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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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2人の契約

 


「俺さあ、やっぱこういうのに弱いわけよ。寄り道で手に入る特別なアイテムとか、組み合わせ次第なら王道の能力にも負けないピーキーな能力とかさ」



 海原は足元に生えているえげつない色合いの花を触りながらマルスへと話しかける。



「……隠しコードへの該当ワードを確認。王道、ピーキー。……ヨキヒト、PERKの選択を続けましょう、どうしますか?」


 マルスからの問いかけに海原はニヤリと笑う。


 むしり。あの記憶映像の男が生やしたえげつない色合いの花を根っこからむしり取る。同時に隣に生える赤い果実も同じように毟り取る。


 赤い果実の名前は、PERK NO 0013 ロケットフィンガー。あのシエラⅠですら使うことを躊躇ったどうしようもないクソPERK。


 それとそれを海原は同時に大きく開いた己の口に放り込む。スモモサイズの果実と、バラほどの大きさの花を海原が咀嚼する。



 もぐり、もぐり。



「……宿主のPERK選択を確認。DNAコードへの干渉開始。セーフモードにつきコードの損傷は無し。隠しPERK 8、リローデッドとの併用習得を確認。PERKコンボ、シャッガン!!の発動が可能」



 もぐり。ごくん。


 僅かなあまみと苦味を海原は飲み込んだ。一瞬。指先がぶわりと熱くなったり、冷たくなっなたりを繰り返す。


 それで終わりだった。


「まあ、隠しPERKとか言われたら使わざるを得まい。浪漫は痛みを凌駕するからなあ……」


 海原はうーんと腕を組みながら瞑目する。割と早まった気もするが、仕方ない。



 男の子だから、隠しとかコンボとかいう単語に弱すぎるのだ。


「ふふ、ヨキヒト。貴方はやはりアリサよりも飛んでいる、どちらかと言うと博士寄りの人間なのかも知れませんね」


「流石にアレと同じは勘弁してくれよ、使えそうだから使うだけだ。いいね、ワクワクして来た。マルス、一緒に戦い方考えよーぜ」


 海原は体の内に意識を向けながらその場に胡座をかく。虚像とは思えないリアルな砂の感覚。海の音。


 バカンスのひと時となんら変わらぬ穏やかな時間が流れている。


「ポジティブ 他のPERKはいかが致しますか?」


 マルスが静かに笑いながら海原と視線を合わせるようにその場にしゃがみこむ。金糸の髪の毛が太陽の光を受けて複雑に輝く。



「そうだな、あとどのくらい俺はPERKを覚える事が出来るんだ? 無限?」



「むむ、正確に言えば将来的には、もしくは最終的には存在する全てのPERKをヨキヒトは習得は可能です。しかし、有効に運用出来るかどうかはPERKと宿主の相性もあるのでーー」


 マルスが首を傾げながら唸る。こんな表情もするのかと海原は少し驚いた。



「相性? 待て、そんなのがあるのか? 俺、割とノリでロケットフィンガー選んだけどもしかして……」


「ああ、心配しないで、ヨキヒト。それはこの目の前に生やした木から選んだものだから大丈夫です。私が相性を判断して、貴方が有効に活用出来るものだけをこうして果実という形で表現しているので」


 マルスが小さく笑いながらそっと、生えている果実を撫でた。



「PERK NO 0041!! 完装肌!! 盾も防刃ベストもないのに怪物の棲まう巣穴に放り込まれた? でも大丈夫! このPERKさえあれば貴方の肌表面はさながら鎧のごとき硬さを手に入れます! 並大抵のヤツらの爪など通しません。ほんの少しだけ乾燥肌になるので女性の方は保湿クリームを忘れずに……」



