第25話 報告
3人と1台は、遺跡を脱出した。そろそろ食料や水も少なくなってきている。あの末裔の男性が語った装置を探すにしても、一旦町へと戻ることにした。
『……ワタシの知る世界は、まるっと変貌したようです』
山の上から、景色を見下ろして。サスリカが呟いた。
「そうなのか?」
『電線も衛星も無いし、そもそも電波すら飛んでいません。飛行機も無い。……文明は本当に滅んだんですね』
遺跡を出る頃には、サスリカの言葉はたどたどしさが無くなっていた。無機質な声は変わらないが、それでも抑揚やイントネーションを駆使して感情を表現しているらしい。本当によくできているとクリューは感心している。
「それらのひとつも理解ができないが、これが俺達の世界だ」
『ハイ。……世界が変わってもワタシのやることは変わりません。ますたーの仰せのままに』
「……ああ。よく分からんが頼む。戦闘は出来るのか?」
『ハイ。暗殺から決闘まで幅広くこなせます』
「それは頼もしいな」
山を降りていく。オルヴァリオは先頭を行くふたりを見てリディへ耳打ちする。
「なんか仲良くなってるな」
「いやほんと吃驚よ。後ろから見ると兄妹みたいね」
その後、特に問題なく麓の町まで戻ってきた。行きより早い時間で。猛獣に襲われることもなく、安全に。彼らは日暮れ時に戻ってきた。
「さてじゃあ、どうする?」
「あのおっさんに報告か? 要るか?」
「ていうか今回『儲け』がゼロなんだけど。収支マイナスなんだけどー」
オルヴァリオとリディはそう言うが、クリューにとっては大収穫だった。金に替えられるお宝を手に入れた訳ではないが、『情報』という視点での話だ。
「取り敢えずあの末裔の人にサスリカを見せに行こう。酒場に居る筈だ」
途中、洋裁店に寄ってサスリカ用の服を購入した。それから酒場へと向かう。
「おっ。あんちゃん。生きて戻ってきたか」
「ああ。なんとかな」
「で、装置は?」
「見付からなかった。代わりにこれだ」
「あん?」
末裔の男性はクリューに引っ付いている少女を訝しげに見る。サスリカは恥ずかしそうに手元をモジモジとした。
『は、初めまして。家庭版汎用防衛システム「ASYA型」正式採用機No.33、銘をサスリカと申します』
そして伏せ目がちに、そう名乗った。
「…………か、あ?」
「命ある人形だ。これが遺跡にあり、機械のように起動した。本人曰く1万年眠っていた、『使用人をする機械人形』らしい」
「……は?」
クリューの説明を受けても、男性は空いた口を塞ぐことはできなかった。『人の声ではない』と聞くだけで分かる。だが言葉は理解できる。紛れもなく、『これ』は人形であると。肌の質感もよく似せているが、近くで見ると無機物であると分かる。
「そんな伝承は残っていないか?」
「…………ないな。初めて聞いた。全く分からん。そんな、動く人形なんて」
「そうか……」
「……いや、待て。『それ』が、『装置』じゃないのか?」
「!」
男性はまじまじとサスリカを観察した後、そう言った。思い至ったクリューも、はっとして彼女へ振り返る。
サスリカは何か訊かれることを察して、弱く微笑んで首を傾げた。
「サスリカ。お前、『解けない氷』を解かせるか? あの遺跡で、それに包まれた人間が発見されたんだ。助けたい」
『…………』
問われたことを、頭の中で処理をする。キュルキュルと駆動音が数秒鳴った。
『「人体冷凍保存」のことでしょうか。ワタシの時代では、滅亡の前に何人もそうして「保存」したと記録しています』
「…………!!」
クリューと男性は、目を見開いて合わせた。正に。『予想通り』だと。
「それだ! サスリカ! 俺はそれを解かして助けたい! なんとかできないか!?」
『わっ』
がっ。と、肩を掴まれたサスリカが驚きの声を出す。
『現物を見なければなんとも言えませんが、ワタシの中のメモリーにはコールドスリープのことは入っています。ますたーの望みなら、精一杯頑張ります』
「よし! なあ! オルヴァ!!」
「あ、ああ……。良かったな」
大きな声を上げ、力強くガッツポーズをした。オルヴァリオは苦笑していた。