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雪代長音の絶望、そして12時間前の出発

 



 1人、2人、3人、4人。



 …………


 世界が血の色に染まり始める。太陽の光が遠くなり空に紫色が混じり合う、黄昏時。



 校門が開く。彼らを迎え入れる。校舎に残っていた私達は外に出ていた彼らを迎えるべくグランドに出ていた。



 今日の早朝、日の出とともに不敵な笑みを湛えながら外へ出て行った彼ら、探索チームと警備チームを迎える為に。


 わたしは自分の心臓が軋むように鼓動したのに気付いた。


 脳みそから汗が滲んで鼻から垂れ落ちてしまいそうな妙な感覚に襲われる。


 帰ってきた彼らの人数をもう一度、数える。今度は指を指して、ゆっくり、ゆっくり。間違えないように。



 遠い、輝く夕日が彼らを照らす。数を、間違えないように、私は、震える指先でもう一度、もう一度彼らの人数を数えた。



 彼らから、朧気に伸びる影法師も数える。だって数え間違えたらいけないもの。



 ゆっくりと、何故か噛み合わない歯を噛み締めながら。



 1人


 2人


 3人


 4人………


 4人。嘘。嘘だ。数え間違いか、それとも彼は、遅れてやって来ているのか。



 隣に立っていた私の妹。継音が、意を決したように歩みを、進める。


 私は遠くなって行く妹の背中を追いかける事が出来ない。


 また1人、私の隣に立っていた白衣をヘンテコに羽織った少女が、フラフラとした足取りで、しかして前へ進みでる。



 私よりも細く、小さな身体で少女は前に進んでいく。ヘアゴムで縛られた一房の長い髪が力なく揺れた。



 私は歩けない。



 妹が帰ってきた4人と、何か話をしている。グランドの人工芝、わずか数ミリにも満たないそれが私の歩みを邪魔する。


「ーーっ! はーー、死ーー」



「……なーー、ーー?」



 何、何をはなしているの?


 妹の顔は見えない、けれども彼女と相対しているひどく疲れ切った男の顔は見える。



 何故、そんなに辛そうな顔をしているの? まるで悪いことをしたみたいじゃない。



 ヘンテコに白衣を着こなした女の子、春野さんが膝から崩れ落ちた。その場に膝をつき身体を震わしている。



「あ、うああ。嘘、うそです、叔父さんがそんなあ……、ヤダ、やだよお、◻︎⚪︎¥¥さんまで……、こんなの、やだああ」



 叔父さん? 春野さんの叔父さんって、鮫島さんのこと? 鮫島さんがどうかしたの?



 そのあと、誰かの名前を春野さんが呼んでた気がするけど、その名前が私にはよくわからなかった。



 だって。だって、その名前は………。


 継音がしゃがんで泣き崩れる春野さんの肩を抱く。継音の横顔が見える。



 私とよく似た綺麗な顔。



「つぐね、なんで、泣いてるの?」



 長い前髪に隠れた眼から、一筋の流れ星みたいな涙が滑っていた。



 なに、なに、これは。


 疲れ切った顔の男。目鼻がはっきりした長身の美丈夫が此方へ近付いてくる。


 いや、いや。


 来ないで。


 私の足、動いて。この人から離れたい。この人の声が聞こえないところまで、お願い。



 私の足は動かない。足の甲に杭でも打たれたかのように、動く事は、ない。



 いや、いや、いや。


 私の身体の底。何人もいる私の更に奥。そこから囁き聲が聴こえた。



 "それ、言ってみたことか。私の言う通りになったろう"


 "気に入っていたのだろう? さっさと手に入れておけばいいものを。らしくもない、人間の真似事をするからだ"



 黙れ。消えろ、クソ婆。



 私はカッと、脳みそから湧き上がる熱のままにその聲を黙らせる。



 私は聲と対峙しているのに夢中になり過ぎた。


 あ、目の前にーー




「ーー済まない、彼らは()を守る為に……」


 やめて。



「本当に、済まない。雪代さん……、鮫島くんと、う♪ーら君を助ける事が出来なくて、本当に済まない」



 やめて。


 喉が勝手に動く。脳と身体がバラバラに動いてる。


「鮫島さん、と、だ、れが……?」



 駄目。聞いたら、駄目。


 暗い影を落とすその男の顔が悲痛な表情に蠢く。目を見開き、唇を噛み締めた。


 そして、その形の良いくちびるを開く。


 やめて、やめてやめてやめてやめてやめてやめやめてやめてやめてやめて。
















「海原君だ。彼は、死んだ」











 ーーやだ。












 暗い。寒い、海の音が聞こえない。














 ………………

 ………

 ……



 〜雪代 長音の絶望その約12時間前、基特高校校門前早朝にて〜



 朝靄に朝日が差す。薄絹のようなもやに、光が通る。


 透けるような空気の中、彼らは集結した。



「時間通りだ。さすがは社会人ってか?」


 白いパーカーに金髪が特徴の少年、田井中 誠が挑発的な笑みを浮かべる。



「お前も社会人になればわかるぞ。勝手に目が覚めるからな、田井中」



 凡庸な顔立ちによれたワイシャツとスラックス姿の男、海原 善人が欠伸を噛み殺しながら宣う。



「ヤンキーでもよお、朝が早い奴ってのはあいるんだなあ、オイ」



 撫で付けたオールバックに凶悪な三白眼の鮫島 竜樹が間延びした口調で軽口を返す。



「田井中はこう見えてスポーツマンっすからね。朝練とかで慣れてるんで割と朝は強いんすよ」



 田井中の隣に立っている長身の少年。これから試合に出るかのようなユニフォーム姿に野球帽の竹田 快斗が金属バットを撫でながら呟いた。



「あはは。遅刻者はいないみたいだね」


 目鼻の通った長身の美丈夫、樹原 勇気が人の良さそうな笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。



 彼らの周りにはほかに少年が3人。警備チームのメンバーが眠たそうな顔でたむろう。



 計8人の男達。彼らは征く。もしも帰らぬ者が現れる事を知っていたとしても彼らは震えながらも外へ出ていくだろう。



 探索チームと警備チーム、合同探索メンバー。


 全8()()。集結。



読んで頂きありがとうございます!



宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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