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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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VSホット・アイアンズ

 

 何事もなく田井中の元へ戻ることができた海原は首を傾げながらマルスへ語りかけていた。


 田井中を一度柔らかな砂原に運び、寝かせている。



「マルス、本当にやり方これでいいのか? アメリカン過ぎない? テキサススタイルが常に正しいわけじゃないとおもうぞ」


 絶妙に頭の悪い言葉を海原がのたまう。その手のひらには先ほど収穫したバナナの形をしたミックスフルーツが握られている。



 ……仰向けのまま意識を失っている田井中の顔面のすぐ上で。



 'ポジティブ シエラチームサバイバルガイドに記録されている方法、また論理的には考えてこの方法が一番効率が良いはずです'



 マルスが海原に指示したのは、非常に大雑把なやり方だった。


 田井中の顔面の直上で、各種のミックスフルーツを絞り、ジュース状に垂れ落ちるそれを直接ガツンと飲ませるというアメリカンスタイルだ。



「いや、これ口に一体どれくらいの量が入るんだよ。殆どが顔面に溢れるだけだと思うぞ」


 海原はどうしてもこのやり方を飲み込めていない。マルスへ意義を伝え続ける。



 'ネガティブ シエラ0。ならば代案を。この他に意識を失っている者への経口摂取を促せる方法があれば、提案して下さい'



 マルスも負けじと言い返す。妙に頑固なところがあることに海原は気付いていた。


 だが、一理ある。代案もなしに相手の提案を批判する事は確かに良い事ではない。海原は目を瞑って、それから思いついたように



「分かった、あれだ、人工呼吸の容量で!」



 'ネガティブ 却下です、シエラ0。現環境下においては不衛生すぎます。外部においては微生物はいなくても少年の体内には常在菌が多数存在しています、リスクは避けるべきです'



 すぱりと、海原の意見は切られる。小さく息を吐いてから分かったよ、と諦めたように呟いた。


「…じゃあ始めるぞ」


 'ポジティブ オペレーション・アイアンブラッドの開始を確認。口元の上でミックスフルーツを絞ってあげて'



 ふん、と海原はPERKにより硬化した手のひらでバナナの形をしたミックスフルーツを握りつぶす、硬い皮ごとぐしゃり。


 ぼちゃ。びちゃ、と水っぽいスイカのような果実と果汁が田井中の小さな唇を汚した。



 '次'


「あいよ」


 同じ形のものを同じように絞り込む。握り潰す。鉄腕、鉄の如き硬さを持つ手のひらが硬い皮を押しつぶしていく。



 べちゃ、ぼちゃ。



 赤い果汁がまた、田井中の唇を溺らせていく。


 なんだ、これ。俺まじめに助けようとしてんのに、なんだこの絵面。



 海原が、マルスへ再び別の方法の模索を伝えようとした、その時だった。



「……ぐっ、う…」


「え?!」


 'そら来た。続けて、シエラ0。ミックスフルーツは確かに彼の覚醒を促しています、心音僅かに上昇中'


 唐突に呻いた田井中、あまりのことに固まる海原、どこか得意げに指示を繋ぐマルス。


 見れば、今、田井中の喉仏が動いていた。


 わずかに嚥下していた。


 飲んでるのだ、無意識だろうがなんだろうが、ほんとに田井中は生きている。



 まじかよ、と海原は心の底から驚きながら次のバナナの形をしたミックスフルーツに手をかけた。



 'ネガティブ シエラ0。今、彼は息を吹き返しかけています。ここは一気に押しましょう'


「……どういう意味だ?」


 'そのバナナタイプのミックスフルーツではなく、スイカタイプを顔の上で絞りましょう。方法は問いません'



「……マルス、ふさげてないよな?」


 'ネガティブ 現在我々は作戦行動中です。ふさげるという概念がなんなのかを、私は理解すら出来ません'


 ああ、もういいや。


 海原は半ばやけになりながら、スイカタイプのミックスフルーツを手に取る。


 サッカーボールサイズの良い実だ。きっと柔らかな掌で叩けばボンボンと小気味よい音が返ってくるに違いない。





 'シエラ0、始めて下さい'



「あいよ」



 くるり、海原は器用にスイカを掌で転がす。


 両てのひらで、挟み込むようにスイカを田井中の顔の上で掲げてーー



「ソォイ!!」



 パン!


