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DAY3、サバイバルな食卓

 

 暗い。うるせえ。眠い。


 なんだ、外が騒がしい。暴走族でも走り回ってんのか?


 サイレン…… 火事か? あれ、パトカーの音もすげえ。


 くそ、明日も仕事があんのに……


 寝よ………


 ドタン!


 隣の部屋から音がする。普段は物音なんてまったくしないのに。


 どたんドタンドタンドたんどたん!!


 ……何かがおかしい。



 そうだ、俺はあの後すぐに電気をつけて、台所から包丁をーー


 ん? あの後?


 あの後って、なんだ?



 俺はーーー










 'ポジティブ 起きて、ヨキヒト。目覚めの時間です、3日目を始めましょう'




 ぶつん。その声が聞こえた瞬間、意識が引き上げられた。





 〜DAY3、オアシスのキャンプ地にて〜




「う、お」


 ポカリ、頰に当たる暖かみ。同時に身体を包む緩い風が心地よい。


 パチリと目を開く。


 ほのかに光る砂原と、まばらに広がる緑。遅れて聴覚が戻る。


 チョロチョロと水の揺蕩う音が気持ち良い。


 海原は仰向けの身体をゆっくりと起こし、胡座をかいた。


「……まさか、寝てたのか」



「そのとーりさ。ヨキヒト君。 おはよう、いや遅いから早くはないか」


 背後から歌声のような声が聞こえた。海原は肩越しに振り向く。


「ウェン…… 寝てたのか、俺」


「うーん、まあ寝てたというか気絶していたというか……、マルス、説明してないのかい?」


 ウェンが耳をピコと動かしながらマルスへ問いかける。


 'ポジティブ 今からするつもりでした。ヨキヒト、おはようございます。状況を簡易的に説明したいのですが、どこまで覚えているのでしょうか?'


「あ? どこまでってーー」


 ーーウミハラァ。


「っ! そうだ!! オイ、マルス! あの化け物はどうした?! 殺せたのか? あの後どうなった?」



 目を見開きながら海原は自分の腹めがけて唾を飛ばす。


 '落ち着いて、ヨキヒト。端的に伝えると、NOです。あの正体不明の怪物種には逃げられました'


「な、に? くそっ! マルス、すぐに奴を追うぞ! 確認しないと行けない事が!」


 海原はそのまま立ち上がる、くらり。すぐに視界の端が暗くなり足から力が抜けた。


「う、お…… なんだ、こりゃ」


 'ポジティブ ヨキヒト、落ち着いて。 貴方はウェンフィルバーナがいなければ衰弱死の可能性もあったほど疲弊しています、今は活動出来る状態ではありません'


「衰弱死? 俺が? まじ?」


 'マジです。怪物種との戦闘、 PERKの連続使用、及び発動の失敗。体力を消耗し過ぎました。貴方が最初にする事はほかにあるはずです。分かりますね?'


 母親がこどもを諭すような言い草だ。かーちゃんか、お前は。


 海原は僅かに顔を顰め、それから深呼吸をする。たしかにマルスの言う通りだ。


 残っている記憶が正しければきっと。


 海原はマルスとの会話を取りやめ、ウェンの方へ身体を向けた。


「ウェン、すまない。どうやら危ない所を助けてもらったみたいだな。ありがとうございました」


 胡座をかいたまま、海原は頭を下げる。


 マルスの言葉と、最後の記憶、化け物から発せられた光と轟音から海原を守ってくれたのはきっと、この奇妙な協力者だ。


「くくく、なあに、気にする事はないよ。友ーー、仲ーー、……キミは風の協力者なのだからね」


 ぴこぴこと長耳を跳ねさせながらウェンが腕組みしながらふふーんと胸を張る。


「そうか、ありがとうな。あんたのような奴と仲間になれて心強いよ」


「……仲間。今、ヨキヒト君、風のことを仲間って言ったのかい?」


「え? ああ、そうだけ、ど。なんかまずかったか? 俺としては、そのもうあんたのことを協力関係にある仲間だと思ってんだけど」


 やばい、すぐに距離を詰め過ぎたか? そういえばエルフっていう種族は排他的な性質を持つ設定が多い。


 エルフっぽいウェンも同じなのか?


