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二人の指輪

 その翌日、ヴァイオレットは軽い足取りでヴァイオレットの家から北側に位置するばあやの家に向かった。

 右手には父親特製の燻製肉と野菜のサンドイッチの入ったバスケットを持っている。

 服装は若々しい草はらの色をしたワンピースであり、ところどころに黄色や桃色の花が散らしてある。商人が滅多に訪れないメディー村のことだ。この服も、もちろんヴァイオレット自身が作ったものである。彼女のように、村の女性達は家族や自分の服を自身の手で作る。使われている糸は、メディー村の外れの森に住むモンスターから取れるもので、その糸で編まれた服は丈夫で彩りも鮮やかなため、メディー村の大切な特産品の1つでもある。

 ヴァイオレットの父親は村で活躍する猟師であり、今は村長の息子と師匠関係を結んで自身の技術を伝えながら猟を行っている。


 村での結婚式を挙げること自体が久しぶりのため、ヴァイオレット以外にも子供達がぞろぞろと各々の家から出てはばあやの家に向かう。

 昨日、ヴァイオレットの病気についてカルハに投げ飛ばされた少年達3人も家から出てきたが、お腹の大きな母親にいじわるはダメよ。と言われてヴァイオレットとは目を合さずに競争をしてばあやの家まで走っていく。


 少し歩くと、ローランの家の前にさしかかり、ローランと3人の兄弟達が家の中から出てくる。

 ヴァイオレットは4人に駆け寄って、挨拶をする。


「みんな、おはよう。」

「おはよ!にーちゃんが帰ってきてなんかするんだって!」

「おはよ~!でもぼく眠いから寝てたいなあ。」

「おはようヴァイオレットちゃん。病気が治ったんだってな。今までよく頑張ったな。」


 3人のローランの兄弟達はにこやかにヴァイオレットに挨拶を返してくれた。


「ありがとう、コア兄さん。ウニべは寝ちゃダメよ。コア兄さんの大事な結婚式の準備なんだから。」

「うん〜?がんばるよ~兄ちゃんおんぶ〜」

「あっ!ウニべだけずるい!兄ちゃん!ぼくは肩車して!!」

「重い重い!わかったからよじ登るな!」


 コアにまとわりつく弟達とコアからローランとヴァイオレットは少し距離をおくと、ローランはヴァイオレットが持っていたバスケットを持ち、ヴァイオレットのあいた右手を左手で掴み、指を絡ませる。


「おはようヴィオ。イリスもウニべも、昨日の夜から兄貴が帰ってきて嬉しくてたまらないんだ。」

「そう言うローランだってコア兄さんと話している時、すごく嬉しそうだったわよ?」

「もちろん俺も嬉しいさ。コア兄貴が帰ってきて家の手伝いをする量も減るし、1ヵ月ぶりにヴィオに会えたからな。」


 そんなローランの言葉にぽっと頬を染めたヴァイオレットの額に優しく口づけをしようとしたローランだったが。

 背後の腰辺りに金色の物体がひょこひょこと動くのに気づき、後ろを向くとあちゃー!といった顔をしたカルハがいた。


「えっと、君は……」


 未だに面識のなかったローランが、カルハに名前を尋ねようとすると、カルハは目をおろおろとさせて矢次ばやにローランとヴァイオレットに謝り始める。


「ごめんねヴァイオレット。ぜんっぜん邪魔するつもりはなかったの!森から降りてきたら二人とも仲良さそうにしてるし、後ろから追い越して二人の雰囲気を壊したくなくて後ろでどうしようか迷ってたんだけどどうしようもなくて。そしたらそのお兄さんに見つかっちゃった!ごめんなさい!」


 まさにこれぞ、立て板に水の勢いで噛むこともなく謝罪の言葉を言い切ったカルハは、言い終えると青い顔をそのままに、ヴァイオレットとローランに頭を下げる。

 そんなカルハをくすくすと笑ったヴァイオレットは、


「カルハ、頭を上げてちょうだい。そんなに謝ることじゃないわ。だって、私もローランもこれっぽっちも怒っていないでしょう?

