#『第六章』#
俺は立ち止まり再度威圧する様にして牙狼族に向けて睨む。しかし精神支配されている牙狼族は俺の威圧にびくともすることはなかった。逆に言うと、精神支配されていない牙狼はとても動揺しているのがわかる。それはたったの二匹だ。
「親父殿……、今は撤退した方が得策ですぞ!今の我々は数が少ないとはいえ、二割ほどの損害が出ておるのです!」
すると警戒二匹目が親玉にそう言っているのが万能感知によって分かった。喋り声は振動。つまり万能感知に組み込まれている振動感知でなんと言っているかわかったということだ。
だから俺は、
「全部丸聞こえだからな……。お前らを逃すつもりはねぇぞ!」
と、俺は言う。
もし逃したらこいつらはきっと俺にとって邪魔になる。そう直感的に感じたのだ。
二匹の警戒指定牙狼はまだどのくらい強いのかわからないが、二匹は俺の威圧によって動揺していたことも考えて、もしかしたら俺でも倒せるほどの実力しかないだろうと結論づける。
「くっ……!猪口才な!」
どうやら親玉は二匹目と全く違う思考をしているらしい。
そう、今も俺に親玉は警戒心をマックスにしてうめり声を出している。
だから俺は親玉含め、牙狼族に、
「今ここで俺に殺られるか、俺の配下になるか選べ……」
と言ってやった。
「ふざけるな!」
すると突然親玉が急に大声で俺にそう言って、俺の元に蛇行しながら走ってきくる。
二匹目は親玉を止めようと今でも説得している。だがその二匹目の声は親玉には聞こえてないらしい。
この親玉は本当に実力はあるらしい。現に今俺は思考加速を駆使してでないと親玉の走る動きを捉えることができないのだ。
〔告、八時の方向から攻撃が来ます。……今〕
俺は叡智者が『今』と言った瞬間体を捻り、突っ込んでくる親玉を鉤爪で胴体と顔で引き裂いた。
{ボトン}
そう言う音がした。
そう、俺は親玉が飛び込んでくる際に胴体と顔を鉤爪で切り裂いたため、今その親玉の亡骸が地に落ちた音だ。
親玉が死んだことによって精神支配されていた牙狼族は意識を取り戻し、亡骸である親玉を全員が見る。
すると色々な声が聞こえた。しかし俺はこう再度問う。
「もう一度聞く。今ここで俺に殺されるか、俺の配下になるか、選べ」
ついでに威圧もしている。
すると二匹目が俺の近くに歩み込んでくる。ゆっくり、ゆっくりとだ。
俺は一応普通に立っているが、警戒は怠らない。
そして俺と二匹目との間が五メートル弱になって二匹目は立ち止まり、俺に伏せをして言う。
「……我を配下に加わらせてください……」
それを聞いた他の牙狼族は困惑している者が大半であった……。が、すぐに牙狼族は二匹目の後ろまでゆっくりと歩み寄って、二匹目と同じ格好で、
『加わらせてください』
と全員揃ってそう言った……。いや、ハモって言った。
◇◇◇
私は偶然とてつもない圧倒的な力を見せて屈服させる一人の少女を見ていた。
今私はこの滑らかで洗練されたスライムボディーを薄っぺらくして見つからないようにしている。
とても恐ろしい。私はそんなことをあの少女を見て思ってしまう。
そして私がこの世界では普通の強さだと言うことを知らされたかのようであった。
私は魔力感知でへんな流れの魔力を察知したから、興味本位で来てしまったのがいけなかったのだろう。
「……、どう……、しよう……」
私はそんなふうに声を上げてしまう。
(このままゆっくり私が逃げたほうがいいのかな……、それとも……)
と私は悪いことを考えてしまう。
私はあの少女を見る限り悪者ではないと思う。その理由は少女がゴブリンたちを庇ってゴブリンに結界を張ったのを見ていたからである。
もし本当に友好的であれば私が目の前に出ても殺られる可能性は低い。でも……、確信できたと言うわけではないのも事実。だからこそ今私は行動できないでいるのだ。
体が震えてくる。
もう一度私はあの少女を雑草の中から覗く。
すると少女は私を見ていた。
(ヒッ……!)
すぐに見るのをやめて反対側へと跳ね進む。
私はあの少女と目が合ったのだ。しかし少女は目だけを私に向けていただけであった気がする。
目が合った時、悪人そうな目では見てなかったのに何故か私は逃げてしまった。
「でもこれでよかったんだよね……。きっとこれから会うこともないだろうし……」
私はそう言いながらスライムの体を全力で跳ねさせて進む。
◇◇◇
一体何が俺を見ていたのか不思議に思う。
だから俺は叡智者に今の正体を聞くことにした。
〔解、種族スライムの知性ある上位種と考えられます〕
やっぱりスライムだった……。
スライムは普通知能を持つことはないはずだ。
だから俺はその覗きをしていたスライムに会いに行こうと思い、牙狼族とゴブリンたちにうまく説得して追いかけることにした。
一応オーラは戻しておこう。ビビられてしまってはいかん!
