自由な日曜日
作成中のノベルゲームのシナリオを公開しています。
何も予定のない日曜日ほど幸せなものはない。
お昼頃まで惰眠を貪り、朝食か昼食なのか区別のつかない飯を食らう。
ご馳走さまと同時に自分の部屋へと戻り、電子の箱の電源を入れる。
猫のように決まったお気に入りのサイトをめぐる。飽きたらベットに潜るのも良し、ゲームを起動しオンライン対戦に興じるのも良し。
なんだってできる。
僕は自由なのだ。
しかしこの時、絶対に考えてはいけないことがある。それはリア充どものことである。
今頃彼女とイチャコラサッサしているんじゃないだろうか……。
嗚呼だめだ。1度考えてしまったら最後、僕の自由は不自由へと変わってしまう。
崩れてゆく最高の日曜日。さようなら幸せな日曜日。
時間は、15時20分。まだ間に合う。
僕はすぐに着替えをすまし、なんのあてもなく外へと飛び出した。
弘人「ここしかないか……。」
あてもなく自転車を転がし着いたのは、いつぞやの無人コンビニ。
ここなら紙媒体も売ってるし立ち読みもできるからいいか。
アプリを起動し自動ドアを開く。雑誌コーナーへ足を向けるとそこには見覚えのある姿がそこにあった。
弘人「げげ……。」
未可「げげとは何よ。てかなんであんたがここにいんの?」
僕は何もなかったかのようにアイドル雑誌を手に取り、ページをめくった。
様々なアイドルが誌面越しに笑いかけてくれているが、それ以上に横からの視線が気になり内容が頭に入ってこない。
未可「むむむむ……。」
ここでこちらから声をかけてしまったら何か負けな気がする。
変なプライドが僕を突き動かしているのか、常人ではあり得ないぐらいのスピードでページをめくる。
弘人「ふむふむ。なるほどなー。」
アイドル雑誌を速読しならが納得する変な人になってしまってはいるが、僕のちっぽけなプライド的には声をかけていない時点で勝利である。この勝負勝ったな。そう思っていた矢先に、
未可「無視すんなぁーーー!!」
弘人「うわぁぁぁ!?」
女は、僕が速読しているアイドル雑誌を上から奪い去った。
弘人「なにするんだよ!暴力ヒロインの所業だぞ!」
未可「無視する方が悪いでしょ!」
暇をもて余して、コンビニに足を運んだとは言いたくない僕の言い訳フェイズが始まる。
弘人「無視なんてしてないよ。ただおつかいを頼まれたからコンビニに来ただけだよ。そっちは?」
未可「私!?わ、私だってそうよ。おつかいよ。」
はは~ん。こいつも暇で立ち寄った口だな。
コンビニで立ち読みして時間を潰そうだなんて寂しいやつだ。
巨大なブーメランが飛びたっていった気がするが気にしない。
やり過ごした気でホッとしている彼女に一石を投じて鼻を明かしてやろう。
弘人「じゃあ一緒だね。せっかくの休みなのに人使いが荒いよね。で、なにを頼まれたの?」
人は嘘を重ねると必ず綻びが生じてしまう。完璧に嘘を突き通せる人間などいない。ましてや想定していない質問には整合性のついたことなど言えないものだ。尻尾を出せ、このやろう。
未可「へ!?え、えーっと……。さ、さんま?」
弘人「さんま!?」
当然の秋の味覚に僕は吹き出してしまった。
それを見た彼女は、しまったという文字が油性ペンで顔面に書きなぐられたような顔をしている。冷や汗をかきながら平静を保とうとしているが、その文字は消えない。
未可「あ、あんたはどうなのよ?」
弘人「へぁ!?ぼ、僕?」
まさか、ターンが返ってくるとは思ってもおらず、ウルトラマンみたいな声を発してしまった。
相手の質問に対して2秒以上の沈黙は敗北を意味する。どこかのお偉いさんがそんなことを言っていた気がする。
用意していない想定外の質問には整合性のついた答えはできないものだ。
ってそんなことを考えているうちにもう1秒は経ってしまったのではないだろうか。やばいなにか答えないと。
弘人「え、えーっと……、栗かな?」
未可「栗!?」
やってしまったーーー!!秋の味覚返しをしてしまった!
ここが商店街であれば自然な奥様方の世間話レベルにはなっていただろうが、ここはコンビニ。生鮮食材など置いてはいない。
ブーメランは予想外の早さで自分へ着弾した。
未可「ふふふ。あんた嘘下手すぎ。」
弘人「そ、そっちもだろ……。」
お互いに弱味を見せあったおかげか、なんだか気まずいような清々しいような変な空気間にコンビニ全体が包まれた。
未可「あんた、これ読んだ?」
そういって彼女が手にしていた”週刊アイドル丸見え”を僕に差し出した。
”週刊アイドル丸見え”は、アイドル雑誌の中でもいち早く特ダネをリークしてくれる信頼のおける雑誌である。
弘人「なになに?超大型アイドルデュオ誕生!?近日堂々デビュー。続報を待て!?」
未可「そうなの。記事によると超大手レコード会社とも連携するみたいなのよ。」
弘人「ツバサちゃんと誰かが組むのかな!?うぉーー盛り上がってきたぁぁぁ!!」
未可「それはない。そんな話聞いたことないし。それにバーチャルアイドルじゃないみたい。」
弘人「なんだー。バーチャルアイドルじゃないのか……。じゃああんまり興味ないかなー。」
未可「あんた本当にツバサが好きね。」
弘人「当たり前だろ!ツバサちゃんは俺の人生だからね!ツバサちゃん以外のことなんて眼中にないよ。ツバサちゃんが死ぬときは僕が死ぬときだね。」
やってしまった!
好きなものの話を振られて異様に饒舌になるオタクを体現してしまった。
「オタクのここがキモいアワード」ベスト10には入るやつじゃないか!
未可「ふーん……。あっそ。じゃあ私帰るから。」
弘人「あ、うん。」
彼女は、手にしていた雑誌を何かを隠すようにあえて乱暴に本棚に戻し、出口に向かった。
あんまり気にしていないようで良かった。
弘人「あれ?サンマは買っていかないの?」
未可「いらない!」
彼女が帰ったことを確認し、なにも買わずに家路についた。




