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第3話 日常③

 登校時の茶番もあり、教室に入ったのは遅刻ギリギリの時間だった。


「あ、近藤くん、植松くん、おはよう!」


 席に座るなり声をかけてきた人物は、タカシの左の席に座る柳原薫ヤナギハラカオルである。

 積極的に話しかけてくれる女の子だ。

 明るい性格の彼女は毎朝笑顔で挨拶をしてくれる。

 振り返る際にロングの艶やかな髪が揺れ、瞳がこちらを向くと、毎朝ドキッとしてしまうのだ。


 俺はマサとばかりつるんでいたため、お世辞にも社交的な性格とは言えなかった。

 そんな俺は積極的に声をかけてくれる柳原さんには非常に感謝している。

 だが、やはりマサ以外の人間と話すのにはまだ慣れず、かなり緊張してしまう。

 ましてや相手が女の子となると尚更である。

 妹以外の女の子と話すなど皆無であった。


「オ、オハヨウ、ヤ、ヤナギハラサン。」


「やなぎっち、おはよう!」


 緊張から、今日もぎこちない返しをしてしまう。

 入学から1ヶ月はたつというのにまだこんな調子である。

 それを聞いた柳原さんはクスッと口元を緩めると。


「近藤くん、1ヶ月たつけど、まだ毎朝緊張しちゃうんだね。」


「やなぎっち、こいつは俺以外のやつに耐性がないからしょうがないんだよ。もう俺なしでは生きていけないからな。」


「うるせぇ! 誤解を招くようなこというなよ!」


「何言ってんだ、本当のことだろ? 照れるなよ〜。」


 マサが一方的にイチャイチャしてくると、柳原さんがクスクスと笑っている。

 入学当初こそ、柳原さんはそんな様子の俺たちを見ると恥ずかしそうに、


「そういう関係なの?」


 とおきまりの誤解をしていたが、今となってはじゃれあっている2匹の猫を見るような微笑ましい眼差しを向けてくれるようになった。


「本当に2人は仲がいいんだね。」


「あったぼうよ! 昔から一緒だからな!」


「だから小4からだからそこまで昔じゃないだろ。」


「あ、またその話する? そんなに俺を泣かせたいの? でも、そんなタカシも俺は……」


「あー! もうやめろ、わかったから!」


 そんなじゃれあう2匹の猫を見て柳原さんは少し寂しそうに。


「羨ましいな。」


「「え。」」


 柳原さんはそう言うと、ハッと口元を押さえて顔を真っ赤にさせる。

 それを見た俺もなんだか照れてしまい、顔が熱くなる。

 ただし、1人の解釈は違ったようだ。


「いくらやなぎっちだからって、タカシを渡すわけにはいかないぜ。」


 俺と柳原さんはぽかんと口を開けてマサを見て固まる。


「なんてな、冗談だよ。でもやなぎっちは昔の俺みたいで親近感が湧くんだよな、タカシの半分ならいいぜ!」


「……」


「ぷっ……あはははは!」


 何も冗談になってない気がするが、大真面目なマサを見て柳原さんは思わず吹き出してしまったようで、腹を抱えて笑いだした。


「ありがとう、でもね、せっかく隣の席になったんだし、ちゃんと友達になりたくてね。早く私のことにも慣れてほしいってのが本音かな。」


 笑いながらではあるが、柳原さんの言葉は芯が通っていた。

 本心からそう思ってくれているのであろう。


「あ、ありがとう。」


 そう返すと、柳原さんは笑顔で頷いてくれた。


「さ、1限目始まるよ!」


 こうして、いつも通りの日常がまた始まるのだった。

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