第4話 世界の再構築者
『ジリリリリィーー』
『ガン!』
俺は、けたたましく鳴り響く目覚まし時計を乱暴に止めた。
目覚まし時計を止めると、部屋には静寂が訪れ、壁掛け時計のチクタクという音が妙にうるさく聞こえる。
「もう、ひとりで起きれるようになっちまったな」
あれから、もうどれくらい経つだろうか。
俺の知る日常では、毎朝俺を叩き起こしてくれる奴がいたんだ。
「懐かしいな」
その頃の俺は甘々だった。
そりゃ、日常がこれからも続くもんだと思ってたから。
でもそんな日常も終わったんだよ。
そして、この新たな日常を精一杯生きていくんだ。
お前を取り戻すために。
「なぁ、スズ」
部屋から出た俺は「皆」の朝食を作るために、キッチンのあるリビングへとまだ薄暗い階段を降りていった。
ーーー
俺の日常は変わってしまった。
どうして……。
「どうして、こうなった!」
俺はリビングのキッチンに立って、この理不尽な状況に嘆き、叫んだ。
「ちょっとタカシさん⁉︎ 朝ごはんはまだですの?」
「お、お前! 危ないからそのフォークとナイフの持ち方やめろ!」
フォークとナイフを縦に握ったおきまりのポーズで、赤髪の少女が朝食を催促してくる。
(良い子は真似しないでね。)
「お前、いちばんお姉さんなんだから、ちょっとぐらい手伝えよ」
「うじ虫の作った料理を食べてもらえるだけ、ありがたいと思ってほしい」
なぜか椅子の上に正座している青髮の少女が嫌味を挟んでくる。
青髪の少女は静かに待っているようだが、手には早くも箸が握られている。
「そんなこと言って、お前いっつも3杯はおかわりするじゃってうわ! 危ねぇ!」
その握られた箸が俺めがけて一直線に矢の如く飛んできた。
箸は背後の壁に『ビーン』という音を立てて突き刺さった。
(よ、良い子は真似、出来ないか。)
「いや、それ当たったらアウトなやつだろ……」
「そう、じゃあ次はストライクを狙う」
(マジで勘弁願いたい。)
「あの……タカシさんは……ウジ虫……じゃない……せめて……ハエ」
(黄髪の少女さん。なんのフォローにもなっていないよ。ウジ虫の成虫はハエだよ。)
黄髪の少女も待ちきれないのか、テーブルに置かれた皿をペロペロと舐めている。
「こいつら、行儀が悪いどころの騒ぎじゃない……しつけがどうこうの次元を超えてるぞ!」
朝食を作りながら、命の危険を感じていると。
『ガチャ』
リビングのドアが開けられた。
どうやらこの家の主人が起きてきたようだ。
「おうスズ、いま朝ごはん作って……って! はぁ⁉︎」
「タカシちゃぁん。お腹空いちゃったわぁ」
違った。
「うわ、なんて格好してるんすか⁉︎ ちゃんと服着てくださいよ! てか、なんでここにいるんですか?」
その格好は……ご想像にお任せする。
そう、この者は主人ではない。
名前は月、先程の3人の少女の母親である。
この母親あって、この少女達あり。
ツキの姿を見たら、3人の素行の悪さもなんだか納得できてしまう。
ツキはこう見えても世界の再構築者である俺への監視と調査をしている。
あくまで監視役であるため、対象である俺へはあまり干渉しないと自分では言っていたのだが、どうも最近は気づいたら家に入り浸っていることが多い。
ツキは俺を監視してくれていて、俺が暴走した時はいつでも殺してくれるというのだ。
俺も、世界を滅ぼしたくなんてないから、暴走した時は殺してくれた方が地獄に行った後も気が楽だ。
しかし、殺される条件はもう1つありこちらの方が可能性としてはかなり高い。
世界の再構築者は何も俺だけではなかった。
それは不定期ではあるがこれまで何度も出現しており、覚醒と同時に暴走するため即時にツキや同族の者に殺されていた。
そして、またしばらくすると新たな世界の再構築者が出現する。
イタチごっこになっていたのである。
だが、世界の再構築者は世界に同時に1人しか存在できないという弱点をツキは確認していた。
俺がこのまま安定してこの世界に存在し続ければ、新たな世界の再構築者は出現しないことになる。
世界の再構築者との長年のイタチごっこに終止符が打てるのだ。
しかし、俺は依然として世界を滅ぼしかねない存在であることには変わらず、存在し続けることもまたリスクなのだ。
この世界を本当の意味で救うためには、「ある方法」により危険な能力そのものを無力化する必要がある。
その「ある方法」を実施するために、俺とツキは協力することとなった。
ただし、その「ある方法」にもリスクがあるのだ。
「ある方法」とは先ほどの赤髪、青紙、黄髪の少女3人と深く関わっており、そのリスクに触れてしまうと俺はツキに殺されてしまう。
「あらぁ。タカシちゃんひどいじゃなぁい」
料理をしているため俺の両手はふさがっている。
そんな俺に、ツキは遠慮なく歩み寄る。
「ちょっと! 近い! 近い! 危ないですよ!」
明らかに腕に当たっている。
ツキのたわわな胸が。
「うふふ。私に協力してくれてありがとうねぇ。でも、3人とは最後まで行けなくて残念よねぇ。私だったらいつでも……」
無防備な小動物にイタズラをしているかのようにツキがクスクスと笑うと。
『バン!』
勢いよくリビングのドアが開けられた。
「うるさーい! あんたら居候のくせに朝からなんなのよ!」
この家の主人である唯一の「人間」が怒り心頭で叫びながら入ってきた。
「あんたら」にはもちろん俺も含まれている。
あの日から俺も「あんたら」に属してしまったのだ。
この「人間」は俺のたったひとりの妹だった女の子。
あの日さえ来なければ、またいつも通りの朝を迎えられていたはずだった。
そう、あの日さえ……
タカシは、当時を振り返る。
ここまでは未来の話となります。
第1章以降はタカシが世界の再構築者として覚醒する以前の物語からスタートします。