第0話 地獄の終わり
恥の多い生涯を送ってきました。
自分の短い人生を振り返った時、見慣れたこんな言葉がふと頭をよぎったが、ちっぽけな物語のためには余りにも大袈裟すぎるのかと思って、あれから1時間余り経った今もなお、書き出しすら決めかねている。
人は死ぬ時凄い恐怖心に駆られるのだと思っていた。
こうやって物凄いハヤさで死に向かっている今、俺の頭の中にあることと言えば、未だかつてない程の苦痛と、何故かありふれたかの様な懐古の念だった。
「ひ...ひだぃ......ひぃい゛だぃ...ぃだい...!」
頭の中はこんなにも冷静だと言うのに、口から出てくるのは必死に喘ぐかの様な苦痛の訴え。
自分でも聞き取れないこんな言葉は、隣に居る筈のコイツらには耳に入ることすらないのだと思う。
腕が千切れそうだ。
俺の体が今どうなっているのかは分からない。瞼が腫れすぎたのか、それとも眼球が潰れたのか、視界には全く光が入ってこず、確認できるのは確かに残る痛覚と強烈な鉄の味だけである。
俺は今引き摺られている。
ゴミの様に引き摺られている。
二つの腕で手首を握られ、一定の速さで引っ張られている。
俺は死ぬ。殺されるんだ。コイツらに。
いいや、もう殺された。こんな体になってからじゃ、もう遅いんだと思う...。
いや、でも...。でも、まだ...。
「うぅ!! あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!!」
俺が今何をしているのかは分からない。とにかく体を動かしている。上下にでも左右にでも、とにかく動かせる範囲で動かしまくる。
飛び跳ねてどこかに、どこかに逃げなければ。腕を引きちぎってでも、脚をもいででも、コイツらから逃げなければ...
__バンッ!!!!
俺の中で何か大きな物が破裂したのが分かった。お腹の外から加えられた衝撃で、俺の体は宙に舞い、そして動くのを辞めた。
手首を軸に空に弧を描いた俺の体は、地面で数回バウンドし、静止した。その間俺の体では、無くなった大きな物の代わりに熱い液体が動き出し、体内中を這いずり回っていた。
もう、痛みは感じない。
その代わり全身が熱い。焼ける様に熱い。
血のせいじゃない、何かの熱を受けている様であった。まるで何かに炙られているかの様な。全身の血液が乾き出し、体に吸い付き出している。
俺の肉が焦げようとしている。炭になろうとしている。臭い。
早く死にたい、この地獄から解放されたい。
でも、なんでこんなことになったんだろう。何がいけなかったんだろう。どうすればよかったんだろう。
もう一度やり直せるなら、何から始めようか。