 海原は早くと異種文化の交流に失敗したのではないかと汗を垂らしていた。


「……くくく。いいやなにも、そう、何も問題はないとも。仲間、そう、風は仲間なのか…… そうか」


 そのままブツブツと何かを言いながらウェンは海原から離れてオアシスの方へ歩いて行った。


 なんだったんだ? 怒っているようには見えなかったが。海原は首を傾げてウェンの後ろすがたを眺めていた。



 'ヨキヒト 無事でよかった。今日1日は回復に充てる予定です。例の怪物種については後ほど全員で話し合いましょう'


「……ああ。わかった。そうだな、全員で……、あれ?」


 海原は辺りに目配せをする。ここは大樹のウロだ。田井中を寝かせていた場所のはすだが……


「あれ、田井中は?」


 当然の疑問を口にする。田井中がいないのだ。


 'ポジティブ それについてもウェンフィルバーナに感謝を伝えなければ行けませんね、ヨキヒト'


「ん? そりゃどういうーー」


 海原がマルスの言葉に首を傾げた時、




「起きたか、オッサン」


 大樹の裏側から声が届いた。生意気さと理知が同居している、少年と大人の狭間に生まれたような声。


「….…そりゃこっちの台詞だぜ。田井中くんよお」


 海原はニヤリと笑いかける、ぬっと大樹の下側から顔をのぞかせた田井中も同じように笑った。


 田井中が肩を竦めながら()()()()()。2本の足と2本の腕、全てきちんと備わっている。


「お前、それ……」


 海原は目を丸くしながら田井中へ話しかける。田井中が指でピースサインを作りながら海原の隣に座り込んだ。


「俺は天才だ。目が覚めた後にすぐに思い付いた……。俺の血の鉄分を基にホット・アイアンズで作った手足だ。カッケェだろ?」


 田井中が赤黒く光る手のひらをひらひらと振る。


「ああ、すげえよ、お前は。まあ、生きててマジで良かった。……いつ目が覚めたんだ?」


「アンタが眠ってからすぐに、だ。ビビったぜ、気付いたらコスプレ女が目の前にいて隣でオッサンが寝てんだからよ。どんな状況だっつうの」


 へへっ、と小さく笑う田井中。海原はたしかにそれはやばいなと同意する。


 ざあっ……


 2人を涼しい風が包む。靴は脱がされている、裸足に砂がパチパチと当たってくすぐったい。


「……オッサン、ありがとな」


「ん? いや、別に。どういたしまして。……覚えてんのか?」


 海原は唐突に向けられた田井中のつぶやきに軽く返事をする。その言葉の意味が田井中には伝わったらしい。小さく首がこくりと動いた。


「……アンタに一度起こされたあの時、腕やらがねえことに気付いた瞬間、目の前が真っ赤になった。何も考えられねえ、ただ身体中が熱くて痛かった」


 海原は黙ってその言葉を聞き続ける。


「自分がどんどん壊れていくような、消えていくような感覚を覚えてる。大事なモンが全部溶けて消えちまう。残ってたのはどうしようもねえムカつきだけだ。まるで、炎の嵐の中に閉じ込められているみてえだった」


「まあ、だいぶ荒ぶってたけどな」


 海原の軽口に田井中が苦笑する。


「ふっ、うるせーよ。……そんな中、アンタの声が聞こえた。何言ってるかはわかんねーが、必死なのだけはよくわかったよ」



田井中が海原を見つめる。日本人離れした目鼻立ちの整った顔が、透き通った猛禽のような鋭い瞳が在る。


「だから……、ありがとうございました。()()()()


