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第23話 サスリカ

 黒い窓が。

 急激に明るくなり、強いフラッシュに襲われた。


「!?」

「うおっ! なんだ!?」


 部屋にあったいくつもの『窓』が一斉に光り始めた。ピコピコと聞き慣れない機械の音がする。ウーンと唸り声のような音も同時に。

 天井から光が集まり、中心の柱を通って。

 人形の管へと、光が伸びて。

 繋がっている首へ光が入り込んだと思えば、人形がびくりとその身体を揺らした。


「どうなった!? 起動したのか!?」

「ちょっ。眩しくて分かんないわよ!」


『……〈手動入力による再起動命令を実行します〉』


「!」


 クリューでも、オルヴァリオでも、リディでもない。声が聞こえた。

 女声のようだが、嫌に感情の無い無機質な声で、しかも聞いたことのない言語で。


『〈前回のシャットダウンからのスリープ期間は10,255年3ヶ月26日。マスターソラのマスター権限は既に失われています〉』


「な、何語なんだ」

「喋ってる……。古代語?」

「おい、どうなった。人形が動き出したのか?」


 フラッシュアウトしていた視界が徐々に戻ってくる。ガシャリ、ガシャリと足音のようなものが聞こえる。

 あの人形が、歩いているのだ。

 クリューはなんとか目を擦り、状況を確認しようとする。


 瞼を開けると。


『〈新たなマスター設定が必要です〉』


 青い髪と、金色の瞳をした無表情の少女と目が合っていた。


「うおお!」


 がたがたと後ずさるも、背後は壁である。


『……〈手動入力を実行した人物を確認。新たなマスター設定をお願いいたします〉』

「な、なんだお前は! 何を言ってるのか分からんぞ!」


 クリューの慌てた叫びを聞いて。少女の人形はキューンと機械音を上げながら首を傾げた。


『……〈言語不明。解析モードに入ります〉』

「クリュー! 大丈夫!?」

「……ああっ。取り敢えず、敵意は無い……のか?」


 リディの声にも、少女は耳を傾ける。


「くっそ。まだ目がチカチカする」

「オルヴァリオ!」


 オルヴァリオの方も向いてから。

 再度、クリューへ向き直った。


『……新タナ、ますたー設定ガ必要デス』

「!」


 次に放った台詞は、クリュー達にも通じる言葉だった。


「これは……!」

「あたし達の言葉を……覚えた? 今?」


 少したどたどしいが。間違いなくそう言っていた。何が起きたのか、リディが感覚で察した。


『新タナますたー設定ヲオ願イイタシマス』

「な、なんだそれは。マスター、設定?」

『オ名前ヲ』


 無表情のまま、異国のからくり少女が迫ってくる。クリューは恐怖に支配されていた。


「……な、名前? クリュー・スタルースだ」

『クリュー・スタルース様。コノママ登録スルノデアレバ、手ヲ』

「は?」


 少女は右手を差し出して、握手を促した。


『手ヲ』

「…………手?」

『少シちくりトシマス』


 恐る恐る、クリューも右手を出す。少女はそれを取った。

 と同時に。


「痛っ!?」

「クリュー!」


 右手に痛みが走った。驚いて引き抜くと、親指の腹から血が出ていた。


「何をした!?」

『……登録イタシマシタ。ますたークリュー』


 少女は。

 そう言って、自分の右手を口まで持って行って、舌を出して指を嘗めた。


「!?」

『ワタシハ「サスリカ」。家庭版汎用防衛しすてむデス。ますたークリュー。ドウゾヨロシクオ願イイタシマス』


 そして、にこりと。

 片膝を突いてかしずき。

 人形とは思えないほど柔らかく、本物の少女のように微笑んだ。

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