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お話画廊シリーズ

3作目セイレーンたちの村

作者: はちす

 晴れわたった青空は、まるで世界から音を消してしまったようだった。

赤々と輝く一点の太陽が、白いタイルを更に白く照らす。

自分の靴の音が乾いたタイルに虚しく影を残していくように響く。


 「こんな村に来るとはあなたも物好きですね。」

 そう言い、汚い歯を剥き出すようにして男は笑った。

押し黙ったように佇む村と対照的であるこの男とは、この村の入り口で出会った。

頼んでもいないのに村の案内役を買って出て、誰の姿も見えない村を案内した。

 

 白い石畳が続く道を太陽に照らされながら男と二人町の奥へと歩く。


 終始会話はなかった。


 小さな村のはずなのに、奥へと続く道は、延々と続く。

こんなにも明るいのに建物から大きく伸びた影は、

獲物を狙っているようで不気味であった。

 

 ふいに一筋の風が通り、塩の匂いがふわりと漂う。

 

「この村は海が近くて新鮮な魚がよく取れるんですよ。」


 塩の匂いに反応する私に男は丁寧に答えた。


「御覧なさい。」

 

 必死にあるものを探す私にそう言うとふいに青空を指差した。

まさかと思い空を見上げる。

射抜くような太陽の光と雲ひとつない蒼穹の空を指差したその先に、

弧を描く一羽の鳥のような影があった。


「かもめですよ。」


 空を凝視する私に男は、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべ、答える。


「がっかりしましたか?」


 この村に私が何を探しに来たのかこの男は、分かっているのであろう。

無言でじっと男を見据える私に、冗談だと笑い、再び村の奥へと進む。


 しばらく進むと男は、ピタリと止まり

追い越した私の背中越しにゆっくりと口を開いた。


「あなたのようにここに来る人はいますよ。」


男の視線がじっと私を捉えている。


「なので、彼らが何を探しているか分かります。」


 警告するように男は振り返る私を見た。

私と同じようにあれを探しに来た彼らのことを私は知らない。

そして彼らの結末も知らない。

だが、私は、この先に目的があった。

男の視線を背に受けて、私は、立ち止まることなく、奥へと進んだ。


 塩の匂いが強くなった。そして、歌が聞こえた。

波の音のような穏やかな歌だ。

その歌に憑りつかれたように今まで警戒をして進んでいた足は、急に早足になった。

白い壁が続く道を奥へと走る。

もう私には、その先しか見えていない。


 延々と続いていた白い石造りの壁に突如椅子が列をなして姿を現した。

海風に曝され、塗装が剥げてしまったその椅子には、女が座っていた。

その椅子だけではない、全ての椅子に黒いドレスに身を包む女が座っている。

まるで、太陽に焼き付けられた建物の影のようだ。

私が通っても、微動だにせず、皆、口を固く結んでいた。

全員が虚ろな瞳で、空を見つめている。

生気を一切感じない女たちは、果たしてこの世に存在しているのだろうか。

私にしか見えない幻なのだろうか。


異様な光景の中、必死に探し奥へと進んだ。

そして、私はやっと見つけることができたのだ。

波のような優しい歌声が私を優しく包んだ。


「あなたには、この子の歌が届いたのですね。」


一人の女性の前で、先ほどの山高帽の男が佇んでいた。

その瞳は、目的のものを見つけた光もなく、

ただ、じっと目の前の女性を生気のない瞳で見つめていた。


「あなたも私の声が届かなくなりましたね、残念ですね。」



この村の通りを奥まで進むと海へと抜ける。

海では、翼を広げたセイレーン達が、まだ見ぬ人へと唄を歌っている。


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