 ローラン、この子はカルハっていう子なの。あなたが街へ出発した日に引っ越してきたの。今までは各地のダンジョンの周りの街に住んでいたのですって。森のそばの家に住んでいるのよ。今日までずっと私とお喋りしたり、遊んだりしたの。もうすっかり友達になって、それに彼女はとっても強いの。それに彼女はお父さんとお母さんの前だと、甘えたくて小さい子みたいになるのはわかってあげてね。」

「ヴァイオレット、そこまで言わなくていいから!恥ずかしいよ!」


 ヴァイオレットによるローランへの紹介でカルハが顔を青色から赤色に変えた時、ちりんちりんと涼やかな鈴の音がばあやの家の方から聞こえてくる。

 カルハは不思議そうな顔をしているが、ヴァイオレットとローランは顔を見合わせると結んでいた手を放して走りだす。

 慌てて二人に追いついたカルハは少しも息を切らさずに走りながら二人に話しかけた。


「これって何かの合図なの?」

「え、ええっ。そうよっ。ばあやの家でもうすぐ"リング"作りが始まるのっ!」

「リング?何それ?」

「見てたらわかるさっ!ところでカルハっ、ヴィオと友人になったようにっ、俺とも友人にならないかっ?」


 走って息を切らしながらもカルハと握手をするため、走る振動で揺らしながら差し出したローランの左手をカルハはがっしりと掴み、満面の笑顔を浮かべる。


「もちろん!ヴァイオレットの彼氏なんだったらきっといい人だよね!ねえヴァイオレット、私もローランみたいにヴィオって呼んでもいい?」

「う、うん!でもっ、どうして私達がっ、恋人同士ってわかったのっ?」

「余程でないかぎり、すぐにわかるよ?」

「ええっ!そうなのっ?」

「そうだよ。」


 そうしているうちに目的のばあやの家に到着する。ばあやの家の少し前に石造りのテーブルが置かれてあり、扉の前には柔らかい布団をかぶせた椅子に座っているばあやがいた。

 ばあやとはテーブルの椅子に座ってばあやから頭を撫でられているのは、今回の新郎新婦であるローランの兄、コアと村長の長女だ。


「間に合った……!よかった……!」


 息も切れ切れに到着したローランとヴァイオレット、余裕な表情のカルハがばあやと新郎新婦を取り巻いて見守る村人の群れに加わると、ガキンチョ3兄弟のお腹の大きい母親が片眉をあげて唇を片方上げる。


「でも少し危なかったわよ。ギリギリセーフね。」

「静かに。」


 村長から注意をうけた2人は、はあい。と言って無言で笑い合う。とても気さくな奥方だ。


 猟に行っているヴァイオレットの父親やその弟子の村長の長男、騎士でローランのもう一人の兄であるカールは仕事で来れなかったが、それ以外の村人は二人の若者を温かい目で見守りに来ている。


「汝ら、愛を誓うか?」

「「はい。」」

「共に生涯を共にし、死する時も寄りそうことを願うか?」

「「はい。」」

「もし、哀しい運命の為に引か割かれようとも、互いを愛する心は変わらぬと言えるか?」

「「はい。」」

「たとえ引か割かれたとしても、もう一度巡り合うことを羨望するか?」

「「はい。」」


 しん、と静まり返り、風の音のみがする中、二人の若い男女ははっきりとした声でばあやの厳かな問いかけに答えていく。


「よろしい。二人の思いはここに受け止めた。お前達に、"誓いの指輪"を授けよう。

 さあ、ここに髪の毛を一本お入れなさい。」


 ばあやの指示通り、二人はそれぞれの髪の毛を石のテーブルの上に置かれてある2つの銀色の容器の中にそれぞれ入れると、容器に満たされていた銀色の液体がシュルシュルと小石大ほどの綺麗な塊に変化をしていく。最終的にコアの髪を入れた器には黒光りする玉が、村長の娘の髪を入れた器には桃色の玉がコロンと転がった。

 その宝石のようなものをばあやは用意していたらしい銀の指輪にはめ込む。そして二人にそれぞれの指輪を交換させると2つの宝石が眩く輝き、その光は二人のこれからの幸せを象徴しているようだった。


