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ながれぼし【本編】  作者: 和光佳清
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4

(健人の家に行く)

気がついたら、俺の部屋に居た。

確か、希未がファンシーショップで倒れていて――。

観空「あら、お目覚めね」

観空がいた。

何で観空がいるのだろうか。

確か、駅のプラットホームで別れたと思っていたのだが。

観空「急に倒れるんだもの、慌てたわよ」

倒れた――。

希未の事だろうか。

となると、俺は観空と共に、希未を家まで運んできたのだろうか。

しかし、希未が倒れてから、今目を覚ますまで、俺の中の記憶がない。

それほどテンパっていた、ということだろうか。

辺りを見回したが、希未がいない。

どういうことだ……?

健人「そういえば、希未は……」

観空「あぁ、別の所にいるわよ」

健人「別の所……」

観空「ちょっとまだ目を覚まさないと思うから、しばらく安静にしておいた方が良いと思って」

健人「そうか……」

安静にしている、か。

少し希未の事が気になるが、あまり無理に起こしても仕方がない。

観空「彼女が自分から目を覚ますまで、そっとしておいた方がいいと思うの」

健人「そう、だな」

観空「うん。それが健人くんにとってもいい事だと思うから」

健人「そうなのか?」

観空「無理に起こしてみなさいな。女の子の寝起きは機嫌悪いんだぞ」

観空「それに、急に倒れて、目が覚めたら健人くんの顔があったら、そりゃバツが悪いって思うじゃないの」

観空「そういう心遣いが出来て、一人前の男の子よ」

健人「男の子って言わないでよ、もうそんな年じゃないんだから」

観空「あはは、ごめんごめん」

カラッと笑った観空だったが、流石に疲れた表情をしていた。

二人でだったとはいえ、一人の女の子を連れて家まで運ぶのは、相当な労力だっただろう。

俺も、その疲れで眠ってしまっていたのだと推測する。

健人「でもさぁ、どうして観空が俺と一緒に希未を連れて来てくれたんだ?」

健人「あの時、駅で別れたじゃないか。どうして俺達の居場所が判ったんだ?」

観空「それは、女の勘よ」

うまくお茶を濁された感じがあったが、そこを追求しても仕方がない。

観空「ねぇ、健人くん」

健人「何だ?」

観空「のぞみちゃんの事、どう思ってるの?」

健人「どう思ってる……?」

どう思っていると言われても、いきなり俺のアパートに飛び込んできた、不可思議な女の子だ。

しかし、それからの彼女の行為は、俺に対して不快な事はなかった。

健人「判らない。ただ……」

観空「ただ?」

健人「彼女と居ると、悪い気持ちにはならないかな」

観空「そう……」

観空は少し目を細め、カバンからおもむろに何かを取り出した。

それは、『オロミリンZ』と呼ばれる炭酸飲料だった。

観空がよく俺への差し入れに持ってきてくれるモノだ。

観空「これ飲んで、シャキッとしなさいな。健人くんも疲れてるみたいだから」

と言いながら、オロミリンZを俺に放り投げてきた。

俺はそいつを何とかキャッチした。

健人「あ、あぁ……」

観空「さぁ、ググイッと飲んじゃいなさいな」

健人「…………」

俺はオロミリンZの蓋を開ける。

プシュッと炭酸の抜ける音がする。

それを口に含む。

何とも言えない爽やかな感触が口の中に広がる。

その感触を味わいながら、食道・胃へと流しこむ。

これには特別な成分など入ってはいないが、飲むとスッキリするというのは、本当なんだろうと思う。

それがただの思いこみだと言われようとも、だ。

観空「どう? 少しはスッキリしたかしら?」

健人「あぁ……」

観空に言われるまでもなく、スッキリとした気持ちになっていた。

何というか、頭の中がクリアになってくるというか。

観空「まぁ、今日は眠っちゃいなさい。貴方も少し疲れているでしょうから」

観空に促されるまま、俺はベッドへ行き、横になった。

健人「何か迷惑かけてしまったな。サンキューな、観空」

観空「今更何を言ってるんだか」

いつものように、憎まれ口を叩く観空だった。

観空「それじゃ、私はこれで帰るから。明日は講義受けに来るんだぞ」

健人「へいへい」

そう言った観空は、俺のアパートを出て行った。


観空が帰り、アパートの中は静かになった。

5月の夜は虫の音も聞こえず、たまに通る車のエンジン音が、静寂を打ち払っていた。

ふぅ……。

何だか、今日はせわしない一日だった。

そういえば、一人になった時間が出来たのは、あの朝以来だ。

