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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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本来であればこれは探索者の業であり。

 


 海原はこれまでにない高揚感を覚えていた。頭がぐるぐる回って鼻血が吹き出しそうだ。


 心臓が熱い。発火して口から炎がこぼれ落ちてしまうのではないかと心配する。


 だというのに、肝心の脳みそは冷え切っていた。


 自らのやるべきことが明確に理解できる。


 田井中のことは気になる、しかしそれはそれ。


「これは、これだ」


 おのれのやるべきことのみが分かる。踊るやうに砂の上を跳ねる二頭の狼の化け物。おのれを食らっていた化け物が再び、迫り来る。



 恐怖心は脳を満たすぼんやりとした感覚に塗りつぶされた。


 奴らの息遣いすら把握出来そうだ。


 はあはあ、五月蝿え。


 よくも、よくもさっきはやってくれたな。


 海原は視界の隅が赤く染まり始めている事に気付く。


 'ポジティブ 接敵。運動神経部分へのサポート開始。ヨキヒト、闘えますか?'


 マルスからの言葉もはっきりと聞こえる。


 海原は口角を吊り上げ、笑う。



「借りを返す。アイツらまた俺を食おうとしてやがる。逆に食い殺してやるよ」


 'ポジティブ 素晴らしい闘志です。貴方の力を見せて下さい。幸運を、ヨキヒト'


 マルスが己の身体の奥底に潜んだのが分かる。マルスと離れたような感覚。少し、心細い。


 でも、それ以上に



「楽しみだ」


 鉄腕をブンと振るう。空気を裂く鈍い音。



「ヴオウ! オウ!」


「がるる! ヴェヴェオウ!!」


 二頭の狼、灰色。あの海原を襲った二頭ではない、だがその姿には見覚えがあった。



「左脚…… くそが。」



 あの時、這いずり逃げようとした海原の左脚を噛みちぎった個体だ。


 まさかすぐに借りを返せる時が来るとは……



「来い、化け物」



 海原は本能に任せて、腕を構える。無意識に左手は貫手、右手は拳を拵える。



 両者の距離は狭まる。


 二頭の狼の化け物、怪物種95号パックスの斥候を担う個体がよだれを垂らしながら迫る。


 怪物と人。牙持つ強者と、牙なき弱者。両者の激突の結果など知れている。狼の化け物は瞬く間にその牙と爪で獲物の肉を切り分け、その血肉を貪る。


 後に残るのは内臓から何から全てを食い奪われた哀れな残骸のみ。



 人と怪物の関係などそれで終わる。


 そのはずだった。


 二頭の狼、先行した一頭が海原に飛びかかる。その首を噛み潰そうと、大口を開けてーー



「ふっ!」



 ぶちちちち。肉の潰れるような音が世界を止める。


 狼の化け物は何が起きたか分かっていないようだ。目をぱちくりと瞬きしながら、大口を開けたまま宙空に()()()()()()()()()


 その口には腕が差し込まれている。


 カウンター。獲物に飛びかかった狼は獲物から繰り出された右腕の反撃を避けることも防ぐ事も出来なかった。



「モっ、げァ?!」


 青い血がポタタタと白い砂を汚した。



「右腕の味はどーよ。化け物」


 右腕に感じるのは奴のずらりと生えたナイフのような牙を殴り砕いた感覚と、ぬるりと温かい血肉の感触だった。



 痛みは、ない。


 海原はそのまま狼の化け物の口に右腕を差し込んだまま、思い切り腕を地面に叩きつける。


「ごべ!」


 地面にしたたかに打ち付けられた狼の身体から右腕が差し抜かれた。青い血に塗れる右腕に傷など1つもない。


 海原のPERK()は、狼の牙を砕き容易にその口内から体内を刺し貫いていた。



 海原が右腕をぶんと再び振るう。ビッと青い血糊が地面に瞬いた。



 そのまま、ピク、ピクと狼の化け物は白目をむいてしばらく痙攣を続ける。


 ゆっくり海原はその横たわる瀕死の狼に近づき、


「左脚の分だ。高くついたな」


 足を振り上げ、思い切り狼の化け物の首を踏み付けた。


 ビキ、厚い毛皮と肉、そして地面が砂と柔らかな為に一度では首の骨を踏み砕けない。


「オラっ! オラっ! 吐け! 吐けコラ! 人の脚食いやがって! 死ね!」


 ぼき、ぼき。


 5、6回踏み付けたところでようやく、ぼきりと完璧に首の骨を踏み砕く事が出来た。



「ひとぉつ」


 青い血に塗れるシューズの靴底を砂に擦り付けながら海原は残る一頭を睨みつける。


 体制を低くし、唸っている。


 同時にかかってくれば良かったのにな。海原は狼の耳が僅かに垂れている事、尻尾が身体の内側へ縮んでいる事に気付いた。



 にまーと、口角が上がる。


「は、ははは。アッハッハ。怖いのか? でも逃げるわけないよな、化け物、さあ、来い。俺を食うんだろ?」


 海原は指を折り曲げ、おいでおいだとジェスチャーする。


 ああ、楽しい。お前の血肉の味が甘い果物のような物だと俺は知っているぞ。


 海原は歓びを胸にジェスチャーを繰り返す。それが通じたのだろう、勢いよく狼がこちらへ走り迫る。



「アハ」


 海原は迎え撃つ為に体制を低く構える。直接の軌道でまっすぐとこちらへ迫る狼の動きをじっと見つめる。


「ヴオウ!! オウ!」


 よだれ垂らしながら、目を血走らせながら狼が迫る。


 海原はにやりと笑い、左腕を横に差し出すように構えた。



「ガアル!!!」


 牙が迸る。強靭な顎が海原の左腕を捉えた。


 ガチリ!!