 こうして、挙式への準備が1つ終わったようで、ばあやはそれまでの真面目な顔から一転して、皺だらけの顔をさらにくしゃくしゃにして新郎新婦に


「おめでとうさん。幸せになるんじゃぞ。」


 と笑いかける。周囲で見守っていた人々もわあっと笑顔で二人に駆け寄り、二人を祝福した。



「素敵だったわね。」

「ああ。俺達も大人になったら、もらおうな!」

「うん!」


 ヴァイオレットとローランのカップルの例をみても、この"誓いの指輪"というものは、メディー村では大きな意味を持つものらしい。


 新郎新婦やその親族は、半年後に村長の家で開く結婚式のために散り散りに散っていく。半年をかけて準備をする結婚式は、さぞかし豪華なものになるだろう。

 親族でない大人達も、家での内職や畑仕事をするために帰っていく。


 結果、残ったのは子供達で、ばあやの周りで自分にもさっきの指輪をくれとせがんでいた。が。


「わたしもおまんらに指輪をあげたいんじゃがな、これは愛している者同士にしか役にたたんのじゃ。

 おまんらの中で好きおうておる者がおったら小さいのであれば作ってやれるぞ。大きいのはどうも疲れる。」


 えー!とばあやを取り囲む子供達から非難の声が上がる中、カルハは子供達を押しのけてばあやの前に躍り出た。


「好き同士だったらいいんだよね?おばあちゃん?」

「そうだよ。おまんに好きおうておるお子がいるのかい?」

「ううん。私じゃないの。ヴィオとローランの二人に作ってあげて。」

「ほう。そうなのかい?」


 カルハの言葉にばあやは小さい目を見開き、二人に優しい声で尋ねる。結局二人はせっかく作ってもらえるなら、とばあやに"誓いの指輪"を作ってもらうことにした。


「そこのカンカンに髪の毛を一本お入れ。」


 ばあやの言うとおりにヴァイオレットとローランはばあやによって再び銀色の液体で満たされた器に一本髪を入れる。


「ねえ、おばあちゃん。」

「なにかの?」

「さっき、言ってた長ったらしい文句は言わなくてもいいの?」

「あれは儀式用じゃよ。おめでたいことじゃからいっているだけのこと。」

「ふ〜ん、そうなんだ。」


 ばあやとカルハが話している間に、先ほどの新郎新婦と同じくヴァイオレットとローランの髪を入れた器にはそれぞれ1つの宝石が出来あがる。


 しかし、色が違った。ローランのものは海色の蒼、ヴァイオレットのものは血のような濃い紅だった。


「指輪はまだ早い気もするし……首飾りで良いな。」


 細い鎖を懐から取り出したばあやはリング状にした鎖の先端に輪っか状に変形させた宝石をはめこんだ。


「どれ、つけてみなさい。あってなければ調整してやれるからの。」


 ばあやに促されて完成したネックレスを自分のものをローランのものと交換して首にかけたヴァイオレットは温かい、と目を丸くする。


「ばあや、なんだかとても温かい。これは何なの?」

「その石は、石の中に入れた髪の毛に入ってあった魔力が元の持ち主に反応し熱を発するのじゃ。発光もしておる。」


 確かに眩しいぐらいに光が出ている。子供達がヒューヒューとやる気のない様子ではやしたてた。


「ばあや、今日はありがとう。俺、すげえ嬉しい。」

「なに、少し疲れるだけじゃ。大したことでない。

 もしどちらかの一方が死ねば、自分の持っている相手の指輪が粉々に崩れ去る。

 また、想い合う仲でなくなった場合でもかつての想いで魔法が成立しておるもんじゃから、相手が自分とどれ程離れているのかわかる。その場合は海にでも捨てるなりすればよい。

 温度と光加減には3段階あっての。ここから隣町よりも遠いと冷たく、光らぬ。ここから村の端辺りじゃとじんわりと温もりが感じられ、指輪の内側でぼんやりと光る。今のように近い距離だと、発光してはっきりとわかるほど温かいはずじゃ。」


 カルハ、ヴァイオレット、ローラン以外の子供達は、全く興味を無くしたらしくばあやが話している間に次々と家に帰って行く。


「大人になって、もう一度おまんらの顔が見れれば面白いのう。それまで生きてるかは知らんが。」


 笑うばあやは、いつまでも年寄りの家に居ずに遊びなさいと3人に言う。子供は小さいうちに遊ぶことが大事なのだから、と。

 最後まで二人の様子をじっと見ていたカルハには、ばあやから手製のお菓子が渡された。なんでも、ばあや曰く、小さいのにじっとしていて偉いという理由らしい。


 もう一度、指輪のついたネックレスを作ってくれたばあやにお礼を言ったヴァイオレットとローランは、ヴァイオレットお気に入りの花畑でカルハと3人でヴァイオレットのサンドイッチを食べた。


 二人の胸元にはネックレスがぶら下がっており、春の太陽の眩しい日差しに負けないほど眩く光っていた。

〔小話〕


 ヴァイオレットの用意したサンドイッチも食べ終えた昼下がり、隣で指を組んで仲睦まじくしている2人をよそに、カルハは深刻な顔をしていた。

「ヴィオ。このお菓子、すごい毒々しい紫色なんだけど。」

「そうね。」

「これってほんとに食べても大丈夫なの?」

「ばあやの菓子は食ったことねえからわからない。」

「……アドバイスありがとう。意味なかったけど。」


 菓子を思い切って目をつぶりながら飲みこんだカルハはカッと目を見開いた。


「なにこれ、美味しい!!!」


 新たなばあやの特技が判明した日だった。

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