文学少女が嫌いな話
「お前は間違ってる」
大きな入道雲が浮かんだ日、私はバス停でいきなりそう言われた。
相手は三十歳くらいの知らないおじさん。
こういう時は関わらないのが鉄則。、
中学二年の私は手に持っていた本を読み進める。
「なあ、聞こえているだろ。おい」
鬱陶しいくらい絡んでくる。
早くバスが来てくれるといいのだが、さっき乗り遅れたから生憎あと十五分来ない。
おじさんがちらりと本の表紙を覗く。
「あ、それ最後主人公死んじゃうんだよね」
「なんで言っちゃうの」
思わずおじさんに向かって叫んだ。
まずいと思ったがもう遅い。
「なんだ、やっぱり聞こえてるじゃないか」
おじさんが嬉しそうに笑っていた。
軽くため息をついた。
「あの、間違ってるっていきなりなんですか」
おじさんがわざとらしく咳払いをした。
「友達もつくらずに本ばかり読むのは間違っていると言ってるんだ」
ありえない。
今一人でいるからといって友達がいないとは限らない。
登校時間は一人で、という子はいくらでもいる。
まあ、私は本当に友達がいないのだけど。
「友達がいないかどうかなんておじさんにはわからないでしょ」
おじさんと言われたことが衝撃的だったのか少しだけ固まったが、すぐに勢いを持ち直す。
「わかるんだよ、俺には」
馬鹿みたい。
私はまた本に視線を戻す。
おじさんは呆れたように私のことを見ていた。
「純粋に本が好きなら構わないけどさ、読書を言い訳にだけはするなよ」
私はドキリとした。
おじさんの方を睨みつける。
おじさんは何故だか優しく笑った。
「お前なら友達できるよ。足りないのはちょっとの勇気だけ。ほら、手を出せ」
私がそっと手を出すと、おじさんは何かを握らせた。
手を開くと小さな手作りのお守りが入っていた。
何故だか私は既視感を抱いた。
「これを持っていれば大切な人に出会えるんだってさ。俺はもう、死んでも守りたい奴らを見つけたから。今度はお前の番」
私は手作りのお守りを見つめる。
そんなの大事に決まってる。
「あの、やっぱりこれは」
もらえない。
そう言おうとして隣を見たが、もうおじさんの姿はどこにもなかった。
家に帰ってお母さんにこの事を話した。
「そのお守り見せて」
早口でお母さんはそういった。
私はお守りを手渡す。
それを見てお母さんは泣いて膝から崩れ落ちた。
お母さんのスマホにはそれと同じお守りがついていた。