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燐火の響き  作者: 壊れ始めたラジオ
僕らは(社会的に)死にたくありましぇん!
7/30

観察五日目其の一/民家の屋根裏に住み着くタヌキは、結構根性あると思うんだ

「…すみません。高等部の赤石燐先輩ですか」


「…」


「……あの」


 私がもう一度言おうとした時、赤石先輩はゆっくりと読んでいた大判本を閉じ、元々置かれていた棚に戻した。そしてツカツカと足音をたてながら近づいてきたかと思うと、いきなり制服の袖を引っ張られ、図書館の外へと連れ出された。



 なに、なに?



 ◆



 ……まあそういうわけで、第一話「シーカー女は「覗き」がご趣味」の冒頭へと戻ってきたワケなんだよ。え? メタ発言って何? 美味しいの? 知らない子だね。


「シーカーさん、そんな高い所にいたら、また見つかるっすよ」


「すみません……。今日は、何かが起こりそうなんですよ……」


「わかったっす。下は、私達がしっかり固めておくっすから、しっかり撮ってくださいっす!」


「言われなくても! ……って、あれ?」


 突然、赤石燐が立ち上がり、夜ノ森響を図書館の外へ連れ出してしまった。

 僕は急いでスタンバイしていた撮影機材を片付けて、地面へと飛び降りた。


「ど、どうしたっすか?」


「二人が移動したんだ。急いで追わないと!」


「でも……どこへ行ったんすか?」


「……あ」


 確かに、図書館の外へ行ったところまでは見えた。けど、行き先までは……。


「……シーカーさん、ブラックアウトさん、こっちです。……私に、ついてきてください」


「「え?」」


 今まで空気と化していたMs.フォッグさんが、動きだした。



 ◆



「この中に、入ってください」


「これって……」


 僕達の前に姿を現したのは、小さな鉄格子で塞がれた四角い穴。いわゆる、ダクトと言われるものだ。


「この中に、入るんすか?」


「私を信じてください」


「いや、信じますけど……」


 流石に、ちょっと抵抗が……。

 ……でも、やるしかない。


「二人とも、下がってくださいっす。……にゃ!」


 ブラックアウトさんが、その華奢な右腕を振り下ろした。すると、いとも簡単に鉄格子が外れた。


「す、すご……」



 ◆



「……どうやら、この下にある部屋に向かっているようですね」


 ほふく前進でダクト内を突き進み、たどり着いたのはどこかの部屋の真上。通風口の格子から光が漏れていて、向こうの様子をわずかながら窺うことができる。


「どうして、二人がここにやってくるとわかるんですか?」


「これですよ」


 僕の質問に対して、フォッグさんは右手で耳を澄ますジェスチャーをしてみせた。


「……音?」


「そうです。つまり……『エコーロケーション』というやつです」


 エコーロケーション。

 反響定位とも呼ばれ、音が物体に反射したスピード・角度・振動数を感じ取って、どんな物体が、どこにあるのかを察知する能力。一般的には視覚障がい者が自分で音を鳴らして周りの状況を読み取ったり、スパイ映画に登場するエージェントが逃走した対象を追い詰めるために使っていたりする。けれどまさか、この広い学園の敷地内にいるたった二人の特定の、しかも動いている人間を探し当てるなんて、神業としか思えない。


「か、感心するっす……」


 いやいや、素手で鉄格子を破壊したブラックアウトさんが言いますか。


「そろそろ、来ますよ……」


 その直後、金属製の扉が開く重々しい音が聞こえてきた。


「お姉さん、ちょっとこの部屋使わせて」


 この声は知ってる。盗聴器でも聴いた赤石燐のものだ。


「前にも言ったけど、ここはカフェじゃな……あら珍しいわね。あなたが誰かを連れてくるなんて」


「えっと、確か用務員の……」


 この声の主は、夜ノ森響だ。


倉田(くらた)


「……と先輩は、知り合い……なんですか?」


「クラスメイトのお姉さん」


「……そうですか」


「……で? 何の用」


 倉田と名乗る用務員の女性……上からしか見えないけど、結構な美人だなぁ。

 ……じゃなくて。

 あの人も百合っ娘……年齢的には「娘」というよりレズビアンか。彼女もその体質だったら、面白いだろうなぁ。赤石夜ノ森ペアが一区切りついたら、観察してみようっと。

 ……でもなくて。

 彼女の声にはあまり感情がこもっておらず、目の前の問題に対して機械的に問いかけていた。


「彼女と話がしたいの。ここなら、二人きりになれると思って。お姉さんなら、たとえ居ても居ないようなものだから」


「……そう。じゃあ私、体育倉庫の整備に行ってくるから、好きなように使ってて」


「ありがとう」


 倉田は立ち上がり、ローテーブルに置かれたたくあん入りのタッパーの蓋を閉め、冷蔵庫に戻した。ギシッと音がしたってことは、ローテーブルの両脇に置いてあるあの茶色のソファーに二人が座ったのだろう。微妙に視界の外であるせいで、状況が一部見えないところがある。


 ……念のため、彼女の写真を撮っておこう。そう思い、格子に肘をついた瞬間。


「ガコン!」


 ……ガコン?


 僕が異音に気がついた時には、格子は床に落ちて大きな音を立てていた。


「「「あ……」」」


 僕ら三人の思考は、そこで止まった。

どうも、壊れ始めたラジオです。


星花女子プロジェクトで私が生み出した二人のうち、「赤石燐」ではないもう一人のキャラクター「倉田邑」が登場しました。彼女の活躍は、しっちぃさんの作品『咲いた恋の花の名は。』でご覧いただけます。


それでは。

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