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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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なんで、お前が。

 

 頑丈さが売りのスポーツシューズが輝く砂を踏みつけ、僅かに沈む。



 歩くたびに砂の柔らかな感触を踏みつける。ゆるく吹く風が海原の額の汗をさらう。


 マルスに持っていけと言われた中身を空にしたバックの生地で汗を拭う。固い生地がざりりと音を立てた。




 'ポジティブ ヨキヒト、やはりあのオアシス地帯をキャンプ地としましょう'



 海原がマルスのナビに従い歩き始めて10数分が経つ。ざりざりと砂原を音を立てながら進み海原へマルスが話しかけた。


 所々緩やかな傾斜がついたりしているので普通に歩くだけでもそれなりに体力は消耗していく。


 たらりと額に汗しながら海原が


「なんだよ、急に。キャンプ地?」


 'ポジティブ 先ほどまでシエラチームサバイバルガイドに残されてある周辺情報の精査を行なっていました。結果、やはり先ほどのオアシス地帯が我々のキャンプ地として適切です'



「まあ、水場が近くにあるのは助かるな。けどよ、水場って事はほかの怪物どももよく近寄るんじゃあないか?」


 海原は昔、テレビでみた動物チャンネルのことを思い出した。広大な土地、水場は数々の生き物の集約地となっていたはすだ。



 'ポジティブ ヨキヒト。貴方の言う通り水場は怪物種が集まる地点なのは間違いありません。しかしこの中層にはここから約5キロ程先の地点に更に広大な水場が記録されています。ほとんどの怪物種はそこを水場として利用しているはずです'



「あの狼どもは例外って事か?」



 'ポジティブ 怪物種95号、通称名パックス(群狼)は定住しないタイプの怪物種です。おそらく群れの移動最中にたまたまあのオアシス地帯に寄ったのでしょう。運の悪い事に貴方はそれに遭遇したのです'


「なるほどな。奴らからしたら水と肉が同時にやって来たようなもんか」



 海原は肩をすくめる。本気で食われかけたというのにもう、海原の中ではあの出来事は過去の事となっていた。



 'ポジティブ それにヨキヒト。我々の力を成長させるには怪物種との戦闘、駆除は避けて通れません。あのオアシス地帯をキャンプ地としていれば、逆に我々は怪物種をおびき寄せる事ができるとも考えるべきです'


「罠でも仕掛けてみるか? 作り方はわかんねーけど」



 'ポジティブ それも良いかも知れません。オアシス地帯を確保しましょう。1週間の間はあそこが我々の防衛拠点です'



 海原はマルスからの提案を受け入れる。わかったと短く返事をしてから


「つまり俺らの目標は1週間、あのオアシスで喉を潤わし、怪物の肉やらなんやらで腹を満たして、ついでに降りかかる火の粉を払うって事か」



 'ネガティブ 火の粉? どういう意味ですか?'



「日本語的表現だ。そのうち教えてやるさ。こっちから怪物を狩りに行ったりもするのか?」


 海原は気になっていた事をマルスへ問いかける。怪物の肉が食える事を確認した海原はもうアレを食べるのに躊躇いはなかった。



 'ポジティブ 必要があれば狩りも提案します。食用の為にも貴方のレベルアップ、PERKポイントの為にもどちらにせよ、青い血を集める事が必要なのですから'



「PERKねえ……」


 聞き覚えのある単語を再び口にしながら海原は己の腕を見やる。足を止めることなく、てのひらを動かすとぎしり、ぎしりと音が鳴る。


 猛獣の爪、鉄の道具並みの硬度を持ったこの手は怪物の皮や肉をいとも簡単に解体することが出来た。


 爪の間にピンクの肉片と青い血がまだこびりついている。


 海原は己の新たなる力に僅かに口角を吊り上げた。これは使える。



「あ、そういやマルス。俺のこの両腕ってもうずっとこのままなのか?」



 そうしてるうちに海原はふとマルスへ質問する。硬化した両腕は確かに便利なのだがずっとこのままというのも、不便そうだ。


 'ネガティブ ヨキヒト。PERKによる肉体変化は時間経過、もしくは貴方の意思によりコントロール可能です。貴方の身体はきちんと元の形をまだ覚えていますので'


