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どうやら世界の命運はカードゲームが握っているらしい  作者: てしモシカ
第1章 アイギス編

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ph121 カード=万物


 まさかのアスカちゃんの登場に驚き、訝しげな目で五金総帥を見た。


 サモンマッチ協会が主催したパーティーに参加したという発言から、彼女が財閥関係者であろう事は予想していた。


 それがローズクロス家であった事には驚いたが、そんな事よりも、SSSCであった時の彼女はマナの存在を知らなかったのだ。


 そんな彼女を七大魔王(ヴェンディダード)という化け物達との戦いに巻き込むなんて、五金総帥は何を考えているのだろうか?


「宝船アスカ、セバスティアナ・ライニング。以上二名の者は、数少ないレベルアップ能力の保持者だ。……七大魔王(ヴェンディダート)との戦いにおいて、アイギス(われわれ)に大きく貢献してくれるだろう」


 レベルアップ能力、ね……。


 開催されなかったSSSC本戦の前に、彼女はMD(マッチデバイス)の力によって強制的に自身の精霊をレベルアップさせられている。その時にマナ使いになり、レベルアップ能力を得たのだろう。


 五金総帥は、レベルアップ能力の有無を重要視している。マナ使いになったばかりだから危険だという意見は、私やタイヨウくん達をアイギスにしている時点でないも同じだ。


 ならば、私たちと同じ様にレベルアップ能力を持つアスカちゃんを、七大魔王(ヴェンディダート)と戦うメンバーにスカウトしてもおかしくはない。


 あの場にいたナナちゃん達がいないのは、アスカちゃん以外にレベルアップ能力を使いこなせる者がいなかったからと考えれば辻褄も合う。


 それに、ダビデル島で気絶していたSSSC参加者は、全員アイギスに保護されている。


 その時に身元調査も行っているだろうし、得たいの知れないローズクロス家の者を招き入れるよりも、既に調査を終え、身元が保証された人間である方が安全だ。


 だから、ローズクロス家の中でもアスカちゃんが選ばれたのだろう。


 きっと、セバスティアナという人物も、アスカちゃんと同様に身元が保証された人物に違いない。


 名前から女性だと察する事はできるが、どんな人だろうが? とりあえず、まともな人であれば嬉しい。


 そう思い、先輩の背中から顔を出して扉の方を見ると、燕尾服を着たイケメンが部屋の中に入って来た。


 彼も五金家の執事だろうか? 見たことのある顔だった。彼がセバスティアナさんを連れて来たのだろうか?


「ご紹介に預かりました、セバスティアナ・ライニングと申します」


 ……おかしいな。アスカちゃんの後に入って来たイケメンが、美しいお辞儀をしながら自己紹介をしているぞ。


 セバスティアナって、女性名の筈だよね? アレ? というかあの人、見覚えのある顔だなと思っていたが、アスカちゃんにセバスと呼ばれていた成長期バグってる好青年風の執事では? え?


「普段は執事として、アスカお嬢様に従えております。以後、お見知りおき下さい」


 セバスティアナと名乗ったイケメンはにっこりと、女性を虜にするような綺麗な笑みを浮かべた。


「タイヨウ様ああああ!!」

「うわっ!? え、えぇ!? アスカぁ!?」


 セバスティアナさんの自己紹介が終わるや否や、アスカちゃんは勢いよくタイヨウくんに抱き付く。


 急な出来事でタイヨウくんは戸惑っていたが、難なくアスカちゃんを受け止めていた。


「お逢いしとうございましたわあ! わたくしが来たからにはもう安心ですわよ! これからは貴方のお側で、貴方のフィアンセとして! 心身共にお支えいたしますわあ!」

「え? お、おう? あり、がとう……で、いいのか? ところで、ふぃ、ふぃあせ? って何だ?」

「ちょっと!!」


 激しくハートマークを飛ばしながら、タイヨウくんから全く離れようとしないアスカちゃん。そこに、我慢ならないという表情のシロガネくんも乱入した。


「君、タイヨウくんが困っているだろう! 早く離れなよ!!」


 アスカちゃんがシロガネくんの方を見る。


 これは修羅場……に、なるのか?


