表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/163

白痴の大衆

 

「風紀委員!」


 体育館へ向けて歩み出した継音の背後から、竹田の声が飛ぶ。


 立ち止まり、振り返る。


「あのよ、ちなみになんだがここへ来る前、樹原先生を見なかったか? 体育館にもいねえみたいでさ。どっかで襲われてんじゃねえかと気になってんだ」



 継音はすぐに返事を返せなかった。


 薄い唇を何度か紡ぎ合わせて、数秒した後に小さく首を横に振る。


「……ごめんなさい、分からない」


「……そっか、わかった。ありがとな。あの人さえいれば避難者の大人連中も落ち着かせてくれると思ってさ」


「……そう、ね。竹田くん、樹原……先生の事信用してるのね」


「ん? 当たり前だろ、あの人ほど優しい人間はいねえよ。力がねえのに、俺たちに全くビビらず、前みたいに普通に接してくれんだぜ?」


「……もし。……ううん、ごめん、なんでもない。じゃ、私行くから」


「ん、そうか。わかった。頼んだ、風紀委員。春野が困ってたら助けてやってくれ」


 こくり、と小さく継音が呟く。


 今度こそ、その歩みを止める声はなく。


 また遠くから響く咆哮にも振り返る事はなかった。





 ………

 ……

 …



 体育館の扉を開いた瞬間、継音の耳に届いたのは怒号だった。


 余裕のない追い詰められた人間の、耳を塞ぎたくなるような情けない大声だった。


「だから、早く行けよ!! そいつ起こして戦わせろって!」


「行けません! まだ彼は治りきってません!」


「だったらさっさと治せよ!! もし怪物がここまで入ってきたらどう責任とるんだ!!」


 男の声、それに反論する聞き慣れた友人の声。



「そうよ! 小さい子どもだっているのよ!! 守ってよ!」



「とにかく! 今彼は絶対安静です! あまり大きな声出さないでください!」



「なっ?! 目上の人間に対してなんだ、その態度は?! つけあがるんじゃない!」



「いま! 目上とかどうとか関係ありません!! 私は友達を助けたいんです。お願いだから治るまではそっとしてください!」




「こ、これだから最近の餓鬼は……! 親にどんな教育を受けたんだ! それが目上の人間に対する言葉つかいなのか!!」




 何、コレ。


「何、コレ」



 呆然、頭で浮いた感想が気付いたら漏れ出していた。



 体育館の奥、ザワザワと人だかりが集まっているその場所から声が聞こえる。



「受けています! お母さんや叔父さんはそこらへん超厳しかったので! でも今は緊急時です。失礼、そこの毛布をーー」



「コレは俺のだ!! 触るな!!」


 春野一姫が、近くに置いてあった毛布に手を伸ばす。治療している生の下にでも敷こうとしたのだろうか。


 それに対して、男はヒステリーを起こしたように喚き


 バシリ


 毛布を取ろうとした春野の手を叩いた。


「っ?!」


「俺のだ! 俺のものなんだ!! 餓鬼が怪我人を触った汚い手で触るなよ!」



「….…申し訳ありません。もういいです、学校を、貴方達を守ろうとして戦って、怪我をした人に対して、毛布1枚貸さないのが、目上の人間というやつなんですね、よく分かりました」


