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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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クラフトが出来ない系のサバイバルゲームなんです。

 

「サルーテ!!!」


 '独特な気合いの入れ方ですね、シエラ0'


 緑地帯、輝く白い砂原に突如現れた青々とした緑地帯の中、男の声が響き渡る。


「ふと、叫びたくなってな。よし、PERK 起動。鉄腕!」



 海原はそのまま思い切り握りこぶしを作り、それを真正面に打ちつける。


 'ネガティブ シエラ0! なんですか、 そのテレフォンパンチは?!もっと腰を入れて、身体全体をぶつけるように打ち込んで!!'



「なんだ、そのパンチへのこだわりは?

 !」


 どおおおおん。どおおおん。


 海原はマルスからの叱責かアドバイスかよくわからない言葉に反論しながら、PERKにより変異した鉄のごとき腕を振るい続けていた。


 海原が拳を打ち付けるたびにそれは震える。


 それは地上に生えているある植物と酷似していた。南国の砂浜、無人島の絵文字のシンボルとして広く知られているそれ。


 ヤシの木。それによく似ている樹を海原はひたすら殴り続けていた。


「くっそ!! 普通! こういうのは! 斧とか! ピッケルとかよお!、それがサバイバルゲームの約束だろ!」


 言葉を紡ぎながら海原は樹をひたすらに殴り続ける。海原がそれを振るうたびに樹の皮がめくれてあたりに散らばって行く。


 'ネガティブ 貴方の両腕は今や、並大抵の金属を凌駕する密度を誇ります。これが最速の方法です'


 マルスの指示通り、海原は鼻を鳴らしてひたすら樹を殴る。


「なんか! こういう! ゲーム! した事あるぞ! 素手で木を殴って、藁とか木材とか集めるゲーム!」


 '……隠しコードへの該当ワードを確認、カウント1。……ーー、失礼、シエラ0。今、何か言っていましたか? 一瞬ノイズが入ったせいか記録が残っていません'


「いや! べつに! 大した事じゃねえ! よ! オラァ!」


 マルスからの言葉を海原は聞き流して、拳を打ち付ける。


 ハアハア、と息を荒げながら一旦拳の乱撃を止めて、一歩、二歩とその場から下がる。


 芝生を踏みつけながら海原は上を仰いだ。高い木の天辺、大きめの葉が何本も広がり、その葉の根元の部分には、丸い形や、棒状の形をした何かがわずかに見えた。



 わずかに、しか見えないのはその樹の高さにあった。



「マルス、これ何メートルあるんだ。この樹」


 'ポジティブ 約30メートルほどです。10階建のマンションとほぼ同じぐらいでしょうか'


「……まじかよ」


 'ポジティブ ちなみに地上にあるこれと酷似したヤシの木もそれくらいの大きさのものは存在します。生命の神秘ですね'


 どこか呑気なマルスの言葉に、小さくなるほどと返事をしてから海原は再び拳を握る。



 この樹が備える果実、それを海原は手に入れようとしていたのだ。



「どっこいしょおおお!!」


 鉄のごとき密度の拳が樹を叩く。振動が木を大きく撓ませる。



 マルスの言う通り、腰を回す。上半身を固め、身体ごとぶつけるように拳を繰り出して行った。



「オラァ!!」


 みしり。樹が軋む音が拳を通じて海原の身体に響いた。



 'ポジティブ 素晴らしい。シエラ0離れて下さい。樹が倒れます'



「いや、お前、離れて下さいって言っても……」


 海原がワタワタしながら上を見上げる。へし折られた樹が傾いて行く。高すぎてどちらに倒れるのかがわからない。



「うお、うお、おおお?!」



 'ポジティブ そのまま樹を押し倒して下さい。急いで、早くしないと潰されます'



 海原は言われた通りに樹を思い切り押し倒す。重たい、初めはビクともしなかったがぐいと力を入れると向こう側に倒れていく。



 ずん、と大きな振動を放ちながら巨木が倒れていく。輝く砂煙が辺りを舞う。


「……これでいいか?」


 げほりと咳き込み、周りの空気を払いながら海原がマルスへ呼びかける。


 'ポジティブ シエラ0 この果実の表皮は硬くこの程度ではビクともしません。急いで収穫へ向かって下さい'



 海原はそのまま足元に置いていたナップザックを拾い上げて、樹の天辺部分まで駆けて行く。



 とっと、とっ。と軽い足取りで進む海原はすぐにそれら、果実を見つけた。


「なんだ、これ。スイカ? いや、バナナも……? ここじゃあ果物もデタラメなのかよ」


 海原は倒れ伏した樹の天辺部分に転がっている果物を見てそう言葉を漏らした。


 その果物は奇妙なほどに地上にあるものと似ていた。緑と黒の縞模様、まあるいフォルム。スイカ。緑色で房により繋がり棒状の果実が複数ついてあるそれ、バナナ。


 スイカとバナナだ。それだけ見れば何の変哲もない果物なのだが、不思議な事に1本の木に複数の異なる果実が生っていた。



 'ネガティブ シエラ0、この果実は地上のものと酷似していますが実態は異なります。正式名称はつけられていませんが、シエラチームはこれをミックスフルーツと呼んでいました'


