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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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みんな大好き、キャラクタービルド

 


「これ、りんごか?」


 海原は唐突に目の前に生えた苗木、それにまた唐突に実った赤い果実を眺めてそう呟く。



「はい、ヨキヒト。いくつか実ったその果実。それが今、貴方が得ることが出来る進化の道です。ちなみに、すでに貴方が得ているものは、あそこに実っています」



 マルスの細くて白い指が海原の背後を示す。


 海原が背後を振りお向くと丘のように高くなっている砂浜の上に、大きな木が一本立っている。


 ブロッコリーのようにかさが広がる低木だ。


 目を凝らしてみると小さな赤い果実が、二つ。緑の中に隠されていた。



「鉄腕と、爆発する踵。すでに貴方が得た進化の道はあそこに記録されています。貴方が生き続け、青い血を狩り続けていけばいつか、あの木はたくさんの果実を備えることになるのでしょう」


 マルスが柔らかく笑う。その笑顔の意図するものを海原が気付くことはなかった。



「さあ、ヨキヒト。この小さな苗木に触れてみて。進化の時間です」



 マルスに促されるままに、海原は目の前に生えた苗木に手を伸ばす。


 まずは、一番手前に成っているりんごに人差し指で触れてみる。






 〆PERK NO 0013 ロケットフィンガー。もう手持ちの弾がない? それなのに怪物に囲まれている? 大丈夫!! 貴方にはまだ10本の銃弾が残っている!西部劇のガンマンのように奴らの身体を穴だらけにしてやりましょう!! さあ、指先を厄介な化け物どもに向けて、ファイヤ!!〆



 果実に触れた途端、聞いたことのない男の声が響く。勢いよく、早口で紡がれるその言葉はまるでテレビショッピングのプレゼンターのようだ。



「マルス、マルス。なんか、りんごに触れた瞬間、おっさんの声が響くんじゃけども、不具合?」



「ポジティブ 仕様です。ヨキヒト。我々の開発者であるラドン博士は全てのPERKの名前と解説を自ら録音しています」



「不具合であって欲しかったわ、それ。てか説明文が若干分かりづれえ。このPERKはどんなPERKなんだ?」



 海原が初めに触れたスモモのようなサイズのりんごを指差してマルスへ質問する。


 マルスは小さくうなづき



「ポジティブ PERK0013 ロケットフィンガーはその名の通り、使用者の指をロケットのように対象に向けて射出出来るようになるPERKです。飛距離は最大700メートル。これは散弾銃を理想的な角度で発砲したのとほぼ同じ飛距離です」


「すごいのか、凄くないのかよく分からんPERKだな。というかなんか色々問題あるような」


「ポジティブ 以前、アリサはこのPERKについてこのようなコメントを残しています。……死にPERK。産廃。そびえ立つクソ。シエラチームのほかのメンバーも軒並み同じコメントを残していますね。現時点での取得者はゼロです」


 マルスの言葉に海原は、目を細めた。前任者にそこまで言われる能力。あの胡散臭い男の説明からはそこまで使えない物とは思えない。



 海原は少し考えて、マルスへの質問の仕方を変えた。



「マルス、この能力についてお前の感じるデメリットを教えてくれないか?」


 この聞き方ならどうだ? これなら融通の微妙に効かない目の前の生命体も答えてくれるはず。


 その悪評の理由を。


「ポジティブ データベースによるとまず、このPERKにより射出されるのは使用者の指そのものです。つまり使用の度に指を一本失う事になります」


 OH……やっぱり。


 海原は自分でも疑問に思っていた事が真実であると知らされて微妙な気持ちになった。


 何が指先を敵に向けてファイヤ! だ。高いテンションで能力のデメリットを誤魔化すやり方に更なる胡散臭さを感じる。



「またそれに加えて、このPERKには対怪物種において、充分な殺傷能力が認められていません。人体の一部をいくら高速で射出しても、怪物種のほとんどは硬い表皮を備えていますのでせいぜい、脅かす程度の威力にしかならないでしょう」