 果実からまたあのテンション振り切り気味の声が響く。マルスはその声を聞いてクスリと小さく笑った。



「博士は、私たちの機能を作る時、全てのPERKにこうして自分の声での説明を用意していました。ああ、懐かしい……」


 海原はマルスがどことなく嬉しそうにしているのが分かった。あのテンションにはついていけないが博士、とやらは悪人ではなさそうだ。


「……また突っ込みどころありそうなPERKだったけどそれも貰うよ。防御系の力もあったら便利だ」


「そうですね、完装肌はシエラⅠも初期に習得していました、デメリットよりもメリットの方が戦術的に上回っているという評価が記録に残っています」


 マルスがそのまま果実を毟り、手のひらに乗せてから海原に差し出す。


「そりゃ安心だ。頂きます」


 もぐり。海原はマルスの手のひらからそれをつまみなんの抵抗もなくもぐもぐと食べた。


 その瞬間、目の前に生えていた小さな苗木は巻き戻しをされているかのように地面に吸い込まれていく。


 海原が果実を飲み込む頃には地面に消えていた。


「あらら。これは、マルス?」



「進化限界ですね、現在のヨキヒトのレベルではPERKの習得はこの数が限界です。これ以上のPERK習得にはレベルアップが必要です」


「俺、レベルアップまで出来んの? すげえな。完全にゲームじゃん」


「ポジティブ 博士のアイデアです。曰くこれだけは外すわけには行かないとの事でした」



 マルスがそのたおやかな指付きで、ふと右の方向に向けて指を鳴らす。



 ずずずと砂が蠢く音がすると、地面から物体が生えて来た。



「なんだ、ありゃ……」



「ポジティブ トロフィーです、ヨキヒト。貴方が私と結合してから貴方の特定の行動に対してトロフィーとして経験を記録しています。私と貴方は経験によって強く、進化していく」


 トロフィー…… たしかになんかチョコチョコ、マルスがそんな事を言っていた記憶は海原には確かにあった。


「トロフィーを集めることで我々はレベルアップにたどり着く事が出来ます。怪物種の駆除だけでは無い。数々の経験を共に積みましょう。あまたのPERKを操るやうになって強くなり、生き残るのです」



