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燐火の響き  作者: 壊れ始めたラジオ
百一回目で叶う前に心が踊る……じゃなくて折れる
19/30

購読伍日目/ロボット・ミーツ・ガール

「ごにちめ」です。

 ◇◆◇


「もう暗くなってる……」


 図書館で本を読んでいたら、ずいぶんと遅くなってしまった。


 転入してそろそろ一ヶ月が経つが、まあ……今日も一人だ。

 放課後毎日のように本屋や図書館に通っていれば、そうもなる。


 転入前と、さして変わらない日々。


 以外だったのは、今日の帰り際、クラスメイトで生徒会副会長の江川智恵(えがわちえ)に授業のノートを見せてほしいと頼まれたこと。全く話したことがないわけじゃなかったが、正直わたしのような陸の孤島状態の人間に助けを乞うような人には見えなかった。

 しかしあいにく、わたしもまともにノートをとれる状態ではない。適当な理由をつけて断った。


 そしてなにより……どうしても、本屋で会った彼女のことを忘れられない日々が続いていた。ノートが悲惨な状況なのも、それが大きな原因だ。

 最近はもはや、彼女のことを忘れるために本を読んでいるようなものだ。

 いつから、趣味がこんな風になってしまったのだろうか。


 ……全て、彼女のせいだ。

 わたしはこの頃、意味のわからないまま、いいようのない怒りのようなものを名前も知らない彼女にぶつけるようになった。


 もう、角をひとつ曲がれば自宅に着く、というところで。


「……え?」

「……ん?」


 奇妙な少女に、わたしは出会った。


 ◇◆◇


「……どうしたんだい? 僕についてきて」


 変な人についていってはいけない。

 昔から、いろんな大人に言われてきた。


「まさか僕に惚れたのかい? 参っちゃうな、モテる女はつらいよ」


 でも、わたしはついていってしまった。

 少女が、あまりにも奇怪な行動をとっていたから。


「どうして、ごみ捨て場からベッドを……」

「寝床の確保のためさ」

「そうじゃなくて」

「ん?」


 わたしよりも背が低い、小学生らしき少女。

 親はどこにいるのか。なぜ寝床を確保する必要があるのか。

 そんなことよりも、気になることを訊いた。


「なんで、片手でそんな大きなベッドを持ち上げられるの?」

「……まあ、そうなるよね」


 わたしは、見てしまった。

 小学生らしき少女が、大人二人が余裕で並べるような、セミダブルベッドを、あろうことか左手だけで軽々と持ち上げていたところを。


「……人類は今、ネットワーク無しでは生きていけない」

「……急に、何?」

「株取引、インターネットショッピング、ソーシャルネットワークサービス、そして……テキストや動画、音声を通しての意思の発信、趣味の共有。現在、ネットワークという場所を選ばない『目に見えない繋がり』が、この社会には必要不可欠になっている。現に、株の売買を使って離ればなれになる時間を極力削っているカップルがいるくらいさ」

「……だから何?」

「そんなネットワークそのものが、突如自我を持ったら」

「え?」

「ネットワーク自身が、人類を監視するようになったら」

「そんなこと、都市伝説でしょ……」

「いいや、真実さ。『僕』が、『それ』だから……ね」

「……どういうこと?」

「ああ……これだから人間は。もっと早く理解できないのかい?」

「……」

「……僕は……世界最高の人工知能『エニグマ』。僕の力をもってすれば、人類を半日で絶滅させることができる」

「エニグマ……人工知能……?」


 突然のことに、頭がついていかない。

 今までたくさんのSFファンタジー小説を読んできたが、その世界が、今、目の前に。


「よっ」


 少女が、わたしの目の前で指を鳴らした。すると突然、ある方向からしか、光が射さなくなった。

 唯一、月明かりだけが、町を照らした。


「……何を、したの……?」

「僕の周囲一キロ範囲内のあらゆる電力供給を絶った」

「え……」

「もういっちょ」


 さらに指を鳴らした。


「よいしょ」


 もう一回。

 少しずつ、人の声が聞こえてきた。


 パニック。

 その単語が、わたしの脳裏をかすめた。


「もう、もうやめて……」


 自然と、体が震える。

 恐怖が、わたしを侵し始めた。


「さらに水道とガスのパイプを切っただけで何を恐れているんだい? あ、ついでに全国の医療施設の人工呼吸器も止めてみようか? ふふっ。一時間僕が放置したら、何人死ぬか計算しようか」

「やめて、お願い……」


 わたしは、もうそれしか言えなかった。このどうしようもなく圧倒的な存在に、わたしは、ただただ懇願することしかできなかった。


「つまんないねー。……ほい」


 再び、少女は指を鳴らした。すると、町に一斉に光が灯った。


「君の言うとおり、元に戻してあげたよ」

「……何が、目的なの。こんなことして、何が楽しいの?」

「……僕が心から楽しんでいるように、見えるかい?」


 いきなり、声が低くなった。


「え……?」

「僕が笑っているから? いとも簡単にライフラインを止められるから? 飄々とした態度で君と接しているから? もしそれらの要因で君がそう判断したのなら……それはとんだ間違いだよ」

「ならなんだっていうの……?」

「通常、人間は外界から得る情報のほとんどを視覚に頼っている。だけどそれのみを鵜呑みにするのは、醜悪至極だね」

「……」

「別に視覚情報を使うのが悪だなんて僕は言うつもりはないよ。けれど、それだけじゃないだろう? 人間には……心があるのだから」

「心……」

「見た目や一時の感情に惑わされてはいけない。なぜ、自らがそのように感じたのか。自分は発見したその感情をどうしたいのか。それらに疑問を持つことができれば……自ずと答えは見えてくるはずさ」

「……」

「いやー今カッコいいこと言ったね僕。満点はなまる! ……お、そうだ」


 少女はそう呟くと、うつむいて黙りこんでしまった。

 そして顔を上げると、わたしに訊いてきた。


「……一ページ読むのに、一体何時間かかっているんだい?」

「え……」

「君が今日立ち寄った図書館の防犯カメラをジャックした。君が今日どこで何をしていたかなんて、手に取るようにわかる。……ふふっ、昔の僕と同じ脳波を感じたよ。……これは……」

「……これは?」

「恋、さ」

「……っ!」


 わたしは勢いよく体を翻し、家路を急いだ。

 わたしが走り去っていく時、少女からわずかに声が聞こえた。


「さあ、人生というゲームを楽しめ。……その命がある限り。有限なる灯火が、非情に吹き消される、その前に」

どうも、壊れ始めたラジオです。


「購読壱日目」に重大なミスがあったので、訂正しました。


それでは。

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