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第47話 特級ハンター②

「何言ってんだ。全部あんたらにやるよ。畑もさんざ荒らされたんだろ? 竜肉なんぞ、王宮でも中々食えねえ『最高級食材』だ。腹の空かしたガキや、物乞いの老人まで食わせてやれ」


 結局、狩ってから丸1日掛けて、ドラゴンを食材として『保存』することに成功した。竜の捌き方などエフィリスすら知らなかったが、サスリカの指示により手早く行われた。鱗を剥がし終わった肉に剣を入れて切り分けていく作業は大剣を持つエフィリスとオルヴァリオ、それと街の力自慢が数人掛かりで行った。

 その後部位ごとに分けられた肉を荷車で湖まで運び、冷水に浸ける。血抜きと雑菌処理を川に任せるのだ。当然のこと、川下に村や集落が無いことを確認してから。同時に、即座に必要な分は街まで直送する。今、街は人が減った中で復興を進めなければならない。ルクシルア首都から軍隊が応援に来るのはまだ数日先になる。エフィリス達が呼ばれたのは、この『早さ』が買われてのことだった。


 つまり。

 ドラゴンを彼のように退治する『だけ』ならば、軍隊でもできるのだ。兵士が最低でも30人いれば、『全滅までに』はドラゴンをあの崖へ誘導できるだろう。罠は誰でも設置できる。そこから、崖の上からあらかじめ用意してあった『岩』を落とし続ければ。100人掛かりで一斉に『1時間ほど』際限無くぶつけ続ければ、やがてドラゴンは弱っていくだろう。

 つまり訓練され統率された軍人が130人居れば、あのドラゴンを討伐できる。だがそれでは、討伐できても軍隊の生き残りは精々10人程度だろう。殆どは死ぬ。結果的にドラゴンは狩れるが、エフィリス達より遅く、エフィリス達よりも被害を出すことになる。

 『特級』ハンターとは、統率された軍隊ではなく個人の技能が優れた『高効率』で運用できる力なのだ。要するにコスパが良いということ。

 30人使って1~2人しか生き残らない役目をエフィリスは『ひとり』でこなす。100人で1時間掛ける攻撃を、マルはひとりで、『1発の銃弾』さえあればこなす。特級ハンターとは、何も『誰も真似できない超人』ではない。ちゃんと『人間という能力の範囲内』で、『人間の延長線上』にいる『とても優秀な人材』というだけだ。

 そして、そんな彼ら『たった3人』への『巨額』の報酬は、当然ながら『軍隊130人分の家族への負傷・死亡時の補償』より少なく抑えられる。貴重な『訓練済みの人材』の損失も防げる。

 『だから』彼らは国の英雄なのだ。だから、彼らは素晴らしいのだ。


「じゃあ明日朝、出発するぞ。今夜は食って飲んでヤって休め」


 狩りより、狩った後の処理で疲れた様子のエフィリス。ギルドへ納める分のドラゴンの素材を選り分けて荷車に積んでから、残った分は街へ還元したところだった。因みにクリュー達への報酬は無い。彼らはギルドメンバーでは無いからだ。彼らもそれは承知の上で、勉強をしにここまで来たのだ。


「エフィリス。街の娼館も今はやってませんよ」

「まじかよ」

「あっ。ねえじゃあ。わたし……エフィリスの、あ、相手」

「じゃあ肉食うか。サーガ焼いてくれ。マルもこっち来い」

「……ぅ、うん」


 解体を手伝ってくれた街の男衆も、今夜は街に戻らずここで焼肉パーティに参加するらしい。お祭り騒ぎのように、湖周辺の至る所で香りが漂っている。


「……『ドラゴンの肉』」

「なあに、早く食べなさいよ」

「んぐっ!」


 オルヴァリオがしばらく目を見開いて眺めていた肉を、じれったく思ったリディが彼の口に突っ込んだ。彼は噎せながら咀嚼していく。


「げほっ。やめろよリディ。俺は今『伝説』を味わってたんだからよ」

「見てただけじゃない」

「いや、あのな。全トレジャーハンターにとって、『ドラゴン』てのはやっぱ特別で」

「で、美味しかった?」

「…………」


 実質的にほぼ何もしていないとは言え。『自分達が狩ったドラゴン』とも言えなくはない肉だ。オルヴァリオはゆっくりと改めて肉を味わう。


「……美味くはねえな」

「あはは。正直そうよね。都会できちんと栄養管理された家畜の肉の方が美味しい」

「けど」

「けど?」


 空を見る。誰の物でもない満天の星空。吹き抜ける風。何もない荒野と、空を映し出す湖面。この大地に、俺とドラゴン。


「最高だ」

「…………」


 オルヴァリオの表情を見て。

 リディもなんだか嬉しくなった。

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