 田井中が頭を下げる。染められた色素の薄い金髪に隠れてその表情は見えない。


 バッと海原は目を丸くして、田井中を見つめる。


「田井中、おめー……」


「な、なんだよ、そんな驚かなくてもいーだろうがよ」


 バッと田井中が顔を上げて、口を尖らせた。


 まじまじと海原は田井中を見つめる。怜悧な顔のパーツ1つ1つが妙に丸っこくなっているような錯覚を覚えた。


「おめー、敬語使えたんだな……」


「ふっっ! てめー、そこかよ。アンタやっぱ面白いな。オッサン」


 笑う田井中に、釣られて海原も笑う。


 そこには、失われたはずの奇妙な生活の中にあった暖かなものがたしかに在った。



「おや、タイナカにヨキヒト君。2人とも起きたか。お寝坊さんだね」


ウェンが此方に駆け寄り、表情を柔らかくしながら話しかけて来た。


「……ウェン、田井中もアンタが起こしてくれたんだってな。ありがとう」


「くくく、キミは風の、な……仲間なのだからね。風に出来ることなら力になるさ」


風に揺蕩う白銀の髪の毛をいじりながらウェンが呟く。細く長い三つ編みをくるくる、陶磁器のような細い指が弄ぶ。


改めてぼんやりと、海原はウェンを眺める。肩あたりまで伸ばされた髪の毛、一本だけ結われた三つ編み。髪質は風にそよいでいる。


ピコンと鋭角に伸びた耳はウェンが尋常の存在ではないという事を現している。エルフと呼ばれる事もある。あれはどういう意味の言葉なのだろうか?


海原が黙ってウェンを見つめていると


「おい、オッサン。見惚れすぎじゃねえか? あのおっかない冷血女の姉貴にチクっちまうぜ?」


くくくと小さく笑う田井中、海原はげえっと呟いて


「てめえまで鮫島みてえな事言ってんじゃねえよ。雪代が俺をどうこう思ってるわけねえだろうが。悪りぃな、ウェン。セクハラじゃねえんだ」


「くくく、構わないさ。有象無象に物珍しく眺められるのはあまり気分の良いものではないが……、ああ、キミなら良いよ、ヨキヒト君」


「あれ、なんか好感度高いな俺。聞いたか、田井中。別に良いらしいぞ、おい、聞いたか」


海原が肘で隣の田井中を突く。田井中がうざったそうに眉を片方吊り上げた。


「うぜえ。ちょっと女と仲良くなれたからって浮かてんなよ。マジであの女に殺されるぞ」


「あ? だから雪代がなんでーー」


海原が田井中に言葉の真意を正そうとした時、


パンパンと、手のひらをたたき合わせる音がした。


ウェンだ。


「はいはい。キミたちが仲良しさんなのは良く分かったよ。くく、少し妬けてしまいそうなほどにね。とりあえず、みんな起きた事だし、どうだろうか、友好を深める為にも1つ提案があるんだが」


ウェンが大樹に座り込む男2人を腰に手を当てながら見下ろす。


心なしかその宇宙を隠したような瞳がさらに輝いているような気がしてーー


「コスプレ女、じゃなくてウェンフィルバーナ。何するつもりだ?」


田井中がだるそうに首を傾げながら問いかける。海原はその様子を見て、ある程度2人が会話を交わしていた事を察した。


「くくく。人間が友誼を深める手段の中でも最も健康的でかつ、合理的な事だ」


「なんだそりゃ。田井中、わかるか?」


「わかんね、つーかそれより腹が減った。友誼とかんなもんより先に飯が食いてえ」



「それだよ! タイナカ! よく気付いた!そう、今我々に必要なのは相互の理解を進める食卓! バーベキューを始めよう!」



長い手足を広げながらウェンが叫ぶ。


「……オッサン、コイツが何言ってるかわかるか?」


「あー、バーベキューしたいんじゃね? 健康的で合理的かは知らねーけど」



「くくく、一度やって見たかったんだ! 旅の仲間と獲物を囲んで食いながら語り合う。ニホンジンはこれをバーベキューと呼ぶのだろう! 風は物知りだからね、知っているのだ!」



