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決戦日④

作成中のノベルゲームのシナリオを公開しています。

配信が終わり、みんなに感謝と別れの挨拶を行った彼女は、ふぅと一息吐き出してから僕の方へと視線を持ってきた。


未可「どうだった?特等席での観覧は?って泣いてるじゃない!?」

弘人「!?」


自分が泣いていたことにここで初めて自覚した。

服はびしょびしょで鼻水なんて大洪水だ。人の家でやっていい行為ではない。


未可「もう。はい、これ使って。」

弘人「あ、ありがとう……。」


差し出してくれたティッシュで鼻をかみ、少し落ち着いてきた。


未可「驚かせて悪かったわね。でもあんたがそんな風になるとは思ってなかったわ。」

弘人「うぅ……、面目ない。」


彼女は、誇らしさを全面に出した笑顔でうずくまる僕を見下ろしている。

でも、僕はなぜこんなになるまで泣いてしまったのだろうか?

たしかにツバサちゃんの新曲は感動したし、自室で一人で聞いていれば泣いていただろう。

でもここまでではない。自分が泣いていることを自覚できないほどに感情を揺さぶられたのか?


未可「やっぱり嫌だった……?」

弘人「え?なんで……?」


僕の浮かない顔を気にしてなのか、彼女はさっきとは一転して不安げな表情を見せる。


未可「だって、ツバサはバーチャルアイドルでしょ?中の人なんて見たくなかったよね?」

弘人「い、いや……、そんなことは……。」


バーチャルアイドルを推す人にとって、中の人など存在しない。

ツバサちゃんは生きているんだ。そういうファンもいる。

どっちかというと僕もそっち側の狂信者だと自覚している。

しかし、実際にそんなことはあり得ない。

着ぐるみには中に人が入っているし、アニメキャラには声優がいる。

そんなことはわかっている。そういう嘘をひっくるめて僕たちは好きなんだ。

でも……。


弘人「そんなことないよ。配信すごくよかった!感動した!」

未可「ほ、ほんと!?ならよかった!へへへ。すごかったでしょ!やっぱ生は!」


傷つくも傷つかないもこっちの勝手だ。

直接本人に伝えて、傷つけていいなんていう道理はどこにもない。

それにこの気持ちに嘘はない。

彼女は不安だったのかその言葉を聞いてとても嬉しそうだった。


……

………


弘人「それじゃあ僕帰るね。戸締まりしっかりするんだよ。」

未可「わかってるわよ。あんたが出た瞬間全力で鍵かけてやるんだから。」

弘人「それはそれで感じ悪いな。」


コンビニで怯えていた彼女はもういない。

それだけでよかったのかもしれない。


弘人「それじゃ。おやすみ。」


家から外に出てゆっくりと扉を締める。

外の冷たい空気が身体にあたり、冬の始まりを感じさせる。


そのとき、扉を締める腕に急に力が入らなくなった。


徐々に見えなくなる彼女と共に僕の中の何かが終わってしまうのではないか?

という得体の知れない不安感が僕を包む。


でも途中で扉を止めることはできない。

扉は開いたら閉まる。

それが世の理なのだから。


ガン!


扉が急に重くなった。

おそらく内側から開けてくれようとしている人がいるんだろう。


未可「あ、あのさ!今日は巻き込んじゃって本当にごめん。あと……、助けてくれてありがとう。」

弘人「……。」

未可「もし!もしもだよ?あんたがよかったら、ずっと応援しててほしい……。……。そんだけ。おやすみ。」


扉に隠れて彼女がどんな顔をしていたかはわからない。

でも彼女は彼女なりに勇気を振り絞って言葉を紡いでくれたのだ。

扉はゆっくりと閉まっていく。でも先程の焦燥感はまったくない。


そうだよね。何も変わらない。


コンビニに戻り、自宅に向かって自転車を転がす。

いつもよりもなんだかペダルが軽いや。

頬に当たる夜風も今日はやけに心地いい。


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