奇跡の奥さん
男がいた。
この男、どうしようもない男で大の競馬好き。
ロクに働きもせずに、奥さんがパートで稼いだ金も馬券に費やすような男だった。
そんな男にも優しさはあった。
ある日、万馬券を穫ったとハシャいで奥さんにネックレスを買ってきた。
奥さんは嬉しくて、とても喜んだ。
ネックレスは奥さんによく似合っていた。
その夜、奥さんはお祝いだと言って男の好物のトンカツを作った。
そして、ビールを注ぎながらこう言った。
「私のパート代が少なくて、あまり馬券も買えずにごめんなさいね。 あなたが好きなことをして、楽しくしているのを見ているのが何よりも嬉しいわ。」
始めは陽気に祝杯を上げていた男だったが、優しく微笑みながら話を聞いてくれる奥さんの顔を見て、やがて、胸に込み上げてくる思いで何も喉に通らなくなった。
男は、今日はもう寝ると言って部屋を出ていった。
男は、布団の中で泣いていた・・・。
翌朝、男は散歩に行くと言って出かけていった。
男は公園を通り抜け、ハローワークへ向かって歩いた。
ベランダでは奥さんの胸元のネックレスが朝日を浴びて輝いていた。