……
…
やっと覗きスライムの後ろ姿を見つけることができた。とは言っても追いかけてから二〇秒もかかっていない。
俺は一瞬にしてスライムの前に移動して、動揺しているところをついて質問をする。
「君もしかして転生者?」
俺はしゃがみながら言った。
普通は知能を持たないスライムが目の前にいるとしたらまず転生者か聞く必要がある。某アニメではスライムに転生したアニメがあることを俺は知っている。
見る限りさっきより困惑しているらしい。
(叡智者どうしよう……?スライムを困惑させちゃったよ……)
〔解、マスターが交戦的でないことをうまく言うのがいいでしょう〕
叡智者にどうするか聞くとそう言う回答が出た。
とりあえず俺は自身が無害なことを説明する。
「安心してね、俺は君と仲良くしたいだけなんだ」
俺がそうスライムに言うと少し気が緩んだのか、スライムボディーがグデーンと言うふうになった。
「落ち着いたらでいいよ、質問の返答は。でも俺から名乗るね。俺はシルダ。つい最近転生したばかりの魔物さ」
俺は自己紹介の最後を濁して答えた。竜種と言ったらもっと困惑するに違いないと思ったからだ。
「なっ……、なんで私が転生者ってわかったん……、ですか……」
まだ怯えながらではあるがそう言ってきた。
喋り方からして中身の性別は女っぽい感じだとわかった。
しかしとりあえず、
「さっきも言ったがけど俺も転生したからさ、つい最近……」
と答える。
まさかこんな早く俺と同じ転生者が見つかるとは思ってもいなかったこともあって、内心俺はアワアワしている。
だがアワアワしているとはいえ、きちんと話が通じる同郷になるかもしれないと考えると、今きちんとコミニュケーションを取っていかないと話し合うことができなくなるかもしれないと思ったのだ。
「ちなみに君は向こうでどう言う人生を送っていたんだい?あっ……、言うの忘れてた。敬語は不要だから」
俺は付け足して接しやすくするように言う。
「はっ、はい。わかりま……、わかっ……た」
「うんうん!よろしい!」
俺がそう返事するとスライムは語り始めた。
ちなみに俺はしゃがんだままだと辛いから胡座座りをする。
「私の本名は佐々木久留美。確か高校三年生だと思う」
「だと思うってどう言うこと?」
「私は癌のステージ四だと医師に申告されたの。すると母さんが私を入院させることにして、そこから記憶がないの」
聞いてもよかったのかな?と思ってしまう俺。
俺なんてナイフを刺されて一瞬で死んじったと言うのに、この子は癌で苦しんで死んだのかも知らないと思うと胸が痛くなる。
「なんか、ゴメンな……」
俺はそう言う。
そしてこの後に俺が死んだ理由を言うのはハードルが高いと思ってしまった。
あいにく俺は高校生をとっくに卒業した中年……だ。いや、認めたわけではない。一応だ!わかりやすく分けるためだ!
俺は自身を慰めているつもりで合ったが逆に辛くなってきてしまう。
「いえいえ、そこまで悔んでいませんよ。どうせあの世界から抜け出したいと思ってましたから……」
するとスライムは俺に悲しげな感じではなく、明るい感じで俺にとっては悲しいことを平然と言う。
「あっ、そうだ。君の今の名前は?」
俺はさっき、前世の名前を聞いたが、今の名前を聞いてないと思ってスライムに聞くことにした。
すると、
「えっ……?名前?」
と、何言っているのかわからないふうにスライムは言った。
「もしかして名前ないの?」
「はい……、多分ないと思います。左下のコンソールの中には私の名前という項目がなかったの」
「種族名の隣にあるはずなんだけ……ど……」
俺はそう行っている最中に思い出した。
俺も自身に命名する前は種族の項目の隣に名前が書かれていなかった。
もしかしたらこのスライムには今の名前が本当にないのかも知れない。
だから俺は名前がないことを今更察してこう言った。
「じゃあさ、君に俺がこの世界での名前をつけてやるよ。俺、命名って言うスキルを持ってて誰にでも名付けできるから」
俺はそう言う。決して前世で俺がハマっていた漫画の真似をしようとは考えていない!
彼女がスライムなこともあって、スライムの中の一文字は読みで取り入れたいと思っている。そして何より彼女、女なのだからピンクを連想できる春も取り入れたいと思っている。
今の二つを組み合わせて見ると俺は『春蘭』が出てきた。
他にも案は出たが、春蘭に勝てる案は出なかったから彼女が、お願いします。と言ったら春蘭と名付けようと思う。
一応念のために言うが、この二つの漢字には意味を乗っけようとは思ってない。
すると、
「本当にできるの?私が好きなアニメでは、名付けとは本来大変な危険を伴うもの。と言ってたのを覚えてるんだけど……」
と心配する。
そして彼女が言っていた名言のようなものはおそらく俺も知っている某アニメのことだろう。
もしかしたら彼女と色々と語り合えそうだと少し思ってしまう。
だが、キチンと大丈夫だと言おうと、
「安心しろ!命名した後でも俺の場合、命名で消費した魔力を回復できるから」
と単的に説明する。
「わかった。でも一つ聞いていい?」
どうやら俺の単的な説明が通じたらしい。
しかし一つ質問していいか聞いてきたので俺はその質問を予想しながら、
「いいよ♪」
というふうにルンルンと言う。
「君って……、シルダの種族は何?」
「……君、聞いても驚かないと誓う?」
まさか種族を聞かれるかもと思っていたが、的中してしまった。
種族に関してをは話したら俺のことを恐れてしまうかもと思っていたから俺からは言わなかったのだが、しかし相手から聞かれるとなると答えなければいけないだろう。
俺は彼女が頷く……、スライムボディーを上下に振ったのを確認して言う。
「俺は竜種。紫黒竜のシルダだ」
そう答えると彼女は少し間を開けて、
「えっ……、エェーー!」
と大声ですごく驚いたのを表した。
少し後ずさったのは見なかったことにする。
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