「オッサン、コイツ、もしかしてーー」


田井中が若干疲れたような顔で海原に話しかける。何を言いたいのか大体わかったが、海原はあえて首を横に振る。


「田井中、それは口には出すな、恩人だしな」


田井中が小さくため息をつくのを見て海原はゆっくりとうなづいた。


ウェンは頭に?マークを浮かべているかのように、目をぱちくりと瞬きさせる。その眼は自分も話に入れて欲しそうな風に見えた。


ああ、コイツこういう子なんだ。海原からウェンへのミステリアスな印象が少し、薄れていく。



「あー、ウェン。とにかくよくわかんねえけど、バーベキュー……したいのか?」


「したい!!」


耳がピコピコピコとちぎれんばかりに上下に振られる。


初めて出会った時の不思議な雰囲気はどこに行ったのか。今のウェンはまるで休日に親に向かってはしゃぐ子供のように見えた。


今はバーベキューよりも確認したい事がある、とか言い出せる感じではなくなってしまった。


海原は頭の中にもやもやと広がる様々な気になる事を眺めつつ、言った。



「よし! ……わかった! 田井中!! もう、こうなりゃ仕方ねえ! まずは食うぞ! 食って飲んでそれから考えよう!」


「マジか、……まあ、今更気ぃ張ってもしゃーねーか。腹は減ったし。でもよ、何食うんだ? こんな所にゃ、缶詰も保存食もねえだろ」


田井中が海原とウェンに向けて問いかける。立ち上がって伸びをする様子を見ると、その四肢は自然に動くようだ。


「ん? 食うモンならいくらでもあるぞ」


「くくく、ああ、ヨキヒト君の言う通りだ。とりあえずはトートバックの中にあった肉と、風がさっき取って来た獲物もある。これを焼こうか」


キョトンとしながら、海原とウェンが田井中の質問に答えた。


「……肉だと? おい、オッサン、まさか」


「ん? ああ、そうそう。怪物の肉。これが結構イケるんだわ」


平然と海原が答える。ウェンはごそごそと海原のナップザックを広げて、葉に包んだ肉の塊を広げていた。



田井中がげっそりとした顔で大樹に背を押し付けるように仰け反った。


「い、いやだ。そんなもん食えるか!! オッサン、アンタマジでイかれてんのか?」


「いや、それがな。普通に美味いんだってば。生食もいけるぐらい。あれだ、あれ。生ハムメロン的な」


海原は呑気に、はははと笑いながら田井中へ怪物肉の美味さを伝える。


「ヨキヒト君、火の石を何個か使うよー」


「おう、使ってくれ。頼むわ」


ウェンはふふふーん、ふふふふーんとこれまた呑気な鼻歌を歌いながら、火石を組んで即席の焚き火を作っていた。



「お、オッサン。怪物の肉ってマジで言ってんのか? あ、アンタもう食ってんのか?」


「ん、おお、普通に食った。狼っぽいのと、蛇かうなぎかミミズっぽいの。大体美味かったぞ」


海原もすくりと立ち上がり田井中にわきわきと近付いていく


どうやらコイツはまだ自分の置かれた状況を理解出来ていないらしい。食えるものはなんでも食う、出なければ死ぬ。


サバイバルを田井中は理解していないようだった。


「い、いやだ。来るな! 寄るな、オッサン! 」


「ワガママ言うんじゃない。田井中 誠。大丈夫美味いから。缶詰とかより栄養あるし、多分」


のそり、のそりと海原は大樹の根を踏みしめ、乗り越えながら怯える田井中へ近づく。


子どもに食べさせるのは大人の義務だ。妙にずれている倫理感の元に海原は歩みを進めている。




「やめろ、やめろ! 俺はぜってえ食わねえ!! 怪物の肉なんてわけわかんねえモノ死んでも食うか!!」


「美味いから、マジで」


海原の妙に低い声に田井中は叫びながら反発する。



「うっせえ! 絶対食わねえ!! 俺は、俺は絶対屈しねええええええええ!!」



ウェンの呑気な鼻歌が響く中、田井中の叫びが奈落に響き渡った。




………

……





「うっっっっま!! これ、マジで美味え

!! オッサン、次!」


2口で割とでかい肉の塊を平らげた田井中が空になった黒い石を磨いたような皿を海原に突き出す。


焚き火を囲う形で地面に座り込む3人は、バーベキューの最中にあった。


へいへいと海原は串に刺して炙っていた肉の塊。脂の滴るそれを手元の大皿に置き、銀色のナイフで軽く切り分けてから田井中に渡した。


「サンキュ! っん。うま。マジヤベエ」