 元、想い人であるシロガネくんに対し、彼女はどんな対応をするのだろうと気になり、様子を伺う。


「あら、貴方……ふっ」

「……なんだい? 何か文句でもあるのかい?」

「いいえ、わたくし、既に過去となった殿方に興味はございませんの」

「はあ? 何言って──」

「今のわたくしはタイヨウ様一筋ですわ! 今さら求められようとも、貴方の気持ちには応えられませんわ! わたくしの事は諦めてくださいまし!」

「ちょっと! 何の話だい!? 意味が分からないんだけど!?」


 シロガネくんとアスカちゃんの口論がヒートアップする。


 二人の間に挟まれたタイヨウくんは、思考が追いつかないのか目を回していた。見かねたエンラくんが止めに入るが、追い打ちをかけるように勝手に実体化したアグリッドが加わり、収拾がつかない。


 騒がしくなる室内。私はアスカちゃんは過去を引きずらないタイプなんだなと、シロガネくんに対する想いは完全に断ち切っているみたいだと冷静に分析する。


 私の本音としては、タイヨウくんにはハナビちゃんがいるし、シロガネくんを想ったままであって欲しかったが、あの様子だと難しそうだ。


 ラセツくん、ヒョウガくんとどんどん被害者が増えている。あの大混乱に巻き込まれたらたまらないと、少しだけ距離を置いた。


 これで自身の安全は確保出来そうだなと確信を得た私は、先ほどから気になっていた事を聞くために、セバスティアナさんの方を向いた。


「あの、セバスティアナさん」

「はい、何でしょうか?」

「……大変失礼と承知の上でお尋ねしたい事があるのですが……」

「はい」


 セバスティアナさんは背筋をピンと伸ばし、美しい姿勢を保っている。


 彼? 彼女? の洗練された佇まいに緊張しながら、抱いていた疑問を口に出す。


「セバスティアナさんって……女性ですよ、ね?」

「はい、女性ですよ」


 ま、マジでか!? 半信半疑だったけど、女性であってたの!? これが俗に言うバストのあるイケメンってやつなのか!?


 え? 大丈夫? こんなイケメン女子をキッズアニメ(推定)に出して大丈夫なの!? 全国のキッズ困惑しない? 脳内バグったりしない? というか、私がバグりそう。


 問われ慣れた質問だったのか、セバスティアナさんは平然としている。私がそんなセバスティアナさんを凝視していると、ちょんちょんと指でつつかれるように、控えめに肩を叩かれる。


「あぁいうのが、好みなのか?」


 振り向くと、先輩が青ざめた顔でセバスティアナさんを指差していた。


 そういう訳じゃないと否定しかけた所で、ハッと頭の中で落ちる稲妻。


 セバスティアナさんって、物腰が柔らかそうだし、見た感じは先輩と正反対だ。


 先輩の元々の独占欲が強すぎてどんな感情を向けられているか判断しずらいが、もしもの事を考えて、応える気のない感情を抱かせ続けるのは忍びない。


 アスカちゃんのシロガネくんに対する態度を見習い、取り敢えず、肯定しといて先輩は好みじゃないアピールしとこ。


「……そう、ですね」

「どんな所が!?」

「誰に対しても紳士的で温和で無闇に暴力を振るわなそうな所ですかね」

「!?」


 先輩が頭を抱え込みながらしゃがみ込んだ。


 よほどショックだったのか、ブツブツと何か呟き、私が声を掛けても反応しない。


 これは……いや、深く考えない方がいい。藪蛇待ったなしだ。このまましれっと離れてしまおう。


 そう試みたが、先輩に腕を掴まれ、引き止められてしまった。


「俺は! 紳士的で温和で無闇に暴力を振るわねぇ男だ!!」

「それ、ギャグで言ってます?」


 面白くないですよとバッサリと切り捨てる。


 何を言い出すかと思えば、それは無理ありすぎるだろ。せめてもうちょっと社交性と言うものを磨いてから言ってくれ。


 私の返答で先輩はまた沈んでいたが、これは無視して問題ないなと判断し、今度こそ離れることに成功した。すると、タイミング良くケイ先生が全員に声を掛ける。


「みんなー、もうそろそろいいかな? 感動の再会はいいけど、後にしてね。総帥がまだ話してるから」

「……」

「ち、父上!? すみません! 父上のお邪魔をした訳では──」

「構わん。適度に精神を弛緩させるのも重要な事だ……能面ばかりのつまらない集団では任務に支障を来す。騒がしいぐらいが丁度いい……特に、魔王との戦いを見据えるのならな」


