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キリング・サーベイラント  作者: 舎模字
1/1

「動くなッ!」


限りなく黒に近い紺。その色のスーツで身を固めた女性。白藜(シロザ)の凛とした声が、議事堂に響く。


白藜(シロザ)は堂内をねめつけるように見廻す。

そこに居る男女は。

みな老境一歩手前、顔面に刻まれた皺が目につく。それは、ある時には愛想を、時には嫌悪を示す、これを幾度となく繰り返すことで、刻まれていったものなのだろう。

その現職議員の老人たちは。白藜(シロザ)の目には、現政府を(はや)すモノ達、と映った。


「これより、現△△大臣○○氏を『国家に不利益をもたらす利害構造を誘引した罪』で罷免、保安局の権限のもと、この場で『粛正』を行う」


白藜(シロザ)はその右手に掲げた銃。その銃口を老人たちの一人に向け。引き金を引いた。


「〇×△※◇!」


撃たれたその老人は、声にならぬ叫びを上げる。



◇■◇



「怖いユメを見たの?」


早朝。白々しい光がカーテン越しに室内に注ぎ込んでくる。

窓際のベッド。綿のシャツを羽織ってぼうと座り込んでいるのは、白藜(シロザ)だ。

そのかたわらで寝そべるのは、黒髪をたおやかにはべらせる。これも女性、イベリスだった。


イベリスは体を起こし。呆然とする白藜(シロザ)に身を寄せ、その肩を抱く。

白藜(シロザ)は抗うこともなく。イベリスの胸に身を預ける。

白藜(シロザ)の頬をつと、しずくの一滴が伝い落ちた。


「よしよし……」


彼女らは『国家保安局』に身を置くエージェントだ。

その姿は。見目麗しい女性の姿をしているが。

彼女らはヒトであり、ヒトでは無い。

神がヒトを作り賜うたように、ヒトが己が似姿を真似て作った、ヒト。

ヒトならざるもの。AIで駆動するアンドロイド、という存在だった。


『国家保安局』は法を司る機関で。

現在この国は、権力構造の一柱を、この機関に委ねている。

そして彼女ら『国家保安局』のエージェントには、『法の守護者』としての役割が与えられている。


「…………」


彼女らエージェント。ときに『キリング・サーベイラント』と揶揄される彼女ら。

その知性は。

『ヒト社会の恒常性維持』を初期値として与えられ。

果て無き機械学習の末に確立される。


その人格形成の背後には、自己保存の本能。社会回帰の特性を持たせるにあたって『ヒト、その似姿を愛しく思う本能』が刷り込まれている。


無論、愛と合理が時に反目するのは道理。


彼女らAI仕掛けのエージェントもまた、職務によりその精神を疲弊させる。

いやむしろ。

機械仕掛けの精妙な理性を背景に持つ彼女らゆえに。

精神を病み、文字通り壊れてしまう者も少なくない。




『キリング・サーベイラント』

ヒトの似姿を持つあつらえられた者。ヒト、そしてヒトの似姿を愛するよう。

プログラムされたモノ達。


いま、白藜(シロザ)の頬を伝う一滴には、そうしたものものが込められている。

その肩を抱くイベリスも、遠からずその想いを共有していた。


(あかつき)のつかの間においては。そのような感傷が去来するのも、仕方のないことなのだろう。

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