「お前っ!!」



 男の手が春野へと翻りーー



「止まれ」



 ビシッ。


 体育館の床、継音の足元からその場所まで床が一筋に凍る。



 一瞬の沈黙、そして


「ひっ!!」


「う、うわあああああ?!」


「ゆ、床が凍って……」


「な、なんだ、なんだあ?!」


 悲鳴、春野を責めていた大人達が目の前で起きた異常に対し、悲鳴をあげた。


「コレは、何」


 継音には分からない。何故、よってたかって春野 一姫が責められているのか。


 継音には分からない、何故、怪我人やそれを看病する春野達の場所には簡素なビニールシートしか敷かれてないのに、避難者の寝床には沢山の毛布やマットがつまれているのか。


「つ、継音さん……」


 パキン、パキン。


 凍らした床を継音が進む、すべる事などない。継音が歩くたびに、凍った床に薄いひび割れが入る。



「一姫、ありがとね。私と姉さんを助けてくれて。そのおかげで私は私の守りたいものを守る事が出来る」


 自然、継音を避けて人混みが割れる。


「でも、コレは何? 何故貴女が責められているの? 己の危険を顧みず、誰かの為に命を賭けた彼らが何故、ないがしろにされてるの? 」


 その眼、継音のなんの感情も移さぬ眼が体育館の避難者達に向けられる。


 誰もその視線を受け止める者などいない。



「わたしには分からない。その毛布も、マットも、捨てられている缶詰やお菓子の包装紙も、その全てが彼等が命がけで取り戻したもの」


 立ち止まり、指を指す。


 命をかけて戦った者に与えられない物資を、探索チームが命を賭けて取り戻したそれらを継音は見回す。


「海原さんや、鮫島さん、数は少ないけれどなんの力もない彼等が命がけで、みんなの為に取り戻したモノ。それがなんで、貴方1人の物になるの? ねえ」


 ぐるり、継音が春野の場所にまで辿り着く。ゆっくりと、それでいて誰も反論出来ない重みすら感じる言葉を、先程まで喚いていた男へと向ける。



「な、な、なんだ、脅してるのか……? 知ってるぞ、君、風紀委員なのだろう?! き、君は我々を守る責任があるだろう!!」


「セキニン?」



 継音は今度こそ、パチクリと目を瞬かせた。



 コレは何を言っているのだろう。セキニン、責任、雪代 継音としての責任。風紀委員としての責任。



「そうだ!! 責任だ! 君たちは我々を守る責任があるだろう!! 我々は君たちが外の化け物から守ってくれるからしぶしぶ言うことを聞いてやっているんだぞ! 大人をあまり舐めるんじゃない!」


「そ、そうよ! 滝田さんの言う通りよ! 普段アンタ達だけ自由に校内を動いたりしてるじゃない! 」


 威勢を取り戻した避難者の集団が口々に叫び出す。個人としては継音と話せなくても集団となれば違うらしい。


 中年の男や女が口々に、自分の娘ほどの歳の雪代 継音へと不平不満を垂れ続けた。



 小さく、継音が笑う。薄く唇がつり上がる。



「大人……? ふふ、また変なことを言いますね。大人などもう、どこにもいない。私が大人と認めていた人達はもう皆、居なくなった」


「な、なんだと……?」


「何言ってんのよ?」



 継音は春野の前に立つ、集団から庇うようにそこに立つ。


「つ、継音さん?」


 振り返ると、そこには追いかけたかった友人の心配そうな目。


「大丈夫、一姫」


 軽く微笑む。春野は傷付いた生徒を1人で3人も診ていた。簡素なブルーシートだけの治療所、血で汚れているのと負傷者と春野だけ。血を流しているのも、結局、生徒だけ。



 目の前の大人と言い張る大衆からは、血の匂いも汚れもない。



「手伝いもしないで、ずっとそうやってみていたの?」


「は?」


 眼前、此方を見つめる大衆へと言葉を投げ掛ける。


 ああ、ダメだ。ごめんなさい、竹田君、コレじゃあ落ち着かせる所じゃない。


 でも、もうダメだ。


「そうやって、怪我をしている生徒達を、それを看病する生徒を、手伝いもせずに今までずっとみていたの? 貴方達が自分のものだと嘯く毛布や物資を渡しもせずに、そうやって」


「な、なんで俺たちがそんな事をしなければならない!! 俺たちは被災者なんだぞ! 訳も分からないまま化け物に襲われて、こんな所に閉じ込められて!! だいたいその口のきき方はなんだ!!」



「ここにいる人たちは皆、同じ境遇。みんな傷付き、それでも手元に残った何かの為に戦おうとしている。そこで傷付いている人達はみんな、貴方達を守ろうとして化け物と戦った人達。なんで、そんな人達にさえ優しさを分けてあげる事が出来ない?」


