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第3話 思い出の中③(★)

挿絵(By みてみん)


 親グモは前足にぶら下がってピクリとも動かない猫耳少女をいちべつすると、その足をなぎ払い猫耳少女を草むらへと投げ捨てた。


「く、くそぉおおお‼︎」


 その一瞬をついて俺は目の前にある目的地へと残る力を振り絞り走り出した。

 一刻も早く猫耳少女の元へ駆け寄りたかったが、それはこの一瞬の隙を作ってくれたあの少女の好意を裏切ることになる。

 その様子を見た親グモは俺が思い出の核へ近づいている事に気がついたのか、猛スピードで追ってくる。


「あと、少し」


 その目的地は、今は使われなくなった小さな小屋。

 この思い出の前の年にここへ来た時だろうか、スズと辺りを探検し見つけた2人の秘密基地だ。

 そう、思い出の核、スズはここに隠れている。

 その理由は……


「スズ!」


 おれは小屋のドアを勢いよく開けて中に入った。

 そこには虹色にかがやく球体があった。

 これが思い出の核なのだろう。


『バキバキバキ!』

『ギュジュァアアアア‼︎!」


 親グモが入り口を破壊して小屋に入ろうとしている。

 俺はすかさず既にないはずの左腕と、指が喰われた右腕でその核を優しく抱きしめた。







 次の瞬間。


 思い出の核から、優しく白く輝く煙が吹き出し辺り一面を白く染めた。


『ギョエェェ‼︎』


 その煙に包まれた親グモは灰と化して白い煙に飲み込まれていった。


 それと同時に、俺の意識も白い煙の中に消えていった。









「お兄ちゃん! ちゃんと持っててよ!」

「わかってるって! ほらちゃんと漕げよ!」

「わっ! わっ!」


 俺は妹が漕ぎだすと同時に静かに手を離した。


『がしゃん!』


 まだ手を離すには早かったようで妹は盛大に転んでしまった。


「お兄ちゃんの嘘つき! ちゃんと持ってるっていったのに!」

「持ったままだったら、いつまでもひとりで漕げないだろ」


 妹は地面に座ったまま涙目で俺を見る。

 自分の不甲斐なさが悔しい。

 その瞳からはそんな思いが感じられた。


「お兄ちゃんの教え方が悪いからいつまでたってもひとりで自転車に乗れないんだもん!」

「なんで俺のせいにするんだよ! スズが運動音痴なのが悪いんだろ!」

「お兄ちゃんのバカ! 嫌い! 」

「ああ! 俺もスズが嫌いだよ!」


 なんでわかってやれなかったんだろう。


 スズは俺に八つ当たりがしたかっただけなんだと。


 褒められたことではないけど、兄が妹のそんな想いを受け止めてやれず跳ね返してしまってどうする。


 その後、俺は部屋でひとりふて腐れて寝てしまっていた。


「タカシ? スズを見なかった? もう日が暮れるのに帰ってきてないのよ」


 母親にそんなことを言われて起こされた。


「え? 外で自転車の練習してるんじゃないの?」

「それが、いないのよ。ちょっと探してくるわ」


 もういても立ってもいられなかった。


「母さん、俺も行く!」

「もう暗くなるからタカシは留守番してなさい」


 そう言って母は部屋のドアを閉めた。


「俺のせいだ。妹に何かあったら俺が全部悪いんだ」


 頭より体が早く動いていて、気づいたら窓から外に出ていた。


 もちろん靴なんて履いてないけど、足の痛みなんてこの胸の痛みに比べたらどうでもよかった。


「スズが行きそうなところ」


 すぐに思いついた。


 去年、ここに来た時にスズと探検して見つけた秘密基地。


 そう、ここは毎年夏休みに家族で来ている祖父の田舎だ。


 きっと秘密基地に違いない。


 俺は全速力で秘密基地に向かった。


「やっぱり」


 秘密基地の小屋の前に練習すると田舎まで持ってきた女の子用の自転車が置いてある。


 俺は、小屋の扉をゆっくりと開けて妹の名前を呼んだ。


「スズ。遅くなってごめんな。迎えにきたよ」

「お兄ちゃん!」


 扉を開けたと同時に、俺の妹が飛んで抱きついてきた。


 そう、赤髪の猫耳の生えた俺の妹……あれ?


挿絵(By みてみん)

思い出の中のお話はいったんここでおしまいです。

本編でいずれ物語が繋がることとなります。

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