旅立つ二人
メディー村が盗賊に襲われてから1日が経った。その頃になると隣街の騎士達によって、メディー村がどれほどの被害を受けたのかが判明した。
家々からは机や箪笥などを全てひっくり返し、中身をグチャグチャにされていた。金品などを探すためだろう。中に入れていた村人の財産は根こそぎ奪われていた。家へと侵入するために窓はことごとく割られ、カーテンやベットの布は恐ろしい刃型で大きく破り割かれている。
一番金銭的な被害が大きかったのはローランの家で、取引先との書類や金は金庫の中に入っていたため無事だったが、各地から集まった骨董品などが全て持ち去られるか壊されるなどして商家として大打撃を被った。
だが、最も村人たちを悲しませたのは死者が出たことと子供達が誘拐されたことだった。
たった今、ヴァイオレットの父親と村長、爺、そして村長の一番下の娘の葬儀が行われている。
鍛冶屋の主人は右足の健を斬られ一生歩けない身となってしまったが、妻に支えられてなんとか4人の葬儀に来ている。
街から招いた神父や演奏者達の葬儀は隣街でするそうで、顔に白い布を被せられ早朝に馬車で運ばれていった。
花畑に面した墓地で人々が沈痛な面持ちで花を添える中、ヴァイオレットは表情もなく立っていた。ヴァイオレットはあの朝、騎士に保護された後、騎士に父の死とローラン達が攫われたことをぽつぽつと話し終えると自分からは何も言葉を発しなくなってしまった。
「ヴィオ、お父さんに花をあげよう?」
カルハがそう言ってヴァイオレットの手を引き一緒にヴァイオレットの父の墓へ花を置く。ヴァイオレットはカルハに言われるがまま足と手を動かしただけだった。
葬儀が終るとカルハはヴァイオレットを連れて自宅へと帰った。幸い、カルハの家には目立った被害はなかった。森のそばにあり、夜の暗がりでは盗賊達も見つけられなかったのだろう。
カルハはあれから毎日ヴァイオレットの世話をしていた。そうでもしなければヴァイオレットは食事さえとらなかった。
話さなくなってしまったヴァイオレットにカルハは飽きずに毎日話しかけていた。
「ヴィオ、今日はローランのお母さんに聞いたんだけど、ローランのお兄さんと花嫁の人は無事だったんだって。二人は馬小屋の糞が積まれている所でずっと隠れてたらしいよ?騎士の人に助けられた時には二人とも糞まみれでとっても臭かったんだって!」
少し遅い昼食を作りながらカルハは話し続ける。具材は全て彼女が取ってきたモノで、庭に植えてある植物と放し飼いをしている鶏の卵、そして苦労をして森で仕留めた鳥だ。
「弓って扱うの大変だね。長い間触ってなかったから感覚を思い出すのに必死になっちゃった。」
それらの具材を食べやすいよう小さく切り分けた後、鍋に放り入れてぐつぐつと煮込む。
「母さんから薬草についてもっと教えてもらえてたらよかった。料理の味付は完璧にできるようになったけど、怪我を治すのにはまだまだってことがよくわかったよ。もし私がもっと上手く薬草を使えていたら村長も助かったかもしれないし、今怪我で苦しんでる人達も楽にできるんだもん。
私、人が怪我してるのに何もできないのって苦しい。ヴィオの心も助けたいけど私には何ができるんだろ?」
カルハはできあがったシチューを皿によそいヴァイオレットの座る椅子の前の机に置く。そうして自分もヴァイオレットの向かい側に座った。
「いただきます!ほら、ヴィオ。スプーン持って。私が作ったシチューなんだから残さないでよね!」
カルハはヴァイオレットに木製のスプーンを握らせる。1日目はそれでも食べてくれず、カルハが口もとにスプーンを持っていき食べさせたが、2日目になると自分で食べてくれるようになった。
「どう?美味しい?これはね、華ノ国で定番のシチューなんだ!」
ヴァイオレットがゆっくりと食べ終わるとカルハは食器の片付けに取りかかる。
家の裏にある井戸からくんだ水で食器や鍋を洗う。
「ヴィオはいつになったら話してくれるようになるのかな……」
ヴァイオレットは虚ろな瞳で前を向くだけだった。
***
それから1ヶ月と少しが経ち、村はなんとか生活を保っていた。新たな村長になったのはローランの兄のコアで、パン職人の夢は諦めて村の運営に尽くしている。カルハの両親も報せを聞いたのか慌てて村へと戻って来ており、ヴァイオレットの父親から猟を学んでいた前村長の息子と猟に出て特産品の糸を取ってきている。
そんな折、ローラン達攫われた子供達を捜索していた騎士達が報告をしにメディー村へと訪れた。
