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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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プランB

 


 'ネガティブ 馬鹿な……あり得ません、民間人が怪物種の討伐に成功するなど。私の内部データベースにおいてはどの怪物種でさえ、対人キルレートは3を超えています'



「おっ、キルレート。ホントにその言葉あるんだな。FPSゲームだけの用語とばかり思ってたわ」



 海原は聞き覚えのある言葉を見つけて僅かにはしゃぐ。なかなか1を超えるのが難しいという記憶が、在りし日の学生時代を思い起こさせた。



「あり得ないっつっても実際やってるんだから仕方ねえだろ。マルス、お前俺の考えている事分かるんなら、嘘かどうかも分かるんじゃないのか?」



 'ポジティブ、たしかに貴方の記憶領域を覗けば確認は容易です。……バイタル、脈拍に変更なし。脳内の電気信号の乱れ無し…… 嘘をついているとは思えない…… ヨキヒト、貴方の記憶領域を確認して良いのですか?



 確認するようなマルスの言葉が海原の脳内に響く。記憶を覗かれるという事がイマイチどういう事か分かっていない海原は静かに首肯した。


 'ネガティブ 記憶映像において……怪物種との交戦を確認…… シャベル、包丁、鉄パイプ…… そんな、信じられません…… 訓練も受けていない民間人が……軍用装備でもない、ましてや武器ですらないもので……'



 海原はマルスのつぶやきを聞き流しながら、オアシスの泉へ近付く。


 ぽちゃり、透明な水に右手を漬ける。冷たくて気持ちがいい。そのまま僅かな量を掬って口に含んだ。



 米を何度も噛み潰した後のような、柔らかな甘みすら感じる。


 この水はとても美味しい。それから何度か海原は水を手のひらで掬って飲み続けた。


 とくり、とくり。喉が潤い、身体に僅かに力が戻る。



 ぐううう。


 また、腹が鳴った。




「確認はできたか?」



 海原は水のほとりから再び、狼の化けものの死骸のところまで戻り始める。本格的に腹が空いてきた。



 'ポジティブ ヨキヒト、貴方は以前軍組織、もしくはそれに準じた組織による教育、訓練を受けた事があるのでしょうか?



「軍組織? ないな。学生のときにスポーツしてたくらいだ」



 まあ、あの厳しさはある意味軍隊的だったか。海原は過去のシゴキを思い出して眉を潜める。同調圧力とは、かくも恐ろしきものか。



 'ネガティブ ヨキヒト、貴方に対する認識を私は改めなくてはならないようです。貴方は保護されるだけの人物ではない'



「待て、お前俺のことなんだと思っていたんだ?」



 'ポジティブ 貴方は大切なホストであり、非力な保護対象でした。シエラⅠは貴方を守れ、生かせと私に命令していた'



 海原はその言葉を聞き、マルスへの認識を僅かに改める。歪だ、物分かりの良い人間のような面もあれば、融通の効かない機械のような面も覗ける。



「生かしてくれたのは助かるが、守るっていうのは?」



 'ポジティブ ヨキヒト。必要であれば貴方の身体行動を私が掌握し、貴方に代わり、私が行動の全権を担う予定もありました'



 ……クッソ物騒な事考えてたな、こりゃ。


 海原は頭の中にいる存在の危うさを再確認する。行動の掌握、つまりコイツは俺を操る事すら可能という事か。


 たらり、海原は文字通り脳みそを掴まれているような怖気を感じた。



 'ネガティブ ヨキヒト。私には貴方を害する意思はありません。そして貴方はただ、守られるだけの羊でないようだ'



「そりゃ助かる。マルス、お前の事は味方だと思ってるんだ、出来れば操るとかは無しにしてくれ」



 'ポジティブ ヨキヒト。貴方は周囲から飛び抜けた存在である狼ではない。しかし狩られるだけの羊でもない'



「それ、褒めてんのか?」



 海原は軽く笑いながら答える。だんだんこの頭の中にいる奇妙な存在との会話にも慣れてきた。



 'ポジティブ 驚異にして、戦慄。そして賞賛を感じています。貴方の歪な在り方に私は、貴方の生存を確信しました'



「歪ってなんだよ、賞賛の言葉にゃ聞こえねー」



 'ネガティブ いいえ、その歪さは賞賛に値します。牙なきなずの奇妙な生き物が牙を持つ怪物を噛み殺しているのですから…… ああ、マズイ。悪い癖が出て来ました'



 マルスの言葉の末尾が僅かに震えている。海原にはその震えが何かを抑えているようだと感じた。


 海原は足元の輝く砂を一掴み、手持ち無沙汰に手のひらに閉じ込めてジャリジャリと握り込む。


 光の粒子を閉じ込めたような砂粒は仄かに暖かい。



「マルス?」


 名を呼ぶ。託された謎多き存在の名前を。



 'ポジティブ ヨキヒト。私は貴方への認識を改めます。貴方は無力な保護対象ではない。活用されるべき、戦力だ'



「認めてくれたって思っていいのか?」



 海原がにい、と笑いながら答える。自分の体温が高くなって来ていることには気付かない。



 'ポジティブ ホストの推定戦闘効率評価を改定。プロトコル ファースト、プロトコル セカンドへの理解を変更、ホストへのPERKシステムの積極的な使用を推進'



  つらつらと手続きのようにマルスが話し続ける。その言葉は海原へ向けられたものではない。



 '現時点により、プロトコルファースト遂行の為、ホストへの栄養補給を提案。怪物種の栄養素の効率補給の為、PERKシステムの民間人への適用を進言…… 統合システムからの返答無し。M-66 マルスの独自判断によりPERKシステムの使用を決定'




