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スピーク・ザ・デビルと太陽を遮るモノ

 



 そのまま隊列を組み、捜索チームは連絡口の近くまでたどり着いていた。




 車の通りが多い、多かったこの大通りには主を失った車両が打ち捨てられている。




 その間を縫うように捜索チームは歩みを進める。



 路面電車の線路までたどり着くと、ある程度集団が広がれるスペースを確保出来た。



 連絡口は目の間だ。



「上出来だ。ここまですんなりと行くと逆に怖いけどな」




 田井中はふうと息をついて、連絡口の前で立ち止まった。



「後方も問題ないよ、田井中。こっちを見たり追いかけたりしてるやつはいない」



 最後尾にいた竹田が野球帽を被りなおしながら田井中へ報告する。



 田井中は静かにうなづき、声を上げた。



「影山、一応ここで確認しときたい。頼めるか?」



「わかったよ、田井中クン。()()()()()()()()()()()()()()



「ああ、頼む。おい、オッさん、少し影山から離れろ」



 田井中の指示を海原は素直に聞く。小太りの少年、影山はすまなさそうに海原に向けて頭を軽く下げた。




「始めろ、影山」




「うん」



 影山が目を瞑った。



 海原は目を見開いてその光景を見ていた。田井中や影山が何をしようとしているのかは分からなかったが、予想はついていた。




 恐らくそれは。








「見せてくれ、スピーク・ザ・デビル(噂をすれば影が差す)







 うお。やっぱりか。



 影山、この子も特別な高校生だった。



 海原は奇妙な光景を目にした。始めはその異変に気づかなかった。



 影山を見ても何も変化しているものはない。田井中のように周囲の物質に異常が起きているわけでもなかった。



「っ、すげえなあ」



 鮫島のつぶやきが耳に入った事で海原はもうそれが始まっているのだと勘付いた。




 異変は影山の足元、地面に起きていた。



 海原達の人数は8人。陽光が差すと8人分の影ができる。



 しかし、今地面に映し出される影の数はそれを大きく超えていた。



 なんだ、これは。




 影山の足元から合計11人分の影が生まれている。



 その影は影山の足元から離れていき、チーム全員の前方で地面に映し出されていた。



 まるで地面をスクリーンにしてそこに影を映し出しているかのような奇妙な光景。




 そして、さらにその奇妙さは増して行く。



「か、影が動いて?」



 そう、地面に映し出された奇妙ないくつもの人影が動き出していた。



 その辺を歩き回るものや、あたりを見回すような動きをしているもの。しゃがみこんでいるものなど動きは様々だ。



「あっ……」


 海原はある1つの人影に気付いた。体軀からして女性の影だ。髪型の輪郭は短めのポニーテール。まさか、あの影は、あの影の持ち主は……






「始めろ」


「うん」



 影達が一斉に更に動き始める。一番最初に大きく動いたのはあのポニーテールの女性の人影だった。





 びゅん、とまるで薙ぎ倒されたかのようにその人影が横倒しになりすごい勢いで動き始める。


 横に縦に、2次元の世界で人影がめちゃくちゃに動き回る。人影が手足をばたつかせてもがいているようにも見える。乱暴な児童に思い切り振り回される哀れな人形のようだ。






「う」






 海原は、その影の首が途中激しく動く中でぐらりと横に大きく折れ曲がるのが見えた。




 手足の動きがぴたりと止まり、しばらく縦に横に跳ねるように動き回ったのち、影はビュンとその場から大きく離れ、前方に口を広げている連絡口の闇の中へ吸い込まれるように消えていった。



