第2話 思い出の中②(★)
「う……うわーーーー! な、なんでーーー⁉︎ 俺の、俺の、俺の腕腕腕⁉︎」
気づいたら腕がないなんて、普通の神経の人間ならパニックになって当然だ。
「腕がぁ! あれ? でもなんで⁉︎ 痛くない……?」
パニックにより痛覚が遮断されたのだろうか、痛みは感じなかった。
「だ、大丈夫ですの?」
「あぁ。なんだか痛みはないんだけど感覚が……」
『タカシちゃん、大丈夫よぉ。そいつは思い出の中のタカシちゃんの一部を食っただけだから致命傷にはなってないはずよぉ。ただ神経が切り離された感覚が脳に刻まれちゃったから結構なリハビリが必要そうねぇ』
「そ、それって大丈夫って言わないです!」
『あらぁ。でも悠長にそんなことしてていいのぉ?』
気づけば猫耳少女が涙目で心配そうに残った俺の右手を握っていた。
「あっ! いつまで握ってるのよ! 大丈夫そうね」
俺が握っていたわけではないのだが。
「いやあんまり大丈夫じゃ、って後ろ!」
『キシャー!』
『ズシャ!』
猫耳少女はふり返りざまに飛びかかってきた子クモなぎ払った。
空中にいてはかわすこともできなかったのだろう。
子グモは真っ二つになり、直後灰と化し空中に消えていった。
「や、やりましたわ! タカシさん見ましたか⁉︎ 私やりましたよ!」
「あぁ。ありがとう。まだいるかもしれないから気をつけて行こう」
まぐれで当たったかのようにはしゃぐ猫耳少女に少し不安を覚えつつも先を急ぐことにした。
その後、猫耳少女は慣れてきたのか襲ってくる子グモをテンポよくなぎ払っては灰にしていく。
もう夕暮れを迎え、辺りが暗くなってきている。
「タカシさん! まだ妹さんのいる場所を思い出せませんの? 猫目だからと言っても暗くなると不利ですわよ!」
「いや、何年も前のことみたいでどうも思い出せないんだよ」
「それでも妹を最愛とする兄ですの?」
「くそっ、自信がなくなってくる、ってまたっ!」
「え⁉︎ 間に合わなっ、きゃ!」
『キュー!』
俺は残された右手で現れた子グモを全力で殴りつけた。
子グモは生き絶えたのか灰になって消えていったが、殴りつけた時に俺の右手の先に噛み付いたようで右手の指が全てなくなってしまっていた。
猫耳少女も反動で転んでしまい、膝に怪我をしてしまったようだ。
「大丈夫か⁉︎」
「ど、どうして。 あなたの方が大怪我なのになぜ私をそこまでかばうのです⁉︎」
「なぜって、おまえは俺の家族だからな」
家族と聞いた猫耳少女は涙した。
地面に座ったまま涙目で俺を見る。
自分の不甲斐なさが悔しい。
その瞳からはそんな思いが感じられた。
「そ、その目は⁉︎」
その瞳を見た瞬間、俺の中に眠いっていた思い出が蘇ってきた。
俺は猫耳少女の手を取り力任せに起き上がらせる。
「ひっ! きゅ、急になんですの⁉︎」
「俺、思い出したんだ!」
そして俺たちはある目的地に向かって走り出した。
だが、ようやく目的地の目の前まで来たところで。
『ギュジャーー!』
「お前、また出会っちまったな」
そこには子グモと比べようもない咆哮をあげる、あの最初に出会った親グモがいた。
「くそっ! やっと思い出しったってのにこれかよ」
「タカシさん! 行ってください。 ここは私が引き止めます」
「いや無茶だろ! あんなやつ勝てっこ……」
「嫌なんです! 私、お姉さんだから、あの2人の見本にならないといけないの」
「おい、待て! 無茶だ!」
猫耳少女は親グモへ怯むことなく突っ込んでいった。
親グモは前足をゆっくり頭上へ上げる。
「やめろーー‼︎」
『ズシャ!』
親グモが高速にスウィングした前足に、猫耳少女は避けることもできず胸を貫かれた。
ルコの挿絵はCHARATで作成しております。
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