「お、俺たちは被害者なんだ!! お前達みたいなのが俺たちを守るのは当然の事だろうが! 調子に乗るなよ! すぐに自衛軍が出張ってくる! そしたらお前達なんかもう用済みなんだ!」



 売り言葉に買い言葉。


 男の言葉に継音は



「……フッ、フフフ、ふふふふふ」


「な、なんだ!何がおかしい?!」


「そ、そうよ! アンタ態度悪いわよ!!」


 そうだそうだと大衆が声を荒げる。歳を重ねた人間の余裕のない怒号を前に、それでも継音は笑った。



 可笑しくてしょうがなかった。



「ああ、ごめんなさい。そう、貴方達、まだそんな事考えてたんだ。期待してたんだ。だから、まだここに閉篭もるような真似が出来てたのね」


「なんだと? お前、何を言ってる?! どういう意味だ?!」


「ふふふ、フフフ。いえ、何にも知らないのね。そうか、貴方達はあの夜から、この基特高校の外へ出ていないのだからしょうがないか」



 目の前の大衆が、可笑しくて可笑しくて、警備チームや探索チームが暗黙の了解で避難者達に伝えていなかった事を、継音は囁く。



「もう、日本は滅んでる。いいえ、日本どころじゃない。きっと、世界中が滅んでる。外に出れば分かるわ。人間の世界はもう終わってる事に、いやでもね」


「そ、そんなわけ……」


「もう一ヶ月よ、1ヶ月、警察も消防も貴方のいう自衛軍もやっては来ない。ライフラインの全ては停止し、電子機器は起動すらしない。もう認めて、私達の世界は終わってるの」


 ザワ、ざわ。


 嘘だ、イかれてる、ありえない。


 様々な言葉が大衆から漏れ出る。


 継音にはもう目の前の存在が意思を持った個人とは思えない。


 大衆、何も見えていない、何も見ようとはしない。どうしようもない自分達とは違う別の生き物にしか見えない。



「ああ、海原さんや鮫島さんが、私達と貴方達を避けさせてきたのかようやくわかった」


「な、何を言っているんだ、お前……」



「失望した。貴方達みたいなのを守ろうとしていたのが、貴方達みたいなのを生かそうとしていたのが、もう途端に馬鹿らしい。今外で戦っている人たちも、貴方達ごときの為に、命を賭けている。それが無駄に思えて仕方がない」


 人権無視だ! そんな内容の言葉が大衆から火を噴くように飛び出る。


 ちゃんちゃら可笑しくて、継音はまた嗤った。



「ふふふふふふふふ。人権、人権? それは、ナニ? 誰がどのように保証してくれるの? それを守っていた世界は、社会はもうないの。ああ、そうね、試してみたら良い。化け物の目の前で、人権無視を叫んでみたら?」


「こ、このガキ!! 調子に乗るな!」


 男が、継音に向かって手をあげる。


 ばちん。


 歳を重ねた人間が本気で17歳の少女の頰を張る。



「継音さん!!?」


 春野の悲鳴、同時に、継音の軽い身体が後ろに倒れた。


 すかさず春野が継音を抱きかかえる。継音は黙って春野の胸から遠ざかる。



「ふー!、ふー!、お、お前が! お前が悪いんだ!! 俺は悪くない! お前の態度がーー」


 興奮して、唾を飛ばしながら男が喚く。


 自ら殴り倒した少女を見下ろし、わめき続ける。



「外に出ないだと? 当たり前だろうが! 俺たちがなんでそんな馬鹿な事をしなければならない! 結局、そうやってカッコつけた連中は皆、死んでるだろうが!!」


「……ナニ?」


「何度でも言ってやるよ!! 俺たちは、俺たちは臆病なんかじゃない、冷静なんだ!! 探索チームとか言ってでかい態度を取っていた若造どもは、皆死んだ! 意味もなく、死んでるだろうが! お前たちのようなのに、張り合ったせいでな!」



