夢、夢、夢
ザザーン、ザザーン。
しゅわしゅわと泡が吹いて、消え去る音。
ゆるく吹きつける風が耳をくすぐっていく。
「……んが。う、ああ。っあー……、眠……」
ごろり、仰向けの身体を横に傾け怠惰な眠気に身をまかせる。
耳に響く波音が、脳みそを撫でてさらに眠気へと誘っていく。
あー、きもちー。
海原 善人はそのまま脳みそにまとわりつくような眠気に意識を任せてーー
「……波?」
寄せては返し、返しては寄せる。悠久の営みの音色に疑問の声を上げて目を覚ました。
ゆっくりと身体を起こし、伸びをする。
燦々と降り注ぐ日差しに、白い砂浜、エメラルドブルーの水平線。
見覚えのある光景、マルスによって誘われる自分自身の深層心理の風景が広がる。
「セーフモード……、いつのまにか眠っちまったのか? マルス、状況の説明を頼む。あの後どうなったんだ?」
いつものように海原はマルスに語りかける。結合を果たしてまだ数日だが、マルスに話しかけるという行為は当たり前の事になっていた。
ザザーン。一際大きく波が弾ける。強く吹き付ける風が顔にぶつかる。
「マルス?」
マルスからの返事はない。波の砕ける音のみが返ってくる。
「どーいう事だ?」
海原は己の胸の辺りに視線を向けながら呟く。セーフモードはマルスの力によって夢を操作して出来た精神世界、つまり、マルスがいないわけがないはずなのに……
嫌な予感がする。海原は背筋に伸びてくるその感覚に顔を顰める。
つーかマルスがいないんならこの世界からどうやって出ればいいんだ? 目覚めればいいのか?
クッソ、早く目を覚まさないとーー
海原は、広がる砂浜の中にどかりと座り込み頰をパチパチと叩いた。
痛みすらも感じるリアルな世界。夢と現実の境目すら分からない。
「やべえ、起きれねえ……。顔、洗って見るか」
意識のある夢の中で目覚めるという難易度の高い事に海原は挑み続ける。寄せる波打ち際まで歩き、海水をすくおうとーー
ゴーン、ごおおおおオン。ごオオオオオオオオオオオオオオオオン。
腹の底が痺れる。びくりと体の動きが硬直した。
海の奥、水平線の向こうから鳴り響くのは……鐘の音?
海原は目を凝らしてその音のでどころを探す。海の向こうから届いたその音、しかし何も変わったものは見つけることは出来なかった。
「なんだったんだ……」
嫌な予感、それはまとわりつくように四肢に広がる。無意識に海原は波打ち際から後ずさ
る。
「なんだ、これ」
波が、止まった。
いや、違う。波だけじゃない。風も、太陽も、空気も。
世界の何もかもが止まっている。遠くに見えていた白波さえ、まるで一時停止された映像の中にいるみたいだ。
「……おいおいおいおい。なんか、なんかやべえぞ。これ。マルスくーん、緊急事態なんですけど」
やはり返事はない。
感じるのは、心臓の浅い鼓動と、少しづつ感じる肌寒さ。
何かが、何かが決定的におかしい。
海原は得体の知れない不安に、垂れてくる汗を手のひらで拭った。
お前は、死ぬ。
「っ! 誰だ!!」
唐突に、どこからか聞こえた囁き声。咄嗟にその場に膝立ちになり、伸ばした指先を様々な方向へ向ける。
お前は死ぬ。化け物との戦いは痛み分けに終わった。
お前は今から一人で、死ぬ。
「ああ?!誰が死ぬだと? 出てこい! 縁起のわりーことほざきやがってよお!」
叫ぶ海原。指先を背後、真横、正面に振り回す。しかし、その場には誰もいない。
声のでどころなど、見つからない。
何かがヤバイ。海原の勘が大きな、大きな警報を鳴らし続ける。ここにいてはマズイはずなのに、どうやってここから逃げればいいかが分からない。
玉のような脂汗が、流れた。
ーーここで、死ね。ここで、死ね。
「うるせえ…… 俺が死ぬ前に先にテメエを殺してやるよ」
どこだ、どこだ、どこだ? 姿の見えねえクソ野朗。この意味のわからねえ状況下だ。敵だろう、敵であれ。敵だ。
海原は既にその妖しい声の主を見つけ次第撃ち殺すつもりでいた。
海原は、身体に力を込める。己の牙を突き立てるチャンスを静かに伺い続けた。
無駄だ。お前はここで死ぬ。
囁きの声が再び。遠いのか近いのかすらも分からない。
「ん?…… なんだ、今……」
その声を聞いた時、小さな引っかかるような違和感を感じた。
どこかで聞いた事があるような……
ーー沢山殺した。生命を。当たり前の生命を、愛を知る生き物を、お前は躊躇いもなく殺した
再び無遠慮に聞こえる声。
「はあ、はあっ……はあ」
荒くなる呼吸、蒸し風呂の中にいるように身体が熱い。
引っかかる程度の違和感は大きくなる。声を聞くたびに。
ーーお前のような人間は死んだ方が良い。そもそもお前は人間なのか? 平気で残虐に生命を嗤い、奪うお前は。本当に人間なのか?