 するとそれについて行くように1つの人影が走りながら同じく連絡口の向こうへ消えて行く。




 残りの影もその影に習って同じく、連絡口の階下へ向かい消えていった。



 あの奇妙な影は全て、連絡口の向こうに消え去って行った。




「スピーク・ザ・デビル、終了」




 小太りの影山がふうっと息を吐き、額に浮いた汗を拭った。


 海原、樹原、鮫島はその光景に圧倒され、二の句が告げなくなっていた。



「田井中クン、やっぱりここで間違い無いよ。先生の話とスピーク・ザ・デビルの人影の動きは一致してる」



「そうみたいだな。あのめちゃくちゃに跳ね回っていたのが、青葉って大学生なんだろうよ。……可哀想だが、あの人影の様子を見るに少し、キツイかもな」





 海原は首がぐにりと折れ曲がる人影の様子を思い出した。


 眼球に焼け付いたあのおもちゃのように振り回された人影は、やはり、樹原の話に出てきた怪物に攫われた青葉 伊月だったのだ。




「う、うおえ」



 朴訥と立つ海原は、その音にふっと隣を見た。樹原が少し、えづいている。



 体を折り曲げ、震えながら軽く吐瀉していた。



「大丈夫か? 樹原!」



 海原はその白シャツに包まれた背中を撫でながら問いかける。



「はあ、はあ。ご、ごめんよ、少し、思い出してしまってね、あはは。かっこ悪いところを見せたね、ごめん」



「んなことねーよ。樹原にとっちゃあ辛い場面の焼き直しみたいなもんだろ、てか今のは一体……」



 海原が槍を握っていない左手で樹原の背中をさすりながら、影山を見る。




 視線に気付いた影山は一度、田井中の方を確認し、彼がうなづいたのを確認すると、海原と樹原の近くへやってきた。





「影山くん、今のは、君の力というやつなのかい?」



 辛そうに呼吸する樹原が影山へといかける。



「はい、先生。最近使えるようになったんです。俺のスピーク・ザ・デビルは過去にその場にいた人間の影を見せてくれる力です。どこまで遡れるかは試した事ないですけど、かなり昔まで、再生時間もある程度操作出来ます」


「人間の影…… じゃあ今のは……」



「はい、1週間前ここにいた先生達の探索チームの人影を再現しました。先生の話を聞くまでは人影なんで本当にこれが行方不明のひとたちの影だと百パーセント分からなかったけど、影の動きは先生の話と一致してましたから……」



 影山がその先を一瞬、いいよどむ。


「……僕のスピーク・ザ・デビルでは怪物の影は再生出来ないんで、見えなかったけど……、蝙蝠の化け物の仕業だと思います。あの動き方は……」


 樹原は息を吸って、



「そ、そうかい……。凄い、力だね。本当に、素晴らしい力だ」





 口を拭ったのちにため息を漏らしながら樹原がどこかうっとりとした口調でそう呟いた。




 そのつぶやきは近くにいた海原にしか聞こえなかった。



「よし、これで確定だ。ご苦労だったな影山」




「ううん、そんなことないよ」




 影山がふっくらとした顔をくしゃりと歪める。




「さて、野郎ども。準備と覚悟はいいか? 居なくなった連中はここで消息を絶っている。キハラ、あんたの記憶でもここで合ってるんだな?」



「ああ、田井中くん。その通りだ」



「よし、オーケーだ、聞いたな。固まってこのまま地下街へ降りるぞ」


 


 田井中を先頭に集団が連絡口に向かう。本来であれば電灯により明るく照らされているはずのその地下街の入り口の奥は暗い。陽光が届いていないのだ。



 

 ごくり、と海原は喉を鳴らした。口の中に唾が溢れてくる。




 ナップザックを背中に背負い、田井中の作った槍を強く握りしめた。原始的な衝動、長モノをもつと少し勇気が湧いてくるのは男子の性なのだろうか。




 先頭の田井中が、階段を降りる、その時。










 太陽の光がいきなり遮られた。まるで地下の奥の闇が自分達の足元にまで伸びてきたような錯覚を海原は覚えた。



 暗っ、


 海原がその太陽が陰ったのに気付いたと同時に、叫び声が空気を割った。





「っ! 全員! 伏せろ!!!」



 最後尾、竹田の声に最も早く反応したのは海原だった。




 目の前にいる樹原を掴み、押し倒すようにその場に伏せる。




 脚を浮かして、樹原に体当たりをかました瞬間、海原の鼻腔に濃厚な獣臭と、鉄錆、血の匂いがまとわりついた。



 頭上を何かが掠めていた。



 全員の反応はそれでも早かった。竹田の声のお陰でソレに捕まった者は今回はいない。



 地面に倒れた海原は顔を上げて、ソレの姿を確認する。




 うあ、最悪。





 ばさり、ばさり。翼がはためく音が空間中に広がる。




 身体は夜の闇にチョコレートを、まぶしたような濃い黒に近い焦げ茶色。



 サイズは中型トラックほどの大きさ。なんであんな大きさで空を飛ぶ事が出来るんだ。



 ケケケケケケ、と豚鼻を鳴らしながらソレは笑う。



 ソレは太陽を背にしていた。暗い体表色や皮膜は太陽の光を飲み込み、大地に影を落とす。


 人間を見下ろし、嗤っている。



「こ、蝙蝠の化け物……」


 海原達の頭上で、馬鹿でかい筋骨隆々の蝙蝠が舞い飛んでいた。




 捜索チーム、蝙蝠の化け物遭遇。



 残り8人。





読んで頂きありがとうございます!


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