 金属と金属がせめぎ合うような音が響く。海原は足を踏ん張り僅かに後退、狼の口撃を左腕で防いでいた。



 狼の化け物は大きく目を剥いていた。ナイフのような犬歯が1つ砕け落ちた。



「アッハ。流石に衝撃は凄えな。……だが、痛くはない。防御にも充分使える」



 ギリリ、ギリリリ。


 海原はあえて差し出した左腕に噛み付く狼を見つめながら呟く。


 強度テストと言わんばかりに海原は満足そうにその変異した腕の頑丈さにうなづいた。これならだいぶ使い道がありそうだ。



「あ、もういいわ。死んでくれ」



 空いた右腕を貫手の形に、そのまま狼の頭に躊躇いなく刺しこむ。


 張り裂けそうな苦悶の声をBGMに海原は狼が逃げないようにさらに力づくで右腕を刺しこむ。


 グググと力を込めて、手のひらが全部狼の頭に沈んだ頃にはもう、狼の叫びは聞こえなくなっていた。


 海原はなんとなくそのまま狼の頭の中に右手を差し入れたまま、ぬちゃぬちゃと動かす。


 びくん、びくん。と後ろ足や、尻尾が痙攣している様子が妙に面白かった。



「ふたぁつ」


 どろ。海原が狼の脳内から右手を引き抜く。硬化した右手は容易に毛皮を、肉を、頭蓋骨を刺し貫いていた。



「甘い」


 ぺろり、海原が右手の人差し指を舐める。爪の間にこびりついた物ごと血を舐めとると、甘い香りが興奮した身体に広がった。



 勝負は一瞬で決まった。牙持つ怪物は、かりそめの牙を与えられた奇妙な生き物に容易にその命を刈り取られていた。




「終わったぞ。マルス」



 'ポジティブ 付近に敵対存在の反応なし。脅威レベル低下。システム、通常モードへ移行。体内へのブルー因子の蓄積を確認。戦闘行動を終了します'



 マルスの声が浮き上がるように海原の頭の中で響く。その声に心地よさすら感じる。



「……戦いが始まった瞬間、頭ん中がすげえすっきりした。あれだけびびってたのが急に消えた。何をした? マルス」



 海原が狼の死骸にずぶりともう一度左手を刺し込みながらマルスへ呟く。


 うん、きちんと死んでる。左手を引き抜く。


 'ポジティブ 私の機能の1つ、IDDシステムを適用しました。擬似的に酔いによく似た状態を作り出し、宿主の恐怖や躊躇いを薄める効果があります。もっとも躊躇いの部分に関しては必要なかったみたいですね'



「……いや、助かったよ。取り乱して悪かったな。マルス」


 海原が左手を砂にまぶして血を取り除きながら呟く。



 'ポジティブ 貴方の生存が私の存在意義です。戦闘効率評価を上昇、ホストによる怪物種の駆除を確認、ブルー因子蓄積を確認、レベルシステムの上昇'




 頭の中でマルスの声が続く。海原は息を吐いて石切場の方へ足を向けた。


 'コングラッチェ 結合してからの初の怪物種の駆除によりトロフィーを獲得、[ファースト・キル]をセーフモード領域へ保存'


 マルスの声をBGMのように聞き流しながら海原は、歩みを進める。



 戦闘の興奮がちょうどいい塩梅で海原を落ち着かせている。動揺やストレスが、興奮により上書きされていた。



 だが、それでも、海原の頭の中には疑問が淀んでいた。


 なんで、お前が。


「お前ともあろう奴が…… 田井中……」


 海原は変わり果てた田井中に近付きその場にしゃがみ込んだ。



 一体……何があったんだ?



 風が緩く吹き続けている。物言わぬ狼の死骸に輝く砂がまぶりつき始めていた。










 ………

 ……

 …


 〜時は少し遡り、海原 善人がアリサ・アシュフィールドとの出会いを果たしていた頃、奈落上層にて〜




「田井中くん!!」



 暗い空間に男にしては高めの声が響く。


 小太りの少年、影山の声だ。


「よお、影山。それにキハラ。無事だったか」


 泥まみれになりながら片手を挙げて返事を返すのは金髪の少年。


「ああ、田井中君、良かった。本当に良かったよ。生きてたんだね」


 生徒との再会を果たした樹原 勇気はにこりと微笑んだ。その肩口からはまだ赤い血が滲み続けていた。






読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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