この声を聞いた事がある。
まさか、そんな……
手指の狙いがブレる。身体が重い。
ーーそうだ、お前は奪うばかりじゃないか。何も守れない。雪代も、鮫島も、田井中も、ウェンフィルバーナも、そしてマルスも。お前は何も守れない。
この、声は……、先ほどから響くこの声は。
俺の深層心理の中に届くこの、聞き覚えのある声は……!
海原は確信した。
ーーだからもう、死んでしまえ。ここで終わりにしよう。奪うことしか出来ない呪われた人間に生きる意味など、ない。
その声は続ける。声の勢いは強くなり、吐き出すように、苦しむように叫んだ。
懺悔のような声。その声はっ…!
ーー死んだ方が良い。生きていてもいいことなんかない。俺なんて死んだ方が良い
「俺の、声っ……」
その声は、聞き覚えのあるはずだ。
響き続けた、海原に死を勧めるその声は海原自身の声だった。
どういう事だ、何が起きている?
海原が立ち上がったその時。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
目の前の、海から響くのはうめき声。思わず海原はその場で耳を覆う。
まともに聞いていれば頭がおかしくなりそうな叫び。
生あるもの全てを呪うような怨嗟の呻き。
「おいおいおいおい。人の頭の中で何やってんだよ……」
海の色が変わって行く。エメラルドグリーンに輝く海の色は、いつしか夜をそのまま溶かしたような、黒に染まっていて。
そこから、奴らがやって来た。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあ。
ーーさあ、死のう。海原善人はここで死のう。彼らに連れて行ってもらおう、俺が奪った彼ら、俺がこれから奪うであろう彼らに
黒い海の表面が、蠢く。
ぷつ、ぷつと湧き上がる海面から、むくりと人影が現れる。仰向けから起き上がるように、黒い骸骨のような人影が、立ち上がった。
「ふざけんなよ……」
ぷつり、ぷつり。1人じゃあない。
見ていると、いつのまにか海面の至るところから黒い人影が起き上がって来て。
死者の軍勢、胡乱な呻きを漏らしながら一斉に海原に向かって歩き始めた。
どう見てもヤバイ。
ーー俺は死にたい
「うるせえ、死んでたまるか。クソが。自分の心の中で自分に殺されてたまるかよ」
海原が指先を構える。感覚で分かる、マルスはいない、しかし齎された進化は、牙は己と共にある。
べちゃり。黒い海水に濡れた人影が波打ち際を踏んだ。そこはもう海原の射程距離範囲内だった。
ばきん! 聞き慣れた骨と肉が弾ける音、これは銃声でもあり、鬨の声でもある。今から貴様を殺すという殺意の音。
人差し指が、飛ぶ。黒い人影の眉間に吸い込まれるように飛んでいく。
「ああああ……」
指弾が直撃した人影は、呻きながら仰向けに倒れ、グズグズに溶けていく。
効く。攻撃が通る、ならば殺せる。
血煙が舞う途中で、海原は次のターゲットに狙いを絞る。
1.2.345678910。
亡者が群れとなって海原の元へ歩み寄ってくる。黒い海水で濡れた沢山の骸骨ども。その中には、人間の骨格ではないモノも紛れていた。
犬のような四足歩行の骸骨、狼の骨。
「まーだ死に足りねえみたいだな、オイ。いいぜ、今度こそ地獄にまとめて叩き落としてやる」
ーー何故、抵抗する。お前は俺だ。俺は死にたい。もう殺したくない
未だ響く己の声に海原は血煙の中、凶暴なえみを浮かべて吐き捨てる。
「うるせえんだよ。俺は死にたくない。まだ死ねない。死ぬなら独りで死ねよ」
ばきん! ばきん! ばきん!