「そびえ立つクソだな。そりゃ。指一本無くして効果がそれかよ」



 海原はため息をつく。確かPERKは全てで3000個あるとマルスは言っていたはずだ。その中にはこのようにどうしようもないPERKも存在しているのだろう。


「まるでTVゲームだな……、使えない能力と使える能力があるなんて」



 海原はこれまでの経験から似たような事例を見つけていた。


 手慰みに仕事終わりにしていたコンシューマタイプのテレビゲームの事を思い出す。


 自由度が売りのアクションRPG、製作はマルスやアシュフィールドが生まれた国、アメリカ合衆国。


 確か、あのゲームも世界が滅んだ後の世界が舞台だったはすだ。



 攻略サイトや3ちゃんねると呼ばれる掲示板で色々情報を集めながらプレイに勤しんでいた事もある。


 キャラクターの能力も自分で決められる、いわゆるキャラクタービルドが採用されていた。


 ゲームの中でも確かこんな事があった。ピーキーな能力の割にリスクが高すぎてあまり選ばれない不遇な能力が。


 死に能力、不遇。得てしてたくさんの選択肢があると中にはこのように使えないものも発生するものだ。


 元来若干のひねくれ者の素地を持つ海原は最初の頃はあえてあまり有用ではない能力をキャラクターに覚えさせて攻略していた時期もある。


 なんとなく好きなのだ。そういう、王道ではないやり方が。


 心のどこかで凡人である自分と、不遇な能力に塗れた弱いキャラクターを重ねていたのかもしれない。


 元来持つものや、能力に恵まれなくてもなんとかなるんじゃないか。


 そんな後ろめたい希望があったのかもしれない。


 海原はそんな懐かしき在りし日の世界に思いを馳せていた。


 そーいや、部屋にあったゲーム機もあの夜の光に焼かれてしまったんだろうか?


 海原はもう二度と再開出来ない冒険を想い、少し悲しくなった。


「ヨキヒト、どうしますか? PERK NO 0013 ロケットフィンガーは現時点での貴方にも習得が可能です。もし、必要ならその果実をむしり取り食べて下さい」



「いや、流石にこれはなあーー」


 海原がマルスに却下の意思を伝えようとした瞬間、脳にピンと何かが走る。



 奴らの身体を穴だらけにーー。


 あの胡散臭い説明音声がふと海原の脳裏に再生された。


 そんなしょーもない威力なのに、穴だらけ?

 適当な事を言ったのか?


 それは海原の無意識が成した偶然だった。これまでに自由度の高いキャラクタービルド有りのオープンワールドタイプの洋ゲーに親しんでいた海原だからこそ得た閃き。


 引っかかり。弱き力も簡単には捨てられぬ持たざる者であるが故の気づき。



「……マルス。PERKの同時起動とか出来るのか?」



「どういうィミデスか?」


 途端、マルスの姿が一瞬ブレた。まるでテレビの映像に砂嵐が走ったような姿。


 海原は目を掻いて眼前のマルスを確認する。太陽の光が急に逆光になりその表情が見えない。


 黒い影法師に顔を塗りつぶされたその姿へ向けて海原は迷わす言葉を向けた。



「PERKとPERKの同時起動は出来ねえのか? それさえできりゃあ、このロケットフィンガー、そんなにクソ能力でもないかもしれねえ」



「ツまり?」


 マルスの様子がおかしい事に海原は気付いた。あれほど流暢に話していた言葉が今や操り人形のようにどこかちぐはぐさを感じるものになっている。



 海原は言うか、言わまいかを一瞬逡巡する。


 それでももう、自分の閃きを伝えずにいられない。


 思い出した。


 海原は割とこういうのが好きだった。自分の意思でキャラクターの能力を決めて、何が出来て、何が出来ないのかを考えたりするのが、好きだったのだ。


 それが自分の身体で出来る。その事に自分でも気付かない内に訳の分からないほど高揚していた。




「だから、組み合わせだよ。鉄腕を発動しながらロケットフィンガーは使えないのかって聞いてんだ。コンボっていうのか? 一見使えないPERKも組み合わせて使えれば割と使えるモンになるんじゃねーの?」



 がちんと海原は拳を突き合わせながら己の思い付きをマルスへ伝える。


 鉄腕で指を硬質化させた状態で、ロケットフィンガーにより銃撃のように指を発射する。


 言葉にするとイかれた印象を受けるが、これさえ出来ればーー




「隠しコードへの該当ワードを確認。PERKとPERKの組み合わせ、コンボ。該当ワードの確認、規定数を超えました」



 マルスの様子がおかしい。その姿がブレ始めている。


「シークレットオーダー発令。宿主、ウミハラ ヨキヒト、コールサインシエラ0に対しての開発者メッセージの開示を行います」



 ビビビビビ。


 マルスの姿、人の輪郭がとろけていく。テレビの砂嵐が人型になったかのような異質な光景。


 海原が口をポカンと開けているうちにその変化はいつのまにか終わった。


 マルスの姿は、アリサ・アシュフィールドの似姿ではなくなっていた。


 白衣、ボサボサの髪に色は紫。クマのついた目でこちらを見下ろす海原と同い年くらいの男性に変わっていた。


「は?」


 海原は思わずと言った様子で声を漏らす。ぬぼーとこちらを見下ろす白衣の男は、海原に気付いたような仕草をした瞬間、ニヤリと表情を崩した。



「コオオオオングラッチレエエエショオオオオン!! おめでとう! 知恵ある凡人よ!! この、ワタシ、人類最高の天才にして、地球最後の至宝、ラドン・M・クラークの発明の真価によおおおおく気付いた!!」



 あ、これやべえ奴だ。海原は喜色めいた姿でこちらを見つめるその男に対してヤバさを感じていた。


読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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