「ミックスフルーツ? ジュースじゃなくて?」


 'ポジティブ ちょうど良い。貴方自身まだ栄養素は必要です。そこにあるミックスフルーツを食べてみてください'



 海原は言われた通りに地面に落ちている果物を拾う。選んだのは手頃なサイズのバナナの形をしたものだ。


 手に取った瞬間に、その異質さに気付く。



「え、硬い? なんだこれ? 食品サンプルか何か?」


 硬化した海原の手のひらがそれを掴んだ瞬間、カチリと音が鳴った。食器同士を軽くぶつけたような音だ。



 'ポジティブ ミックスフルーツの特徴はその異常なまでの表皮の硬さにあります。シエラ0、PERKを起動したままの摂取をお勧めします'


「鉄の腕じゃねえと剥けねえ果物ってなんだよ…… うお、ほんとに固えな」


 海原はぼやきながら手に取ったバナナの形をした果物を剥き始めた。


 マルスの言う通りたしかに硬い。先端を摘んで普通に皮を剥こうとするも、なかなか皮の先端が破けない。



 ふんぎと力を入れるとまるで、缶詰の蓋を剥がすような音とともにようやく皮が剥けた。



「うっわ。おい、マルス。マルス君や。これ、お前なんだ、これ」


 海原が驚きの声を上げた理由は単純、果肉の様子がおかしかったからだ。


 バナナを剥いたらその果肉が赤く瑞々しかった。海原はこの果肉を見たことがある。


「……スイカじゃん、これ」


 'その通り、ミックスフルーツは既知の果物の皮と中身が混ざり合っている果実です。その中身は個体差により、バラバラですが…… 今回はバナナとスイカですか'


 新しいパターンですねとマルスが呟く。


「食えるのか? これ?」


 'ネガティブ 何を今更。怪物種の肉は食べれて果物が食べれないのですか?'


「まあ、それもそうか…… そうか?」


 海原は首を傾げながらもその奇妙な果実を口にした。


 スイカバーみたいだなと、バナナの形をしたスイカの果肉を噛みしめる。


「お!」


 海原は果実を口に含んだまま小さく声を上げた。


 これも美味い。というか普通に瑞々しいスイカだ。水分たっぷりの果汁が喉を潤わせる。



 そのまま海原は無心でバナナみたいなスイカみたいな果物を頬張り続けた。一口食べるたびに、失った力が戻って来ている気がした。


 'ポジティブ ミックスフルーツの多量摂取によりシエラⅢはその命を拾いました。細かな栄養素の全ての解析は完了していませんが、賦活作用と造血作用がこの果物には備わっているはずです'


 マルスの言葉にうなづきながら海原は咀嚼を続ける。


 果糖が凄い。甘い果汁がそのまま活力になって行く。


 一口、また一口。あっという間に海原はミックスフルーツを一つ平らげた。


 身体の奥底に溜まっていた疲れやだるさが少し和らいでいるような……



 'コングラッチェ 規定の行動を確認。アビス産の植物性栄養素の初の摂取により、トロフィー[ペルセポネのザクロ]を獲得しました。セーフモードにてトロフィーを保管、PERKポイントを新たに獲得'



「トロフィー? それ、さっきも何か言ってたな」



 海原はマルスの無機質な言葉に反応を示す。確か、さっき狼の化け物を狩り殺した時にも同じ事をマルスが言っていたようなーー


 'ポジティブ トロフィーシステムについては本日、貴方が眠りについた時に詳しくご説明します。今は作戦行動を急ぎましょう、シエラ0'


 海原の問いをマルスが、それとなく受け流す。気にはなるものの今はそれどころじゃないと海原も判断した。


 へいへいと小さく首を縦に振る。



 'ポジティブ シエラ0。残りの果実をナップザックへ。ああ、それと数枚ほど葉をちぎって置いてください'


「葉っぱ、これも食えるのか?」


 海原の質問にマルスはふむと小さく唸り、


 'ある意味においては摂取が可能です。備えあれば憂いなし。シエラリーダーの口癖ですね。出来ればこれを使う事がない事を祈りましょう'


 海原は言われた通りに葉っぱを何枚かちぎり丸めて果実と一緒にナップザックへ放り込んだ。



「この葉っぱにはどんな効果があるんだ?」


 海原は身支度を整えてナップザックを肩に引っ掛けた。


 'ポジティブ 強力な鎮静効果があります。絞って出る汁を経口摂取すると大人でも瞬時に意識を失うほどのね'


「デタラメだな、ホント」



 どんな麻酔だよ、それ。


 海原は苦笑しながら来た道を戻る。行きよりもその足取りは軽い。


 ミックスフルーツとやらを食べたせいだろうか? 明らかに失った体力が瞬時に戻っている。これならきっと、田井中もーー


 海原は仲間を救うべくその歩調を早くした。


 でも、そういえばどうやって田井中にこれを食わせるんだ?


 海原は道を急ぎながらそんな事を考えていた。



読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!


次回、"VSホットアイアンズ" をお楽しみに!

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