 ここで、能面筆頭のお前が言うのかってツッコミはダメなんだろう。


 物凄く言いたいけど我慢しろ、私。


「我らの敵は魔王と称される精霊だ。只の人間では敵わない程、強大な力を有している。それが7柱もいるのだ。戦力差は絶望的と言えよう」


 五金総帥のらしくない弱気な発言。何か理由があるのかと、続きを待つ。


「が、それはあくまでも、普通に戦えばの話だ。我々にはサモンマッチがある」


 あ。これ、またとんでもない事を言いそうな雰囲気だ。


 サモンマッチって言葉が出ただけで嫌な予感しかしない。でも、同時にシリアスな空気も察知したから、シリアス顔を作っておく。


「サモンマッチは世界を縛るルール。宇宙も、星も、生物も……万物の全てはカードにより生まれた」


 五金総帥がパチンと指を鳴らすと、電子画面の映像が変わった。銀河系や微生物、人類の進化図のような映像が映し出される。


「カードにより生まれた存在は、カードのルールに縛られる。人も、神や魔王と呼ばれる存在も、全ての万物はサモンマッチというルールに縛られているのだ。故に、バトルフィールドにおいて、万物は対等となる」


 総帥はカードをドローする。そして、カードの絵柄を確認したかと思うと、そのカードを投げた。カードは綺麗な直線を描きながら壁に刺さる。


「マッチは人類が遥か高みに抗う唯一の術。力で敵わずとも、カードなら奴らを殺せるのだ」


 五金総帥は前に出していた手を戻し、口元の前で両手を組んだ。


「貴公等の持つカードは敵と戦う為の剣であり、貴公等を守る盾だ。……よく考えてデッキを構築し、マッチの腕を磨きたまえ」


 しんと静まり返る室内。誰かが唾液を飲み込む音が聞こえた。私は自身のデッキに触れながら、総帥の言葉を頭の中で繰り返す。


「……話は以上だ。任務に備え、体を休めたまえ」


 明日からは忙しくなるぞと言葉を切った総帥は、田中さんから書類を受け取り、目を通しながらケイ先生に指示を出していた。


 本当に話は終わったようだった。


 顔合わせの為だけに呼ばれたアスカちゃん達が可哀想だなと思いつつ、周囲を見渡す。


 アスカちゃんはタイヨウくんに言い寄り、シロガネくんは二人を引き離そうと奮闘している。その後ろにはセバスティアナさんが控えており、ヒョウガくんは頭を抱えていた。


 再度騒がしさを取り戻した空間。


 もはや騒音と呼べる騒ぎを普通にスルーする五金総帥。渡守くんは関わりたくないのか、何も言わず、直ぐに出ていった。


 すると、後に続くようにアボウくん達も出ていく。どうやらこの後も天眼家で用があるらしい。笑顔で手を振るユカリちゃんを見送りながら、私もタイヨウくん達に巻き込まれる前にと執務室から出た。


 先輩に送ると言われ、特に断る理由がなかったので素直に送ってもらう。


 そして、家に着き、影法師を実体化させて一緒にご飯を食べる。お風呂に入り、歯も磨いてベットに横になった。


 電気を消し、布団を被ったところでもういいよね? と誰にともなく確認を取りながら、溜まりに溜まった思いを心の中で叫ぶ。


 カードである意味!!


 何当然の事を言ってますけど? みたいな感じで言ってんの!?


 万物がカードから生まれたってどういう事!? 何もないところに突然カードが湧いて宇宙ができたの!? 何そのシュールな光景!? 意味が分からないんですけど!! カードのスケールが大きすぎてついていけないよ!!


 いや、まぁね。確かにね。あそこまでカードが世界に影響を与えているのならさ、この世界がサモンマッチ至上主義になった仕組みは理解できたよ? でもね、それを個人的に納得できるかって言ったら話は変わってくるんだよ!!


 七大魔王(ヴェンディダート)なんて化け物の話から急にぶっこんでくるな!! 急すぎて脳の処理が間に合わんだろう!! もうホビアニの世界観が怖い!! 何でもカードでゴリ押す感が怖い!!


 ……ダメだ。これ以上は私の精神衛生上に良くない。深く考えるのはよそう。


 なんでカードが壁に刺さってんだとかもカードは剣だから仕方ないんだよ。そう言う物なんだ。カードと万物はイコールで結ばれてるんだ。そう言う物なんだ。


 私は自分自身に言い聞かせながら、深みにハマる前に寝てしまおうと目を閉じた。


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