騎士達の前に集められた村人たちは固唾を飲んで騎士の言葉を待つ。ヴァイオレットもカルハに手を繋がれてぼんやりと立っていた。
「今回ここメディー村を襲った盗賊は最近巷でよく騒がれている盗賊団だということが判明した。」
縦に伸ばされた用紙を淡々とした声で読み上げていく騎士だったが、眉間には皺が寄っている。
「それで子供達は!?」
3人の子供を一気に失ったローランの母親は悲痛な声で騎士に問う。これは陣痛でベットから起き上がれない鍛冶屋の妻からも聞くように頼まれた質問だった。
「攫われた子供達は……」
そこまで言った騎士は辛そうに目をぎゅうっと瞑ると息を吐いて紙に書かれた内容を読み上げた。
「メディー村の子供達は1人を除き全員衰弱死していた。」
「どうして!!」
泣き叫ぶローランの母親を夫がなだめているが、そんな彼も涙を静かに流している。
「鉱山で過酷な労働を強いられていたのだろう。盗賊共を退け、突入した時には皆痩せ細って死んでいた。
ただ、ローランという少年だけが見つからず……どうなっているかわからない。他の少年達の遺体は王都の墓地に手厚く葬ったので親族の方々はこの後我々について王都に来てほしいのだが……」
泣く遺族を前にして躊躇いがちな騎士の言葉に涙を流しながらもローランの父親は首を縦に振った。
「もちろんです。子供達の墓に行かなければ……」
そう言ったローランの父親に申し訳無さそうに騎士は言葉を続ける。後ろに控える他の騎士達も、悔しそうに口を引き曲げていたり目を伏せたりとしている。
「我々も諦めきれないのだが……ローラン君のことは……生存の望みは諦めたほうが良いかと。」
ローランの両親がまた首を縦に振ろうとした時だった。
「……ローランは死んでいないわ。」
小さく掠れた声が聞こえた。騎士達が何、と声の方をみると残忍な殺され方をした村人の娘がいた。父親の死で、口を聞けなくなった子か、と騎士達は思い返し、とうとう気が触れてしまったのだなと結論づけた。
「しかし、盗賊に攫われてしまったのだ。気持ちは分かるが」
「まだ指輪は壊れていないもの。」
ヴァイオレットが胸元から出したネックレスの先についた指輪に、騎士達は眉をひそめたが村の大人達は、はっと目を見開いた。
「ヴァイオレット……それはローランの指輪なのかい?」
恐る恐る聞いたローランの母親の言葉にヴァイオレットが頷くとローランの母親は両手で顔を覆った。他の村人達も安堵の声をあげている。
指輪の効力を聞いた騎士達だったが、彼らは効力を信じなかった。
「まじないのようなものは……信じたいが信用できない。」
「じゃあ息子の捜索は……!?」
「打ち切りとさせて頂きたい。」
「そんなっ!!息子は生きているんですよ!!」
騎士に掴みかかるローランの父親だったが騎士の辛そうな目を見てその手を離す。騎士とて辛いことを読み取ったのだ。
「じゃあ、私が騎士になる。」
少女の声に他の村人たちは驚いた。
「ヴァイオレット、お前には無理だ。気持ちは分かるが女のお前じゃあ……」
ローランの父親の否定する声にカルハの父親が反論する。眉間には深い皺が刻まれていた。
「そんなことはない。近年は騎士団にも女性の騎士が増えている。そうだろう?」
騎士を睨みつけたカルハの父親の気配に騎士は怯えつつ返答した。こんな気配、戦場の前線に立った隊長格の人物達からしか感じたことはないと思いながら。
「ええ。しかしいろいろと金がかかる上に女性が正式に騎士になるのは困難かと。」
震えて返答する騎士の応えを聞き終えるとカルハの父親はヴァイオレットの目を見て話す。
「なら俺の息子に頼む。あいつは王都に住んでいるから、寮の宿費もいらない。頼み込めば剣術も教えてくれるだろう。
どうだ?条件は揃っている。騎士になるか?」
「ええ。私はローランに会いたい。ローランに会う為に騎士になる!」
力強く返答したヴァイオレットの横でカルハは笑っていた。ヴァイオレットがもう一度話してくれたことに。ただ、ローランには勝てないや。とも思い、苦笑する。
「父さん。私もヴィオと一緒に王都に行くよ。私、もう、助けられる人を前に何もできないのが嫌なんだ!だから、王都にある学校に入った後で王立魔法研究所に就職して治療術を極める!」
娘の強い声に父親と母親は大きく頷いた。
「存分に学んで来い!」
「はいっ!」
そうしてローランの両親と鍛冶屋の旦那が騎士達と王都へ行く馬車に乗せてもらった二人は固い決意を胸に秘めて手をがっちりと握り合っていた。