「意思か。どうやればいい? 力でも抜いてみるか?」



 さくり、さくり。僅かに海原の足音、輝く砂を踏みしめる音が変わって来た。傾斜も緩やかになりつつある。



 '命令して下さい。声門コードにより管理が可能です。PERKを切る事を言葉として表して頂ければ私がDNA変異を中止します'



 頭の中でマルスの返事を聴きながら海原は頷いた。そして言われた通りに。



「えーと。PERK終了…… これでいいか?」



 'ポジティブ 声門コード確認。PERK 鉄腕を解除します'



 その声が鳴った瞬間、海原は両腕が急に重たくなったような錯覚に気づく。


 うお、なんだこりゃ。


 こんなに腕って重くて、邪魔だったのか?



 'ポジティブ PERKによって変異した部位を元に戻した時には奇妙な違和感を感じるとシエラⅠも言っていました。しかしヨキヒト、その違和感は貴方にとって必要なものです'



「言葉に出来ねえへんな感じなんだがよ、どういう意味だ?」



 'その違和感をなくした時、貴方は貴方の元の形を忘れます。PERKシステムは貴方の牙です。この力は貴方を怪物種にも劣らぬ、牙持つ存在へと変えていくでしょう、シエラⅠがそうだったように'


 マルスの言葉、どこか湿り気を帯びたようなその声色を海原は黙って聞いていた。



 'しかし、貴方はあくまで人間です。どれだけ身体を変えようとも強くなろうとも1人の人間なのです。その違和感は只の人間である貴方だけのものです。それを忘れないで、ヨキヒト'



 ふむ。海原は頭を捻る。どうもコイツは性格なのか仕様なのか、比喩的表現が多い。


 海原はマルスの言わんとすることを考えて、それから得心した。


 ああ、なるほど。つまり調子に乗るなって事か。



 それなら大丈夫だ。調子に乗った凡人がどんな末路を辿るのかはよーく知っている。



「安心しろよ。マルス。こちとら小市民なんでな。ちょいとばかし不思議な事が起きたからと言ってなんも変わんねーよ。宝くじが当たっても金銭感覚変わんねータイプだからな、俺」



 '驚きました。ヨキヒト、貴方はロトの当選経験があるのですか?'



「いや、ないけど?」



 あっけらかんと海原は柔らかくなった指先で鼻をほじりながら答える。


 頭の中で、マルスのため息が広がった。


 'ネガティブ あてになりませんね、ヨキヒト。それは'



「大丈夫さ、調子に乗りそうだったらお前も止めてくれるんだろ?」


 さくり。あともう少しで傾斜が終わりそうだ。なだらかな坂を海原が登り切ろうとしていた。



 'ええ、それが貴方の生存に必要なら。おっと、ヨキヒト。そろそろ目標地点が近いです。近くに様子が違う場所が目視出来ませんか?'



 海原はざっ、ざっと傾斜を登りきり、あたりを見回す。見下ろすような形、辺り一面に広がる輝く砂原。


 あ。


 その中に変わった地点があるのを確認した。


「ありゃあ、岩場か?」


 ちょうど海原から100メートルも離れていない地点、そこに何か砂原の中にぽつんと浮かぶように存在している岩場をみつけた。


 ミニマムサイズの石切場が砂原に現れたような奇妙な光景。


 'ポジティブ 視認情報により火石の集積地の発見を確認。前回の探索より位置情報のズレを確認、周辺地域情報の更新、ランドマークの変更を開始、………全処理終了。ヨキヒト、あれが目的地、その1です。まずはあそこへ向かって下さい'



