観察五日目其の七/我ら思う、故に我らは「弄女潜隊 心が叫びたがってぴょんぴょんするンジャー」だ!
サブタイトルにネタを詰め込みすぎ。
ちなみに、読み方は「ほうじょせんたい」です。
「あの、急に何……? というか落ちて……?」
という事で、前回からの続き。
僕の名前はMs.シーカー。本名は鹿追凌子なんだけど、そんなことは今はどうでもいい。とある組織で世界を百合色に染める活動に尽力している、百合好きの二十一歳女性。職業は盗撮魔。女の子達のキャッキャウフフな様子を影ながら見守りつつ、ファインダーにおさめるのが我が天命。
そんな僕はある日、ひょんなことからこの星花女子学園に乗り込んで……あ、本来の目的を喪失しかけていた……。
……で、なんだかんだあって用務員の倉田に追われていたんだよ。さらに一緒にここに来ていたMs.ブラックアウトさんとMs.フォッグさんとはぐれた上、逃げた先で図書館のカウンターに落ちてしまったんだから、まぁ、踏んだり蹴ったりだよね。
「いやぁ失礼。ちょっとね、ちょっと落ちちゃってね。アハハ……」
すばやくカウンターから降りて、目の前の少女に笑顔で会釈をしながら立ち去ろうと校舎へと続く扉のほうを向いた瞬間。
「見つけたぞ」
いつの間にか倉田が入ってきていて。
「あぁ……」
見つかった。
◆
「ちょっと、そのスピードは規格外なんですけど!?」
僕は今、走っている。それはもう全速力で。だってそうでもしないと捕まる。そしてきっと社会的に殺される。
確保されれば、僕の将来は、ゼロ。なんちゃって。
……って。
「冗談言ってる場合じゃないよねぇぇぇっ!」
そして、校舎内のとある十字路に差し掛かろうとしたそのとき。
「シーカーさん、ジャンプっす!」
「……!」
僕は聞き覚えのあるその声に瞬時に反応し、高跳びよろしくベリーロール。
眼下に見えた何かを飛び越えたあと、体をひねって背中で受け身。
「いたぁぁぁいっ!」
……失敗。
そして、僕の真上をものすごい勢いで通過していく倉田。彼女は慣性の法則でそのまま空中を飛び、遥か遠くで掃除用具のロッカーに突っ込んだのが見えた。
「速すぎるスピードが、仇になったっすね」
十字路の両脇の通路から現れたブラックアウトさんとフォッグさんに、僕は訊く。
「く、倉田に何をしたんですか?」
「横の通路から、極細のワイヤーを張って待機していたんですよ。ブラックアウトさんと合流してエコーロケーションをかけたら、倉田に追われているシーカーさんを探知したもので」
僕の質問に、フォッグさんが答えてくれた。
「とにかく、もう追われるわけにはいかないっすよね」
「……少し、大人しくしてもらいましょう」
二人の策に関心している僕をよそに、既に臨戦態勢のブラックアウトさんとフォッグさん。
「さ、さすがに殺さないでくださいよ!?」
「えぇ」
「わかってるっすよ」
そして僕達は、三角形の頂点になるように並び、叫んだ。
「闇夜を切り裂く忍猫。黒き夜空に映えるランジェリー。ぴょんぴょんブラック!」
「霧から現れ、霧へと消える。あなたの心、真っ白く百合色に染めましょう。ぴょんぴょんホワイト!」
「イエス百合っ娘ノータッチ。見えない所でこっそり見てます。ぴょんぴょんメーサイ!」
「我ら「「弄女潜隊 心が叫びたがってぴょんぴょんするンジャー」っす!」」っ!
……あれ、なんかノリでやっちゃったけどなんだこれ!?
「……面白い。ネズミ退治の時間だ」
ホコリひとつ立てず、ホウキを片手に立ち上がる倉田。
「まずは私から」
倉田の前に立ちはだかったのは、フォッグさん。……といっても何をするわけでもなく、ただ立っているだけ。
しばらくしてからこちらを振り返り、焦った様子で伝えた。
「ダメです! まったく目を合わせてくれません!」
「それなんか意味あったんですか!?」
「いやぁちょっと洗脳しようかと……」
「次は私が! にゃあ!」
今度はブラックアウトさんが、爪を立てて切りかかった。
しかし。
「うにゃっ!」
倉田に手が届くその直前に、ホウキではねのけられてしまった。
「うっ……」
「普通なら、このタイミングで奇跡が起こってパワーアップからの逆転っていう展開が……」
「それどこの世界の普通ですか!?」
「もう終わりか。なら、このまま警察に突き出す」
「くっ……」
「シーカーさん。あなただけでも、逃げてくださいっす……!」
「で、でも……」
二人にばかりやらせて僕だけ逃げるなんて……。
僕には、ブラックアウトさんのような脚力も腕力も無い。
僕には、フォッグさんのようなエコーロケーション能力も無い。
僕には、なんの力も無い。
目に熱いものを感じる。視界が歪み、目の前の倉田が不定形になっていく。
目から溢れた雫が頬を伝い、世界が徐々に紫色になっていく……。
……紫色?
