蒼天の竜が住む教会
「ここは……一体……」
俺は目覚めてみると、目の前には蒼く光る幻想的な風景が広がっていて、思わず息を呑む。
「しかし、何だここ……」
それもそうだ。俺は確か、友人と海で遊んで調子に乗って沖まで泳いで行っちまって。そしたら、突然大きな波に呑まれて、今に至るんだ。
でも、不思議だな。死んでるのか死んでないのか、未だに実感が湧かない。
それに、俺の服装も違う。所々に竜の装飾が着けられているシックな格好に身を包んでいたのだ。しかも履いていたサンダルは竜の紋章が刻まれた黒いブーツになっていて、それでオパールの様に輝くタイル状の床を踏むと、波紋が広がっていく。
「おかしいな……」
呑まれた時は海パン一丁で遊んでいたはずだ。なのに、何故だ?
疑問を抱きながら周囲を見渡すと、目の前には俺を囲むかの様に、アンティーク調にあしらった円状の空中通路がぐるりと建っている。通路の下には鐘が取り付けられていて、奥には時を知らせる時計台が付いた古びた巨塔がそびえ立つ。
「でも一体、ここはどこなんだ? 人もいねぇ……」
しかも、左側には高級ホテルの様な立派な建物もあるし、おまけに水の中にいるはずなのに、何故か周りには木々が生えていて、普段よく見る緑の木よりも生き生きとしている。まぁ、俺もこの中で息をしているから、全く気にも留めなかったが。
「でも、綺麗だよな」
ボソリと呟きながら上を見上げると、蒼く光る木々から眩い光が射し込み、装飾はより輝きを増して行く。そんな中、俺は古びた巨塔の上を目指し、歩いていくことにした。
中に入ると大理石で出来た螺旋状の階段があり、俺はそれを一段一段登っていく。
中段に差し掛かった時、本だらけの部屋へたどり着いたので、休憩がてらに入ってみることにした。窓に映るは蒼く輝く木々達。更に窓を開けて左右を見渡すと、時計が一秒一秒時を刻んでいる。
「あの……。あなたは?」
「え?」
外の景色に見とれていた時、背後から女の子の声がしたので振り向くと、まだ十にも満たない少女がずっと俺を見続けていた。
彼女の長い髪は蒼く光っており、曇りもない綺麗なエメラルド色の目をしていた。顔立ちはエルフみたいに幼く、あどげなさが残っていた。
「おにいちゃんは、なまえ。あるんでしょう?」
「俺のことか?」
そう訪ねるとうん。と笑いながら頷く。
「えっと、俺の名は……蒼哉と言うんだが……」
「あ、あおや?」
すると、真っ白なワンピースをなびかせながらギュッと俺の腰に抱きついてきた。
「ずっと、まってたんだ!」
「え?」
「わたしはね、ティアっていうんだ。あなたみたいに、やさしさがいーっぱいあふれている。そんなひとを……ずっと……」
彼女は濁りのないエメラルドの瞳を潤ませながら俺の手を優しく握る。
「ティアちゃん、だっけ? えっと、それって、どういうことなんだ?」
俺はというと、突然のことでパニクってしまい、思わず動揺する。
「もっと詳しく教えてくれないか?」
そう言うと彼女は笑いながら意気揚々に話し始めた。
「んーとね、ここは『そうてんのきょうかい』といってね、大きなりゅうがいちばん上でねむってるんだよ!」
「蒼天の……教会?」
「そう! そこではね、青い色をしたりゅうがいてね、『あお』とお名前が入ってる人がけいやくというのをむすぶとね、せかいが平和になるんだよ!」
「へい……わ?」
いきなり大スケールな話になってきたので、ポカンと口を開く。
「そう! このせかいのおえらいさんになって、平和をやくそくするんだって!」
「平和を……約束する……かぁ」
俺が大波に呑まれる前、世界では何処も各地も戦争が勃発しており、テレビのニュースが流れる度にいい思いはしなかった。いつも「何で争ってるんだろう」と疑問に思っていてばかりで、見て見ぬふりをしてきたが、次第に、「争う他に何か手段はなかったんだろうか……」と段々思うようになってきて、今に至る。
そして、俺より小さな女の子 ティアに『平和』という言葉を言われ、改めて決意を固めた。
「俺、青い竜に逢ってくるよ」
「ほんと?」
彼女は目をまんまるくしながら笑顔で微笑む。
「あぁ。逢って、ちゃんと平和を約束するよう、お願いしてくるよ」
「わぁい! うれしいなぁ! きっと、おにいちゃんがここのおえらいさんになったら、みんな平和になるよ!」
「ほんとか?」
「うん! ぜったいだよ!」
そう言うと、彼女は本だらけの部屋から出て、どこかへ行ってしまった。
「さて、登るか」
俺は彼女との誓いを握り締め、本だらけの部屋を後にした。
*
「ここが……最上階。か」
長い長い螺旋状の階段を再び登り、ついに蒼天の教会の最上階へとたどり着いた。
はっきり言って、すっげー疲れた。今にでも倒れそうな気分だ。
「にしても、竜はどこにいるんだ?」
しかし、どこを見渡しても竜の羽一つも見当たらない。一体どこにいるんだ?
俺は途方に暮れ、思わず床に視線を落とした。
――おにい、ちゃん!
すると、何処からか聞き覚えがある声がした。まさか……
「おい! ティアか? どこにいるんだ? 返事しろ!」
蒼く囲まれた風景の中、声を荒げながら懸命に呼んだ。ティアの名を……。
――ここ、だよ!
「えっ!?」
声がする方へ振り向くと、そこには青い艶やかな水竜が一匹、俺の前で微笑みながらこちらを見つめていた。
「君が……、ティア?」
「そうだよ。ティアは、このときをずっと、待ってたの」
「そうだったんだ」
まさか、あの少女が水竜だったとは。俺は思わずふっ。と鼻で笑う。
「びっくり、した?」
「あぁ。驚き過ぎて何も言えねぇ」
「とつぜんで、こめんね」
「謝るなって!」
俺は泣きそうになっている水竜 ティアの頭を優しく撫で、
「うん。わたしは、大丈夫、だよ」
「そっか」
「じゃあ、いっしょに平和なせかい、作っていこう! あらそいのない……ね」
「あぁ。分かった。俺もティアと共になら構わねぇよ」
この後、俺とティアはこの最上階で契約を結び、晴れて竜使いとなって世界の平和を誓い合ったのであった。




