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第27話 帰路

 それから。


「あんた達は素人なんだし、冬越えは無理ね。大人しく春を待ってルクシルアへ降りましょう」

「俺は賛成だが、クリューは?」

「……仕方ないな。死んでしまっては元も子もない」


 一行はバルセスで冬を越すことになった。生活費は狩りで稼ぐ。クリューの予想通り、冬の狩りは儲かった。ハンターでもなければ猛獣など狩れないからだ。ただでさえ食糧の少ない寒冷地に、大型獣の肉を持って帰って来る彼らはちょっとした人気者になっていた。


『…………なるほどですね』


 サスリカは、その様子をじっと見ていた。クリュー達の命令と受け取ればすべて即座に完璧に全うしたが、自分から何かを提案したりすることは無かった。時折、そうやって何かに納得した言葉を吐くのだ。


「サスリカ! そっち行ったぞ!」

『ハイ』


 猛獣の逃げた先に回り込み、爪や牙を掻い潜って喉元にナイフを突き刺した。急所である。一撃で、巨体が崩れ落ちた。

 サスリカの戦闘能力は目を見張るものがあった。重心の移動、体捌き、狙いの精密さ、身のこなし。人間が身に付けるには何十年もの歳月を必要とするような動きで、あらゆる猛獣をものともせず簡単に屠っていった。それでいて息は切らさない。気配や呼吸も無いため猛獣からしても脅威的であっただろう。

 さらに。

 そんな仕事をやってのけるサスリカに、食事と報酬は要らないのだ。水を与えれば本人は満足で、それで活動できる。あまりの効率にリディもにこにこであった。


「銃弾って、高いんだな」

「ええそうよ。だから、獲物の相場と照らし合わせて、一度の狩りで『何発撃てるか』計算しなきゃいけないの。いくら狩っても毎回弾切れまで撃ってたら結局収支マイナス、なんてことはザラにあるのよ」

「剣も折れたら大きな損失だし、武器は大事にしないとな」

「その通り。だけどまあ、そこまで必死に考えなくて良いわ。あたし達にはサスリカが居るからね」

『頑張ります』

「サスリカの活躍は目覚ましい。どこがポンコツなんだか」

「彼女をポンコツ呼ばわりできる古代人が凄い、とかな」

「あり得る」


 そんな調子で、数ヶ月。リディが男ふたりと寝泊まりすることに慣れてしまい、何も言わなくなった頃。


「来たか」

「ええ。ユキちゃんとシロちゃん、またよろしくね」

『もふもふ』


 春が来た。雪は解け、気温は上がり、吹雪は止んだ。一行はまた犬橇を使って、バルセスを南下していく。


「結局いくら稼いだんだ? その辺りリディが管理してたろう」

「400万くらいかしらね」

「凄いじゃないか」

「ええ。トレジャーハンター自体あんまり居ない土地だったし、サスリカ大先生が居たしね」

「ならひとり頭100万か」

「え?」

「ん?」


 ふとした会話。4人で400ならひとり100。クリューは単純に計算したことを口にした。が、リディは振り返った。


「『成果』はあたしが半分貰う約束でしょ?」

「えっ。それは遺跡での冒険じゃないのか」

「何言ってんのよ。ルクシルアに戻るまでが冒険でしょ。ていうかサスリカの分あんたがハネる気でしょそれ」

「あ、いやそんなつもりは……」

『ワタシはお水さえいただければお金は要りません』

「いや分かった。リディが半分だ。色々教えて貰ったんだから当然だろ。クリューも良いな?」

「……ああ」


 口論になる前に、オルヴァリオが折れた。ここで利益を取りに行くより『リディと揉める』ことの損失が大きすぎるからだ。そもそも『リディが成果の半分』で話を付けてここまで来たのだ。クリューは軽率に発言してしまったと反省した。


 そして。

 春ということもあり、帰りは安全に進むことができた。1週間後には、ルクシルアへの国境を越えることができた。そこで犬橇とはさよならだ。


「ありがとう。ユキちゃん、シロちゃん」

「本当に助かったな。大人しく従順で力強い」

『もふもふ』


 サスリカは、『氷漬けの美女』を解かすことができるのか。期待を胸に、美術館のある都市へとやってきた。

 そこで彼らが目にしたものは。


「…………盗難?」


 衝撃的なものだった。

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