朝起きた時、いきなり俺のアパートに飛び込んできた女の子がいた。

その女の子は俺につきまとい、色んな所へ連れて行く羽目になった。

それで……。

俺はどうしたんだっけ……。

……あぁ……。

なんか……ねむい……。

…………。

………………。




目を覚ました。

部屋は明るかったが、外は暗いままだった。

どうやら、電気を点けたまま眠ってしまっていたらしい。

時計を見ると、午前0時を示していた。

シャワーにも入らず寝るのは、どうも気持ち悪い。

なので、シャワーを浴びることにした。

日中にかいた汗を、シャワーで流れ落とす。

シャワーは、汗だけではなく一日の疲れをも落としてくれるような感覚がする。

また、水圧で体にある程度の刺激を与えてくれるため、マッサージ効果も期待出来る。

だから、俺はシャワーが好きなのだ。

シャワーを終えた俺は、タオルでその水を落とし、寝間着に着替える。

そして、寝る前にテレビを観るのがいつもの日課になっていた。

日中はほとんどテレビを見ないが、夜中にはよく観ていた。

それはどうしてか判らないが、気がついたらそういう習慣になっていた。

俺はリモコンでテレビを点ける。

どうやら、ニュース番組が掛かっているらしかった。

巷のことには疎い俺は、つまらない番組だと思い、チャンネルを変えようとした。

『さて、次のニュースです。インドネシアで起こった飛行機事故から、昨日で17年を迎えたのを期に、現地では十七回忌の法要が執り行われました』

『17年前の昨日、1997年5月26日に起こったインドネシア飛行機事故では、日本人6名を含む230名が犠牲になり――』

――え?

5月26日って、昨日……。

そんな事故が、昨日あったんだ。初めて知った。

『この飛行機事故で、機体は森林に墜落・炎上し――』

炎上――?


(フラッシュバック)

辺りは燃え盛る炎で充満していた。

天まで届くような火柱。空気まで蒸発させようかと言わんばかりの熱風。

焦げ臭いニオイ。火によってバチバチと燃えてしまう木々達。

いくら呼んでも。いくら叫んでも。

炎が無慈悲に僕の声を覆ってしまうのだ。

熊のキーホルダーは半分以上焼け焦げていた。

キーホルダーが落ちていた場所から――。

黒い人型の物体があった。


俺の頭の中に、燃え盛る世界の風景が映し出された。

紛れも無くそれは非現実的であったが、事実であることは間違いなかった。

炎に包まれる俺。

――それは、17年前の俺だった。

希未「おめでとう。ようやく目を覚ましたわね」

ふと、声のする方へ振り向いた。

そこには、今日一日ずっと俺と共に過ごしていた女の子が、立っていた。

しかし、その姿はついさっきまでの彼女とは全く違う雰囲気を醸し出していた。

赤くて大きい目は、必要以上に見開いていた。

顔は笑っているが、左右の口角の長さがバラバラで、不気味な様相を呈していた。

長髪は無造作に散り乱れ、整えられていた洋服は所々シワが寄っていた。

日中俺と出かけていた同じ人物とはとても思えないほど、様子が変わっていた。

健人「キミは……?」

俺はその人物の名前を出せずにいた。

本当にそうなのか。本当に今日一緒にいた女の子が、彼女なのか。

本当なのか嘘だったのか、よく判らないでいたからだ。

彼女は、左右非対称の口を更に歪めた。

そして、彼女は俺の肩を引き寄せ、唇にキスをした。

――――。

長い永いナガイ、口づけ。

その時間は、一瞬だったのか。それとも長かったのか。

唇から離れ、彼女が発した言葉は。


希未「おはよう。さぁ、世界を壊しに行こう」













速報です。

本日午前6時ごろ、東京都○○○市の○○線○○駅にて、中規模の爆発が発生しています。

現在、負傷者が数名居るようですが、詳しい事はまだ判っておりません。


続報です。

○○駅における爆発ですが、警察の調べで、放火の疑いが強いとの見方を示しています。

何者かが○○駅のビルの屋上から飛び降り、着地する直前に発火物を撒き散らしたという目撃証言もあるようです。


○○駅における爆発による火災は、発生から4時間が経過した今では鎮火しています。

犯人はまだ見つかっていませんが、火災発生直前に、ビルの屋上から飛び降りた人間がいて、

その人物が発火物を爆発させたとの情報が流れていますが、その犯人はまだ見つかっていません。

火災に巻き込まれて死亡したのか、どこかへ逃亡したのか、まだ所在は不明だということです。

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