箸がないので田井中もまた串で器用に肉を刺して口に運ぶ。もぐ、もぐと凄まじい勢いでなくなる肉。


すぐにおかわりの指示が来るだろう。


海原はさっきまであれだけ怪物の肉は食べたくないと叫んでいた田井中の即堕ちの様子を満足そうに眺めながら、次の肉を焼き始める。


そっ、と。肉を焼く海原の手元に空皿が差し出される。


ウェンの細い白魚のような手がちんまりと皿を摘んでいた。



「か、風も、あともう少し欲しいな……」


そわそわと恥ずかしげにウェンが皿を差し出したまま海原に肉を要求する。


「ん、了解。あともう少しで焼ける。つーか、ウェン。なんでそんな恥ずかしそうにしてんだ? バーベキュー始める前のテンションとだいぶ違うような」


「く、くく。そうかい? そうかな。えと、その……なんだ。こんな風にだれかとごはんを食べた事が、あまりないから……、その、なんか恥ずかしいんだ……」


耳をぺたりと寝かせながらウェンが小さく呟いた。海原は目の奥から何かが沁みるのを堪えて、肉をさらに火に近づける。早く、焼けろ、焼けてあげてくれろ! マジで!


海原はぐるぐると串を回し続ける。


「ああ、まあウェン、ほら気にすんなよ。そんないちいち気にしてたら味も分かんなくねえか?」


「ああ、いや、それがそうでもないんだ。誰かと一緒に食べるごはんは……、恥ずかしいけど、とても美味しいよ」


にこり、困ったように笑うウェンの姿を見て、海原は隠された父性本能が猛烈に擽られていく気がした。


「たくさん食え! ウェン! そして恥ずかしがる必要なんかない! 見ろ、田井中のあの姿を。あれだけ食いたくねえとか宣ってたくせに、見てみろ、あの肉に取り憑かれた顔を! 恥ずかしいていうのはああいうのだ」


「おうこら、オッサン。喧嘩なら買うぞ」


もぐり、もぐり。肉を頬張りながら田井中が凄む。普段ならばもう少し威圧感があるはずだが、口をリスのように膨らませながら咀嚼する姿では残念ながら、威圧感も半分以下だ。



「肉食ってから話せ。ほら、どーせまた食うんだろ、皿寄越せ」


海原が手を差し出すと、田井中も素直に皿を差し出す。肉の塊をそぎ切りいくつかを田井中の皿に盛る。


「悪りぃ、ウェン。皿貰うわ。どのくらい食べる?」


「……そ、そのもう少し…… いや、やっぱりいっぱい欲しいかな」


人差し指と人差し指をツンツンと合わせながらウェンが耳をゆっくり動かしながら呟く。


良い、良い。たくさん食え。海原は無言で頷きながら、ウェンから受け取った皿に肉を盛り合わせる。


「ほらよ、まだあるからたくさん食え」


「くく、あ、ありがとう。イタダキマス」


ちび、ちびとウェンが肉を二又のフォークのようなモノでつまみながら口に運ぶ。ハムスターのようにもそもそと食べるその姿を見て海原は満足そうに笑った。


'ヨキヒト、分け合う精神は素晴らしいですがこれは貴方の獲った獲物です。なくなる前に摂取を。壊れた人差し指の回復の為にも栄養を摂取して下さい'


マルスの言葉に海原は頷く。手元の肉を掴み、串に刺す。


じり、じりと火石のあげる火に晒す。どこかで適当な形の石を見つけてその上で焼くのも良いかもしれない。


海原は無言で肉を焼き続ける。この肉は海原が倒して獲得した肉だ。もしかしたらこうして食われていたのは自分かも知れない。


てらてらに脂が浮き上がり、宝石のような輝きを肉が放ちはじめた。生命の形が火で炙られ食料に変わっていく、これを食って生き延びる。


生命は生命を喰らって生き延びるのだ。


なるほど、だからーー


「いただきます、なのか」


皿の上に肉を乗せる。ウェンから借りたフォークで肉を口に運ぶ。


もちゅ、唾液に脂が混じる。美味すぎる。脳みそが開くような快感。肉と自分が舌を通して1つになる。


「うめえ」


海原が噛みしめるように呟く。


「ああ、そうだな」


肉を頬張り、田井中が笑う。



「くく、そうだね」


ウェンが朗らかに口をハンカチのようなもので拭きながら花のように笑った。


傷ついた身体を怪物の肉を喰らいながら癒す。怪物の肉を頬張り、焚き火を囲んで笑う。


酷い状況だが、海原達は生きている。


サバイバルの3日目が始まった。


読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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