中指、薬指、そして小指。連続しての射撃、三体の亡者が皆同様に、仰け反り朽ちる。
しかし、次から次へと溢れてくる群れは止まる事をしない。
ばちゃり、ばちゃり。波打ち際を次々と超えていく亡者の群れ。
己の精神世界に突如現れた亡者の群れ、直感的に伝わる事が1つ。
アレは死、そのものだ。触れられれば最後、そのまま引きずりこまれる。
玉のような汗が、海原の浅黒い肌を流れた。
「死んでも死なねえ。お前ら全てをぶち殺してでも俺は生き抜いてやる」
右手指の再生を待たずに、左手を向ける。
鳴り響く発射音、飛び散る血煙。斃れる4体の亡者。
そして変わらず続く行進。
「あああああ」
「おおおおおおおお」
「ううううううううううううう」
恨めしそうな呻きを続けながら、行進が進む。一歩ずつ海原は後ずさりながら、再生していく手指を片っ端から発射して行く。
「くそ、くそ、クソ!! なんなんだよ、なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ!」
撃ち続ける、それでも亡者は減らない。斃れた亡者の身体を踏み越しながらヤツラはどんどん行進を勧める。
背を見せてはダメだ。直感的に海原は後ずさるだけで背中は決して見せなかった。
「マルス! マルス! 応答しろ! マジでやばい!」
すぐそこまで、亡者が進む。
まだか、指の再生は?!
じゅわ、じゅや。粘着質な音を立てながら血の出ない指の断面がモコモコと湧き上がる。骨を形成し、肉づけられる手指。
「おおおお」
「近付くな! 化け物!」
間一髪、目の前まで手を伸ばしていた亡者に向けて指弾を放つ。ばすんと飛んだ中指が、その顔を砕いた。
う、おおおお。やばかった。今のはやばかった!
海原は目を大きく見開きながらさらにその場から後退する。既に大半の亡者が波打ち際を超えていた。
「止まれ! 止まれよ! クソ!」
じり、じりと発泡しながら後退し続ける。目の前にはもう亡者の群れしか映らない。あのエメラルドグリーンの海は既に遠く、黒い海水に濡れた人影しか見えない。
さわり。
後退していく、足が何かに触れる。
なんだ? こんな時に!
