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眠っている間に夢をみた。
オレが昼のさ中(?)道路を横断していた。ミャーゴはいない。
のん気にボチボチと歩いていた。するとすぐ近くの角から車があらわれてスピードを上げながらオレの方へ向ってくる。エンジン音は高くなりひびき、オレはひき殺される!と思った。
その途端目が覚めた。
ガレージに置かれた車にエンジンがかけられ、ブォンブォン空ぶかししていやがる。
例の父と坊主だ。きっとオレがまだボンネットのすき間にいるものと思っているのに違いない。と思って覗いてみると、何と朝だ。
あの憎い坊主の父が出勤の為に車のエンジンをかけていたのだ。そんなに眠ってしまっていたのか…。
オレにとって死ぬほどの思いをした夜は去っていた。
朝方の冷え込みでオレの体温は下がっている。まだまだ眠い。だるい。もう少し寝ておこう!
夕方近くになって目を覚ましたオレは元々のエサ場であったこの家の壁面へと移った。まだ壊れた外灯にあかりはともっていない。しかし門灯にエサの群れを求めれば坊主やその父、それにミャーゴに追い回されてしまうのだ。
灯りのない壁面に当然オレのエサになってくれる蚊や小虫は寄り付かないが、その辺りをウロついている分ぐらいは何とか取れるだろう。体力もおおよそ回復してきて再び空腹に悩まされているが、これも生きていくためのガマンだ。
細々と生きていさえすれば、世の中きっといいこともあるに違いない。そう思いたいのだ。
平和の内に細々と食事を勧めながら夜半過ぎ…。またまたやって来やがった例の坊主。
懐中電灯でもってオレを探していやがる。まるで人間界のテレビとかいう機械でよくやっている脱走映画の一場面のようだ。
『やっぱりここにいた!』
やつら父子はきっと何か企んでいる。そうでなければこんなに執拗にオレを探すはずがない。
不吉な予感がオレの小さな心の中に潜り込んだ。
しかし今は大丈夫。何しろ坊主の手の届かない高さにいるのだから。少しでもエサを食っておかねばならないのだ。
この夜一応無事にオレは食事ができた。ミャーゴのやつも一度オレの様子を見に来たが、一声鳴いただけで去っていった。そして夜が明け、オレは久しぶりに屋根裏の暗がりへ身体を休めに入った。
その時!
以前にも経験したあのゾクッとくるようなしびれ感がオレの全身をつつんだ。オレにはすぐにその相手がわかった。
武蔵だ。やつがこの屋根裏にいる!
しかし前回の時よりはしびれ感が強くない…?ウン?
オレは様子をうかがった。
いたっ!
やつは屋根裏のハリにぶら下がらず、床にころがっていた。
「ウーム…!小次郎か?」
「生きていたのか?武蔵」
武蔵は傷つき病んでいた。破れた羽根(?)は戻らないのかどうかオレは知らないが、釣りバリを飲み込んだ口が裂けて、ただれていた。
オレは近寄った。今はやつはほとんど動けない状態なのだ。
「小次郎、オレに何か食べ物を運んできてくれ…」
弱弱しくつぶやく武蔵の言葉にオレの心は揺れた。
オレに武蔵を助けてやるような義務や責任はない。まして、やつはオレより強者なのだ。やつを助けたりしようものなら今度はオレがやつにやられてしまう。やつがサオ先にぶら下がってバタバタもがいていた時にもそう思ったじゃあないか!
<おい小次郎!間違ってもやつに食料など与えるなよ!>
オレは武蔵を見捨ててこの屋根裏を去ろうとした。やつの呻く声がオレの頭の中をかけ回る。
「小次郎!オレを助けてくれ…食い物をくれ!」
「オレにはお前を助けてやろうなんて気はないよ。もしもお前が元気になったりしようものならきっとオレを食おうとするに違いないからねっ!」
そう捨て台詞を言った。オレの口もとがかすかにふるえていた。
あの時はオレにだってどうしようもなかったじゃあないか。今はどうだ?今ならオレでも助けてやることができるんじゃあないか?どうする小次郎?
揺れる心とは別にオレの身体は武蔵のいる屋根裏から逃れようと動いていた。