 胸筋に力を入れそのままはさみ潰した。鉄の手のひらで押し込まれたその様はまるで万力で無理やりに潰し込んだようだ。


 水風船が弾けるように、哀れスイカタイプのミックスフルーツは弾け飛ぶ。


 気持ちの良い薄緑色の果汁と果実が田井中の顔面、そして勢いあまって海原の顔面に弾け飛んだ。


「……メロンだ、これ」


 ぺろり、口の周りに弾け飛んだ果実を海原が舌で舐める。


 甘く滋味深いその味はメロンそのものだった。


 ごくり、ごくり。田井中喉も気味が悪くなるほどよく動いていた。


「……ぐっ、ゲホっ、ゲホっゲホッ。……う、あ。なん、だ……これ、メロ………ん?」



 まさか。


 海原の目の前で、顔中をべちょべちょにした田井中が噎せていた。赤と緑の果汁がべとりと金色の髪に絡んでいる。


 薄い瞼が、ゆっくりと開かれる。果実のダマがまつげに引っかかっていた。



 'ほら来た。シエラ0。彼の心音さらに上昇。脳波がはっきりと活動を開始。救助対象の意識の回復を確認'



 僅かにドヤぁ、と聴こえてきそうなマルスの声を無視して海原は田井中の顔の近くへしゃがみこむ。



「田井中、俺だ。海原だ、分かるか?」


「う、みはら? ……オッサンか! ゲホっ! ゲホっ! どうして、ここに……。生きてたのか……」


 田井中と海原の目が合う。意識もしっかりしていそうだ。

 噎せながらも徐々に目の光を取り戻していく。


 海原は田井中の肩を支えるように動く。



「……何があった? 田井中。お前、身体は大丈夫なのか?」



「あ? くそ、頭が痛え。あんたこそ、よく無事だったな。キハラの野郎はアンタを殺したって言ってたが……」


 海原はその言葉に目を向く。


 樹原、勇気。ギリィと奥歯を噛み締めた。


 'ネガティブ ドーパミンの過剰放出を確認。落ち着いて、シエラ0、まずは、彼をキャンプ地点まで運びましょう、水を飲ませなければなりません'



「……ああ、分かった。田井中、詳しい話は後だ。水場まで行くぞ。俺が運ぼう」


 海原は田井中の肩と腰に手を伸ばそうとする。



「……よくわかんねえが、確かに水が飲みてえ。いや、いい。だいぶ楽になったからよ…… ()()()()()()()



 海原が、いや無理だろと言おうとした瞬間、田井中がその場から転げた。



 立ち上がろうとして失敗したみたいだ。まるで自分の手足がどうなっているか理解していないよでいてーー



「ーーあ?」


 ころりん。仰向けに再び田井中が転げた。


 当然だ、彼には今、身体を支える腕も、持ち上げる脚もないのだから。



 田井中の表情はポカンと口を開けていた。


 まさか、コイツーー


 海原はその光景を見て、背筋に汗を掻いた。



 気付いてーー



「お、おい、田井中、まさかお前ーー」



 田井中は仰向けになった状態で、肩口しかない腕と、根元しか残っていない脚に交互に目を向けていた。


 その目が一気に血走って。



「あ、あれ……、おい、なんだこれ……、腕が、ねえ……、脚もーー、あ」


 ぱかりと田井中の口が開く。瞳孔はせわしなく揺れて、閉じたり開いたりを繰り返していた。



「あ、あ、あァ、イヤだ……、イヤだ……、来るな……、くるなああああああァァァ!!」





 'ネガティブ!! シエラ0! ブレイク! ブレイク!! 離れて!'