「了解、火石って言ってたけどよ、俺はあそこで何をすればいい?」



 次は傾斜を緩やかに下る。海原は脛にかかる負荷を感じつつリズムよく歩いていく。



 'ポジティブ 持ってきたバックに移動の邪魔にならない程度に火石を詰め込んで下さい。拠点に持ち帰ったのちに使用方法をお伝えします'



「今は教えないって事か、了解。言われた通りにするよ」


 '貴方の適度な怠惰から信頼を感じます、ありがとうヨキヒト'



 マルスからの皮肉のような言葉に苦笑しながら海原はその地点へと近づいていく。



 白い石切場、平な岩がいくつか点在し砂と同じように光り輝いている。



「ん?」



 傾斜を下りながら、その場を注視していた海原はその光景の中、何かを見つけた。



 いくつか並んでいる平な岩、その中の1つの上に何かが落ちている?


 海原は傾斜を下る足をとめて、目を凝らした。


 'どうしました? ヨキヒト'


 急に足を止めた海原に対してマルスが声をかける。


「ああ、いや。あそこに何かが居ないか? ほら、あの岩場。なんかが倒れてる?」



 'ふむ、視認情報を確認。拡大開始……… ネガティブ ヨキヒト、もう少し近付いて下さい、貴方の言う通り、何かが()()'


「……了解」


 ごくりと、海原は喉を鳴らして僅かに中腰になりながらその場へ近づいていく。


 一歩、二歩、三歩。


 景色が近づく。石切場のような場所の様子が徐々につかめてくる。



 やっぱり、あれ。何かがいる。


 寝ている……? 岩場に張り付くようにシミにも見えるそれを海原は確認する。


 きらり、それが一瞬光ったようにも見える。ぼんやりと輝く岩や砂の光を反射したのか?


 海原は目を瞬かせる。



 しかしそれがなんなのかは分からない。海原が首を傾げていると














 'ネガティブ ……… 視認情報再度、拡大…… 視覚確認…… ヨキヒト、落ち着いて聞いてください。貴方の別れた仲間の中に、()()()()()()()()()()()()()()()()'




 マルスの言葉を聞いた瞬間、体の動きがびたりと止まった。体の芯に針金を突き立てられ身動きを止められたかのような。



 かと思えば次の瞬間、海原は足に力を入れてその場から駆け出していた。




 マルスからの制止の声が鳴り響く。それらを無視して海原は掛ける。



 嘘だ。


 そんなわけない、


 マルスの言葉、あいつは一体何を見た?


 金髪の少年が仲間にいたかだと? なんでそんな事を聞く?


 なんで、お前が田井中の容姿を知っている?


 なんで、俺にはあの岩場で倒れているシミみたいなのが、人間の形に見えているんだ?


 海原はあっという間に砂原をかけて、岩場にたどり着いた。



 はあ、はあ、はあ。息切れだけがうるさい。苦しくないのに、息切れの音だけが耳に響く。



 たどり着いた岩場、海原はその光景を見て



「田井中……?」



 遠目から確認したそれがなんなのか、はっきりと分かった。



 艶やかな光を放っていた金髪は赤い血や黒い泥にまみれて見る影もない。


 端正な顔に傷のない部分がないほど痛んでいる。生意気そうな光りを宿していた瞳は閉じられそこだけ見ると眠っているようにも見える。


 ばたり。海原はその場に力尽きたように膝をつく。


 震える体でそれに近付いていく。


 遠目から見てすぐに人とは分からなかった理由がよくわかった。



 あるはずのものがない。眠るようにそのばに倒れている警備チームリーダー、田井中誠からは、()()()()()()()()()()()()()()()



 腕は肘から先がなく、足に至っては根元から引き抜かれている。



 もう、血すら流れていない。



 変わり果てた姿の田井中を海原は唖然と見つめていた。



「なんで……お前が……」


 海原が呟く。あまりにも現実離れした光景に海原は一切の思考を止めていた。



 それは無防備で、無自覚な行為。特にこの人の生きる場所ではない奈落においては自殺行為に等しい、隙だった。


 'ヨキヒト!'


