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第1話 日常①

「お兄ちゃん! 起きて!」


 どうやら妹のスズが起こしに来てくれたようだ。

 俺はすかさず頭から布団をかぶり直す。

 悪いがもう少し寝かせてもらおう。

 俺は朝にめっぽう弱い体質で、これは仕方ないことなんだ。


「なに布団かぶってんのよ! どうせまた夜遅くまでネトゲやってたんでしょ! この廃人! 死ね!」


 なんてことを言うんだ。

 決して昨晩0時までと決めてネトゲをやり始めて、気づけば朝の4時になっていたから眠いんじゃない。

 体質的な問題なんだ。

 認識を改めないと。


「スズ、違うんだよ、ぐほ!」


 布団から顔を出して言うより早く、スズは俺の枕を引っこ抜いて容赦無く顔面にその枕を叩きつけた。


「何が違うの! 毎日、毎日、妹に起こされて恥ずかしくないの!? さっさと朝ごはん作ってよね!」


「そうだね、10分したら起きるよ、どあ!」


 再び顔面に枕が勢いよく振り下ろされた。


「そう。わかったわ。と、特別に今日は私が作ってあげ……」


「よし! 起きた、今すぐ兄ちゃんが作ってやるから着替えて待ってろよ!」


 自分が作るとスズが言いかけたので即座にそれを遮った。

 あたり前である。

 朝から腹を壊すのはごめんだ。

 自慢ではないがスズは料理ができないのだ。

 できないならまだしも人体に有害な物質を作り出す。

 兄である俺としてはスズの将来が少し心配なのだが。


「なんかそれはそれでムカつくわね。まぁいいわ、早く作ってよね!」


 これが俺の日常である。


 俺こと近藤高志コンドウタカシは妹のスズと2人暮しである。

 ごく普通の家庭、ではなく、かなり変わった境遇となっている。

 両親は俺が小学4年の時に他界し、その後は父方の祖父母に育てられた。

 両親の死因については不明で、親戚に聞いたりもしてみたが誰も教えてはくれなかった。

 子供であった兄妹を気遣って詳細を伏せてくれていると、今は納得することにしている。


 両親がいないことで寂しさはあったものの、こんな境遇からか祖父母は異常なぐらいに俺たちに優しかった。

 幸いにも両親が生命保険に加入してくれていたため、経済的にも不自由はなかったし、両親が所有していた家も相続された。


 俺たちは祖父母の元へ引越すため、不動産屋にその家を手放して現金化することを勧められた。

 だが、俺たちは両親が残してくれた家を手放すことが寂しかったためそれを断り、祖父が高校入学までの間は家を貸すことで話を進めてくれた。

 そして、ようやく今年の春にめでたく高校入学となり、両親が残してくれた家に住むことになった。


 だが、想定外なことが一つ。


「お兄ちゃんご飯できた?」


 最愛の妹としばしの別れとなると覚悟していたが、「お兄ちゃんが1人で生きていけるわけないじゃない。」とスズも中学校を転校してまで俺について来てくれたのだ。

 シスコンである俺はスズがいないと寂しくて死んでしまうという事を、スズは十分に理解してくれているのであろう。

 お兄ちゃんは涙が出そうだ。

 両親を亡くした俺にとって、唯一の家族であるスズは心の支えなのだから。

 ただし、スズに甘えてばかりではいられない。

 俺はスズの兄なのだから。


「今日のネトゲは0時でちゃんと終わりにしよう。」


「あ! やっぱり昨日も遅くまでネトゲしてたんじゃない! このクズ兄!」


 朝食を作りながら、そんな他愛もないやりとりに幸せを感じる。

 だが、スズが転校して1ヶ月経つが、友達と離れて寂しい思いをしていないだろうか。

 ここ1ヶ月の間に頭の中で出かかっては引っ込む言葉が、ここに来て改めて顔を出す。

 余計なお世話なのだろうが、どうしても聞かずにはいられなかった。


「なあスズ、おまえ本当に転校してまで俺について来てよかったのか? 友達と会えなくなって寂しいだろうに。」


「……」


 時が止まったようにスズは微動だにしなくなり、黙って目だけを俺に向ける。

 その目は鋭く俺を睨みつけていた。

 どうやらかなり怒らせてしまったようだ。


「おい、スズ、どうしたんだ? やっぱり……」


「うるさい!!」


「うわぁ! ごめんなさい!」


「お兄ちゃんのバカ……」


 反射的に謝ってしまった。

 どうして怒らせてしまったのかはわからないが、今後このことには触れないでおこうと小さく頷く。


 その後、スズは朝食を食べ、怒ったまま一言も話さず学校へ出かけていった。


 でも、これがきっかけでスズのあんな本心が聞けるなんてこの時は思ってもみなかったのだが。

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