購読弐日目/本日のクエスト「正しく本を並べろ!」
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一週間ぶりに、うちの本屋に客が来た。私は新刊を入れるために棚の整理をしながら、その客を後ろから窺う。
髪色は黒。肩より少し下辺りまで伸びていて、特にアクセサリーとか加工は無し。クリーム色でビニル質の上着に、白っぽいチノパン。それとスニーカー。
……はっきり言って地味。女の子にしては地味すぎる。って立ち読みかい……。まあここに来る客はだいたいそんな感じだけど。
アタシが少し呆れていると、彼女がこちらへ振り向いていた。
やば、こっそり見てたのバレた?
「……そのシリーズ本、巻数の順番間違ってる」
「……え?」
彼女の視線の先には、今まさに私が直していた列。確かに六巻と九巻が逆に並んでいる。この人に気をとられていて、うっかり間違えてたか……。
「よけて」
「え……あっ」
彼女は無理矢理手で払いのけ、問題となっているその本の順番を正し始めた。
「いい? 本は人類が唯一遺せる宝物なの。そんな風にぞんざいに扱わないで」
「ぞんざいって……」
よそ見して順番間違えただけでしょ……? なにもそこまで言わなくても。
「……これでよし。……あとこれ、買ってく」
「あっ……ああ、はい」
本を直し終えたと思ったら、彼女は、私に二冊の伝記を差し出した。
私に向けられたその表情は、なんとなく、怖かった。