4話 目標
その瞬間、部員たちがざわついた。
昔、薊第二中学校吹奏楽部は全国大会常連校の超強豪校でこの辺りではとても有名だったらしい。
その頃、顧問を務めていた先生が10年前に産休、育休で部活を離れてからコンクールの成績はだんだんと落ちていき、部員数も減りこのような状態になっている。
そして、今も音楽室にはその10年前の栄光の証として、全国大会の写真とトロフィーが飾られているのだ。
「全国大会、か。本気でやる気があるなら、先生はそこまで連れていけるような練習をする。
だが、それは1人で決められる事じゃない。今日はこれで解散にするから三年生で話し合いをして、明日結果を話に来なさい」
厳しい口調でそういうなり、先生は音楽室を出ていった。
少しずつ一、二年生たちが帰り始め、取り残された三年生たちに沈黙が広がる。
「とりあえず、さっき綾子の目標聞いてなかったから聞きたいんだけど」
そう言ったのは、部長の日葵。ユーフォニウムを吹いている。
突然私に話が回ってきて内心ビクッとしながら平然を装い、私は答える。
「私は、コンクールとか全国大会とか明確に目標は決まってない。けど、人前で納得のいく演奏をしてみたい」
ずっと頭の中で考えていたことを思い切って言った。
奈実ほど凄い目標では無いけど、もともと人見知りで目立つのが嫌いな私にとって、初めて言った正直な気持ちだった。