 言い訳のように男が喚く、大衆がそれに同意して口々に好き勝手に。


 そうだ、あの男、いつも偉そうだった。俺たちを見下していた。頭がおかしい、常識がない。



 口々に、大衆が探索チームへ罵詈雑言を向ける。ここにはいない彼らへの文句を、継音や、春野に向かって。



 そして、言ってはいけない言葉を、言っていいことと、悪い事の区別すらやがてなくなった。



「あの人も、樹原さんも言っていたんだ!! 俺たちは悪くない。俺たちは被害者だ! あいつらのように、無駄死にした連中とは違うんだ!!」


「そ、そうよ!! 私達が悪いんじゃない! 外に出れば死ぬだけじゃない!」











「無駄死にした連中の仲間が偉そうに俺たちに講釈たれてんじゃねえ!!」







「そ、そんな言い方……」


 春野があまりの言葉にくちびるを紡いだ。意を決して言葉を放とうとする春野を、


「継音さん?」


「良い、一姫」


 遮るように継音が片手をあげる。



「こんな連中に、貴女がかける言葉はない」


「誰がこんな連中だ! 小娘!! 誰に向かって口を聞いている!! おい、こっちを見ーー」



 男の唾が止まる。


 言葉尻が、かき消えて行く。風に攫われる小さな火のように。



 雪代 継音の眼を見た瞬間、男は、大衆はそれまでの喧騒が嘘のように静まり返った。









「どうした。急に黙って」


 継音がゆっくり立ち上がる。叩かれた頰は真っ赤に染まっている。それでもその足取りは確かだった。



「ひ…… お、お前、なんだ、その眼、それはなんだ?!」



 男には継音の眼が何に見えていたのか。怯えたように後退りする。



「もういい。寄り添うのも、恐るのも、もう遅い、お前達は決して、言ってはならない事を言葉にしてしまった」



「ひ、なんだ、近付くな、おい!! 聞いているのか?!」



 継音が一歩、また一歩、歩む。



「お前達は、あの人達の死を侮辱した。私の誇りを、この終わった世界でそれでも、大人たらんと振る舞った私の仲間を侮辱した」



「な、な、な、おい、やめろ、お前、お前ナニをしようとしてるんだ」



「私にはワカラナイ。なんであの人達のような善い人達が死んだのに、お前たちのようなのが生き残っているのか、私にはワカラナイ」


 継音がぼそり、ぼそりと呟きながら進む。その目線は大衆をぼんやりと見つめていた。



「逆だ。これは間違いだ。なんで強くて善いモノが、弱くて愚かなモノの為に命を賭けなければならない。お前達が生きている理由はなんだ?」



「お、おい、おいおいおいおい、冗談だろ? おい!」



 ピキ、ピシ、キキ。


 大衆の周りの空気が、途端に白くなる。


 粉雪が舞うように、体育館の一部だけ、空気が白く染められていく。



「冷たっ!」


「な、ナニよ、これ、急に冷えて…」


「寒い、寒い!!」



 ああ、初めからこうすれば良かった。


 こんな、足手まといどもを早く始末しておけば、生き残るべき人間がもっと、生き残っていた筈。



「もう、お前達に生きる意味などない。私の仲間を侮辱した事を、氷の中で悔やみ続けろ」


「ま、待て! おい、まさか、お前俺たちを殺す気か?! イかれてる!! やめろ!!」


 男が尻餅をついて叫ぶ。大衆がパニックになったようにわめき、蜘蛛の子を散らしたように体育館の方々に散らばる。



 継音はその様子を見て笑った。


 滑稽で仕方なかった。


 危機を前にしても、体育館の外に出ようともしない大衆が、可笑しくて、可笑しくて、しょうがなかった。


「さようなら、人間」



「継音さんっ! ダメっ! 殺しちゃーー」


「や、やめろおおおお!! 化けーー」



 継音の、血の力が、世界から熱を奪ーー















「ひ、ぐ、グスっ、お母さああああん、寒いよおおおおおお、怖いよおおお」


「大丈夫、大丈夫よ。メーちゃんはお母さんが守るからね」