海原は舌打ちしつつ、一瞬だけ視界を背後に向けた。
苗木だ。
いつのまにか、海原のすく足元には小さな小さな、しかし力強く砂浜に自生していた何かの苗木が生えていた。
海原の膝ほどの高さの細い苗木、よく見ると枝の節々には、青い木の葉と一緒に赤い果実を実らせている。
あ……。
なんで、それをみた時にそう思ったのだろうか。
海原には理由が分からない、けれど海原の口は自然とその形を象っていた。
「……マルス?」
その唇が呼んだのは奇妙な相棒の名前。文字通りの一心同体のその生命を、その友の名前を海原は読んでいた。
当たり前に、返事は返ってこない。
しかし、海原のその呼びかけに答えるように、その苗木はわずかにピクリとその身体を、揺り動かした。
赤い果実、1つだけ成っているその林檎のような果実が小さく揺れてーー
ずさり。海原は右足で砂浜を蹴り上げる。砂浜に刻まれるのは一筋の線。
ライン、海原が決めた死線が造られる。
何故かは分からない。理由も無い。しかし、海原は足元に生える苗木を放っておく事が出来なかった。
根拠の無い確信があった。
ここで苗木を捨ててさらに後退すれば、あの苗木が亡者に踏み荒されればもう二度と、マルスに会えなくなる。
そんな予感がした。
馬鹿げてるな、まったく。
海原は力なく笑う。それは己に向けた自虐の笑い。
見ろ、目の前にはもう数えるのすら馬鹿らしい亡者の群れが。
精神の世界で殺されればどうなるのだろうか。ぼうっとそんな事を考えてしまう。
だが、もう退くわけには行かなかった。
手指、再生完了。
残弾10。標的、10以上、多数。
眼前、亡者の群れ。
「ここより先、この線の10メートル以内に近づいた奴ぁ、ブチ殺す。二度と這い上がって来れないように、死んだ後も殺してやる」
四足歩行の骸骨、亡者が一歩前へ進んだ。
ばきん!
銃声とともに、その身体が爆発する。
ーー俺は……死にたい
その声、囁く声がどこから響いたか、今になってようやくわかった。
頭の中だ。その声は海の向こうからでも、亡者の中から聴こえてるでもない。
「お前は俺で、俺はお前ってか……」
俺だ。その声は俺の頭の中から聴こえて来ていた。
そりゃそうだ。俺の精神世界で、俺の声なんだ。
ーーもう、怖いのも苦しいのも嫌だ。終わりたい。終わりたい。殺してくれ
その声はまごう事ない海原自身の声で、心だった。
世界が終わってから、海原はずっとその気持ちを押し殺して来た。生来の性質のまま、生命を奪って生き残って来た。
しかし、それはあくまで海原の先天的なモノだ。世界が終わるまでの平穏な人生の中で海原が後天的に得た、まともな人間性はずっと嘆き、苦しんでいたのだ。
この声は海原のまともな人間性の叫びだ。
それが今、わかった。
ーーもう、もう辞めてくれ。もう殺したくない。
苦しむその声を、海原はーー
「……そうだな。認めるよ、お前は俺だ。悪かったな、お前1人にずっと押し付けて。そうだよな、殺したくないよなあ」
海原はその声に寄り添うように答える。ふと、前を見ると亡者の列の進行が止まっていた。
ーーそうだ、そう、そうだ。もう嫌だ。殺すぐらいなら死にたい。青い血の匂いも、赤い血の鉄臭さも、痛みも、全てが怖い。もう嫌なんだ。
「……ああ、そうだよな。怖いよな。わかるよ、お前は俺だな。本当にそうらしい、たしかに死んだ方がマシと思ったこともあるよ」
ーーああ! ああ、分かってくれるのか! ありがとう、ありがとう! 大丈夫、死はきっと優しい、死は受け入れるモノだ、きっと、きっと優しく俺たちを迎えて……
「まあ、それはそれ。これはこれだけどな」
ばきん! ばきん!
頭に響く声にゆっくりうなづきながら、海原は止まっている亡者の群れに向けて指弾を発射した。
先頭にて佇んでいた亡者がグズグズに溶けていく。
ーーは? なんで
ばきん! ばきん! ばきん!
足の止まった亡者に向けて無言で海原は発砲を続ける。血煙が静かに砂浜に積もる。
「お前は俺だ。認めるよ。思わなかったわけじゃない。早く殺してくれとか、死んだ方が楽だとかよ」
発砲は止まらない。海原はその場から一歩も退く事なく、表情をそのままに黙って指先を、ロケット・フィンガーを使い続ける。
ーーやめろ! やめてくれ! もう殺したくない!