 海原はマルスの言葉を聞きながら、砂にまみれたトロフィーを眺める。人間が狼を足蹴にして吠えている像や、人間が人間を足蹴にしてピースサインをしている像。



 あまり、平和な経験ではレベルアップ出来なさそうだなと、海原は苦笑した。



「おっけー、理解した。つまりここからはレベリングだな。脱出までの間で必死に強くなれって事か」



「その通りです。私はプロトコルに従い、貴方と共に、貴方を生かし、そして貴方と探さなければいけない。生き残らなければならない」


 金髪の美少女は力のこもる瞳で海原を見つめていた。海原の栗色の瞳とマルスの碧眼が互いを移す。



「ああ、そうだな。俺にはやるべき事がある。ここを脱出した後はすぐにそれを終わらせないといけない。マルス、協力してくれ。お前の力が必要だ」



「ポジティブ それが貴方の生きる理由ならば。何がしたいのですか、ヨキヒト」



 海原はその問いかけに詰まる事なく、答えを返した。



「ある男を、いや。樹原 勇気という男を殺す事だ。ヤツは必ず始末する」


 表明、ずっと前から決まっていたことのように海原はマルスへそれを伝える。


 碧眼が大きくなり、マルスの頰に僅かに朱が指した。


「ネガティブ 驚きました。ヨキヒト、貴方そんな表情も出来たのですね。……話してくれますか? ヨキヒト、貴方にそんな悲しい顔をさせる人物の事をーー」


 マルスは静かに、海原に寄り添う。


 海原は組んでいた手が震えていたことに気づいた。


 そっと、マルスの小さな白い手が海原の無骨な手を包む。



 海原は静かにこれまであったことをマルスへ伝えた。


 仲間と別れたこと、樹原を仕留め損なったこと、ここに来た理由。


 マルスは静かに、時たま質問も交えて海原の話をそっと聞き続けていた。



 精神世界の海が夕焼けにより赤く染まり始めた頃に、海原の長いはなしは終わった。



「ーー大体以上だ。悪いな、長い間」



「ネガティブ そんな事はありません。話してくれてありがとう。……よく頑張りましたね」



 海原はマルスの言葉に小さくうなづく。


 ここは、海原の深層心理を基に作られた世界だ。今、海原はマルスへ全てを話した後、自分でも分からないぐらいに、悲しい気持ちになっていた。



 それは寂しさにも似ていてーー



「ヨキヒト、泣かないで。私は貴方の味方です。アリサに選ばれた貴方と、まだ出会って時間はあまり経っていませんが、貴方のことは評価しています」



「それ、慰めてくれてんのか?」



「ポジティブ そのつもりです……。ヨキヒト、でしたら一つ、契約を交わしませんか?」



「契約?」


 夕焼けに照らされるマルスの顔、まっすぐと見つめる碧い目に海原は息を飲んだ。


「はい、私が貴方の願いに手を貸すように、貴方にも私の願いに手を貸して欲しい。契約は私の倫理コードよりも優先されます。樹原 勇気という民間人にも、我々の牙を突き立てる事が出来るようになる」



「マルスの願い?」



 海原は沈んでいく夕日と、マルスの顔を同時に見つめていた。



「はい。私の存在意義は貴方と共に在る事。しかし、今の私には願いと呼ばれる欲望が存在する。それは彼女達が私を兵器ではなく、生命に変えてくれたから」


 マルスの顔が、海原の顔と近づく。


 口付けの距離、しかしてその唇が交わる事は決してなく。



「これは契約です。私は貴方の目的に手を貸します。そのかわり、貴方も私に協力して下さい」


「交換条件。いいね、それ。健全だ。何をすればいい? マルス」



 海原は怖じけずにマルスをまっすぐと見つめる。その栗色の瞳には夕焼けの光が混じっていた。





「シエラⅠを、アリサ・アシュフィールドを殺して下さい。彼女は苦しんでいる。私は彼女を永遠の呪縛から解放してあげたい、それが私の願いです。我が宿主よ」



 マルスが、恭しく海原の前で両膝をつき、手を組む。


 まるで、神に捧げる祈りのようにーー


 海原は頭を掻いてそれから小さく唸る。


 よく見れば、マルスの組まれた小さな手は震えている。


 ああ、お前はやはりーー



 今度は海原がその手を包み込む。小さな白魚のような手を日焼けした無骨な手がしっかりと、しかし割れ物に触れるかのような繊細さで包んだ。



「マルス、やり方が違うな。契約というのは、そうじゃあない。お前達の宗教では神と人の契約はそうするかも知れないが、今回は違うぞ」


「ネガティブ…… 申し訳ありません、身体が勝手に」



 マルスが、力なく海原を見上げる。


 海原は静かに首を振り、組まれたマルスの小さな手のひらを解いていく。



 右手の細い小指を海原がつまみ出す。



「これは、神と人の契約じゃない。俺とお前。海原 善人と、M-66 強制進化促成寄生生物ーー、マルスとの契約だ」



 海原はそのマルスの細い小指に、己の小指を絡ませる。


 マルスが、目を丸くする。何をしているのかが分からないのだろう。



 海原はそんなマルスに笑いながら話す。


「これは俺の国で、友人と友人が約束を交わす時にする呪いだ。指切りだ。お前が一方的に祈るんじゃない。互いが交わす、契りの、約束」



「約束……? 対等な?」



「そう、その通り対等だ。俺がこの約束を破棄した時、お前がこの約束を破棄した時は平等に罰が与えられる」




 マルスが小さく頷く。海原も頷き


「始めようか。お前はそのまま小指を絡ませとけ。口上は俺が言う」


「分かりました…… ヨキヒト」



 2人の対照的な小指が揺れ始める。


 はじめに交わされようとした神と人の間にある決められた契約ではない。


 それは、人と人の約束。互いを尊重し合うこと、互いの願いが叶うようにと紡がれる、願いの為の願い。



「ゆびきりげんまんーー」



 ここに、人とその隣人との約束は交わされた。


 誰も知らない彼らだけの約束は、これから強く彼らを結びつけていく。


 たとえ、願いの約束が呪いに似ていたとしても、彼らにはそれが必要だった。




「ーーゆびきった」




 夕日が、沈む。


 互いの小指はしっかりと結ばれていた。



読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 組み合わせ次第で王道に匹敵する程度の能力なら魅力は無いですね。 組み合わせ、もしくは厳しい条件をクリアすれば、王道の能力など話にならないほどの力を発揮出来るのがロマンでしょう。
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