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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

83人殺した私は、83回殺される

作者:

カテゴリは迷いましたが、一応ここで。

カテゴリはこっちの方がいいんじゃない?という指摘がありましたら、お願いします。

 


 一番初めの記憶は、4~5歳くらいの小さな女の子。


 優しい両親の元に生まれ、幸せに育ったと思う。

 歯車が狂ったのはいつからだったのか。


「神様を信じて」「神様の為に」「神様の~」

 いつの日からか、両親は神様。神様。神様。だった。


 ある日、わたしはひげがはえたおじさんに引き合わされた。

 そのおじさんは、「神様の為に。神様の礎に」って、何回も何回も繰り返した。


 両親は、「神様の為になるのなら、喜んで捧げましょう」って無理矢理わたしの頭を下げさせた。


 両親はわたしを何回も抱き締めて、美味しいものをいっぱい食べさせてくれた。

 滅多に食べられない甘いお菓子も食べさせてくれた。


 その翌日が、わたしの最後の日。



 最後の日、わたしは変なものを着せられた。

 いっぱいの線がついた見た事もないもの。


 それを着せられた後、いつもの普通の服を着せられた。

 ひげがはえたおじさんは、「使命を果たしなさい」って言ってた。


 両親は、「怖くないよ」「神様の御許にいける、光栄なことよ」って笑っていた。


 いつもと違う雰囲気に怖くて仕方がなかったけど、泣くのは我慢した。

 大好きな両親を困らせるのは嫌だった。


 わたしは、いつも一緒にいる大好きなウサギのぬいぐるみを連れていっていいかと聞いた。

 両親は笑顔で頷いてくれた。



 車で移動して、一人でおろされた。

 場所は、大きな街の大きな広場。

 休みの日だからか、大勢の人がいた。


 お母さんと手を繋いでいる子、お父さんに抱っこされている子。

 急いで走ってどこかに行こうとしている人。

 近くのお店でご飯を食べている人。

 色々な人がいた。


 たくさんの人がいる中、わたしはぬいぐるみのうさちゃんを抱っこしながら、一人で立ち尽くしていた。

 怖くて寂しくて仕方がなかった。


 子どもながらに、両親達の会話から自分は死んでしまうんだ。という事は解っていた。

 自分の身体についているのは爆弾で、13時になったらこの爆弾は爆発するんだって。


 自爆テロ


 街の人の話やテレビで聞いた事がある。

 わたしは、今から自爆テロをするんだ。

 そして、たくさんの人を殺すんだ。


 それはしちゃいけない事。

 でも、わたしはどうしていいか解らない。


 ブルブルと震えながら、うさちゃんを抱っこしていた。


 そんなわたしに、一人の人が話しかけてくれた。

 お母さんと同い年くらいの女の人。

 お腹だけが大きくて、赤ちゃんがいるのだとわかった。


「どうしたの? 迷子? お父さんかお母さんは?」


 優しく話しかけてくれたその人。

 だけど、わたしはうまく答える事ができない。


 ここにいちゃダメ。早く逃げて。

 わたしの側にいたら確実に死んじゃう……!