「うお!」



 頭の中で、拡声器を鳴らされたような大音量。マルスだ。



「マルス……マルス、これ、田井中だ。俺の仲間で、それでーー」



 'ヨキヒト'



 うわごとのようにマルスへ向けた言葉が力強い呼びかけに遮られる。



 '状況は確認しました。いま、初めて貴方の脳波が本気で乱れていることを確認しました。貴方はいま、極度のパニック状態にあります'



 つらつらとかたられるマルスの言葉、海原はよろよろとたちあがる。



「マーー」



 'それを理解した上で、貴方に伝えなければならいことがあります、警告、ボギーが急速でこちらへ接近中。状況から考えて、先ほど我々が遭遇した怪物種95号の可能性が高い'



「は? そりゃ、どういう」


 海原は明らかに狼狽していた。意味が分からない。言葉の意味が理解出来ない。



 'シエラリーダーのサウンドレコードに記録されている足音の反応が急速で2つこちらへ近付いています。およそ2分以内に接敵します。速度からしてもう。貴方の足では逃げれない'


「はあ、はあ…… 何を、何を言っているんだ、マルス、いま、田井中が……」



 'ネガティブ プロトコルファースト、ホストを守れ。自己判断により、宿主の現精神状況は戦闘に耐えられるものではないと判断。怪物種との交戦の為、IDDシステムの使用を決定'


 狼狽する海原と対照的に冷たさすら感じる平坦な口調でマルスが音声を響かせる。


 '残念ですが、ヨキヒト。殺し合いの時間です。我々は何があろうと生き延びなけらばならない。私は貴方を生かさなければならない'



 海原はマルスへ何かを言おうとした。しかし、言葉が出なかった。


 俺は、俺は。何を。田井中、なんで、お前が。



 オオーーン、オオオオーーーン!!


 海原の思考を背筋に走る怖気がかき消す。その声を聞いた瞬間、身体が思い出したのだ。喰われる恐怖をーー


 また、肉を、噛みちぎられ、咀嚼されて、それで、


 海原の視界が揺れて、変わり果てた田井中が映る。


 俺もあんな風にーー


 あ、あ、ああああ?!




 'ヨキヒト。恐れないで。()()()私がついてる。一緒に戦いましょう'



 一瞬、その声が響いた瞬間だけ、海原の背筋の怖気はかき消えた。


 傾斜の向こう、坂のようになっている砂原の向こうから踊り出るように見覚えのある姿が、現れる。


 2頭、巨大な狼。


 怖くて


 'システム 戦闘モードへ移行'


 強くて


 'IDDシステム… 擬似(イミテーション)ダンジョン酔い(ダンジョンドランク)システム起動'


 恐ろしくて


 'レベルシステム オールグリーン'





 ……美味くて、楽しい連中が。



「ふは」



 海原の頭から動揺と、恐怖が消えた。


 不自然に塗りつぶされたのだ。その身体に棲まう恐るべき兵器の力によって。



 〆PERK オン、鉄腕(アイアンアーム)


弱い肉の腕が、強く硬い鉄腕へと変異していく。理外の力がいま、凡人の牙として世界に歪に顕れる。


 変わり果てた仲間の姿に戸惑う、弱く優しい魂も、もう消えた。


 オオーン! オオーン!


 迫る怪物を海原は仁王立ちで迎える。その両腕はすでに命を奪う武器へと変換されていた。


「……ぶっ殺してやる」



 '悲しむのは後でもできる。始めましょう、ヨキヒト。我々の力を試してみるのです'



 そこにいるのは恐るべき兵器と同化した、人間でも、怪物でもない、かりそめの牙を与えられた奇妙な生き物だった。



読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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