頭の中に響く声に返事の代わりに、最後に残った左手の薬指を撃ち込む。ばたり、亡者が溶けた。
ふん。ひときわ大きく鼻から息を吸い込み、海原が口を開いた。
「あまえてんじゃねえ!! ボケが! なんでよお、この俺が、俺を殺しにくるボケの為に死なないといけねえだよ! 逆だろうが! ヤツラが俺を殺しにくるから、殺すんだよ!! 俺が好きで殺してると思ってんのか、クソが!」
息継ぎを深く、海原は叫んだ。
「お前は俺だ! 認めてやる! けどよお! それならよ、俺だってお前だ! 1人だけ悲劇気取ってんじゃねえ! お前も俺を認めろよ!」
己に向けて海原は叫ぶ。ずっと感じていた感情、終わった世界で燻っていた己の在り方への疑問に向けての答えを、今。
「お前は俺だ! 俺はお前だ! なら分かっているはずだ。俺は、あの夜決めただろうが! あの化け物の顔面に包丁を突き刺したあの時から、始めただろうが! 生きる為に殺すってよお!」
ーー、あ? ああああ??
「始めた事は、自分が始めた事は最後まで終わらせなければならない。何故ならこれは誰に言われたわけでもない。俺自身が決めた事だからだ」
手指が再生していく。立ち竦んだ亡者の群れにその狙いを定めた。
「てめえも、俺なら腹くくれ!! 甘えんな! 俺が、俺たちだけが楽に死ぬなんていいわけがない!」
ーー嫌だ、嫌だ、嫌だ
「俺は死なねえ。生きる意味を見つけると約束した」
手指を構える。その場に膝をつき、指先を伸ばしてピストルをかたどる。
「俺を殺そうとしてくる奴は、全て殺す、邪魔だ、そこをどけ」
ばきん!
また1つ、海原が殺した。亡者を、死、そのモノを殺す。
ーーあああああああああ、ああああああああああ
亡者が一斉にその歩みを進めて来た。
もう、間に合わない。手指は足りない。それでも海原は退がらない。
暫定マルスがそこにいる。
すっかり大人しくなってよ、早く起きろや。マジで。
まあ、いつも助けられてばっかりだからよ、今回は俺が頑張るか。
海原は、戦う。最後まで、終わるその時まで、始めた事を続ける。
敵を殺して、生き残って、それからーー。
そうだ、始めて化け物を殺した時と同じだ。今ようやく、理解した。
なんで、敵を殺すのか。なんで死にたくないのか。
今俺が死ねば、マルスもきっと死ぬ。
嫌だ、それは嫌だ。
あの夜も同じだった。あの時、殺さなければ、雪代が殺されていた。
簡単だ。味方が死ぬより敵が死んだ方が良い。
俺は、俺の周りにいる奴がいなくなるのが嫌なんだ。
ふっと、海原は気が楽になって、それから笑う。
「それが俺だ。海原善人は、敵を殺して生き残る。そういう人間なんだよ」
亡者の手が、すぐ目の前にーー
「コオオオオオオオオオオオオオングラッチレイショオオオオオオオオン!! よく言った!!! 己を知る凡人よ!! 死を嗤い、死に立ち向かう輩に向けて、ワタシからのプレゼントフォーユー!!」
っど大オオオオオオオオオオン!!
音が耳を叩く。海原に手を伸ばした亡者の群れが、爆炎に包まれて消えていく。
その爆炎はまるで見えない壁に阻まれるように海原の鼻先から先には決して届いていない。
「……は?」
爆音の前に響いた、その倫理や常識に向けてクラッカーに見せかけたバズーカを放つような声は。
「アーハッハッハッハッハッハ、はっ、ヴオエ!! ゲホッ!! 今日は良い日だ! キミにとっても、このワタシ、ラドン・M・クラークにとっても! 実験! 大! 成! 功!」
ズッドおおおん。
海が爆発する。亡者の群れが冗談のように蹴散らされ、大瀑布が巻き起こる。
飛沫の中から、何か大きなものが現れた。
鋼鉄の巨人。むき出しの回線に、黒光りするボディ。
「……ロボット……」
拡声器に拡げられたようなその声、海原には聴き覚えのある声だった。
海原のすぐ足元で、りんごの苗木がうんざりしたように少し、萎れていた。
読んで頂きありがとうございます!
宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!