 マルスの声が警報のような勢いで、海原の頭の中に広がるのと



「あ、ああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



 ケモノのような叫び声を田井中があげるのはほぼ同時だった。



 輝く砂が一気にその場に捲き上る。光り輝く砂嵐の中に海原は巻き込まれた。



「う、お!?」


 それは偶然だった。


 たまたま、目を隠そうとPERKで硬質化した両腕を掲げた。


 ぎいいいん!!


 金属と金属がぶつかる音が耳を打つ。


 痛みはない、ただ偶々掲げた腕に何かがぶつかった。


 同時に海原は巨大な質量によって後方へ吹き飛ばされていた。


「がっ、お、べ?!」



 水切りの石のように砂原を海原が転がる。ようやくのところで無理やりに腕を地面に突き刺す。


 ぎゃり、がゃりと金属音が鳴り、ようやく身体が止まった。



 'ネガティブ 三半規管へのダメージコントロール開始。各部関節の状況確認、グリーン。骨折なし、打ち身多数'


 マルスの声がすぐさま響く。痛む頭を抑えながら海原は必死にその場から起き上がった。



「ま、マルス、何が起きた? 田井中は無事か?」


 海原はぺっと、口の中にまぶりついた砂を吐き出すと赤い血もぺちゃりと飛んだ。


 'ネガティブ 落ち着いて、シエラ0、状況の確認を'



 もくもくと、海原の眼前は輝く砂煙で隠されている。


 がら、がら。おそらく周りのあの岩場が崩されているような音が砂煙の向こうから響いていた。



 うおん。


 なんだ、あれは。


 その砂煙の向こうで、何か巨大な影が見えた。


 砂煙が裂かれる。


 なんだ、あれは。


 海原の目の前、砂煙が再び裂かれる。


 隠されていたものが見えた。


「……っ、田井中」



 田井中誠がそこにはいた。


 仰向けのまま、身体を四つん這いにしている。


 ブリッジだ。ブリッジの姿勢で、田井中は呻いていた。


 田井中のそれぞれの失った四肢から何かが生えていた。


 赤黒く胎動するそれは、まるで血が意思をもって何か別の生き物のように動いていた。


 右腕、左腕、右脚、左脚。


 失っていたはずの四肢が今、田井中に備わっている。


 ひどく歪で、めちゃくちゃな大きさだったが。


 まるで人間の四肢に蜘蛛の足が備わったようなーー


 血で出来た蜘蛛の足だ。それが田井中の身体をブリッジの姿勢で支えていた。


 その異様のなんと巨大なことだろうか。


 かちり、かちり、と音を鳴らして蜘蛛の足が立ち上がる。


 7メートルはある。



「あ、あああアアア、ウデエエエ、アシイイイイ」


 田井中は白目を剥きながら叫び続けている。


 その目はもう、海原を写してなどいない。


 'ネガティブ 対象のバイタルに異常な数値を確認。……まさか、深化現象……? シエラ0、現時点より作戦行動の破棄、速やかにこの場からの撤退を進言します'


 マルスからの声がよく聞こえない。でも何を言っているのかはよくわかった。



「田井中……お前」


 乱れる心を眺めるように薄く目を閉じる。異様な光景、その中で一つだけ分かる事があった。


 田井中は怯えている。何かをひどく怖がっていた。



 海原の脳裏に、あの時の光景がフラッシュバックする。


 別れ際、鮫島の笑い顔。何も出来ない自分をそれでも信じていたあの顔を。


 仲間へ届かなかった弱い手を、思い出す。


 冗談じゃない、またあんな惨めな思いをしなくてはならないのか?


 冗談じゃあ、ない。



 二度とーー



 大丈夫、大丈夫。俺のやりたい事は決まっている。


 海原は拳を固める。


 余計な事を考えるのを止めた。


 必要な事だけを、己の中へ棲まうモノへ伝える。


「マルス、それは許可出来ない。考えろ。作戦は続行だ。なんとしてでも、田井中を救うぞ」



 海原善人はもう二度と仲間を置いていく事は出来ない。


 今はあの時とは違う。今の海原には己の願いを現実へ突き立てる為の牙が備わっている。





 VSホット・アイアンズ


読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!



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