 ()()()の記憶はそれで最後。



 私なのかわたしなのか。

 あたしなのか僕なのか。

 俺なのか自分なのか。


 どこの誰かわからない記憶の中で、私は神様に会った。


 爆弾で83人を殺した()()()は、その償いをしなくちゃいけないって。

 83人を殺したわたしは、83回償いなさいって。


 ひげのおじさんと両親は、ある意味間違っていなかった。

 わたしは、神様に会えたのだから。



 その後、わたしは色々な人生を経験した。

 何回も何回も、違う人、違う人生を生きた。

 それで、気づいた事が一つある。


 人生の長さはそれぞれだけれど、終わりはいつも同じだった。


 出掛けている最中に、大きな音がしてそれで終わり。


 どこかで見た事がある風景、どこかで聞いた事がある街の名前。

 だけど、繰り返しすぎて()()()はもう思い出せない。


 その疑問は、最後の83回目で解消された。

 83回目のわたしは、女の人だった。

 優しい両親と兄弟達。


 ずっと付き合っていた恋人と結婚し妊娠。

 出産予定日が近づき、重たい下腹部を撫でながら、わたしは一人散歩をしていた。


 そこは大きな広場だった。

 中央に大きな噴水があり、そのまわりは芝生。

 広場は街中にある割にはたくさんの樹木で囲まれていて、人が大勢集まっていた。


 ベンチに座って休憩しようとしたら、立ち尽くす小さな女の子を見つけた。

 お腹の子が女の子と診断されていた為か、放っておけなくて声をかけた。


 他の人達が笑顔でいる中、泣きそうな顔をしている子を見てみぬ振りはできなかった。


「どうしたの? 迷子? お父さんかお母さんは?」


 女の子は驚いたようにこちらを見上げ、何かを伝えたいのか口がパクパクと動く。


 ――慌てなくて大丈夫だよ。


 そう伝えようとしたわたしの視界に、女の子が抱くうさぎのぬいぐるみが映り込む。


「……っ!?」


 理解した瞬間、83回目のわたしは終わった。



 天使によって神様の前に引きずり出された時、わたしは泣いた。

 わたしがわたしだった事を理解したからじゃない。


 83回目のわたしの愛し子を奪われてしまった事に泣いた。

 話しかけなければ良かった。

 あの時間にあの場所を通らなければ良かった。


 延々と自分を責め続けた。

 愛し子を抱く機会は、もう二度と来ない。

 あの時のあの子は、わたしのせいで死んでしまった。


 この先生まれ変わってまた妊娠したとしても、そのお腹の子はあの子じゃない。


 天使達は、泣き続けるわたしを冷めた目で見下ろしている。


 わたしが今まで体験してきた83回の人生。

 それは、わたしが殺した人たちの人生だった。


 ああ、神様。これが罰なのですね。


 神様は言っていた。

 幼子が逆らえない親に従っただけ。それでも、罪は罪なのです。


 そんな風にしなさいって言われただけ。

 それでも、83人を殺したのはわたし。

 神様の言っている事が、ようやく理解できたような気がする。


 今までの83人は、色々な人達だった。


 家族でお昼を食べに行く子ども。

 生まれたばかりの赤ん坊に会いに行く父親。

 誕生日のプレゼントを買いに行く母親。

 息子家族に会いに行く祖父。

 晩御飯の買い物に行く老婦人。


 たわいもない日常だった。

 83人以外の人も、ケガをした人もいるだろう。

 突然愛する家族を奪われて、わたしのように泣き濡れた人もいるだろう。


 ……ああ、わたしはとても罪深い。


 そう思った時、わたしはふと考え付いてしまった。


 実行したわたしはとても罪深い。

 それなら、わたしを使ったひげのおじさんは?両親は?

 あの人達は悪くないの?


 神様に聞いてみた。


 ―あの人たちももちろん罪深い。生を終えた時、あなたと同じように償う事になるでしょう。


 それはいつ?


 ―まだ、先のことです。


 神様に、天使が何かを耳打ちする。

 なんと、嘆かわしいことでしょう。


 そう、神様の呟きが聞こえた。


 ―あなたと同じ子が、また来てしまいました。


 わたしと同じ……


 ―親に命じられて爆弾をまきつけ、大勢の人を殺してしまった子です。


 ドクン、と心臓がはねた。


 ……それは、あのひげのおじさん?


 ――そうです。あなたの他に、4人の子が親に命じられて命を落としました。


 ……その子達も、わたしと同じように償ってるの?


 ――ええ、そうですよ。


 手足が冷たくなっていく。

 冷たい、とても寒い。


 ……神様、わたしはこれからどうなるんですか?


 ――選ぶことができます。何もかも忘れて眠りにつくか、新しい命として生まれ変わるか。


 ……神様、わたしは―


 そうして、わたしは選んだ。



 今回のわたしは、健康な男性に生まれ変わった。

 神様に願った事は、記憶を持ったまま生まれ変わらせてほしい。


 わたしの記憶を持っていないと、わたしの目的が果たせない。


 わたしの目的の為に、わたしはある組織へ入った。

 わたしの目の前には、ひげのおじさん。


 ひげのおじさんは、ある組織のボスだった。

「神様の為に」その為に、色々な人を殺していた。


 わたしがわたしだった時より、ひげも髪の毛も白くなっていた。


 ひげのおじさんの隣にいるのは、わたしの両親だった人。

 84回目のわたしになって知った事は、わたしを使った事で両親は認められて組織の幹部にまで登り詰めたということ。


 そして、さらに偉くなる為にまた子どもを生んで、また爆弾にしようとしていた。


 おじさんの護衛になったわたしは、爆弾の計画という重要な場にも立ち会えた。

 この場面を待っていたの。


 ひげのおじさんと両親。3人がそろう場面を。

 目的を果たす前に、わたしは両親に聞いてみたい事があった。


「生み育てた子を死なす事に罪悪感を感じたり、悲しいという気持ちはあるんですか?」


 両親もひげのおじさんも、こちらをキョトンとした目で見ている。


「どうしてそんな事を思うの? 使う為に作ったのに」


「前の子もですか?」


「そうよ。愛して抱き締めてあげた。最後に美味しいものを食べさせてあげた。十分幸せだったでしょう?」


 本気でそう思っているのだろう。

 両親は笑顔だった。


 護衛のわたしは、武器の携帯を許されている。

 この場にいるのは、ひげのおじさんと両親、わたしの4人だけ。


 他の人を殺さなくて良かった?

 それとも、他の人も殺した方が組織の壊滅が早くなった?


 解らない。

 解らないから、どうでもいい。


 わたしは、3人に向けて携帯していた火器を連射した。


 ズダダダダという音が響くたびに、蜂の巣になっていく3人。

 なるべく、顔は狙わないようにした。


 だって、顔がなかったら誰が死んだか解らないだろうから。

 死体を確認する他の人への配慮……のつもり。


 弾を撃ちつくして、3人とも動かないのを確認してから、わたしは自分のこめかみに短銃をあてる。


 3人を殺したわたしは、今度は3人の人生を経験するのかな。

 自分の子どもを殺す……?


 ……それは、嫌だな。


 嫌な気持ちを残しつつ、わたしは引き金をひいた。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  タイトルから想像した展開と本文のギャップにインパクトを受けた。  お話しの途中おじさんサイドにも良くない神っぽい何かがいるのではと想像したりして楽しませて貰いました。 [気になる点]…
[良い点] 話面白いけどめっちゃ悲しい(T_T) [一言] 普通に小説を読んでるみたいに読みました。 主人公が何も背負わずに、いつか幸せになって欲しい!!
[一言] 主人公さんいい人すぎる‥・。 優しいひとが結局苦しむことになるんですね・・・。 せめて全て終われば幸せになってほしいです・・・。」 くそボスとくそ両親が苦しむのはいいのですが・・・。 あ…
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