 震えながら、幼子を庇う女性の背中。



 先程の大衆の集団には参加していなかった人間だ。


 それが震えている、継音の力の恐ろしさに。


 幼子が涙する、己の生命を脅かす生き物の怒りに。






 びくり。


 継音の背中の芯に寒気が走る。動きが止まる。



 泣き声、幼子の泣き声がした。



 視線を向ける、ばらけた大衆、先程までは顔の見えなかった大衆の1人1人の表情が、今は見える。



 男、女、年齢関係なく、皆、継音を見ている。


 恐怖に染まり、青くなった顔が、多数、継音を見つめていた。



「あ、ああ…… 私、何を」


 継音がぺたんとその場に崩れ落ちる。途端に、体育館の空気が元に戻った。夏の夜の湿った空気が、冷気を溶かす。



 継音の力が止む。


 人間に向けられた雪代の力は暴威を振るう事はなかった。




 私は、今、何を、しようとーー



 手のひらを眺める。震えている、ガタガタと震える手のひらを、更に震える身体に押し当てる。


 自分の肩を自分で抱いても、震えが止まる事はなかった。









「こっのガキ!!」


「あっ?!」




 押し倒される。尻餅をついていた男が急に体当たりを継音にくらわせた。


「おい!! お前、今俺たちを殺そうとしたよな?! おい!!」



「ぐ、苦しっ……」


 継音に馬乗りになった男の両手は、その細い首元に回され、思い切り締められている。



「ちょっ! やめて! やめて下さい!!」



 春野が大声を上げて男を止めようとする、しかし、簡単に振り払われてしまう。


「うるせえ!! 今この小娘、この俺を殺そうとしやがったんだぞ! 化け物だ! コイツは人間の形をしている化けモノなんだよ!!」




 視界が赤く染まっていく。息が出来ない。肺から漏れて、喉でつっかえる空気がただ、苦しい。



 眼前に見上げる男の顔だけが、視界に収まる。


 春野一姫の悲痛な声、ああ、また突き飛ばされてる。


 もういいよ、一姫。貴女まで怪我しちゃう。



 視界の端が黒くなって、どんどん閉じていく。



 すこし、眠い。








 あーー












 ガッキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン。





 爆音、それすら継音の耳には遠く。


「うおおお?!」


 それでも男を驚かせるのには充分。



 明らかに継音の首を絞める力や、のしかかる力が弱くなった。




「ど、け!! ざわるな!」


「なに?!」



 残った力を振り絞り、身体を思い切り仰け反らす。


 瞬間、力を発動し、背中を打ち付けている床を凍らしその上を滑る。


 男が体勢を崩した瞬間、その場から跳ね上がり、身体を投げ出すように離脱した。



「継音さん!!」


 男の下から抜け出した継音を春野が迎える。すぐに締められた首元に手をあてがい、暖かい光を向けた。


「ゲホっ、ゲホっ。ありがと、一姫」


「ううん、大丈夫、苦しくない?」



 大丈夫、そう継音が答えようとしたその瞬間だった。







 轟音と同時に、体育館の天窓が一部砕けた。



 ぼとり。



 そんな音がした。



 割れた天窓、ガラスとともに何かが体育館へと降って来た。




 それは人の形をしているようで。



「え」


 落とされた何かは見覚えのある棒状のモノを握りしめていた。



 野球バット。


 たちまち赤い血が、みるみる間に体育館の床へと広がる。




「た、竹田くん……?」



 継音はこの段階でようやく、体育館の天窓を突き破り、落ちて来た何かの正体に気付いた。



 ゴポリ。


 関節が、それぞれ逆の方向を向き、虚ろな眼が片方だけ開いた竹田。


 その口から、赤黒い血が遠慮なく溢れていた。







読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