「な、なんだこれ!?」
紫色? 藤色? 桃色? クローバー? XYZまで休まない唇?
わけがわからない。色に濃淡が現れ、グラデーションが認識できるようになっていく。特に、向こうの窓から差し込む太陽光が最も濃く見える。
太陽光、紫色……。
「そうか!」
これは紫外線だ。メカニズムはわからないけれど、どうやら僕は紫外線が見えるようになったらしい。
次に瞬きをすると、今度は視界にところどころ赤い線が見えた。これは赤外線か。
目を擦って見開くと、今度は赤、青、緑、黄色、様々な色で構成された光景が。これは……。
「サーモグラフィーの世界!」
「さ、さっきから一体なんなんすか?」
「見えるんだ。人には見えないはずの世界が!」
「よくわからないが、異能バトルはまったり日常系の世界でやるんだな」
倉田の矛先が、次第に僕へと伸びてくる。僕は突然覚醒したこの眼を研ぎ澄ませ、逆転の糸口を模索する。
「ブラックアウトさん、あの辺の壁を壊せませんか?」
「壁はちょっと無理っす……」
「ならフォッグさん、ブラックアウトさんにさっきの洗脳ってやつをかけて、壊せるようにできませんか?」
「ブラックアウトさんの脳内をハッキングして、痛覚を鈍らせてから人体の稼動限界を一時的に解除できれば……」
「よろしくお願いします!」
「ブラックアウトさん。私の目を見てください!」
「りょーかいっす!」
二秒と経っただろうか。ブラックアウトさんの体がブルッと一瞬震えたのち、両脚をバネにして僕の指し示した壁にゲキトツパンチ。でもってクリティカルにストライク。
「うんにゃあああっ!」
「何っ!」
途端に壁から猛烈な蒸気が吹き出し、倉田を襲った。
そう、サーモグラフィーで発見したのは、壁の中を通る暖房器具用のスチームパイプ。確か「地域熱供給」とか「地域冷暖房」っていうんだったかな。妙に赤過ぎる箇所があったから、もしやと思ったんだ。
「今のうちに撤退しましょう!」
「ま、待て不審者……!」
僕達は倉田が動けるようになる前に、観察を中断して学園を抜け出した。
◆
不審な三人組の女性に逃げられた後、ようやく倉田邑は蒸気の海から脱出することができた。
「あとで業者と一緒に直さないとな……」
そう呟き、前に向き直して歩き出した直後。
「あ……」
「江川……」
「よーむいんの先生だ!」
目の前に、生徒会副会長の江川智恵と、もう一人。
「彼女は?」
「あ、えっと……」
「北川かおりだよ!」
「名前を聞いているわけじゃないんだが……」
「うん?」
「え、えっと。中等部の北川さんが、野良猫を追いかけていたら転んでケガしたらしくて、これから保健室に連れていこうかと」
「ミイナ、どこ行ったのかなぁ……。道路に飛び出して、車に轢かれていないといいんだけど……」
「さすがにそれは縁起悪いな。それじゃ」
「あ……はい……」
二人の少女に目配せをして、倉田邑はその場を去っていった。
「……もらったチョコ、江川にあげるか」
彼女の些細な独り言を聞いた者は、誰一人としていなかった。
どうも、壊れ始めたラジオです。
ギャグ要素多過ぎ。
ちなみにサブタイトルの中に入っていたネタは、
・「我ら思う、故に我ら」→仮面ライ○ーゴースト主題歌
・「心が叫」→仮面○イダーネクロム
・「心が叫びたがって」→心が叫びたが○てるんだ
・「ぴょんぴょんする」→ご注文はう○ぎですか?
・「隊〜ンジャー」→スー○ー戦隊シリーズのタイトルの典型
でした。
という事で、水藤叶美さん、江川智恵さん、北川かおりさんのコラボ回でした。
……燐と響のエピソードは!?
それではまた次回。