 ぐうううううう。締め付けるように海原の腹が鳴る。立ちくらみ、視界の端に黒い枠みたいなものが現れる。


 海原がその場にゆっくりとしゃがみこむ。腹が減りすぎて地面に吸い込まれそうだ。




 ……今なんかまた聞き覚えのあるゲーム用語みたいなのが聞こえたような。


 海原が頭をあげて、マルスへ話しかけようとした時




 'ポジティブ ヨキヒト。準備が整いました。牙なき貴方に、獲物を屠る為の牙を差し上げます。貴方にこそ、この力は相応しい'



「なんか、くれんのか?」



 'ポジティブ 牙です。貴方の中に蓄積された怪物種の死の記録を私が貴方の力へと還元します。ブルー因子による人体の強制進化。私の主要機能の一つをこれから利用致します'



「は、よく分かんねえ。簡潔に言うと?」



 '選びなさい。ヨキヒト、貴方のこれから進むべき道を'



 宣告のようなマルスの声が海原に響いた。空きっ腹によく通る声だ。



 'ポジティブ 貴方には二つの道があります。一つは先程まで私がやろうとしていた事。貴方の身体操作権を私が掌握し、私が行動指針を決める事で貴方の生命を守る道、プランA'



 平然と述べられる事実上の生殺与奪の譲渡。海原は小さく笑う。マルスにはなんの悪気もない事がわかっていたから。


 'プランAを選ばれた未来においては貴方の生存は安全、かつ確実に保全されます。危機を避け、リスクを避け、貴方の生命を守ります。例えそこにヨキヒトの自由意思はなくとも、貴方は生き続ける'



「なるほど。在り方は別としてそりゃ楽そうだ。お前に全てを任せとけばいいって事か」



 'ポジティブ その通りです。安心して。貴方の意識まで奪うつもりはありません。快適かつ安全な終末ライフを提供する事を約束致します'



「魅力的なセールストークだな。で、もう一つの道は?」



 'ポジティブ もう一つの道は、貴方がこの牙を受け入れる事です。牙なき存在である貴方に牙を。青い血を奪いながら貴方には道を己で切り開いてもらう'



「牙ってのが、さっき言っていたPERKシステム……とか言うやつか?」



 'ポジティブ PERKシステムも含めた、私の全機能です。怪物に、終末の世に立ち向かう為の牙を貴方に託します。但し、この道は第一の道と違い、苦しみと辛さと血に溢れています'



「へえ……、そりゃ恐ろしいな。牙、牙ね」


 海原は提示された2つの道を考える。


 フッと笑い、目を瞑った。



 答えなんか初めから決まっている。


 あいつとの約束を守るために力は、牙は必要だ。


 奴を、奴に借りを返すために喉元を抉る為の牙が必要だ。



 マルスに、他者に行動を委ねて守ってもらう道と己の血を振り絞り牙を振りかざして傷だらけになりながら進む道。




「ここで、いつもそんな道を選ぶから…… こんな人間になっちまったのかなあ」




 '答えを…ヨキヒト。血糖値、栄養素が急激に低下しています。早くしないとPERKシステムの起動も不可能になる'



 マルスの言葉、最初から答えなんて決まっていた。



「まあ、もう考えるのも面倒だ。寄越せ、マルス。牙だ。俺が闘う、だから寄越せ、俺に協力しろ」



 'ネガティブ プランBにおいては貴方の生存は苛烈なモノとなります。貴方はシエラⅠ、アリサ・アシュフィールドと同じ道を歩むことになる、彼女の道のりはーー



「マルス」


 海原が言葉を遮り、その名を呼ぶ。押しとどめるようでもあり、言い聞かせるようでもある。


 理の外、空の上からやってきた知恵あるモノはその声色に懐かしいものを感じた。



「牙を。プランBだ。闘う力を俺の手に」



 'ポジティブ…… ホストからの意思表明を確認'


「悪りぃな。せっかく確実お前は安全な道を用意してくれてたのに」



 'ネガティブ 貴方は恐らくこの道を選ぶのではないかと感じていました。貴方はシエラⅠとよく似ている'



「そりゃあ、光栄だな。なあ、マルス。これから聞かせてくれよ。お前達の話とか、色々よ」


 'ポジティブ 楽しみです。貴方がクリアランスレベルを獲得する事を待ち望んでいます'




 ヒュウ。


 風が一際強くなる。


 海原は瞼にかかる重力に従い、視界を閉じた。




 ' ポジティブ 現時刻よりホストに対しての全機能の適用を開始。システムセレクト起動。システム、通常モード'



 闇の中、マルスの声が広がる。海原は意識をその声に向ける。



 ' 身体が飢餓状態の為、セーフモードへの移行を中止。通常モード下においての PERKシステムの適用開始'



 始めてくれ。マルス。声なき声を海原が漏らした。



 'ポジティブ…… 体内のブルー因子をポイントへ変換…… 10ポイントの還元へ成功。セーフモードではない為、当機の独自判断により、獲得 PERKを選定…… 現時点での有用 PERKを選定…… 5ポイントを消費、獲得 PERK決定'



 その言葉が合図となる。



 ' PERKシステム 適用開始。生命の進化は常に危険と共にある、人間よ、良い旅を'





 ビキリ。身体のどこかが大きく鳴った。


 海原が目を剥く。


 進化は、両腕から始まった。


読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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