずなのに、柱の1本1本から近寄りがたいような威厳のあるオーラを感じる。


 この大きな地下のダムがネオ東京を洪水の危機から守っているのかと圧倒されつつも、先に入ったというタイヨウくん達と合流する為、ぬかるんでいる地面に注意しながら渡守くんと一緒に奥へと進んで行った。


 微弱だったハナビちゃんのマナの気配がどんどん強くなる。タイヨウくん達のマナもハッキリと感じた。


 ハナビちゃんがこの先にいる確信を得た私は、だんだんと早くなる足をそのままに歩いた。


「止まれ」


 渡守くんの言葉に足を止め、隣を見る。


「渡守くん?」

「それ以上進むな」


 渡守くんは人差し指を内側に曲げ、無言でこっちに来いと合図を送られたので素直に寄る。


「どうかしたんですか?」

「アレを見ろ」


 渡守くんが顎をクイっと動かして差した方向を見ると、柱の雰囲気に似つかわしくない像形文字のような物が刻まれていた。


「ありゃ結界の一種だ。越えたら気付かれんぞ」

「件の精霊にですか?」

「だったらいィんだがな」


 渡守くんは、自身の頭をガシガシと乱暴に掻きながら面倒臭そうに口を開く。


「カードに情報は刻めなかったが、あの精霊にンな知能はねェ事ぐれェは分かる……もっと高位の精霊か、マナ使いが絡んでる可能性があんぞ」

「……だとしたら、目的は何なのでしょうか?」

「さァな……でもまァ、あの精霊を捕まえてはい終わりっつゥ事にはならなそォだ」


 周囲への警戒を強め、不審なマナの気配を探る。しかし、精霊のスキルによるものなのか、見知ったマナ以外は感じなかった。


「シロガネくん達も気づいているでしょうか?」

「そォ願いたいね……どっちにしろ俺達だけでも警戒しとくに越したことはねェだろ」


 デッキから1枚のカードを取り出した渡守くんは、私の方を見た。


「テメェ、隠密系のカードは持ってんのか?」

「隠密、系? ……それは、つまり……どういう効果のカードですかね?」

「あ゛あ゛!?」


 何でそれくらいの事も分からないんだと渡守くんにキレられるが、当然のように実際にカードの魔法を使用した効果を言わないで欲しい。


 連想ゲームは苦手なんだ。効果を聞く時は、マッチにおける具体的なカードの効果の方を言ってくれ、頼むから。


「チィッ……相手の魔法カードの対象にならない効果のカードはねェのかって聞いてんだよ!」

「あぁ、それならあります」


 私は隠遁の魔法カードをデッキから取り出す。


「これで良いですか?」

「十分だ。さっさと使え」


 私がカードにマナを込めていると、渡守くんは既に魔法カードを使用したのか、此方に見向きもせずに歩き始めていた。


 私は一人置いていかれないように、待ってよと呼びかけながら急いで彼の後を追った。









「ハナビを何処にやった!!」


 タイヨウくんの声が聞こえ、反射的に柱の影に隠れる。渡守くんも同様に身を潜め、様子を伺っていた。


 タイヨウくん達は、猿の見た目をした精霊と対峙していた。


 アゲハちゃんから聞いた精霊の見た目と合致しているし、アレがハナビちゃんを攫った精霊で間違いないだろう。私と渡守くんは、第三者の存在を警戒して、このまま見守る事にした。


「ハナビを返せ!」

「うるせなだやぁ!!」


 猿の精霊は威嚇するように両腕を振り回し、大声を上げる。


「あの娘っ子はおらのモンだぁ! 誰さも渡さねだぁ!」

「はぁ!? 何言ってんだお前! いいから返せ!!」


 うわ……タイヨウくん、かなりキレてるな。言葉のトゲがすごいぞ。


「おらあの子の精霊さなるだぁ! 誰さも邪魔させねでば!!」

「ふざけんな! ハナビがお前なんかの加護を受けるか!」


 1人と1匹の間で火花が散る。


 タイヨウくんの興奮具合から一旦止めた方が良くないか? 誰か止めないのか?と周囲を見渡すと、ヒョウガくんは精霊の情報を取るのに集中し、ユカリちゃんは傍観を決め込んでいた。


 私が出て行った方が良いのだろうかと一歩踏み出しかけたところで、シロガネくんがタイヨウくんの肩に手を置いた。


「落ち着いて、タイヨウくん」

「でもよ!」

「ねぇ、君。何の目的があって人間に加護を与えたいの?」


 シロガネくんは、タイヨウくんの肩に手を置いたまま続ける。


「色んな人間に声を掛けていたと言う事は、ハナビちゃんにこだわっている訳ではないんだろう? 君は加護を与えるなら誰でも良かったんだ。真の目的は……人間に加護を与える事によって得られる利益。例えば……人間界にいられること、とかかな?」


 猿の精霊は隠し事が苦手なのだろう。シロガネくんの言葉が図星だったのか、大量の汗を掻きながら視線を彷徨わせていた。


「何らかの事情があって精霊界にいられなくなったんだろう? たまにいるんだよね、そういう精霊が。仲間内で迫害を受けたとかなんだって人間界に逃げてくる奴が──」

「違う! オメのすぃう通り、おら精霊界さいられなくなたがら人間界さ来た。でも、迫害されたでらでね。黒いマナの奴らのせいで精霊界さ住めなくなたなだ!」


 黒いマナだって? あの精霊が人間界に来たのは黒いマナを持つ何かのせいだったのか……しかも精霊は奴らと言っている。


 つまり、黒いマナを持つ何かは複数体いる事になる。


「好きで人間界さ来たんでね! 黒いマナの奴らのせいでみんな散り散りになた、生きてるかも分がらね! 黒いマナのせいで森さ住めなくなた! 人間界さ来るしかねけなだ!! でも、人間界さいるさだば人間のパートナーがいる。ださげおらパートナーどご探してたなだ。人間界さ住むためさ、おらと一緒さ居てくれるパートナーが欲しけなだ」


 精霊の訛りが酷すぎて聞き取りづらかったが、多分、精霊界に居られなくなったから人間界にいる為に人間のパートナーが欲しいと言っているようだった。


 精霊の事情を知り、その境遇に同情したのか、タイヨウくんの怒りはすっかり収まり、成り行きを見守っている。


「……分かった。そういった精霊を保護するのもアイギスの役目だ。君の安全は保証しよう。だからハナビちゃんを返してくれないか?」


 精霊は口を紡ぎ、何とも言えない表情でシロガネくんを見る。


「どうしても誰かのパートナーになりたいのなら、アイギスの隊員で君のマナと見合った人間を紹介するよ。悪い条件じゃないと思うけど?」

「……か?」

「ん?」


 精霊は小さな声で何かを呟き、シロガネくんが聞き返すと大きな声で言葉を発した。


「めんこい娘っ子か!?」

「ん?」


 シロガネくんは今度は違う意味で聞き返す。私も精霊の予想外の言葉に目が点になった。


「パートナーさするならめんこい子がいい! むさせづね男はやだ! おらはめんこい娘っ子とでらっで絆で結ばれるんだ!」

「アグリッド、大地を照らす炎」

「ミカエル、裁きの光だ」

「ぎゃあああああああ!」


 タイヨウくんの目のハイライトが消える。


 ……君、そんな表情もできたんだね。知らなかったよ。


 一切の迷いなく物理と効果ダメージのダブルパンチで精霊を痛め付ける2人に、容赦ないなと気持ち後退る。


 猿の精霊は何か呻いているが、シロガネくんとタイヨウくんは構わず攻撃している。これ、どう収拾つけるのだろうかと心配していると、渡守くんが私の目の前に1枚のカードを差し出した。


 カードには猿の精霊のイラストが載っていた。いつの間にか渡守くんも精霊の情報を抜き取っていたようだった。


 名前は狒々で属性は……げっ、闇と妖怪入ってる。


 私がげんなりしながら渡守くんを見ると、さっさと行けと顎で指示される。


 気は進まないが、闇と妖怪属性のマナは私と相性がいい。場を納める為にも私が行った方が良いのだろうなと半ば諦め状態で前に出た。


「私で良いならなりましょうか? パートナー」

「サチコ!?」


 私が渡守くんから受け取った狒々くんのカードを持ちながら登場すると、タイヨウくんが驚きながら振り向いた。


「狒々くん、ですよね? 属性に闇と妖怪が入っているようですし、相性的にも問題はないでしょう」


 後は君のお眼鏡に適うかですけど、と続けると、狒々くんは勢いよく体を起こしながら私を見た。


「ほ、本当か? 本当さオメみでなめんこい子がおらのパートナーさなてくれるのか?」

「……私には影法師がいるので、2番目で良いならですけど」

「影薄、それはっ!!」

「だめーーーー!!」

「ごふっ!」


 私が狒々くんと交渉していると、ユカリちゃんがお腹に突進してきた。


 いつの間にか実体化していた影法師も加わり、支えきれなかった私は尻餅をつく。


「マスターはおれだけのマスターだもん! おれ以外の奴の加護なんて絶対ダメーー!!」

「あんなのサチコちゃんに相応しくないよ! 絶対絶対だめだからね! 絶対に僕は認めないからね!!」

「わ、分かった……分かったから一旦離れて……」


 2人を落ち着かせ、何とか起き上がるように成功する。しかし、ピッタリと引っ付かれたままだった為、身動きは取れなかった。


 狒々くんは弄ばれたと暴れ始め、納めようとした状況が更に悪化してしまった。きっと、後ろで隠れたままの渡守くんは何やってんだと舌打ちしているだろう。でもこれは不可抗力じゃないか。許してくれ。


 怪しげな結界の存在が気になるし、早いとここの場から退散したいのにどうしようかと頭を悩ませていると、ピシリ、と嫌な音が聞こえた。


 同時に辺りに充満し始める黒いマナの気配。


 この感覚はまさかと周囲への警戒を強める。シロガネくんとユカリちゃんも気づいたのか臨戦態勢を取っていた。


 硝子に亀裂が入るような音がどんどん激しくなる。この異様な雰囲気に気づいたタイヨウくん達も動きを止めて武器を構え始めると、狒々くんが頭を抱えながら蹲った。


 どうしたのだろうかと、狒々くんと呼びかけるが反応がない。


「駄目だ。あど終わりだぁ!」

「それは、どういう──」


 ガシャンと硝子が割れるような音が響いた。


 狒々くんの真上に歪みが出現する。歪みからは黒いマナが漏れ出し、その黒いマナを放出している元凶であろう鉄紺色の髪に銀色のメッシュが入った青年が現れた。


「見ぃつけたぁ」


 歪みから現れた青年は、不気味な笑みを浮かべている。私は魂狩りを実体化させ、攻撃に備えるように強く握りしめた。


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